Quantcast
Channel: COLUMN –東大新聞オンライン
Viewing all 531 articles
Browse latest View live

「卓越大学院」は博士離れを食い止めるか?文科省・松尾審議官インタビュー

$
0
0

 政府主導の博士人材育成事業「卓越大学院プログラム」が本年度から開始された。

 

 「高度な専門性を備え、大学や研究機関、民間企業、公的機関等のそれぞれのセクターをけん引する卓越した博士人材、知のプロフェッショナル」の輩出を目的とした5年一貫の教育プログラムだ。

 

 博士人材の育成により知的創造力を強化することが大義の一つに挙げられているが、このプログラムの背景には「博士離れ」と呼ばれる博士進学率の低迷がある。

 

 期待を背負った博士人材──しかし当の学生の間では博士に進学する際の金銭面やキャリアパスに関する不安が根強い。また、「博士人材の需要は高まる」という主張の一方で、ポスドク1万人計画をはじめとする量的拡大は博士の質の低下やポスト争いの激化を招いたのではないかとの声もある。

 

 卓越大学院プログラムは、干天の慈雨となるか、それとも絵に描いた餅で終わるのか──。

 

 今回そんな疑問をぶつけたのは、文部科学省科学技術・学術政策局で審議官を務める松尾泰樹氏。同省の高等教育局で大学改革政策の立案に関わるなど、政策サイドから30年以上も科学技術や大学改革と向き合ってきた。

 

 まずは、松尾審議官に文科省の前身である科学技術庁に入庁するまでを振り返ってもらった。

 

取材・久野美菜子 撮影・児玉祐基

 

 

 「もともと東大の理学部物理学科で、素粒子や材料の勉強をしていました。大学院進学後はショウジョウバエの飛ぶ原理を、遺伝子解析の手法を用いて研究していました。80年代の理物は、今で言う学際化に力を入れていたようで生物系の先生や医学部から来た先生も呼んでの研究が進められてたんですよ。ただ大学のシステムとしては時期尚早だったようで、いつの間にか分野をまたいでの研究は下火になっていきました」

 

 今から30年前の理物というと、堅そうなイメージが強いだけに「学際」というトレンディな単語が出てきたのは意外かもしれない。同時に気になるのが、当時の院生の就職先だ。

 

 「当時は理物の院を出た学生のうち、半分くらいは研究者で残り半分は民間、あと役所に行く人もちらほらいました」

 

 その「ちらほら」の一人が松尾審議官。文科省の前身である科学技術庁に入庁したのは1987年のことだ。

 

 「僕が研究者にならなかったのは、自分の能力に限界を感じた、というのが一つの理由です。その頃、21世紀は生物の時代だ、ということで多くの学生が生物系に流れました。ワンジーン・ワンプロテイン・ワンプロフェッサーという言葉があったくらいで、一つのタンパク質、遺伝子をずっと突き詰めれば1人の教授が誕生するというくらい研究の宝庫でした。しかし一生かけて研究を続ける自信はなかった。それでも科学が大好きで、研究者でなくとも科学に関われる道を、と思い科技庁に入庁しました」

 

移ろいゆく大学改革 これまで政策との違いとは?

 

 サイエンスが好き、という気持ちをブースターにし、さまざまな政策設計に関わってきた松尾審議官。ここで、これまでの主要な政策をざっとおさらいしよう。

 

 91年(平成3年)に発表された答申(3年答申)では「教員の充実」と「大学院生を00年までに倍増させる」という目標が掲げられ、東大が先陣を切る形で大学院重点化が始まった。この取組みにより、日本人の修士号や博士号の取得者数は大幅に増え、05年(平成17年)の中央教育審議会答申において、大学全体の量的な整備目標の設定は行わないこととされた。

 

(図1) 産業競争力会議 新陳代謝・イノベーションWG(第3回)資料3より

 

 また、01年(平成13)6月に出された「大学(国立大学)の構造改革の方針」、いわゆる「遠山プラン」においては、国立大学の再編・統合、国立大学の法人化、第三者評価による競争原理の導入が示された。これを受け、02年度(平成14年度)から研究拠点形成費等補助金として措置されたのが21世紀COEプログラムだ。以降、大学院拠点形成支援に関わる予算は、グローバルCOEプログラム、博士課程教育リーディングプログラムへと続く。では、本年度から始まる卓越大学院プログラムはどのような経緯で発足したのだろうか?

 

(図2)中央教育審議会大学分科会大学院部会(第73回)資料3−4より

 

 「今回の卓越大学院プログラム、構想自体は15年の文部科学省の中央教育審議会(中教審)大学院部会でまとめられました。さらに16年から始まった未来投資会議において、高度な知を持った人材が必要であるという合意が形成されました。これから向かう*Society 5.0においては、産業やビジネスが知識集積型になることが予想されます。卓越大学院プログラムで、修士博士の5年間で国内外の様々なセクターを引っ張る高度な人材を育てるのが狙いです」

*Society 5.0:先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ「必要なモノ・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供する」ことにより、さまざまな社会課題を解決する試み。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf

 

 省庁特有の単語が並ぶ中、まず湧いてきた疑問は過去のプログラムとの違いだ。リーディングプログラムや21世紀COEプログラムとどのように異なるのだろうか?

 

 「大学改革が叫ばれてきた中で、さまざまなプログラムができました。それぞれ違う点はあるのですが、自分なりに解釈すると、これまでのプログラムは個々の大学内の組織体制をどう見直すかということに主眼を置いてきました。

 

 一方、今回の卓越大学院プログラムは、リーディング大学院での成果をベースにしつつも産業界や複数の大学の研究機関とも連携し、単独の改革から大学院全体と他のセクター含めた改革をしようというものです」

 

限られた補助金と支援期間 大学は自立できるか

 

 企業と大学、研究機関の壁を越え、これまで以上に産学連携を進めるという。一方で、これまでのプログラムと同様なのが、取り組み期間が固定されていることだ。リーディングプログラム同様、取組期間は最大7年と定められている。さらに、補助金額は4年目からは半額、7年目には1/3に減らされると明記されている。国からの支援として十分な金額なのだろうか?

 

(図3)平成 30 年度 大学教育再生戦略推進費 卓越大学院プログラム 公募要領 p7(7)資金計画の作成より

 

 「全てのプログラムを永続させることは予算的に不可能なため、あらかじめ終わりを決め、評価がよかったものだけを続けるというのが基本方針です。ただプログラム自体が終了しても、改革の思想は残ります。

 

 そもそも、大学改革は『国からの支援やお金がなくても大学主導でやりたい』というのが理想です。イニシャルの投資や支援は限りがありますが、大学側で思想を継続させることが重要です。国が旗を振るだけでは改革を実現するのは難しいと思います」

 

 国からの研究補助支援は、法人化以降減らされ続けている運営費交付金を補完するものだという印象を持っていた。しかし松尾審議官の話を聞くうちに、どうやら大学により高い自立性を求めている、ということが分かってきた。

 

 「そうですね。ただ産学連携を進めることを考えると、大学が単独で変わるだけでは十分ではありません。大学改革を通じて大学院の持つ社会的意義を高めるには、民間企業や他の研究機関とも連携することが大事です。

 

 また、プロジェクトはいろいろなものが出てくるので、評価の軸も異なってきます。そのためプロジェクトごとに計画を立ててもらい、進捗を確認するという評価になってきます」

 

求められる「知のプロフェッショナル」、立ちはだかるポスト不足

 

 ところで、卓越大学院プログラムにおいては、

新たな知の創造と活用を主導し、 次代を牽引する価値を創造するとともに、社会的課題の解決に挑戦して、社会にイノベー ションをもたらすことができる博士人材(高度な「知のプロフェッショナル」)を育成すること

が目的とされている。

 

 ここでいう「知のプロフェッショナル」とは具体的にどのような人物のことを指すのだろうか。目指す人物像について、松尾審議官は次のように述べる。

 

 「中教審の言葉を借りると、『高度な専門的知識と倫理観を基礎に自ら考え行動し、新たな知を創り出し、その知から新たな価値を生み出して、既存の様々な枠を超えてグローバルに活躍できる人材』なのですが、具体的な人物像はさまざまです。

 

 専門性や高い技術力を持つだけではなく、それを社会に生かすための付加的な要素を総合的に持った人物を育てたい。そのためには垣根を超えてさまざまなセクターが集まった弁当箱のような場が必要なのだと思います。ただどのような弁当箱からイノベーションが起こるのか、というのは予想できないので、場合によっては評価の仕組みを変えることも考えたい。論文の評価に限らず、可視化しづらい価値をフレキシブルに測る仕組みや、失敗もきちんと評価することが大事です」

 

 さらに続けて知にこだわる理由を語った。

 

 「新しい知識や知恵を作る、これは人間じゃないとできないことです。これから人口が減って機械やロボットが人間の代わりをする時代になる。だからこそ、我々人間がロボットにできないことをやる必要があると思うのです」

 

 今後の社会において、知を担う人材の必要性は確かに増すのかもしれない。しかし、そうした人材のポストが不足しているというのが現状だ。3年答申の計画で増やした博士人材の数に見合うだけの人材需給のバランスはとれていると言えるのだろうか。

 

 「残念ながら今はまだ、安心して博士に来てくれ、と言える状況にはなっていません」と述べる松尾審議官。それではこうした人材のキャリアパスを多様化させ、流動性を上げるにはどのようにすれば良いのだろうか。

 

 「博士まで行くと、専門性がぴちっとして他の分野に異動しにくいとは聞きます。ただ修士の人や博士の人に知っていてほしいのは、特定の分野の研究をしたからと言ってそれだけで食べていける保証はないということ。専門性以上に研究で培った考え方を応用すべきで、そのための教育も行うべきだと思います。

 

 博士は敬遠されるという話も聞きますが、博士を雇用している民間企業の人に聞くと満足度がかなり高い。このことをいろいろな企業の方に知ってもらう必要はあります。学生も企業も変わることを恐れずに流動性を高めるのが良いのではないでしょうか」

 

(図4)民間企業における博士の採用と活用 -製造業の研究開発部門を中心とするインタビューからの示唆- [DISCUSSION PAPER No.111/2014.12]より

 

 文科省は6月8日、平成30年度「卓越大学院プログラム」の申請状況についてにおいて、38大学から54件の申請があったことを公表した。うち6件は東大からで、共同申請での応募は見当たらなかった。採否が発表されるのは9月、卓越大学院プログラムはまだまだ始まったばかりだ。このプログラムが功を奏するか否かの判断はさておき、忘れてはいけないのは日々の研究や教育を支えるその他大勢の研究者や学生、人を育てる大学院の存在だろう。最後に、大学院に期待する役割について聞いた。

 

 「知を作り、知を広め、知を社会に還元する役割を担ってほしいです。知を内在化するだけで終わってしまうと、タコツボと揶揄(やゆ)されてしまう。とはいえ、社会に役に立つことのみ、出口だけを志向しては、企業と同じ行動様式になってしまいます。アカデミックだからできることを追求しつつも社会と密接につながる、そのパイプ役となる知の伝道者を育てるのも、大学院の役割です。

 

 先に述べたように、残念ながら今はまだ、誰でも安心して博士に来てくれ、と言える状況にはなっていません。卓越大学院プログラムを契機に、さまざまなセクターを巻き込んで大学院のありかたを考えていきたいですね」

 

 

<参考>

未来を牽引する大学院教育改革 ~社会と協働した「知のプロフェッショナル」の育成~ (審議まとめ)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/09/29/1362371_3_1_2.pdf

ここまで進んだ大学院教育改革 -検証から見える成果と課題- 平成22年8月 高等教育局大学振興課

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/10/23/1299723_01.pdf

国立大学に関わる構造改革の総ざらい2016 年 11 月 2 日 構造改革徹底推進会合

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/innovation_dai1/siryou2.pdf

イノベーションに適した国とするための 人材戦略 卓越大学院・卓越研究員制度 東京大学 大学院理学系研究科長 教授 五神 真

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai3/siryou3.pdf

国立大学の構造改革 天野 郁夫(国立学校財務センター)

http://www.zam.go.jp/n00/pdf/ng001003.pdf

高等教育の将来構想に関する基礎データ

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2017/04/13/1384455_02_1.pdf

 

 

「卓越大学院」は博士離れを食い止めるか?文科省・松尾審議官インタビュー東大新聞オンラインで公開された投稿です。


新入生の47%が「不快な思い」 東大生に聞いた新歓活動の裏側

$
0
0

 主に合格発表日から4月、5月にかけて行われる部活やサークルの新歓活動。新歓イベントを通してさまざまな体験をすることができ、交友関係を広げられるという利点がある一方、新入生の断りづらいという気持ちを利用して執拗(しつよう)に勧誘を行う団体も存在する。スマートフォンの普及によりLINEなどのSNSを利用した新歓も多く、個人情報保護の観点でも不安は多い。

 

 今回は新歓の実態について新入生にアンケートを実施(※5月23日〜6月5日に東京大学新聞社がインターネット上で実施。回答数103件、小数点以下は四捨五入)。受験当日から始まる新歓合戦にどの程度効果があるのかを考察し、執拗な勧誘によって不快な思いをしている新入生がどの程度いるのか調査。また、上級生から匿名で意見を募り「新歓をする側の苦労」についても取材した。

 

Twitterなどで情報収集する学生4割以上

 

 アンケート前半では受験当日、合格発表日、3月中、テント列[1]、サークルオリエンテーション(サーオリ)[2]、4月中と時系列に沿って新歓活動ごとに参加率とその効果を調査した。受験当日にビラを「受け取った」、合格発表日に実際に上級生からの「話を聞いた」学生はどちらも20%前後と少ない。これらの新歓活動に効果があると思うかという質問に対し「とても効果があると思う」「まあまあ効果があると思う」と答えた割合は合格発表日が受験当日の約2倍となり、試験の出来に一喜一憂している受験当日はあまり新歓の効果が見込めないことが分かった。

 

 

 

 3月中と4月中の新歓イベントの参加率を比較すると、3月中に新歓イベントに参加した学生は14%にとどまる一方で、4月中のイベントには9割以上の学生が参加している。また、3月中のイベントは35%の学生が「当時そのようなイベントがあるのを知らなかった」と回答しており、イベント告知の必要性や難しさがうかがえる。

 

 

 これらのイベントをどのようにして知ったかに関しては、「ビラ詰め封筒[3]に入っていたビラ」が最も多く6割だった。一方で、「自分でTwitterなどのSNSやホームページを巡って調べた」が2番目に多く4割を超え、積極的に自分から調べている人が多いことが判明した。

 

 多くの部活やサークルが参加するテント列やビラ詰め封筒、サーオリついては「とても役に立った」「まあまあ役に立った」の合計がそれぞれ49%、74%、91%となり、テント列が他の二つに比べて目立って低い結果となった。サーオリに関しては、45%の学生が「とても役に立った」と回答しているが、これはサーオリにあらかじめ目星をつけて行ったと回答した学生が93%(「あらかじめ目星をつけていたところにだけ行った」「あらかじめ目星をつけていたところに加え、当日声をかけられたところにも行った」の合計)であることから、自分で聞きたい内容を聞ける点が好ましく思われていると考えられる。

 

新歓の一環としてLINE 7割が否定的

 

 

 ビラに部活・サークルのLINE公式アカウント(LINE@)のQRコードを貼ったり、校門前で待ち伏せして個人間でLINEを交換したりなどLINEの活用は新歓において大きな存在を占めている。新歓の一環として上級生とLINEを交換したことのある学生は約6割だ。それに対して「新歓の一環としてLINEを利用するのには反対」「公式アカウントはいいが、個人間の交換には反対」と個人間のLINEの交換に否定的な回答した学生は70%に上り、LINEの交換を望んでいない学生が多いと推測できる。

 

不快な思い 約半数

 

 新歓の一環で不快な思いをしたことがあるか、という質問には47%の学生が「ある」と回答。具体的内容としてはテント列での強引な勧誘を挙げた学生が最も多かった。「興味がないと言っているにもかかわらず、通行を妨げられて強引にテントの中へ誘導された」という回答が少なくなく「テント列は東大の悪習だ」という回答も。自由記述欄の回答39件のうちテント列に関する記述は13件あり、テント列への不満の高さが伺える。

 

 個人情報についての記述も9件。「入る気がないのに個人情報の登録を迫られた」「LINEを交換した上級生からの勧誘がしつこかった」という回答のほか、「しつこい勧誘から解放されたくてLINEを教えたら電話がかかってきた」「メールアドレスを教えたら大量のメールが送られてきて、配信を停止させようとすると怪しいサイトに飛んでしまう」という体験をした人もいる。

 

上級生の見た闇 スクショ提出

 

 新歓をする側の上級生にも苦労がある。新歓イベントが毎日のようにあるため他のことに時間が取れなくなる、おごらなければならないせいで出費が増えるという悩みは多くのサークルで共通する。実際に新歓をする側になって驚いたこととして「新入生の情報をスプレッドシートでまとめている」「新入生とのLINEのスクリーンショットの提出を義務付けられる」ことを挙げる学生もおり、「個人情報保護やプライバシーの問題からやめるべきだと思うが、みんなやっているため言い出せない」と悩む学生も。

 

 今回の調査を通じて華々しい新歓活動の裏側では新入生と上級生の双方が不快な思いをしていることが判明した。なんとかして自分の部活やサークルに入ってもらいたい気持ちは理解できるが、双方とも不愉快な気分になるのでは効果的とは言えないだろう。いま一度各団体で新歓のやり方について検討し直してみてはいかがだろうか。


[1]テント列:ほぼすべての部活やサークルが駒場キャンパス内一部の道の両側に列をなすようにテントを建てる。諸手続きを終えて帰宅する新入生を勧誘し、テント内でその部活やサークルの説明を行う新歓イベント。

[2]サークルオリエンテーション:4月初めの2日間、各部活・サークルが駒場キャンパス1号館の教室にブースを設け、新入生が興味のある部活やサークルを回る形で行われる新歓イベント。

[3]諸手続きの際に配られる、各サークルのビラが詰められた封筒

新入生の47%が「不快な思い」 東大生に聞いた新歓活動の裏側東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【2018年6月アクセスランキング】世界大学ランキングに関心

$
0
0
QS世界大学ランキング(左)、インタ ビューに答える開成学園の柳沢校長(右上)、若手研究者の支援や女子学生家賃支援の狙いを語る五神総長

 

 東大新聞オンラインで6月に公開した記事の6月中のアクセスランキングを調べたところ、1位は英国の大学評価機関クアクアレリ・シモンズ(QS)社が発表した世界大学ランキングについての記事だった。東大は過去10年で最高位の23位。国内首位を維持し「学術評価」でも昨年に続き満点と高い水準を保っている。しかし、「外国人教員数」や「外国人学生数」などで極端な低評価を受け、国際性の低さが指摘された。

 

 2位は連載企画「蹴られる東大」より、開成学園の柳沢幸雄校長へのインタビュー記事だった。柳沢校長は、東大が選択肢の一つとなり競合大学を意識するようになることは重要だと述べた。さらに、現在の若者が親と同じ生活水準になることができないと不安感を抱いている点を分析し、日本の社会が抱える不安と留学の関係についても説明した。

 

 3位は2020年度からの大学入学共通テストで導入される英語民間試験の利用についての議論を取り上げた記事。同試験を利用しない従来の姿勢から一転して入試に活用する方針を発表した入試担当の福田裕穂理事・副学長に対し、教養学部英語部会から反発の声が上がった。英語部会は、国立大学協会が示した民間試験利用の懸念点が解消されていないとし、見直しを求めている。

 

 4、5位は東大の五神真総長に対するインタビュー記事だった。4位の記事では若手研究者に対する大学の支援について五神総長の動きをまとめた。若手研究者の任期なし雇用が06年から16年までで520人減少している現状を深刻に捉え、雇用安定化と研究環境の改善は最優先課題だと語った。5位の記事では、女子学生家賃支援に対する総長の狙いを明らかにした。「女子学生を歓迎するというメッセージを強く打ち出したかった」と言い、今後もそのメッセージを発信していく姿勢だ。

 

 7位は13年に刊行された『永続敗戦論 戦後日本の核心』(太田出版)の著者である、京都精華大学専任講師・白井聡さんへのインタビュー記事。8位は東大ラクロス部男子が6月24日、伝統の一戦である京都大学戦で12─3で完勝したというスポーツ記事だった。

 

 9位には大学入試問題の解答の公開を原則とした文部科学省の通知についてのニュース記事がランクイン。17年度入試で続発した大学入試問題の出題ミスを受け、文科省は19年度大学入学者選抜要項を発表し、各大学に対して入試問題の解答を原則として公開するよう通知した。これについて、東大は「これから検討する」と、慎重な対応を示した。

 

 10位の記事では教育系ベンチャー・NEXCITEを立ち上げた土井皓介さん(育・4年)を取材。NEXCITEは家庭教師マッチングサービス「DREE」を運営することで、夢を持つ子供たちにその分野の異才を家庭教師として紹介し、夢を現実にすることを目指す。「受験向けではなく、あくまで子供たちの好奇心に寄り添った教育を」と、土井さんは「DREE」を立ち上げた際の熱い思いを語った。

 

【2018年6月アクセスランキング】

1    QS世界大学ランキング 東大は過去10年で最高の23位 国際性の評価深刻

2    【蹴られる東大⑧】開成生はなぜ海外大を目指すのか・開成学園柳沢校長インタビュー

3    共通テスト英語民間試験 教養学部英語部会から反発の声 「懸念解消されず」

4    五神総長、私たちは希望を持って大学の研究者を目指せるのでしょうか?

5    五神総長、なぜ女子学生に対する家賃支援を始めたのですか?

6    【2018年5月アクセスランキング】「推薦の素顔」に関心

7    新たな「国体」はどこにある?ーー『国体論』刊行記念・白井聡さんインタビュー

8    ラクロス部男子 攻撃で京大を圧倒し9点差勝利 昨年惜敗の雪辱果たす

9    文科省通知 入試解答原則公開に 東大「対応はこれから検討」

10   「尖った知識や能力、募集します」東大発ベンチャーNEXCITEの挑戦

※当該期間に公開した記事のみを集計

 

過去のランキング

【2018年5月アクセスランキング】「推薦の素顔」に関心

【2018年4月アクセスランキング】連載「蹴られる東大」が人気

【2018年3月アクセスランキング】3/10実施の合格発表に高い関心

【2018年2月アクセスランキング】入試関連記事に関心

【2018年1月アクセスランキング】近藤選手の箱根欠場に注目

【2017年アクセスランキング】まつりさんの記事が今年の年間1位に

【2017年12月アクセスランキング】東大生のSNS事情に高い関心

【2017年11月アクセスランキング】東大生の「銀行志向」に関心

【2017年10月アクセスランキング】「ボカロ」関連の記事が人気

【2017年9月アクセスランキング】哲学者の勉強論に高い関心

【2017年8月アクセスランキング】「駒場図書館冷房停止」が1位

【2017年7月アクセスランキング】宮台教授のメッセージに注目

【2017年6月アクセスランキング】「N高」に注目 論文不正問題に依然高い関心

【2017年5月アクセスランキング】高橋まつりさん関連記事に大きな注目

【2018年6月アクセスランキング】世界大学ランキングに関心東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【インスタブームに迫る①】東大生に聞いたインスタの使い方

$
0
0

 

 

 「いい写真が撮れたからインスタに載せよう」「ストーリー撮ります!こっち見て」。このような会話を日常の中でよくする、あるいは耳にする人は多いのではないだろうか。写真共有アプリ「Instagram」(インスタ)は利用者数が2016年8月から2017年8月までの1年で約43%増加し、日本における月間アクティブユーザー数(1カ月の間に1回でも利用や活動のあった利用者の数)は2000万人を突破。さらに、2017年の流行語大賞に写真が見栄えするという意味を持つ「インスタ映え」という言葉が選ばれるなど、大きな注目を集めている。

 

 

 

 なぜ、インスタはここまでの人気を集めているのだろうか。連載企画「インスタブームに迫る」では、東大卒インスタグラマーやインスタの動向を分析する研究員に取材。人々のインスタに対する向き合い方の変遷や知られざるインスタの魅力について掘り下げていく。連載初回の今回は、インスタを利用する東大生4人に、インスタをよく利用する世代である大学生目線での利用法や魅力などについて聞いた。

 

(取材・楊海沙)

 

 

投稿内容はおしゃれなものに限らない

 

 2010年に登場したインスタは、他のSNSに比べ写真や動画に特化している。投稿機能には、投稿がフィード(タイムライン)に流れ永遠に残る通常の機能と、投稿が上部に横並びに表示され24時間で自動削除される「ストーリー」機能がある。

 

 

 通常投稿の内容はサークル活動の集合写真やおしゃれなパンケーキの写真などさまざま。「1人暮らしを始めたばかりのとき、親に毎日食べたものを投稿するよう言われ、仕方なくコンビニのサンドイッチやサバ缶などその日に食べたものを投稿していた」(理Ⅱ・2年、男子)という人や「ラーメンが好きな自分の意地で、食べたラーメンの写真しか載せていない。全部そろっていた方が美しいなあと思ったので」(文Ⅲ・2年、男子)という人もおり、いわゆる「インスタ映え」という言葉で連想するようなおしゃれな投稿に限らず、生活感あふれる素朴な投稿もみられる。

 

 

気軽なストーリー機能の利用が多め

 

 投稿頻度は「通常の投稿は平均すると月に2回ほど。ストーリーは自分の感覚では週に4〜7回ほど利用している」(文Ⅰ・2年、女子)などと、永遠に残ることがないが故に気楽に投稿できるストーリーへの投稿が多い傾向にあった。ストーリーへの投稿内容は、友達と一緒にいるときの動画や通常投稿をするほどでもないちょっとした出来事が多いようだ。「通常の投稿では、友達と以前から計画していた重要度が高いイベントであることが多い。ストーリーは後に残らない分、通常の投稿ほど色彩や配置などを意識しなかったり、突発的な出来事あったりすることが多い」(文Ⅰ・2年、女子)という。「思わず誰かに見せたくなってしまったが、『いいね!』の数を意識しているツイッターでそこまで『いいね!』を稼げそうにないと感じたときは、ストーリーに載せる」(理Ⅱ・2年、男子)というツイッター代わりの使い方もある。「いいね!」の数を気にせずに気軽に自分がいる場をシェアできるのが、ストーリーの魅力と言える。一方で「自分の生活の記録の意味で投稿するため、1日で消えてしまうストーリーに投稿する意味がない」(文Ⅲ・2年、男子)として、ストーリーを利用しない人も。

 

 投稿の際に「インスタ映え」を意識しているかという質問に対しては4人中3人が意識していると答えた。食べ物の写真を撮るときに角度に気を付けたり、背景にこだわっておしぼりの袋や私物を映さないようにしたり、食べ物の撮影に特化したカメラアプリ「Foodie」を使って撮影したり、写真の明るさや色味を変更できるフィルター機能を使ったりなど、さまざまな工夫の仕方があった。一方で「『いいね!』稼ぎのためにいい写真を撮ろうと苦心する様子は見ていて痛々しい」という、「インスタ映え」を追求することに対して否定的な意見も聞かれた。

 

 

ただシェアするだけではない

 

 インスタの魅力としては「誰かと過ごした楽しい時間を、相手への感謝の気持ちも込めてシェアできる」(理Ⅱ・2年、男子)や「写真で日常生活の一コマを伝えられる」(文Ⅲ・2年、女子)というように、写真や動画を用いて人々の視覚に訴えることで、自分の体験をシェアできることがまず挙げられた。「友人のプライベートを垣間見ることで、物理的距離がある中で心理的距離の近さを維持できる」(文Ⅲ・2年、男子)、「一度知り合ったもののその後あまり交流する機会がない人と、インスタを交換しておくことで今後の交流のきっかけになったりすることがある」(理Ⅱ・2年、男子)というように、遠方に住んでいたりあまり会う機会がなかったりして疎遠になりがちな人とも、写真を通じてお互いの近況を知ることでつながりが保てる。その反面「忙しくてなかなか遊ぶ時間がないときに他人の投稿を見ると精神的にダメージを受ける」(理Ⅱ・2年、男子)というように、インスタを開いた途端、自分が置かれている状況と対照的な、他人の生活の充実ぶりを見せつけられて虚しくなることもある。

 

 また「ほとんど手間を掛けずにインターネット上にアルバムが作れる。ただその場で撮った写真を載せるだけなのに、後から見返すと思い出に浸ることができる」(文Ⅰ・2年、女子)といい、自分の思い出をよみがえらせるアルバムとして使える側面も。他にも「ハッシュタグによって視覚に訴える食べ物や景色を検索でき、お出掛けの行き先を決めるときに便利」(文Ⅲ・2年、女子)や「女優さんのきれいな写真を定期的に見られる」(文Ⅲ・2年、男子)という声もあった。

 このようにインスタは、単に写真をシェアして「いいね!」を稼ぎ承認欲求を満たすための表面的なものではなく、自分の思い出を後から懐かしんだり、友人の近況を知ったり憧れの芸能人の投稿を見て癒やされたりなど、投稿する上でも閲覧する上でもさまざまな側面において楽しめる。さらに、人間関係の維持やお出掛け先の決定など日々の生活に役立てることができる奥深いものであることが浮かび上がってきた。

 

 一般に「インスタ映え」する写真とはカラフルであるなどおしゃれな被写体によって成り立つ印象を受けがちで、実際フォトジェニックな(写真写りの良い)スポットや食べ物の流行も起こっている。だが、個人に目を向けてみると、「インスタ映え」を意識する人は多いものの、そのために工夫を凝らすのは撮影方法や写真の加工の時点であり、被写体自体は素朴なものから鮮やかなものまで投稿者の個性や趣向によってさまざまであることが分かった。単に「インスタ映え」とは「おしゃれなものである」というイメージではひとくくりにできないのではないか。

 

 次回は、東大卒インスタグラマーの山田茜さんに、プロ目線でのインスタの使いこなし方やインスタグラマーとしてのやりがいなどについて語ってもらう。

【インスタブームに迫る①】東大生に聞いたインスタの使い方東大新聞オンラインで公開された投稿です。

東大における女性研究者の現状(前編) 働きにくい職場 変革は必須

$
0
0

 2015年のOECDの調査では、日本の高等教育機関に占める女性教員の割合はOECD加盟国中下から2番目に低い(図1)

 国内で比較すると東大は16年現在、女性教員の比率が国立86大学中73位の12.1%だ。圧倒的男性多数な東大における女性教員の「働きやすさ」について、2週にわたり検証する。前編となる今回は、ジェンダー研究に携わる東大の女性教員2人に、職場の現状分析と「働きやすさ」に関する体験談を聞いた。

 

(取材・武沙佑美)

 

留学して気付いた女性の負担

 

 研究者への道のりの始点として大学や大学院があるが、どちらも女性の進学率は男性に比べ低い(図2)

 女性は大学や大学院入学後も、将来の職業として研究職を思い描く際に重要なロールモデルとなり得る女性教員が少なく、研究室に入っても居心地が悪いなどの状況に直面し研究職から遠のいてしまうと言われる。東大の場合、女子学生は「浪人してまで」「上京してまで」東大に行くのか、といった社会の風潮に進学を阻まれることも多いと、フェミニズム・クィア理論を研究する清水晶子教授は言う。

 

 学生や若手研究者の労働環境は、偶然担当になった指導教員や配属された研究室のメンバーに左右される。学業や研究の場における平等の確保が、「運」により定められた個別の環境に依拠してしまっているのだ。「同僚に外見のことをからかわれたり、指導教員や先輩からパワハラを受けたりして思い悩む女子院生の話はよく耳にします」

 

 働きづらさに直面した際、東大では女性研究者支援相談室(18年2月に閉室)や男女共同参画室への相談は可能だ。しかし一つ一つの出来事の規模は小さいため実際に告発し緊急性を訴えることは難しい。だが実際は「言動などちょっとした嫌な出来事でも積み重なればストレスになり、女性のキャリアの妨害につながります」。

 

 問題視すべきは男性が、女性に対する言動が適切か不適切でないかの判断を誤っているという現状だ。解決するには「嫌な出来事」が起きるたびに指摘することで男性の意識を変えていく必要があるが、男性が圧倒的多数の職場で声を発するのは勇気が必要。相談でき共感してくれる女性が少なければなおさらだ。

 

 清水教授は男性社会である東大から女性教員が一定数いる英国の大学に留学して初めて、日本では女性院生や研究者が言動に気を遣う場面が多いことを痛感したという。例えば「東大では当たり前の言い回しが、実は気を遣ったものであり負担になっていたことが分かりました」。強く主張したいときに、性別を気にせず主張できるありがたさを感じた。帰国後に、東大の女性研究者の我慢に気付いたことも。「怒るときに男性は感情的になれますが女性研究者は感情を抑えることが多いと感じます。女性が激しく怒ると『女は感情的』と思われるからです」

 

 留学先は女性教員が多かったため、研究者を将来の進路として考えたときに思い描く、女性研究者の在り方の幅も広がった。留学前は女性研究者が発言すると「女なのに偉そうだ」と非難される様子を目にし、「優秀だがかわいい」か「怖い」かの両極端なイメージしか知らなかった清水教授。権威ある存在として認められ敬意を払われている多様な女性研究者の姿を見て刺激を受けたという。

 

 英語圏の大学が男女共同参画に本腰を入れ多様な研究環境が整う中、東大が対策に出遅れることは研究機関として支障を来す。研究仲間が男性のみであることに慣れている学生や若手研究者が、海外の研究室で女性の研究者の下で研究することになったとき、戸惑う恐れもある。性別に限らず、人種や民族的多様性に対応できなければ円滑な研究活動は難しい。

 

 男女共同参画を進める第一歩として、東大にはまず現状の本格的な調査をしてほしいと清水教授は言う。女子学生の現状や女性研究者の数の停滞の要因を、東大が持つリソースを活用して徹底的に調べ、中長期的な視野に立った対策を講じることが必要だ。「どうしたら優秀な女性研究者を生み出し、留め置くことができるのかを含め、リスク管理と対策を練るべき時です」

清水晶子教授(総合文化研究科)

 03年英ウェールズ大学カーディフ校にてPh.D.(批評文化論)取得。総合文化研究科准教授などを経て、17年より現職。

 

求められる男性基準の研究者像

 

 社会一般ではいまだに理想の女性像である、柔和で外見が美しいというステレオタイプが流布している。「メディアは規範作りの道具」と話す林香里教授(情報学環)は、偏った女性像のまん延にメディアが及ぼす影響は大きいと断言する。「例えばドラマ制作などの際にシナリオライターは、ディレクターから『40代の女性は母親世代だから病気になる設定にしてはいけない』『20代の登場人物はかわいい設定で』と指示されます。女性は役割を押し付けられているのです」。メディアでの女性の表象を繰り返し目にすることで、社会にステレオタイプが刷り込まれる。

 

 女性研究者は、こうした社会で女性として生きている一方で、「東大の研究者として学問の世界では、性別に関係なく戦え、と言われます」。求められる研究者像は、約140年間東大の研究活動が男性多数の社会に立脚してきたために出来上がった男性基準のもの。「学術の世界でネットワークは重要。けれどもそこで通じるのは男性的ネットワークなので、『女性』性は余分になるわけです」。女性は、男性のネットワークに参入し、男性社会の慣習に合わせなければいけない。周囲の男性たちに溶け込む努力をして、必要な言動を調整する。「でも、男性はそんなことをする必要はないですよね」

 

 問題は、男性が現状の深刻さを痛感していない点にある。職場構造が、出産や育児の当事者ではなかった男性の研究者像に基づいて組み立てられているため「会議が夜遅くまで続く、土日に学会がある、研究室に長時間こもることが、良い研究者になる前提条件になっています」。

 

 林教授も育児と研究が重なっていた時期は、夜遅くまでの会議や飲み会はもちろん、研究者同士の絆を深める機会を持てず、孤立感を味わった。「飲み会で研究や人事の話題も上り、役職決めなどに影響するような重要な決断がなされることもあります」。現在東大では育児との両立を踏まえ会議は午後5時までという規定があるが「多くの審査や話し合いはしばしば遅くまで続き、女性研究者にはつらいことがあると思います」。

 

 性別による無意識な差別を是正するためには、ジェンダー教育が不可欠だという。1年次の必修単位として組み込むなど全学で意識的に現状を問い直す機会がない限り、人はどうしても伝統的な性別役割分業に基づいた社会慣行を引きずってしまう。特にジェンダー問題が世界的に活発な議論の話題である今、「国際的に活躍したいなら、ジェンダーに関する問題意識はなおさら必要です」。

 

 意識改革と同時に、学内の女性研究者の人数を増やす必要がある。「今は何が足りていないのかも分からないくらい、女性が少ないですから」。多様性を推進し異質な他者と接触する機会を増やせば、斬新な発想も生まれ学問は発展する。男女が双方に働きやすい職場を作ることは、異なった出自や文化背景を持つ全ての人に、働きやすい環境を整えることを意味する。

 

 さらに林教授は「大学幹部に女性が必要」と強調する(表)

 部局長や理事のポストのほとんどを男性が占めている現状では「数の論理」が働いてしまう。「男性のネットワークが出来上がっている中で女性が幹部に選ばれるには、男性以上に立候補する勇気や根回しが必要です」。現場の女性研究者を積極的に意思決定プロセスに参加させることで、「働きやすさ」に向けた課題解決に新たな風が吹くだろう。「東大は研究のみならず働き方の面でも日本をけん引してほしいです」

 

林香里教授(情報学環)

97年人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会情報学)。独ハンベルク大学客員研究員などを経て、09年より現職。


この記事は、2018年7月10日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:文Ⅰ→法が過去最低に 進学選択志望集計 経は53人減で平年並み
ニュース:ウマがヒトの表情と声で感情を読み取ると解明
企画:2019年度進学選択第1段階志望集計表
企画:東大における女性研究者の現状 前編 働きにくい職場 変革は必須
企画:春の東大スポーツ総括2018
ミネルヴァの梟ー平成と私:④駒場寮廃寮❶
サークルペロリ:男子バレーボール部アナリスト
キャンパスガール:藤田佳穂さん(文Ⅲ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

東大における女性研究者の現状(前編) 働きにくい職場 変革は必須東大新聞オンラインで公開された投稿です。

4組の東大カップルと考える 「学生結婚」はいかが?

$
0
0

 「収入もないし、将来の職も不安定だし、結婚できそうにない」。将来の不安から、「結婚」への不安をそう口にする学生がいる。特に20代後半に差し掛かる研究者志望の博士課程の学生にとっては一つの大きな懸念となることも。では、将来の見通しが立たない学生時代に結婚を決意した人は、その先をどのように見据えていたのだろうか。東大教員や東大出身の学生結婚経験者に、その実情を聞いた。

 

(取材・石沢成美)

 

収入源の見通しが立ってから

 

 学生結婚を経験したさまざまな世代の夫婦4組に、結婚の理由、そして学生結婚の大きな懸念事項である経済面について話を聞いた。

 川幡穂高教授(大気海洋研究所)は、大学4年次の1978年に交際0日で結婚を決意した。相手は仲が良かった高校の同級生のAさん。「よく話す友達で、明るい家庭になると思い結婚しました(Aさん)」。川幡教授は大学院から専攻を変え博士を4年かけて取得することになっており、就職までの3年半は、学部卒で地方公務員となったAさんの給料で生活していた。

 「男性は外で働き女性は家を守る」という考えが根強い80年代当時、扶養に入る男性はほとんどおらず、神奈川県では川幡教授が初めての扶養手当を受ける男性となった。今でも結婚相手の給料に頼ることをはばかる男性は多いが「その後は自分が働くんだから、5年くらい任せても構わないでしょう(笑)」と川幡教授。双方合意の上での選択であれば、不安定な時期に互いを頼るのは悪いことではないだろう。

 学部生時代から同居を始めていたB准教授(大気海洋研究所)と妻・Cさんは、B准教授が修士2年の時に入籍した。研究者を目指すB准教授は当時、将来の見通しが立たなかったが「妻は私を養い続けてもよいと言ってくれたので、支えになりました」。先輩からの「研究者になれば多分定年まで見通しは立たない、今悩んでも仕方がない」という助言にも背中を押されたという。Cさんは、自身が比較的月給の高い職場に勤務していたこと、B准教授も研究奨励金を受けていたことから「家計に不安を持つことはなかった」と話した。

 原辰徳准教授(人工物工学研究センター)が博士1年次にDさんに出会ったとき、Dさんは既に国家公務員として働いていた。博士2年の冬ごろから結婚を意識し新居を申し込んだ直後、Dさんの妊娠が判明し博士3年次の08年に結婚を決めた。原准教授はまだ学生ではあったが、研究奨励金を受けており「気持ちの上では独立していました」。また博士号取得や就職のめども立っており、将来への心配は特になかったという。「ただ、近年は2~3年の任期付きポストが増えています。私が結婚した10年前よりも今の方が、職業面では精神的に不安定になりがちだと思います」

 一方で学部時代に結婚したのが、現在総合系コンサルティングファームに勤務する齊藤直樹さん(16年工学部卒)。2年半の交際を経て妻・Eさんの妊娠が分かり、「身体的な負担の増える妻を支えたい」と学部3年次に入籍した。

 学生の間は親に援助を受けており、Eさんは「両親に頼ることでなんとかやっていけると漠然と考えていた」と話す。入籍時にEさんは大学を中退し専業主婦となったが、就職後も収入に見合った生活をすることで経済面では特に不安要素はなかったという。

 8人の話によると、夫婦いずれかの収入源の見通しがついて結婚している事例が多い。学生結婚の場合は特に、経済面の互いの合意と助け合いが必要になるだろう。

 

酸いも甘いも二人三脚で

 

 学生結婚のメリットとは何なのだろうか。

 

 第一に、学生は社会人より時間に余裕があり、家事や育児について融通が利くという声が目立った。原准教授は、子どもが生まれた当時社会人の妻が自分よりも早く家を出て遅く帰る生活だったといい、「自分が夕方に子どもを寝かし付けて、また大学に戻り研究することもありました」。週末には結婚式の計画や家の用事も率先して行った。齊藤さんは「お互い仕事で忙しくすれ違う、という心配がなかった」と振り返る。所属研究室の配慮もあり、妻や子どもと過ごす時間が十分に取れたという。

 

 B准教授は「堂々と同居できる」という利点を挙げる。会社の家賃補助を受けているCさんと、入籍前のB准教授の同居は認められなかったためだ。交際段階の同居が親などに認められない人もいるだろう。また共に暮らす家族がいることで生活が安定し、安心感が得られるという良さも。規則正しい生活を送るようになったという意見の他、原准教授は「二人三脚なので、1年くらい働けなくてもなんとかなる、という余裕が持てる」と語った。

 

 逆に学生結婚のデメリットとは。「大変だったことは特にない」との意見が多数だが、原准教授によると、結婚後は自分一人だけの生活ではなくなるため「留学などの際の制約になる可能性がある」。国内外を飛び回る研究者生活においては、一人で没頭できる環境が必要になることもある。またCさんは「その後結婚相手を探さなくて良くなった」という一方、Eさんは「別の魅力的な人に出会ったとき、早くに結婚を決めたことを後悔するかもしれないと感じている」。早い段階で家族を持つためには、今後の人生計画を考えることが必要だ。

 

 収入が安定してからの結婚を見据える人は多いが、学生のうちに結婚する選択肢もあれば、もちろん一生結婚しないという選択肢もあるだろう。

 

 結婚して40年、周囲からも仲が良い夫婦とうわさされる川幡教授は「多少不安があっても、この人がいいなと感じたら結婚するのがいいと思うよ」と語った。


この記事は、2018年7月17日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:時代に敏感な傾向あらわ 就職先長期分析
ニュース:少林寺拳法で7連覇 七大戦 首位と16.5点差で5位
ニュース:自動運転の研究拠点柏に
ニュース:幻の「マヨラナ粒子」が存在 量子コンピューターへの応用も
ニュース:生産技術研究所 金がパラジウムの水素吸収を加速
ニュース:駒場図書館 夏季長期貸し出しで新ルール
企画:社会と共に意識変えよ 東大における女性研究者の現状 後編
企画:4組のカップルと考える 「学生結婚」はいかが?
ミネルヴァの梟ー平成と私:④駒場寮廃寮❷
新研究科長に聞く:③薬学系研究科 一條秀憲教授
東大新聞オンラインアクセスランキング:2018年6月
飛び出せ!東大発ベンチャー:コンプ
東大今昔物語:91年4月16日発行号 空きコマは皆思い思いに
教員の振り返る東大生活:亀田達也教授(人文社会系研究科)
キャンパスガイ:魚住亮介さん(理Ⅰ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

4組の東大カップルと考える 「学生結婚」はいかが?東大新聞オンラインで公開された投稿です。

東大における女性研究者の現状(後編) 社会と共に意識変えよ

$
0
0

 社会的には男女共同参画が謳(うた)われ、第一線で活躍する女性が増えているが、東大は研究する教員のうち圧倒的多数を男性が占める職場だ。そんな東大で働く女性教員の「働きやすさ」はどのようなものか。前号に続き後編となる今回は東大の男女共同参画室室長に、性別にかかわらず多様な人材が活躍できる職場を目指した取り組みや、現状の考察について聞いた。

 

(取材・武沙佑美)

 

松木則夫(まつき・のりお)理事・副学長
79年薬学系研究科博士課程修了。薬学博士。薬学系研究科教授などを経て、17年より現職。政策ビジョン研究センター特任教授も兼務。

 

いまだ固定観念強く

 

 「男女共同参画は、東京大学ビジョン2020に掲げられているように、国籍や人種、性別を越え多様性を受け入れるという東大の目標の一環です」と、東大男女共同参画室室長を務める松木則夫理事・副学長は言う。多様性の向上は研究の活力となる上、研究機関として国際的に認められるために必要だ。

 

 東大では男女共同参画室主導で2016年、公正な評価に基づき女性を積極的に採用するため、女性教員の人件費を一部の部局に一定期間支援する事業を開始。新任の女性教員への研究費支援や相談相手となる「先輩」教員をマッチングするメンターシステムも立ち上げ、少数派の女性が交流しにくい状況の改善を図った。こうした取り組みの結果東大は、都内で女性の活躍推進に積極的な団体などを東京都が表彰する「2017年度東京都女性活躍推進大賞」で優秀賞に選ばれた。

 

 

 だが対策の効果はまだ十分とはいえない。厚生労働省が提出を義務付ける一般事業主行動計画で、東大は2016年から2021年までの5年間で女性教員比率を25%まで、女性幹部職員の登用率を20%まで高めることを努力目標としている。一方、17年の東大の女性教員比率は17.2%だ(図)。ここ数年で微増しているとはいえ、目標達成は遠い。また、管理職の女性比率も17年時点で15%に満たない。

 

 問題の原因は二つ。一つ目はそもそも、研究職への女性の応募者が少ないことだ。「アカデミアにおける女性の割合が低いため、女性はアカデミアに進まない存在、という社会的な固定観念がまだ強いのでしょう」

 

 二つ目は、採用者側の無意識な偏見だという。男性が多数派のため、採用者も男性であることが多い。「採用者は業績で公平に選んでいるつもりでも、実はそれ以外の情報も採用に影響しています」。男性研究者のコミュニティーでは飲み会などでの交流や共通の研究仲間を通じて他の研究者と知り合う機会が多い。男性の採用者は、男性応募者とはそうした関わりの中で親近感を持つ場合が多いため、無意識のうちに採用が偏る危険がある。

 

 出産や育児といったライフイベントがあったために、女性応募者の研究業績が少ない場合があることも、女性の採用を阻む一因だった。「現状では女性の方が、若い頃にライフイベントに割く時間が男性に比べ多いため、研究の進度が落ち業績を積みにくいのです。採用者はこれを考慮し、過去ではなく今後の可能性を見据えて採用の選択をする必要があります」

 

 

男性の役割が重要

 

 大学運営側は女性教員の割合が少ない現状に危機感を抱いているが、問題はその危機感を大学全体に浸透させることができるかどうかだ。「文部科学省は全国の大学に、学長の権限を強くしトップダウンで改革を推進するよう呼び掛けていますが、そのやり方は東大では受け入れられないでしょう」。伝統的に各部局の独立意識が強い東大では運営側は、女性比率を増やす努力をするよう各部局に要請し協力を待つしかないのだと、松木理事・副学長。「男女共同参画を実現するには慣例的に存在する組織的な壁も取り壊さなければいけません」。部局が独立した分権的な組織としての課題も抱える中、「ボトムアップの意識改革が起きてくれないと困ります」。

 

 最重要課題は、学内の男性や管理職教員との、現状に対する危機感の共有だ。男女共同参画室では男性上司向けの講座やマニュアルを提供する。また松木理事・副学長は特に、自身による教員への意識啓発活動「部局キャラバン」に期待をかける。17年度は文、工、理学部で実施され、本年度はその他の学部でも順次実施する予定だ。「意識が変わりさえすれば、制度を頑張って整備するより早く多様性が実現されるはずです」。キャラバンでは主に男性教員に、女性の採用や女性と接する際に無意識な差別が働いている可能性の自覚や、ライフイベントへの理解を促す。

 

 だが「男女共同参画に向けた活動が功を奏すには、社会全体の意識変革も必要です」。例えば米国のアイビーリーグは1960年代まで男性しか入学できなかったが、共学化してまもなく男女比率が五分五分になった。それは大学の手柄というより、当時フェミニズム運動が盛んだった米国社会が男女平等を受け入れたから実現したのだと、松木理事・副学長は分析する。「東大の女性教員比率は他大と比べてもともと低いですし、男女共同参画を東大がリードするとはいえません。ですが社会と共に男女平等の実現に向け努力すれば、状況は変わるでしょう」。男女共同参画は、女性だけが取り組む問題ではない。「男性教員には『男女共同参画はあなたの役割です』と訴えています」

 

 

「女性枠」は賛否両論

 

 女性研究者の比率の数値目標をなるべく早く達成する手立てとして、研究者の採用枠のうち一定数を女性に割り当てるクオータ制がある。だが、クオータ制の導入については賛否両論がある。

 

 メディアとジェンダー観の関係について研究する林香里教授(情報学環)はクオータ制支持派の一人。林教授は、長い大学の歴史は男性がつくり、男性的価値観と生き方を優遇する制度を確立してきたと主張する。その結果、女性が不利になる現状がつくり出された。「クオータ制は、男性優遇措置の是正であり、評価方法を変え現状の不公平を公平にする始まりなのです」。本来、能力や研究業績が物を言う学問の世界で性別は関係ないはず。だからこそ、目に見えない「日本人男性ファースト」慣行を打開する抜本的対策が必要だ。「クオータ制は、性別問わず優秀な研究者を採用し、研究水準を向上させる第一歩です」

 

 一方、松木理事・副学長はクオータ制には反対だ。研究者の評価基準に「性別」を加えることは、教育と研究に精を出すことを本務とする研究者にとって受け入れにくい。その基準で選ばれた女性は、それまで性別関係なく選ばれてきた他の研究者に比べ劣っていると思われてしまうと言う。「『上から』変化を起こしたらジェンダーを巡る議論は活発になりますが、研究者の在り方が揺らぎ研究の評価は混乱するでしょう」。研究業績を巡る国際競争が激化する中、クオータ制の導入による混乱により東大の研究水準が低下してはならない。「男性が男女共同参画の必要性を認識すれば、状況は改善するはずです」


この記事は、2018年7月17日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:時代に敏感な傾向あらわ 就職先長期分析
ニュース:少林寺拳法で7連覇 七大戦 首位と16.5点差で5位
ニュース:自動運転の研究拠点柏に
ニュース:幻の「マヨラナ粒子」が存在 量子コンピューターへの応用も
ニュース:生産技術研究所 金がパラジウムの水素吸収を加速
ニュース:駒場図書館 夏季長期貸し出しで新ルール
企画:社会と共に意識変えよ 東大における女性研究者の現状 後編
企画:4組のカップルと考える 「学生結婚」はいかが?
ミネルヴァの梟ー平成と私:④駒場寮廃寮❷
新研究科長に聞く:③薬学系研究科 一條秀憲教授
東大新聞オンラインアクセスランキング:2018年6月
飛び出せ!東大発ベンチャー:コンプ
東大今昔物語:91年4月16日発行号 空きコマは皆思い思いに
教員の振り返る東大生活:亀田達也教授(人文社会系研究科)
キャンパスガイ:魚住亮介さん(理Ⅰ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

 

【推薦の素顔】長原颯大さん 武器は積極性と好奇心

$
0
0

 2016年度から、多様な人材の獲得を目的として導入された「推薦入試」。ペーパーテストが主な評価対象となる一般入試とは異なり、小論文や面接などが課されており、毎年個性的な学生が推薦入試を利用して入学します。そんな彼らを一人一人取材するのが本連載「推薦の素顔」。東大に新たな風を吹き込む彼らに、あなたも触れてみませんか。

長原 颯大(ながはら・そうた)さん
理Ⅰ・2年→工学部

 

 画家である祖父の家にあったカラフルな絵を見て、色素に興味を持った長原さん。高校では化学部の部長を務める傍ら、九州大学の教授から支援を受けつつ色素の退色に関する実験を重ねた。

 

 化学部では、万能指示薬を吸着する水酸化鉛の性質を発見した。当初は顧問や他の部員にすら相手にされなかったものの「応用し社会に還元する道筋を示して」発見の重要性を力説し、全国高等学校総合文化祭(総文)に出場。独創性が評価され、全国5位となる奨励賞に輝いた。

 

 長原さんの武器は、積極性と旺盛な好奇心だ。「理系の話は将来いくらでも聞けるので」文系分野にも関心を広げ、グループで課題研究を行う総合学習では、文の長さや語数などをデータ化し文書の癖を見つける計量文献学の研究を主導。行事や旅行の実行委員も「面白かったらやろう」と積極的に務め、高3の10月には受験勉強中にもかかわらずノーベル賞受賞者の講演を聞きに上京した。

 

 劣化したコンクリートを見てその原因を分析するなど「暇さえあればものを考えている」という好奇心は推薦入試でも生きた。対話形式の面接では総文の最優秀賞受賞研究を聞かれ、「いろいろ発表を聞きに行って質問攻めしていた」ため辛うじて思い出せたという。事前に提出した小論文の内容に関連し、カラー印刷の開始時期を聞かれた時も答えに詰まったが、調べていなかったと正直に答えたら面接官に「僕も分からない」と返された一幕も。

 

 面接をくぐり抜け合格した後は、生物系など「他の理Ⅰ生が敬遠しがちな」分野の授業を意欲的に受講。中でも強く興味を引かれた授業があると、自ら教員に連絡し研究室を訪れた。工学部では、カラー印刷の紙を効率良くリサイクルするため触媒を用いて色素を消す方法を研究したいという。色素から縦横無尽に広がる長原さんの好奇心が、社会に還元される日も近い。

 

(取材・撮影 一柳里樹)


この記事は、2017年6月27日号に掲載した記事を再編集したものです。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

ニュース:多様な使用法を想定 総合図書館別館オープン 本格利用は18年から
ニュース:新テスト英語方針 国大協が批判 共通試験廃止案に
ニュース:理・成田助教ら 観測史上最も高温の太陽系外惑星を発見
ニュース:世界28位へ上昇 QS大学ランキング アジア5位は変わらず
企画:専門家と東大卒主夫に聞く「転勤」 視野広げ自分なりの選択を 
企画:非寛容を恋愛に乗せて 『ぼくらの亡命』監督特別インタビュー
新研究科長に聞く:③教育学研究科 小玉重夫教授(教育学研究科)
推薦の素顔:長原颯大さん(理Ⅰ・1年→工学部)
新研究科長に聞く:④工学系研究科 大久保達也教授(工学系研究科)
東大新聞オンラインアクセスランキング:2017年5月
東大今昔物語:1987年7月14日発行号より 幻となった柏の「理Ⅳ生」
東大CINEMA:『ラスト・プリンセス―大韓帝国最後の皇女―』
キャンパスガール:今田翔子さん(文Ⅲ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。


【ハーバードクリムゾン翻訳企画①】ハーバードの新入生アンケート

$
0
0

 

 東京大学がその国際競争力を問われるようになってから久しい。「タフでグローバルな東大生」を掲げ、世界で戦える人材の輩出を目指した濱田純一前総長時代に続き、現在の五神真総長が掲げる東京大学ビジョン2020においても「国際感覚を鍛える教育の充実」が掲げられており、東大生には世界での活躍が期待されている。しかしながら、東大生の中には国外の大学が東大とどのように違い、自分たちがどのような人材と渡り合っていくことを求められているのか、知らない人も多いのではないだろうか。

 

 東京大学新聞社では、あくまで一例ではあるがそのような海外の大学の実情を少しでも紹介すべく、3回にわたって米国ハーバード大学の学生新聞・ハーバードクリムゾン紙より許可を得て、同紙の記事を翻訳し紹介する。初回の今回は、ハーバード大学の新入生アンケートの分析記事を紹介。東京大学新聞社が行っている東大の新入生アンケートも踏まえ、データから見る東大とハーバード大学の違いを分析した。

 


 

新入生に会おう!2021年度卒予定クラス

(注:アメリカでは「何年卒予定クラス」と学年のことを表記する)

 

新入生の構成(2017年度版)

Graham W. Bishai and Dianne Lee

 

 ハーバード大学経営陣が低収入で大学進学第一世代となる生徒をサポートする新たな体制を取ったことで、新入生のうち16%以上が彼らの家族の中で初めて大学に進学する人となったことがクリムゾン紙の毎年恒例の入学生調査で分かった。

 

 昨春、ラケシュ・クラナ学部長はこれらの生徒が大学に進学するためのブリッジプログラムを創設するという提案を拒否した。世間の強い抗議を受け3月に同大学はこれらの生徒にハーバードでの生活への移行について助言を与える「大学進学第一世代低収入学生支援係」を雇用すると発表した。

 

 また8月にハーバードは新しいオリエンテーションプログラム──拒否したブリッジプログラムではないが、よく似た「歴史的に社会から無視されてきたコミュニティー」(訳者注:様々なマイノリティーを指している)から来た新入生が大学生活のスタートを切る手助けをするプログラムを発表した。

 

 調査では第1世代の生徒たちはそうではないと答えた生徒よりも低い家庭年収だった。両親が25万ドル以上稼ぐと答えたのは第1世代学生たちの2.2%のみだったが、親が最低1人は大学に在籍していた生徒の41.8%は家庭の年収は25万ドル以上だった。

 

 回答した第1世代学生の約41%は年間4万ドル以下の年収の家庭出身だったが、両親が大学に行っていた学生でその収入レベルだったのは5.9%のみだった。

 

 毎年新入生がケンブリッジへ行って大学での生活を始める準備をしているころ、クリムゾン紙は彼らの一人一人に調査に参加してもらうようメールを送っている。匿名のアンケートは彼らのSATの点数から宗教観、彼らの現在のキャンパスに対する意見から政治問題までを聞くものだ。約1700人の新学年のうち約50%に当たる853人の返答があった。クリムゾン紙では起こりうる選択バイアスをうち消すための調査結果修正は行っていない。

 

 クリムゾン紙の3部に及ぶ2021卒予定新入学年調査の第1部では新入学年の構成を調査、民族、ジェンダー、家族、回答者の中等・高等学校、学資援助、入学統計などを含む人口統計情報を分析する。

 

 

人口統計

 

 過去の年度と同様に、調査されたハーバードの入学生多くが白人で異性愛者であり、裕福だった。回答者の多数─53%─は女性と自認、46.6%は男性と自認していた。約0.4%はトランスジェンダーだと自認していた。

 

  • 調査した生徒の52.1%が白人と回答、23.8%がアジア系、11.4%が黒人もしくはアフリカ系アメリカ人、10.2%がヒスパニック系あるいはラテン系、1.7%がネイティブ・アメリカン(インディアン)系・イヌイット系、0.8%が太平洋諸島系だった。
  • 回答者の82.5%が自分を異性愛者(ストレート)と自認、5.6%が同性愛者(ゲイ・レズビアン)と自認し、7.9%が自分は両性愛者(バイセクシャル)だと自認した。約3%が自分の性的指向を模索中とした。
  • 同性愛者だと回答した人の80%は男性、バイセクシャルと自認する人の多くは女性で、62%の回答者が女性だった。

 

 ハーバード大学の新学年は大半が沿岸地域出身であり、大多数―39.4%―の学生が北東部から来た。アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス、オクラホマといった南西部の州では、他のどの地域よりも学生数が少なく、回答者の6.9%がこれらの州出身だ。8人に1人は米国とその領土外から来た。

 

  • 調査対象の新入生の約10%は農村部出身であり、2020年卒予定のクラスの調査回答者の8.7%から増加している。調査対象の新入生の大多数─61.3%─は郊外から、28.5%は都市部から来た。

 

金銭事情

 

 調査結果は、新入生の人種と両親年収との間に相関があることを示している。白人の学生は、黒人の回答者の約2倍の確率で、年収25万ドルを超える家庭出身だった。白人の生徒のうち42%が年収25万ドルを超える家庭出身だと報告されている。

 

  • ヒスパニック系およびラテン系の回答者のうち、24%が年収25万ドルを超える家庭から来たと報告している。アフリカ系アメリカ人の回答者の22%、アジア系学生の35%が同じ親の所得レベルを報告している。
  • 黒人およびラテン系の回答者は、白人およびアジア系の回答者よりも、年収が40,000ドル以下の世帯から来た可能性が高い。アフリカ系アメリカ人の回答者の17.6%が両親合わせての年収が40,000ドル以下だった。この所得レベルはラテン系またはヒスパニック系回答者の13.5%、白人回答者の9.2%、アジア系回答者の7.8%であった。
  • およそ17%─およそ6人の学生のうちの1人─は、年50万ドル以上を稼ぐ家庭の出身、12%は年収4万ドル以下の家庭の出身だった。

 

 ハーバード大学に通った親を1人以上持つ学生は、そうでない学生より平均的に親の所得レベルが高いと報告していた。回答者の17.5%(6人に1人以上)が、ハーバード大学に両親の両方または片方が在籍していた。

 

  • ハーバードに在籍した親族を持たないと答えた学生の9%は、年間50万ドル以上の家庭収入を報告していたが、在籍者がいた家庭出身の学生の46%がこの収入を報告していた。

 

 大学によると、2017-18学年度のハーバード大学の学費は、授業料、家賃食費を含む65,609ドルとなった。大学の提示費用は高く見えるが、アンケートに回答したクラスメンバーの半分以上が大学から何らかの財政援助を受ける。近年では、低所得者世帯の2020年、2021年、2022年(卒予定)のクラスの生徒に追加の財源を授与する、3年間の試験的な”スタートアップ”奨学金プログラムを開始した。両親の年収が合計$65,000ドル未満の学生は、無料で大学に通う。

 

 調査に回答した学生の大半である55.45%が、大学からいくばくかの奨学金を受け取っていると回答した。公立高校に通っていたと回答した新入生のうち、約66%が財政援助を受けていると回答したのに対し、私立高校から来た回答者の35.5%が財政援助を受けていると回答。

 

 ほとんどすべての第1世代の学生は、大学の財政援助プログラムの受益者であり、95%が資金援助を受けていると答えている。

 

高校生活の注目点

 

 この春、大学は、2021年卒予定のクラスに応募者の5.2%、すなわち約40,000人の応募者のうちの2,056人の入学を認めた。受入れ率は、2020年のクラスのそれよりもわずかに低く、近年の合格者数の減少傾向を維持している。

 

  • 調査対象の学生の17%が、高等学校の外からの私的大学入学カウンセラーからの大学進学アドバイスを求めたと報告している。そのうちの32%が、両親が1年で50万ドル以上を稼いだと回答した一方、11%は両親の収入が年間4万ドル未満と答えた。
  • 回答者の60.3%がチャータースクール(訳者注:親や地域団体が運営母体の高校)ではない公立校に、35.7%が私立校に、3.2%がチャータースクールに行っていた。調査対象の学生の1%未満が、彼らはホームスクール教育を受けたと答えた。
  • ハーバード大の在籍生及び卒業生がいる家庭の学生は、公立校よりも私立校を卒業した可能性が高い。
  • ハーバード大の在籍生及び卒業生のいる家庭の学生の58.7%は私立校に通っていたのに対し、40%は公立校に通っていた。
  • 回答者は、4.0の尺度で3.94の平均GPAを報告した。
  • 66%の学生が、生徒の順位付けを行う中等学校に通っていたことを報告した。このうち、73%が学年の上位2%にいた。少なくとも1人のハーバードに在籍していた親を持ち、学校で順位付けがなされた学生の59%が学年の上位2%にいたと報告している。
  • 調査された新入生の大半─53.5%─がハーバードに早期に入学許可を得た。第1世代の学生の39.3%とハーバード大の在籍生及び卒業生がいる家庭出身の学生の69%はハーバードの早期出願入学を許可された。

東大新聞記者コメント

 

 ハーバードでは前述のオリエンテーションプログラムの導入と第1世代へのサポートが始まったということもあって、第1回はその関連調査がほとんどである。(人口統計の前で触れられているようにハーバードクリムゾン紙新入生アンケートは3回の連載記事であり、この記事が第1回。)クリムゾン紙ではあけすけに年収を聞き取り分析している一方、東京大学新聞社では奨学金受給者を調査しているにとどまる。

 

 そもそも「第1世代」というフレーズが読者には疑問なのではないだろうか。米国の貧富の格差は日本の比ではなく、貧困から抜け出すためには大学進学が重要と考えられている。「家族の中で初めて大学に進学する」というのは、よく使われる言い回しだ。アメリカの大学の授業料は高いが奨学金制度も充実しており、優秀なら全額学費免除以上が可能だ。つまり家族の中で初めて大学に進学することは、優秀な成績を収めてエリートの仲間入りをし、貧困から脱するであろうことを意味する。その第1世代というわけである。

 

 ジェンダーに関しては、ハーバードは女性のほうが多いくらいで、女性率2割の東大とは別世界である。東大がというより日本の男女平等が遅れていることをズバリ表しているのではないか。東大は「ダイバーシティ」を掲げ、女子の数を増やそうと、地方から進学する女子学生に対し家賃支援を実施しているが、賛否両論である。

 

 LGBTを巡る傾向について聞くのは、米国らしい質問だ。ハーバード大学はマサチューセッツ州ケンブリッジ市の大学だが、マサチューセッツ州では同性婚が許可されたのは2004年。2015年に全米で同性婚が認められる10年も前からである。記者が滞在した2008年ごろのボストンでは手をつないで歩く同性カップルの姿がよく見られたし、近所にも同性婚カップルがいた。対して東京大学新聞社では、新入生の性的指向は調査していない。

 

 学生の出身地は、東大では関東が最多の58.1%であるのに対し、ハーバードは39.4 %が北東部だ。東大もハーバードもその所在地から来ている学生が一番多いということになる。そしてハーバード大ではそれ以外の学生もほとんどが沿岸都市部出身である。

 

 特筆すべきは留学生の多さ。調査では新入生の8人に1人、約12%ほどは留学生となっている。東大は学部では2017年で2.9%、大学院や研究所も含めた全体で約14%だ。東京大学新聞社の2017年度調査で海外から来た(帰国子女と留学生両方の可能性がある)と答えた新入生は2.2%だ。

 

 興味深いのは、現在アメリカの大学では、アジア系の人々が米国内ではマイノリティー(全人口の約5パーセントほど)であるのに、米国籍のあるアジア人も、留学生としてやってくるアジア人もかなり多い状態である(後記のリンク先記事によればハーバードの合格者の22%がアジア人学生(米国籍の者もそうでない者も含む)、理系の名門マサチューセッツ工科大学(MIT)でもアジア人学生は全体の26%ほど)。

https://www.insidehighered.com/admissions/article/2017/08/07/look-data-and-arguments-about-asian-americans-and-admissions-elite

 

 しかし差別是正目的のアファーマティブアクションで逆に不利益を被っているとアジア系米国人コミュニティーから批判が出ている。ハーバードも例外ではなく、ニューヨークタイムスによると2014年の入学許可に関して人種差別ではないかとアジア系米国人コミュニティーから訴えられているようだ。多民族国家アメリカらしい問題と言えるだろう。

http://www.businessinsider.com/asian-american-groups-doj-affirmative-action-definition-ivy-league-harvard-2018-2

https://www.nytimes.com/2018/04/04/us/harvard-asian-admission.html

 

(翻訳及びコメント・堀井絢子)

 

記事のオリジナルはこちら

https://features.thecrimson.com/2017/freshman-survey/makeup-narrative/

 

進学選択、終わり良ければすべて良し? 志望外の進学先に新たな希望

$
0
0

 進学選択で希望の学部・学科に進学できない学生は必ずいる(図)。「進学選択で失敗したらどうしよう……」と不安を抱く学生も少なくない。しかし、進学選択での失敗は本当に「失敗」と言い切れるのか。今回は、進学選択で希望通りにはいかなかったものの、結果として現在の進路に満足している教員や学生に取材した。進学選択に不安を抱えている学生は、ぜひ彼らの言葉に耳を傾けてほしい。

(取材・岡田康佑)

 

 

未知の中南米に衝撃

 

和田 毅(わだ・たけし)教授(総合文化研究科)
 90年教養学部教養学科中南米分科卒業。93年総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程修了。03年コロンビア大学社会学学科Ph. D取得。アメリカ、メキシコでの計15年の滞在を経て、18年より現職。

 

 現在、教養学部の地域文化研究分科ラテンアメリカ研究コースの教員を務める和田毅教授が、学生時代に進学したのは現在の所属と同じ教養学部の中南米分科だ。当時の進学振分けは、今の進学選択と異なり1回目に第3志望まで記載する方式だった。そして中南米分科は、第3志望に書いたものだったそうだ。

 

 理Ⅰ生だった和田教授が第1志望に選んでいたのは工学部の都市計画学科(当時)。第2志望は都市計画と似た内容を学べる土木工学科(当時)で、必要点数が低めなので滑り止めとして選択した。「第1志望はともかくまさか第2志望に落ちることはないだろうと高をくくっていました。しかし内定発表の掲示板を見に行くと、登録したことすら覚えていない『中南米』の3文字が目に飛び込んできました」

 

 中南米分科は、文系のスペイン語履修者が進学するところであり、研究対象がマイナーなためか、進学者がいない年があるほどだった。理系かつフランス語選択だった和田教授が、一体なぜ中南米を第3志望に書いたのか。「第3志望はあり得ないと決めつけ深く考えず書いたので、なぜ書いたかはおろか、書いたことすらよく覚えていません。中南米分科の人数を増やそうとする先生たちの陰謀ではないかと考えたほどです(笑)。でも、はるか遠い地球の裏側にある中南米の世界を知りたい漠然とした憧れはありましたね」。そのため進学先を知った瞬間は驚いたもののそこまで落胆はしなかった。「むしろ未知の世界に飛び込む魅力を感じ、わくわくしていました」

 

  進学先での勉強は初めてのことばかりで大変だった。「進学者5人の中で唯一スペイン語未履修だった私は、普段の授業に加えマンツーマンでスペイン語の特訓を受け、1年分の内容を4週間で叩き込まれました」。しかしスペイン語はコースの同期生たちのレベルに追いつけず、日本全国からメキシコへ留学する学生を選抜する試験を受けた際には分科の中で和田教授だけ落選した。「その頃は4年で卒業し、そのまま就職するつもりでした」

 

 しかし、メキシコ留学中の同期の友人から送られてきた1枚の絵はがきをきっかけに、和田教授は研究者への道を歩み出した。その絵はがきには、メキシコで新しくできたヨーロッパ人の知り合いたちとルームシェアをし、充実した海外生活を送る興奮がつづられていた。その楽しげな雰囲気や、未知の出会い・知識が凝縮された1枚に衝撃を受けた。「自分も中南米に行き、未知の刺激を得たいという意欲が湧いてきました」。インターネットがある今と違い海外はとても遠い存在だったので、絵はがきが醸し出す光景への憧れは強烈だったそうだ。

 

 スペイン語の勉強を続け、翌年には和田教授もメキシコ留学を達成。現地の好意的な人々との交流に刺激を受け、帰国後は大学院進学を決意した。その後米コロンビア大学にも留学をし、研究者としてのスキルを身につけていくうちに、研究者以外の道は考えられなくなった。

 

 現在、和田教授は社会学を研究するが、意外にも社会学は本来研究したかった都市計画の内容と似通った部分が多い。例えば中南米の不十分なインフラの原因追究や改善は両者に共通する課題だ。「波乱の進学振分けでしたが、巡り巡って当時研究したかった分野にたどり着けた気がします。もしかしたら第1志望に進学しても今と同じ研究をしていたかもしれません」

 

 回り道をしても努力次第では同じ道にたどり着けると、和田教授は強調する。「学部で学ぶことは専門の全てではなく、むしろ基礎知識にすぎません。だから第1志望に進めなくてもそんなに悲観する必要はないと思います。変化の積み重ねで、人生は大きく方向転換するものですよ」

 

実習の魅力見いだす

 

青木 智(あおき・とも)さん(理学系・修士1年)

 

 青木智さんも進学振分けで第1志望に進めなかった一人だ。理Ⅱ生だったが物理好きで、最初は理学部物理学科を志望した。しかし理Ⅱからの進学は点数のハードルが高く、早々に諦めてしまった。代わりに好きな物理と天文の両方を活用できる地球惑星物理学科を第1志望としたものの、これも点数が足りず第2志望の地球惑星環境学科への進学が決まった。物理や数学などの座学が多い第1志望に対し、第2志望は地学の実習が多い学科だ。手法は違えど似たことを学べる学科なので「仕方ないか」と割り切った。

 

 「でも、結果的には今の進路が大正解でした」。そう思うようになったきっかけは、実習の楽しさだった。実地調査に出掛け、石を探し出し、観察する作業を繰り返して研究を進めていくスタイルが性に合っているという。技術の向上が実感できるのが何よりうれしく、座学よりも夢中になれることに進学してから気付いた。「専門的な顕微鏡で大量の鉱物の種類をひたすら判別する地獄のような実習があるんですが、これもヒーヒー言いながらとても楽しんでいました」

 

 地道な作業を積み重ねる研究の面白さに魅了され、現在も院で学科に引き続き石の解析を用いた研究を行い、進路も研究者を志望している。「これから進学選択を迎える皆さんは、理想を追いすぎて自分を追い込む必要はないと思います。僕の場合は、流れに逆らわずに進んだ方がいい選択ができました」


 この記事は、2018年5月22日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:本部主導で異例の定数変更 2019年度進学選択 志望者数との溝埋める
ニュース:硬式野球 法大に大差で連敗 8戦終えて今季勝ちなし
ニュース:伝統の京大戦で敗北 アメフトオープン戦 終盤に意地見せる
ニュース:紫綬褒章 東大から4人が受章
企画:進学選択、終わり良ければすべて良し? 志望外の進学先に新たな希望
企画:各学部4年生に聞く 学生生活紹介
企画:忙しくても「選択」できます
東大新聞オンラインアクセスランキング:2018年4月
東大CINEMA:レディ・バード
キャンパスガール:嶋田朱里さん(理Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【ハーバードクリムゾン翻訳企画②】ハーバードの入試の裏側

$
0
0

 

 東京大学がその国際競争力を問われるようになってから久しい。「タフでグローバルな東大生」を掲げ、世界で戦える人材の輩出を目指した濱田純一前総長時代に続き、現在の五神真総長が掲げる東京大学ビジョン2020においても「国際感覚を鍛える教育の充実」が掲げられており、東大生には世界での活躍が期待されている。しかしながら一方で、東大生の中には国外の大学が東大とどのように違い、自分たちがどのような人材と渡り合っていくことを求められているのか、知らない人も多いのではないだろうか。

 

 東京大学新聞社では、あくまで一例ではあるがそのような海外の大学の実情を少しでも紹介すべく、3回にわたって米国ハーバード大学の学生新聞・ハーバードクリムゾン紙より許可を得て、クリムゾン紙の記事を翻訳し紹介する。2回目の今回は、ハーバード大生が入学後に自分の審査書類を開示して、自分の「実力(merit)」が入学者選抜の過程でいかに測られるのかを考えた記事を紹介。米国大入試制度における面接試験の立ち位置や、日本での面接試験の是非を巡る議論についても論じる。


大学における過去と未来の「実力」

 

Michelle I. Gao

 

 学生が審査書類の開示を申請する権利があると知った時から、私はハーバードの入学者選抜の裏側をのぞいてみたいと思っていた。そこでハーバードクリムゾンの編集委員の助言に逆らって開示要求を提出、約束の面会まで36日間待ち、ノート、ペン、そして謎めいた私のファイルがある会議室で30分間を過ごしたのだ。

 

 当然ながら私は入学者選抜事務局の最終判断を知っているが、彼らがいかにその判断にたどり着いたのかも知りたかった。彼らの私に対する印象はどのようなものだったのか? 彼らはどのように私を評価したのか? 彼らの判断が、純粋に学生の実力によるものではないということは分かっている。特にハーバードにおいては、入学者選抜の過程での実力主義などという神話はすでに崩壊しているのだ。有名なだけで、見たところ基準に満たないような受験生が他の受験生を押しのけて合格するという怪しげな話はよく聞くし、特定の人種や性別に対しての合格率は毎年不自然に似通っている。

 

 だがもし入学者の選抜が実力主義に沿って行われていないとしても、実力という概念が完全に捨て去られているわけではないだろう。にもかかわらず、自分の審査書類を読んでいると、一体誰が私を合格に値するものとしたのだろうと考えていることにふと気付く。それは私自身なのか? それとも私とはあまり一致しない、この書類の中にいる人物なのか?

 

 面接官が私から聞き出した言葉が書類には書かれていた。前もって準備したことをはっきりと覚えている言葉だ。どうも私はジャーナリストになるという自分の抱負を、「言葉には力がある」という理由で正当化したらしい。こんな陳腐な言葉を真面目な顔で話すに当たって、私はどれほど怯え、絶望せざるをえなかったのだろうと想像する。さらに面接官によると、高校時代に博物館での仕事に応募した理由として、自分自身に挑戦してスピーチの能力を向上させたかったからだと私は述べている。博物館での仕事を通じて私の劣っていたスピーチ能力は向上したので、この発言は確かに嘘ではない。しかし私はこれを、私の身の上話を取り繕う上で有用な言葉だと考え、予定通り面接で実行したのである。

 

 私の微分積分の先生からの推薦状を読んで、面接官の一人は私が大学で数学を学ぶのだろうと予想していた。この点に関して、面接官をがっかりさせてしまい申し訳ないと思う。私は大学でまだ数学の授業を一つも履修していないし、ショッピングウィーク(訳注:学期の初めにどの授業が面白そうか学生がいろいろ見て回る週)中に見に行くことさえしなかった。私は数学の授業を履修する必要がないことをますます願うばかりで、TL-84型のグラフ計算機(訳注:米国の生徒が中高時代から理系の授業で使う一般的な計算機)は机の上で埃にまみれたままだ。

 

 その他面接官がハーバードでの私の将来について予想する中、いろいろな出版に関わるだろうということについては、今この瞬間においても私は喜んで実行している。興味深いことに、面接官は私がthe Phillips Brooks House Associationの「熱心な参加者」になるとも予想していた。私はこのプログラムの参加者ではあるが、自分自身を「熱心」だとは思わない。地域貢献活動に多くの時間と努力、純粋な思いを捧げている数々の仲間との比較において、私は断然色あせてしまうのだ。

 

 では私はどのようにこれら2人の人物、すなわち事務局員や面接官が評価し合格を認めた私と、今ハーバードに通っている私自身を一致させれば良いのだろうか? 実力の問題というのは、今の私が生み出す一つ一つの行為によって、より複雑になってしまう。

 

 入学者選抜の担当者はその人の過去の成果や状況を見た上で、実力を評価する。だが実力というのはその人の過去についてだけではなく、その人の将来の可能性に関するものでもある。これまでの成功は、その人がハーバードのコミュニティーとハーバードという名をもってさらなる成功を収めることができると示唆するときにのみ重要となる。故に書類にはルームメートとしての適応、大学生活への貢献、知的創造性その他の予想を示す数値があるのだ。入学者選抜の担当者は受験生の可能性を数値化し、分かりやすく練り上げてゆく。なぜなら受験生の可能性こそが不可欠の判断基準であるからだ。

 

 だが実力とは可能性のことであるため、実力の評価に成功したか否か、すなわち大学合格に値するとされたことに学生自身が正当に応えられたかどうかは、後になってみないと分からない。実力を決めるのは、書類の中の人物でも、大学の教室にいる人物でさえもない。大学に通うことで、そしてエリート大学よりかは実力主義に支配されている「現実」世界に生きることで生成してゆく人物こそが、入学者選抜が正当なものかどうかを決定するのである。

 

 故に、我々は実力の議論を長期的な視点で考えるべきだろう。大学にいる我々はいまだに短期的な時間の枠内に存在しているし、我々の「実力」に対する判決もいまだに出ていないのだ。したがって私は、自分の審査書類を見て好奇心を満たしたい人はそうすれば良いと思うが、そこに長く留まっていてはならないと考える。少なくとも私としては、どのような経緯でここまでたどり着いたにしろ、自分自身が合格に値したと言えるような将来に向けて努力を続けてゆくのだから。


東大新聞記者コメント

 

 私を合格させたのは「私自身なのか? それとも私とはあまり一致しない、この書類の中にいる人物なのか?」という自問自答から始まる思索。我々は他者の視点から語られる自分自身に耳を傾けることで、新しい発見や反省を得ることができる。他者に認められようと、「身の上話を取り繕う」こともするだろうし、自分が思いも寄らなかったところを他者に評価されることもあるからだ。

 

 米国大に入学を申請する生徒たちは、米国のセンター試験に相当するSAT(情報処理能力を測るSAT Reasoning Test、科目別理解度を測るSAT Subject Testの2種類がある)や大学1年の学習内容を先取りするAP(Advanced Placement)などの共通試験の受験に加え、志望動機や自身の人物像を書くPersonal Statementやその他各大学が個別に課すエッセー(Supplement Essay)を提出し、面接を受ける。高校の成績や課外活動などの実績、高校教師からの推薦状も評価対象となる。ハーバード大のようなトップ校となると、SATの点数は9割を超えないと受かる確率は極めて低い。だが試験で満点近く取る生徒も、多く不合格になるのはなぜか。エッセーが独創的ではなかった、目立った課外活動をしていなかったなどの理由が考えられるが、面接という要因もあるだろう。

 

 本文で示されているように、面接では入学後どのような活動をし、同級生たちとの学びのコミュニティーや大学の名にどのように貢献し得るのかなどの「可能性」が厳しく問われる。この難関を切り抜けるために、受験生は自らの人生に対する長期的な視野を持つことを要求されるのだ。すなわち、自分は今まで何をしてきて、これからはどのような人間になりたいのか。勉強はできても勉強の意義を考えてこなかった生徒たちは、面接で壁に突き当たるのである。

 

 面接試験は公平性、正確性に欠けるという議論が今日本において見られる。確かに、受験生の将来的な可能性は過去の成果からしか導き出しようがなく、評価する側の主観が入り込むことは免れ得ない。だがそもそも主観が入り込むことはそこまで悪いことなのか。主観によって必ずしもその人物に対する評価が歪められることにはならないのではないか。この記事の筆者は、はじめ面接官が予想した入学後の生活と現状が食い違っていることに動揺するが、最後はその期待に応えようと努力することを決意する。すなわちゆがみは評価される側の応答によって乗り越えられるのである。

 

 ゆがみを乗り越えること、それこそが対話であろう。当然ながら、我々は他者を自己の視点から一方向的にしか認識できない。しかしだからといって他者の認識が常に不完全であることに嘆き、諦めるだろうか。自己の視点からでは決して見えない部分を、我々は対話を通じて知るのだ。一人一人の将来を考えた上で受験生を選抜することが大学入試なら、面接という対話の場は重んじられるべきなのではないか。

 

「私自身なのか? それとも私とはあまり一致しない、この書類の中にいる人物なのか?」

 

 審査書類を前にしたこの切実な問いは、上述のような理由から、評価される側がそのゆがみを乗り越える第一段階を示しているといえる。東大も、面接を課す推薦入試などで審査書類を開示する制度を設けてみても良いかもしれない。点数には還元されない自己と他者の対話が、そこにあるはずだから。

 

(翻訳及びコメント・円光門)

 

記事のオリジナルはこちら

https://www.thecrimson.com/column/between-the-lines/article/2018/4/6/gao-past-and-future-merit-in-college/

 

【ハーバードクリムゾン翻訳企画】

ハーバードの新入生アンケート

【東大2019③】東大に入ってもモテるとは限らない

$
0
0

 本郷では、進路指導の一環なのか、キャンパス訪問中の中高生をよく見かける。記者も高校生の時、本郷キャンパスを訪れたことがあり、その時見た光景は今でも忘れられない。頭の良さそうな大学生が、キャンパスを闊歩(かっぽ)し、安田講堂前の草原で談笑している……。キラキラ感と希望にあふれて見え、うらやましく思ったものだ。

 だが、自分が実際に大学生側の立場に立つと、実は高校生から見ている印象とは全く違い、東大生たちは苦悩し、憂え、もだえていることが分かる。特に、卒業を控えて学生気分のままではいられない後期学部生には顕著だ。その心境を赤裸々に語ってもらった。

 

 Aさん(法・4年)は東大に入学して4年間、恋人が一人もできていない。22年間、恋愛とは縁遠い人生を送ってきた。「高校生の時から『自分に彼女は無理だ』と諦めていました」とAさん。「だけど、いざ大学卒業も近くなり『自分は一生独身かもしれない』という事実が現実味を帯びてくると、泣きたくなります」

 

 180㎝を超す身長に、眼鏡の奥のつぶらな瞳。性格も温厚なAさん。恋人ができないようには見えないが、何が問題なのだろう。

 

 「出会いを求めてこなかったこれまでの消極的な学生生活が悪いんです」。東大は男子学生の割合が8割と、女子学生の割合が少ない。男子学生にとっては、積極的に交流の場を見つけていかないと、異性と話す機会が乏しくなりがちというのが現実だ。

 

 Aさんは武道系の部活と、出版系のサークルに所属しているが、共に女子部員は多くなく、交際に発展した出会いはなかった。もし、もう一度大学入学時からやり直せるとしたら「サークル選びで、もっと異性と交流する機会を積極的に確保しますね。今の状態は悔やんでも悔み切れません」。

***

 この記事は、2018年8月に東京大学新聞社が発行した書籍『東大2019 東大オモテウラ』からの転載です。書籍ではこの他にも、さまざまな後期学部生の悩みを紹介しています。

 『東大2019 東大オモテウラ』は現役東大生による、受験必勝法から合格体験記、入学後の学生生活のアドバイス、後期学部への進学、そして卒業後の進路に至るまで解説したガイドブック。東大受験を考えている高校生や中学生の皆さんにお薦めです。

【2018年7月アクセスランキング】推薦生でも進学先を変えられる?

$
0
0
東大卒インスタグラマーの山田茜さんの作品(左)、東大の新歓についてのアンケート結果(右上)、東大生の就職先上位一覧

 

 東大新聞オンラインで7月に公開した記事の7月中のアクセスランキングを調べたところ、1位は推薦生1期生77人のうち6人が進学先を変更したことについての記事だった。入学時点で進学予定先が決まっている推薦生だが、学部長の許可を得れば進学予定を撤回し進学選択へ参加できるとの全学的方針が存在する。一方で実際の対応は各学部の判断に委ねられている実態も判明した。「進学先撤回は例外的な措置」との方針は当面変更されないようだ。

 

 2位の記事では東大における学生結婚を取り上げた。東大教員など4組の学生結婚した夫婦にインタビュー。収入源の見通しが立ってから結婚したカップルが多かった。学生結婚のメリットには子育てや家事などに社会人より時間の融通が利く学生の方が多く時間を割けるという意見が挙げられた一方、デメリットは「特にない」との声が大半を占めた。

 

 3位の記事は新入生の47%が不快な思いをしたという新歓活動の実態について、アンケート調査を基に考察。一部では過度に執拗(しつよう)であったり、個人情報の保護ができていなかったりするなど問題のある新歓活動が行われていた。さらに新歓をやっている上級生側も、サークル内の圧力などで悩んでいることが分かった。

 

 4位は教員のノートパソコンが盗難被害に遭ったことにより、東大生と東大教員、計391人分の個人情報が紛失した事件についてのニュース。過去にも同様の事件が起きており、大学の個人情報保護の姿勢が問われる。

 

 5位と6位には2017年度の就職状況やその分析に関する記事が並び、東大生の就職への関心の高さがうかがえた。就職先ランキングを扱った5位の記事では、銀行に就職する東大生も依然として多いが、外資系コンサルが以前より多くの東大生を採用していることが明らかになった。学部や学科ごとに就職先を見た6位の記事では、学部ごとに就職先が多様であることが分かる。

 

 7位の記事は女性研究者が働く環境としての東大に関する連載の前編。海外の大学に比べ女性研究者が少なく、依然として女性が働きにくい東大の現状を、2人の女性教員に取材した。女子大学院生がセクハラやパワハラを受けるなどしている現状の深刻さに対し、研究者の大多数を占める男性は危機感を覚えていない。女性の数が増えることが環境改善への一番の近道というのが両者の意見だ。

 

 8位と10位の記事ではインスタグラムと東大生について扱った。10位の連載の第1回目では、現役東大生はおしゃれなものだけではなくさまざまな写真を多様な目的で投稿していることが明らかに。8位にランクインした第2回の記事では東大卒インスタグラマー山田茜さんにインタビュー。写真だけではなく文章にもこだわるなど独自に編み出したインスタの活用法について語ってもらった。

 

【2018年7月アクセスランキング】

推薦1期生の進学選択 6人が進学先変更 学部間で対応に差異 

4組の東大カップルと考える 「学生結婚」はいかが?

新入生の47%が「不快な思い」 東大生に聞いた新歓活動の裏側

東大生と東大教員、計391人分の個人情報紛失 教員のノートパソコンが盗難被害に

2017年度就職状況 外資系コンサル躍進 三大銀行は上位堅持

東京大学 2017年度 学部・大学院別就職先分析

東大における女性研究者の現状(前編) 働きにくい職場 変革は必須 

【インスタブームに迫る②】写真だけでなく言葉にもこだわりを 東大卒インスタグラマーが語るインスタの攻略法 

進学選択志望集計 文Ⅰ→法が過去最低に 経は53人減で平年並み

10 【インスタブームに迫る①】東大生に聞いたインスタの使い方

※当該期間に公開した記事のみを集計

 

過去のランキング

【2018年6月アクセスランキング】世界大学ランキングに関心

【2018年5月アクセスランキング】「推薦の素顔」に関心

【2018年4月アクセスランキング】連載「蹴られる東大」が人気

【2018年3月アクセスランキング】3/10実施の合格発表に高い関心

【2018年2月アクセスランキング】入試関連記事に関心

【2018年1月アクセスランキング】近藤選手の箱根欠場に注目

【2017年アクセスランキング】まつりさんの記事が今年の年間1位に

【2017年12月アクセスランキング】東大生のSNS事情に高い関心

【2017年11月アクセスランキング】東大生の「銀行志向」に関心

【2017年10月アクセスランキング】「ボカロ」関連の記事が人気

【2017年9月アクセスランキング】哲学者の勉強論に高い関心

【2017年8月アクセスランキング】「駒場図書館冷房停止」が1位

【2017年7月アクセスランキング】宮台教授のメッセージに注目

【2017年6月アクセスランキング】「N高」に注目 論文不正問題に依然高い関心

 

【知のRecipe】 ふんわり卵に絶妙アレンジ

$
0
0

 夏休みをいかがお過ごしだろうか。遊びも勉強もいいが、おいしい自由研究に挑戦してみては? 東大卒の食文化研究家、スギアカツキさんに、具材などを実験できるレシピを聞いた。

 

 

 

 あなたの好きなオープンオムレツを作りなさい。

 

 こんな問題が、東大入試に出たらどうでしょうか?料理の段取りはプログラミングと同じと言われるように、料理はさまざまな実践力が生かされる場とも言えます。

 

 最高のオムレツを作るためには、どんな材料、どんな焼き方をするのがベストなのか。正解は一つではありませんから、自分の味覚を大事にして、フライパンと向き合う時間をつくってみてください。しっとり仕上げるためにマヨネーズを加えるなど、調べて獲得できるアイデアはもちろん、常識にとらわれない革新的な発想も欲しいところ。なぜなら、未来に最も必要なのは、好奇心と発想力、そして実行力なのだから。

 

【作り方】

(1)卵を割りほぐし、用意した具を加えて混ぜ合わせる。

 

(2)しっかり熱したフライパンに油を薄く引き、卵液を流し込む。

 

(3)火力を弱火に落とし、ふたをして5分じっくり焼く。焼き方も研究してアレンジすること。

 

(4)火を止めて、数分間蒸らす。お好みの器に盛れば完成。

 

◇記者が挑戦

 

 具はさばみそ煮缶詰の代わりにたくあんを使用した。駄目元だったが、マヨネーズを混ぜてふんわりした卵とたくあんの塩辛さがマッチしていた。焼き具合は、裏に焦げ色を付け表は黄色の光沢を残すと、卵の柔らかさが楽しめた。

 

 このように、このレシピは意外な発見に満ちている。枝豆や果物、納豆を入れても面白いという。焼き方も、時間をもっと短くしたり、逆に両面しっかり焼いてみたりと、研究のしがいがありそうだ。(長廣美乃)


この記事は、2018年8月28日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:「利用しにくい」94% 駒場食堂 昼休みの混雑緩和が急務
ニュース:武蔵大に逆転勝利 ラクロス男子 明大戦は引き分け
ニュース:七大戦 単独3位に躍進 2種目優勝で巻き返し
ニュース:伊理名誉教授 85歳で死去
ニュース:医・戸田教授ら パーキンソン病の治療薬候補同定
ニュース:二人羽織ロボを開発 遠隔操作で共同作業可能に
企画:東大は休講しにくい? 授業日程考え厳しい基準
企画:宿題に追われるあなたへ 学習効果の理想と現実
推薦の素顔:川瀬翔子さん(理Ⅱ・1年→農学部)
東大新聞アクセスランキング:2018年7月
教員の振り返る東大生活:中村雄祐教授(人文社会系研究科)
東大今昔物語:1984年9月4日発行号より スキー山岳部ヒマラヤの未踏峰制覇
知のレシピ:オープンオムレツ
キャンパスガール:前田歩さん(理学系・博士1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【推薦の素顔】村山華子さん 地球外生命体を求めて

$
0
0

 2016年度から、多様な人材の獲得を目的として導入された「推薦入試」。ペーパーテストが主な評価対象となる一般入試とは異なり、小論文や面接などが課されており、毎年個性的な学生が推薦入試を利用して入学します。そんな彼らを一人一人取材するのが本連載「推薦の素顔」。東大に新たな風を吹き込む彼らに、あなたも触れてみませんか。

 

村山 華子(むらやま・はなこ)さん
(理Ⅱ・2年→理学部)

 

 教科書の内容にとらわれず「タイムマシン」などの話題を解説し、生徒の質問にも丁寧に答えてくれた中1の時の理科教師の影響で理科が好きになった。中でも村山さんは宇宙や地球外生命体に興味を持った。

 

 内部進学した高校では、高1の文化祭でいくつかの研究班に分かれて研究発表を行う。村山さんは幹細胞の研究班に所属して高1から研究を始めた。幹細胞の研究は、生命発生の根幹に関わるという点で、地球外生命体への興味につながるからだ。班では、万能細胞であるES細胞の複製や分化の能力を高めるための培養方法を研究した。

 

 本来研究は高1までにしか課されないが、未知の事象を明らかにすることの面白さや「続けたら何か発見できるかも」という期待で、高2まで研究を続行。思い通りの成果は出なかったが、高2の末の学内でのポスター発表では「研究者と深いレベルで議論できて刺激を受けた」と振り返る。その他にも英語の論文約30報を読んだり学会に出席したりと精力的に活動した。

 

 推薦を目指し始めたのは高3の初め。以前から東大志望だったが、推薦入試は研究した実績を生かせるため「チャンスを2倍に増やせる」と一般入試の勉強と並行して推薦への準備を進めた。両立にも「忙しさは一般入試の受験とあまり変わらなかったかな」と涼しげだ。

 

 将来の目標は地球外生命体の発見。「多くの人とチームを組んで一つの目標を達成できれば」と目を輝かせる。さらに「単なる研究者では終わりたくない」と言い、米国の大学の講義映像に字幕を付けるなど、言語の壁を超えて科学の楽しさを広める活動も視野に入れる。その原点は、高校時代友人に「なんで科学が楽しいの」と言われショックを受けたこと。友人を見返せる日は近いかもしれない。

 

(取材・撮影 児玉祐基)


東大の休講条件、厳し過ぎる? 東大の休講制度の歴史と背景

$
0
0

 9月は例年、台風のシーズン。気象庁の発表によると、2017年までの10年間の平均で、日本付近の台風発生数が最も多いのは9月だった。通常9月下旬から東大のAセメスターも始まるため、登下校の際、交通機関の乱れに苦労した経験がある学生も多いだろう。

 

 だが、それらの台風や、冬の大雪などで、東大の講義が休講となることはまれだ。台風当日の朝には「こんな日でも講義があるのか」と悲鳴に近い声がSNS上に書きこまれ「東大は休講条件が厳しすぎる」という声もしばしば耳にする。

 

 では、本当に東大の休講条件は厳しすぎるのだろうか。制度の背景にある事情を取材した。

(取材・福岡龍一郎、曽木悠美)

 

東京大空襲翌日も、いつもと変わらず講義

 

 これまでの歴史を振り返ると、休講にまつわる東大のエピソードは事欠かない。ノーベル賞を獲得した物理学者・江崎玲於奈氏は東大130周年を記念した講演で、戦時中の東大での学生時代を以下のように回顧している。

 

「大空襲の翌日、田中務教授は、いつもと変わらず25番教室で『物理学実験第一』の講義をなさいました。戦争の話もされずに、いつもどおりやられたことに『東京帝国大学アカデミズムの存在感だ』と感じた記憶があります」(https://www.u-tokyo.ac.jp/130ut/event/03_07html

 

戦時中、特に東京大空襲の翌日でも、東大の一部の講義は休講になることなく、通常通り実施されていた。

 

 1975年には、公労協(公共企業体等労働組合協議会)のストライキにより国鉄(現JRグループ)の全路線が8日間、運行を休止。その際、東大の前期教養学部や文系学部はほとんど休講となったが、工学部・農学部・理学部の講義は平常通り行われた。当時の東京大学新聞はキャンパスの様子をこう伝えている。「とはいえ、ふだんは、国電で通っている人にとってはどうにも登校しようがないので出席率は四割程度。『授業は欠席しても独学で何とか追いつけるが、実験ばかりは出席しておかないと後日のノルマがふえてしまう。国鉄全面ストなのに平常通り授業・実験を行うなんて、おかしい』と工学部・農学部生のぼやくことしきり」(編集注・一部表現を修正した)。

 

 

 時代背景や大学を取り巻く環境は異なるが「東大の講義はなかなか休講にならない」という傾向は脈々と存在してきたのかもしれない。

 

大学職員も認める「厳しい基準」

 

 それでは、今日の休講制度はどうなっているのだろう。現在、東大では、台風や大雪・交通機関の乱れなどで休講にする判断・基準は各学部に委ねられている。そのため学部により休講制度が異なるが、前期教養学部や法学部、農学部など複数の学部が採用している休講条件に「首都圏においてJR電車が全面的に運転を休止し、かつその他大手私鉄のいずれか1社もその運転を全面的に休止している場合、授業をそれぞれ休講とする。ただし、状況に応じて特別な措置を取る場合もある」という内容のものがある(表)。

 

 

 法学部によると、1987年度ごろの便覧には既にこの休講条件が掲載されており、30年以上前から存在し続けた制度であると推測できるという。ただ、これまで30年間の電車の運行状況や鉄道事故の記録を調べても、首都圏におけるJR電車と私鉄1社が全面的に運行休止となったのは、2011年の東日本大震災直後の電車の不通状態の1件のみで、台風や大雪による運行休止で休講条件が適用され得るケース件もなかった。それ以前にさかのぼると、1985年には国電同時多発ゲリラ事件で首都圏における国鉄の路線がまひ状態となったが、私鉄は通常通り運行していたため、休講条件にはあてはまらない。

 

 教養学部の担当者も「これは厳しい基準であり、この基準が適用されることはあまりないということは承知している」と話す。休講によるその後の補講や授業スケジュールへの影響は多大なものであり「東大は学生数も教員数もとりわけ多く、簡単に休講にできない」。そのため、大方の学生が授業を欠席せざるを得ないような交通状態を想定した、厳しい基準を設定しているようだ。

 

 ただし、実際には、休講条件の後項にあたる「状況に応じた特別な措置」で各学部は対応している。直近で取られた休講措置には、法学部が2017年10月23日に1限を休講、前期教養学部が2013年10月16日に1限を休講した例がある。どちらも台風によるものであったが、農学部はどちらの台風の際も通常通り授業を実施しており、学部間で対応に差が生じていた。

 

災害と授業が重なったら「自分自身で判断を」

 災害時の情報伝達について研究する関谷直也准教授(情報学環総合防災情報研究センター)に災害時などにおける大学の休講制度について話を聞いた。

 

関谷直也(せきや・なおや)准教授 (情報学環総合防災情報研究センター)

 

 「私自身も自分の講義について、東大でも、非常勤先の大学でも休講措置について悩むことがあります。休講にしたら原則、補講をしなければなりません。また試験間際だと、代替措置も困難です。長期休暇、入学試験など事前にある程度決まっている大学日程は簡単には変更できず、例えば台風の可能性があるというだけでは、全面休講の決定はできません。学生の安全確保と、授業スケジュールの兼ね合いは悩ましい問題です」

 「しかし、大学生なら、たとえ講義が行われていたとしても、大雨特別警報や暴風警報の発表時に、外出をすることが適切かを自分自身で判断するべきです」

 「台風や前線豪雨では、気象庁が発表する気象情報、国土交通省などから出る河川情報、市町村からの避難に関する情報に注意を払ってください。また、台風でまず気をつけるべきは、暴風による飛来物・落下物と転倒です。暴風警報に注意を払う必要があります。災害の多い日本で生きている以上、それらの情報に注意し、自分自身で判断することが重要です。その上で、将来、災害が発生したときに家族や組織の人を守るため何をすべきか判断できるよう、今から考える習慣をつけて下さい」

 

関谷直也(せきや・なおや)准教授

(情報学環総合防災情報研究センター)

1998年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。2004年に人文社会系研究科博士課程単位取得退学。修士(社会情報学)。東洋大学社会学部准教授などを経て、2014年より同センター特任准教授、2018年より現職。

 


この記事は、2018年8月28日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:「利用しにくい」94% 駒場食堂 昼休みの混雑緩和が急務
ニュース:武蔵大に逆転勝利 ラクロス男子 明大戦は引き分け
ニュース:七大戦 単独3位に躍進 2種目優勝で巻き返し
ニュース:伊理名誉教授 85歳で死去
ニュース:医・戸田教授ら パーキンソン病の治療薬候補同定
ニュース:二人羽織ロボを開発 遠隔操作で共同作業可能に
企画:東大は休講しにくい? 授業日程考え厳しい基準
企画:宿題に追われるあなたへ 学習効果の理想と現実
推薦の素顔:川瀬翔子さん(理Ⅱ・1年→農学部)
東大新聞アクセスランキング:2018年7月
教員の振り返る東大生活:中村雄祐教授(人文社会系研究科)
東大今昔物語:1984年9月4日発行号より スキー山岳部ヒマラヤの未踏峰制覇
知のレシピ:オープンオムレツ
キャンパスガール:前田歩さん(理学系・博士1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

宿題に追われるあなたへ 学習効果の理想と現実

$
0
0

 9月に入り早くも10日が過ぎた。ほんの少し前まで、夏休み中遊びにふけっていた小中高生たちはたまった宿題に頭を悩ませ、必死に鉛筆を走らせていただろう。それにしても、宿題の有用性とは何なのか、疑問に思う人も多いのでは。そこで、教育現場に携わる研究者2人に取材し、その真相を語ってもらった。また、東大生たちがかつて宿題にどう取り組んでいたのかを探るべく、東大生のみを対象としたアンケート調査も実施した。(取材・村松光太朗)

 

知識が「問い」の質高める

 

 一般に学習の形態は2種類ある。漢字・計算ドリルなどの覚える対象が明確な習得型と、自由研究などの学習者自身が「問い」を立てて解決する探究型だ。宿題に関しては、どちらのタイプにも問題点がある。

 

 習得型の問題点は二つ。一つ目は、次期学習指導要領(下図)で求められている「深い学び」が達成されていないことだ。定理や知識を運用して問題が解けるだけで、その意味や背景的知識のような本質まで理解できていない子どもたちが多い。「公式を覚えていても、なぜその公式になるのかが理解できていない子どもは少なくありません」と、教育実践や学習支援を研究する植阪友理助教(教育学研究科)は語る。

 

次期学習指導要領の概要(文部科学省教育課程部会総則・評価 特別部会「学習指導要領改訂の方向性(案)」を基に東京大学新聞社が作成)

 

 現状の習得型の宿題は反復的な書き取りや計算が多く、子どもたちの多くは「結局この問題が解ければいいのか」と本質的な理解を得ることなく進んでしまう。「より『深い学び』につながる宿題が必要でしょう」と語るのは、宿題を研究する太田絵梨子さん(教育学研究科・博士3年)。「例えば漢字もへんやつくりを意識して学ばせる、数学の定理や公式も導出背景や応用法まで理解させる、など工夫ができます」

 

 習得型の二つ目の問題点は、やった量ばかりに主眼が置かれること。確かに量をこなす力も大切だが、空欄を埋めるのが目的となったら本末転倒であり、繰り返した分だけ同じミスをするのもまた意味がない。

 

 重要なのは、社会に出ても通用する「良い学び方」の習得。太田さんは例として「間違えたらどこでつまずいたのかをきちんと分析する姿勢」を挙げた。この分析で理解が深まり、「深い学び」にも直結する。

 

 一方探究型の問題点は、具体的な方法論や何が期待されているかに関し教員からほとんど指導がないことだ。探究型学習の要点は、身近な物や興味のあることについて「問い」を立て検証すること。しかし現状の指導環境下では、子どもたちの多くは「問い」の立て方が分からない、あるいは「問い」を立てるという発想自体を持てないのだ。

 

 「解決策の一つは、優れた探究型学習のモデルを子どもたちに見せることです」と植阪助教。良いモデルは子どもたちにとって探究の指針となるからだ。また単に見せるだけでなく、その作品のどこが良いのかという評価基準を明示することも重要だ。問いの着眼点や実験方法が良いなど具体的に示さないと、子どもたちは「字をきれいに書くと良い」など違うポイントを見てしまう恐れがある。

 教科学習の性質上、授業は習得型に偏りがちだ。ただし習得型がうまく機能すると、知識はより多く深くなり、授業の中で生まれる疑問、すなわち「問い」の水準は高くなる。そこで探究型学習を実践すれば、習得型の「深い学び」へとつながる好循環を生む。

 

 このように、習得型と探究型は互いに不可欠だ。習得型の宿題で「深い学び」と「良い学び方」を推進し、探究型でも優れたモデルで指針を示す。こうすれば、大学以降の卒業論文や修士論文にも必要な高度な知識の習得と探究につながるだろう。

 

植阪 友理(うえさか・ゆり)助教(教育学研究科)
太田 絵梨子(おおた・えりこ)さん(教育学研究科・博士3年)

 

読書感想文に懐疑的?

 

 東京大学新聞社は7月23日~8月3日にかけて、東大生を対象に小中高時代の普段の宿題と長期休暇の宿題に関するアンケートを実施し、100人から回答を得た。

 

●役に立ったかの判定方法

 一般的な宿題を列挙し、それぞれについて「役に立った」「どちらともいえない」「役に立たなかった」の3段階で評価してもらった。各宿題について(役に立ったと答えた人数)-(役に立たなかったと答えた人数)を算出。この数値が正ならば値が大きいほど役に立った宿題、負ならば絶対値が大きいほど役に立たなかった宿題と考える。

 

 

●役に立った・立たなかった宿題

 小学校で最も高かったのは「自由研究」で+25、次いで「漢字ドリル」の+20、「計算ドリル」の+14だった。中高については「学校指定の副教材・問題集」が最高の+39で、「先生自作のプリント」が+36と続いた(表1)。

 

 一方、小学校で最も低かったのは「読書感想文」と「日記・絵日記」が同率で-23。中高でも「読書感想文」が-14で最低。読書感想文に対しては、「苦痛」「思ってもいないことを書くだけなので意味がないのでは」など否定的な意見が寄せられた。

 

 

 なお役に立ったという宿題については、どのような点で役に立ったのかを挙げてもらった(複数回答可)。小学校は「自ら調べる能力の向上」が最多の36人、次いで「知的好奇心の向上」が35人、「受験に役立つ知識の定着」が30人。一方、中高では「受験に役立つ知識の定着」が70人で最多だった(表2)。小学校が探求寄りであるのに対し、中高では習得型に寄っている。

 

 

●宿題に対する取り組み方

 小中高時代の宿題についての取り組み方を「真面目に取り組んでいた」、「少し手を抜いていた」、「かなり手を抜いていた」、「全くやっていなかった」の4段階で自己評価してもらったところ、「真面目に取り組んでいた」と答えたのは小中では共に59人、高校では48人となった。

 

 「真面目に取り組んでいた」人にその理由を聞いたところ、「役に立つと思ったから」は小学校で11人、中高では36人と変化している。

 

【日本というキャンパスで】劉妍④ 日中の学校生活の違いを見る

$
0
0

 2018年6月28日に、台東区立忍岡小学校の吉藤玲子校長のご厚意で、各学年の保護者49人を対象に校長と一緒に講演を行った。テーマは「多様性のなかの子育てー個性を伸ばす子育て」。この講演は台東区と忍岡小学校PTAが連携して実施する「家庭教育学級」という事業の一環で、保護者との意見交換や質疑応答も実施した。創立143周年の忍岡小学校は「グローバル化する国際社会を生き抜く子供」を育てるべく、「伝統・文化」や「国際理解」に関する教育に力を入れている。

 

吉藤校長と記者による講演会

 

 まず、吉藤校長が自らの子育て経験について話し、次に記者は留学生の視点から見る日本と中国の教育上の相違点を語った。記者にとって一番印象的なのは、中国では日本と異なり給食制度がほとんどないことだ。中国の場合、昼休みの時間は約2時間半ある。そのため、家に近い児童は帰宅し、他の児童は学校の近くで昼食と昼寝の場所を有料で提供する家庭などに通う。講演の日は校長のご招待に甘え、忍岡小学校で初めての給食を体験した。児童は給食を用意する過程で、奉仕精神やチーム力の重要性、いつも食事を用意してくれる両親のありがたさや、他人への感謝の気持ちが無意識に分かってくるのだろうと感じた。

 

 中国にももちろん共同活動はある。クラスでの掃除や運動会のリレーなどがその例だが、本格的に他者と共同で行動する仕組みは大学の寮生活だ。通常4~8人の同級生と一緒に生活する。2段ベッドという限られた空間に置かれ、他人のライフスタイルに合わせる必要がある寮生活。一人っ子で1人部屋で暮らしてきた記者にとって、慣れるまでかなり時間がかかった。4年間の共同生活は、生活習慣や価値観などが異なる仲間と送ってきた。円満な人間関係を構築するには、他人への適切な配慮や、柔軟な考えを持ち他人と相談する姿勢が必要だろう。

 

琴の稽古を児童たちと一緒に

 

 講演では、外国人と積極的に交流することの大切さも語った。積極的な交流を始めると、相手と流ちょうに交流できるよう、語学について常に語彙量・多分野の基礎知識の蓄積を意識するようになる。異文化交流の過程はまさに自らの語学学習効果の検証手段であり、語学に長期的に興味を持つことの原動力にもなるはずだ。他国の人と交流して初めて、自国・他国の善しあしが分かり、お互いのことについてもより知りたくなる。さらに、自国の情報をいかに他人に客観的に伝えるのかを念頭に入れるうち、思考力・判断力・表現力が自然に高まるだろう。同時に、物事への見方の変化・論理的な思考にも有益ではないか。

 

 講演では、保護者は子供の好きな事を観察し、得意なものを伸ばすための環境整備を行う必要があると考える。「十人十色」「好きこそものの上手なれ」とあるように、子供の興味のある分野に取り組む自発性を育むべきだと語った。

 

 今回の講演をきっかけに、保護者には異文化交流に関心を寄せてもらえばと思う。一方、記者も日中の教育上での相違点も意識する貴重な機会だった。

 

【関連記事】

【日本というキャンパスで】劉妍① 同じ琵琶でも中身は違う

【日本というキャンパスで】劉妍② 区の行政文書に留学生の視点

【日本というキャンパスで】劉妍③ 異文化の壁を乗り越えて

 


この記事は、2018年9月4日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:新連載:東大女子が入れないサークル① 3団体が参加拒否 伝統などを理由に

ニュース:学習記録自由に共有 安全・安価に活用可能

ニュース:駒場寮OBら 寮自治会の資料を還付請求

ニュース:七大戦 5位に転落

ニュース:宮台投手1軍で初登板 五回途中2失点で勝敗付かず

ニュース:小紙が協賛 「ROOTH2-3-3」がオープン

ニュース:東大女子が入れないサークルの実態は 他団体の活動・印象にも影響

企画:どうなる? 紙の未来 デジタル化の波 紙も進化

企画:駆除すべき? 外来種 三四郎池の生態系を考える

日本というキャンパスで:劉妍(農学生命科学・博士2年)④

研究室散歩@批判哲学:ブレガム・ダルグリーシュ准教授(総合文化研究科)

取材こぼれ話:ブレガム・ダルグリーシュ准教授

東大CINEMA:ペンギン・ハイウェイ

キャンパスガール:三村有希さん(文Ⅱ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【2018年8月アクセスランキング】教授の語る大学の選び方

$
0
0
インタビューに応じる鈴木教授(右)、東大出身でプロゲーマーとして活躍するときどさん(左上)、東大生YouTuberとして活躍するもっちゃん(左)と、クイズ番組で人気の水上さん

 

 東大新聞オンラインで8月に公開した記事の8月中のアクセスランキングを調べたところ、1位は連載企画「蹴られる東大」の公開取材イベントで行われた、公共政策大学院の鈴木寛教授へのインタビューの模様を伝える記事だった。「蹴られる東大」は、東大に合格しながらも海外のトップ大学に進学した学生に迫り、東大と海外大を中立的に比較した上で東大の在るべき姿を探る企画。大学の選び方について鈴木教授は、世界で通用する人脈を得たいなら海外大を選ぶべきだが、学力を身に付けるには年間約50万円という格安の授業料で世界トップクラスの教育を受けられる東大が良いと答えた。さらに、海外では莫大な費用がかかる米国式の教育体制が広がり、国内では高等教育への投資が縮小している状況で、一般的な家庭が支払える授業料で優れた教育を受けられるという東大の体制を守っていくことが重要だとも述べた。

 

 2位と7位には東京大学新聞社が発行した書籍『東大2019 東大オモテウラ』からの転載記事がランクイン。2位は、東大女子YouTuberとして活躍するもっちゃん(経・4年)とクイズ番組で大人気の水上颯さん(医・5年)の2人が参加した座談会の記事。東大内外で知名度の高い2人が受験生時代の経験や受験に対する考え方について気さくに話す様子が注目を浴びたようだ。7位には男子学生が約8割を占める東大で、異性との出会いが乏しく苦悩する男子学生の声を取り上げた記事が入った。

 

 3位は、2009年に工学部を卒業し翌年日本で2人目のプロゲーマーとしてデビューしたときどさんへのインタビュー記事。国際的な格闘ゲーム大会でときどさんが優勝したことを受け再掲した。大学院入試で挫折し修士課程を中退、就職も考えたが、最後は「理屈を超える情熱」でプロゲーマーの道を選んだときどさん。就活生に向けて「一度しかない人生、自分の信じた道を突き進んで」とエールを送った。

 

 4位は、東大大学院生が44個の太陽系外惑星を発見した記事。一度に発見された惑星の個数としては国内過去最多となる。明るい恒星が近くにあるため今後も継続して観測しやすく、地球型惑星の形成・進化を理解する一助となることが期待される。

 

 5位と6位はともにオープンキャンパス特集号から転載した「東大教員からのメッセージ」だった。鄭雄一教授(工学系研究科・医学系研究科)と河合祥一郎教授(総合文化研究科)が、東大入学を考える高校生に向けて自身の学生時代や東大の魅力について語った。2人とも、多分野から優秀な教員を集めているのが東大の魅力であり、高校と違って大学では自分から積極的に学んでいくべきだと語った。

 

 8位には連載「インスタブームに迫る」の第3弾として、著書『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』で現代のSNS動向を考察した天野彬さんのインタビュー記事が入った。9位はラクロス部男子(関東学生1部リーグ)がリーグ戦初戦で明治大学と引き分けたことを伝える寄稿記事、10位は進学選択で志望しない学部・学科に進学したが結果的には自らの進路に満足している教員や学生に取材した記事となった。

 

【2018年8月アクセスランキング】

1 【蹴られる東大⑨】東大は本当に「蹴られて」いるのか 鈴木寛教授インタビュー

【東大2019②】現役東大生のぶっちゃけウラ話〜受験編〜

東大卒プロゲーマー・ときどさんインタビュー 信じた道を進め

東大大学院生が太陽系の外にある惑星を、一度に国内最多となる44個発見

【東大教員からのメッセージ】鄭雄一教授インタビュー 工学でひもとく道徳の構造

【東大教員からのメッセージ】河合祥一郎教授インタビュー 現場から入ったシェイクスピアの研究

【東大2019③】東大に入ってもモテるとは限らない

【インスタブームに迫る③】なぜインスタはここまで人気? 『シェアしたがる心理』の天野彬さんインタビュー

ラクロス男子 開幕戦を引き分け 明大にわずか3得点

10 進学選択、終わり良ければすべて良し? 志望外の進学先に新たな希望

※当該期間に公開した記事のみを集計

 

過去のランキング

【2018年7月アクセスランキング】推薦生でも進学先を変えられる?

【2018年6月アクセスランキング】世界大学ランキングに関心

【2018年5月アクセスランキング】「推薦の素顔」に関心

【2018年4月アクセスランキング】連載「蹴られる東大」が人気

【2018年3月アクセスランキング】3/10実施の合格発表に高い関心

【2018年2月アクセスランキング】入試関連記事に関心

【2018年1月アクセスランキング】近藤選手の箱根欠場に注目

【2017年アクセスランキング】まつりさんの記事が今年の年間1位に

【2017年12月アクセスランキング】東大生のSNS事情に高い関心

【2017年11月アクセスランキング】東大生の「銀行志向」に関心

【2017年10月アクセスランキング】「ボカロ」関連の記事が人気

【2017年9月アクセスランキング】哲学者の勉強論に高い関心

私たちの声は、必ず届く〜Y20 サミット事務局、新メンバー募集〜

$
0
0

 突然ですが、読者の皆さんの中には、今年6月にこの写真をご覧になった方も多いことでしょう。

 

 

 

 カナダにて開催された、G7サミットの一幕。トランプ大統領率いるアメリカvsドイツ、日本、フランスなど他の参加国という、明確な対立構造を物語るこの写真は当時、Twitterなどで瞬く間に話題を呼びました。

 

 サミット終了後にトランプ大統領が提言を承認しないと発言し、カナダのトルドー首相に文句を言うなど、様々な面において話題が絶えなかったこのサミットの最終声明に、日本の大学生(含東大生)の提言がほぼそのまま引用されていることをご存知ですか?

 

 今回は、こうしたG7サミット・G20サミットの公式付属会議として存在する30歳以下ユースの部である、Y7サミット・Y20サミットについてご紹介します。

 

1.Y7/Y20サミットとは?

 G7サミットとG20サミット、二つの首脳会議はそれぞれ、Y7 サミットと Y20サミットという公式付属会議を持っています。このYは、YouthのY。18歳以上(基本的には大学1年生〜)から30歳以下までの若者代表が、G7・G20各国から集結し、G7・G20で実際に話し合われるトピックについて議論を実施します。サミットにおいて、世界の第一線で活躍している若者同士の相互理解を通じ、ユースの視点から現在の国際社会が抱える諸問題への解決策を提示することを目的として、開催国政府の主催又は後援のもと、毎年開催されています。

 

 

 参加する若者たちのバックグラウンドは、研究者や官僚、そして学生など様々。学生といっても、専攻は国際政治から環境学まで多岐に渡ります(東京大学からは、2016年以降3年連続で代表団が輩出されています)。こうした多種多様な人材が集結して多面的な議論を重ねた末、話し合った成果は共同宣言文としてまとめられ、G7 & G20首脳陣に対し提出する形式で政策提言を行います。そこで提出するだけで終わりではなく、その年の政府の関わり方によっては、ユースの提言は最終宣言にそのまま引用されます。

 

2.今年の会議の様子

 会議の様子を具体的にお伝えするため、冒頭のカナダでのG7に話題を戻しましょう。これまで説明した概要の通り、今年のY7サミットもG7サミット開催国のカナダ、その首都のオタワで、4月15日〜20日に開催されました。各国から4人ずつ代表団が集められ、日本からは東京大学に在籍する筆者のほか、東京医科歯科大学、ニューヨーク大学、プリンストン大学に在籍する学生でチームを組んで本番に臨みました。専攻は順番に法学部、医学部、環境学部、教養学部とバラバラ。このカラフルさもY7ならではの魅力です。

 

 

 今回のサミットでは、事前に代表団に「今までに前例のない高いレベルでカナダ政府が関わること」が伝えられていました。それもそのはず、現在カナダの首相を務めるトルドー氏は、女性の社会進出と、若者の政治参画に強く関心を抱く次世代のリーダー。今回のY7サミットの開催にも大きな支援を送り続けてくださっていました。

 

 

 会議が始まると、トルドー首相からのビデオレターに始まり、毎日会議場にやってくる閣僚のみなさんとの協議は大いに白熱。さらに最終日には、首脳付き外交官である「シェルパ」との直接討議の時間も90分設けられました。

 

 Y7代表団の若さゆえの知識不足を、ベテランの外交官・政治家の方々の知見で補いながら、「ジェンダー問題」「環境問題」「働き方の未来」の3分野について、大胆かつ現実的な提言を完成することができました。そしてその提言はカナダのシェルパによって持ち帰られ、トルドー首相のリーダーシップの末、冒頭に述べたようにほぼそのままの形で、G7最終宣言に引用されることとなったのです。

 

 

3.Y7/Y20の3つの魅力

 このY7、Y20サミットの魅力は、次の3点に集約されると考えています。

 

  1. 「伝わる」

…自己完結型のイベント(アイデアソン、講演会、模擬政策討議など)ではなく、Y7・Y20では最後、自分たちの声が世界の頂点にいるリーダーたちに届けられます。それに伴う「日本を背負う」あるいは「同世代の思いを背負う」という緊張感とやりがいは、他に代えようのないものです。

  1. 「学べる」

…若者の最大の強みは、しがらみに囚(とら)われない「大胆さ」ですが、若者の最大の弱みは、「経験や知識の不足」であることは間違いありません。Y7・Y20では、「大胆かつ現実的な」政策を目指し、若者の代表団による議論を重ねつつも、外交官や政治家などの有識者によるインプットで、正しく国際問題を把握する知識や視点を獲得することができます。

  1. 「出会える」

…代表団として参加して出会える他国代表団の仲間たちは、繰り返し述べているように多種多様なバックグラウンドを持っています。例えば経産官僚のエースとしてニューヨークとロンドンを行き来する気鋭のイギリス代表団長もいますし、大学院生として政治学を学びながら、議員の秘書としても、さらには作家としても活動するアメリカ代表もいます。彼らと和やかに語らい、あるいは白熱した議論をぶつけ合う中で学び取れる知見、そして生き様は、自分を省みる上で大きな刺激となります。

 

 

4.来年は日本開催!

 国際問題を主体的に考えたい、外交に本気で向き合いたい全ての東大生に強くお勧めしたいこのユースサミットですが、実は来年2019年に、Y20サミットが日本で開催されます。ご存知の方も多いと思いますが、2019年度のG20サミットが日本の大阪開催であるためです。

以下、会議の暫定的な予定です。

 

【Y20 Summit 2019 Japan】

開催期間:2019年5月28日~31日の4日間

開催場所:衆議院議員会館国際会議場

参加国:20の国と連合(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、EU)に加え、数カ国オブザーバーが参加予定

 

現在、このY20サミットを作り上げる事務局メンバーを募集中です。応募資格は、大学1年生以上で、国際問題に主体的に取り組む熱意のある方なら、どなたでも応募できます。

事務局を構成する団体のHPより、ぜひ応募フォームに記入してみてください。

 

私たちの声は、必ず届く。

世界を動かす原動力となるみなさんと出会えることを、楽しみにお待ちしております。

 

文責:法学部3年 松村謙太朗 (2018年Y7カナダ日本代表団長)

Viewing all 531 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>