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【著者に聞く】井上彰准教授 正しさ保証する「宇宙的平等」

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正義・平等・責任―平等主義的正義論の新たなる展開

井上彰著、岩波書店、税込み5184円

 

 

 我々は「平等」という言葉を聞くと、それが指すものをわきまえずに正しいと思いがちだ。しかし、そもそも「平等」とは何か。井上彰准教授(総合文化研究科)が長年抱いてきたこの問題意識が、本書『正義・平等・責任―平等主義的正義論の新たなる展開』(岩波書店)に結実した。

 

井上彰(いのうえ・あきら)准教授(総合文化研究科)
2005年総合文化研究科博士課程修了。2006年オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。Ph.D.(Philosophy)。立命館大学准教授などを経て、2017年より現職。

 

 本書は題名の通り「平等」を「正義」と「責任」という二つの概念と共に捉えるものだが、従来からこれら三つの概念は不可分なものとして扱われてきたと井上准教授は述べる。例えば「正義」とは、ギャンブルで失敗した人が他の人よりも貧しくなるといった、当人に「責任」のある不平等は容認する一方、生まれつきの障害など個人にはどうすることもできない運の影響を極力排除する形で「平等」を目指すことだと考える人がいる。だがこの考え方は「責任」という概念の、実際には帰属先やその有無を単純には捉えられないという複雑な側面を無視し、不当な格差を広げるという「正義」本来の目的に反する結果を生み出してしまう。

 

 このアポリア(難問)の解決にあたり、井上准教授は本書において三つの概念を次のように関係付ける。「責任」は個人が充全に与えられた情報を基に合理的に判断する能力を有する限りにおいて問われる。「正義」とは「責任」の度合いで不平等を認めるか否かを判断するものであるが、皆が受け入れるべき人間社会の一般的な事実によって形成される世俗的な価値だ。対して「平等」は俗世間を超越した、人間の価値観に左右されない宇宙的な価値であり、人間が滅んでも存在し続ける。この宇宙的価値こそが、我々に「平等」を正しいものだと思わせる理由なのだと井上准教授は主張する。不平等は「責任」が問われる状況が明確化されることで適切に是正されるが、それでも是正されない不当な格差は最終的に宇宙的価値としての「平等」を通じて否定される。こうして平等論が持つアポリアは克服されるのだ。

 

 だが本書が「平等」を我々が滅びても存続する価値とすることに対しては、書評や学会で多くの批判が寄せられたと井上准教授は言う。特に、価値付ける主体なしに価値は存在しないのではという批判を多く受けた、と。だが井上准教授いわく「価値はあくまで我々のための価値である、という考えは傲慢(ごうまん)だ」。人間にとって善いものは善いという考えが環境破壊を促進したという反省の下、近年では地球それ自体に価値があるのだとする思想が脚光を浴びていることから分かるように「我々は人間中心主義的な倫理観を見直さねばならない」。

 

 

 本書の議論は現実問題を論ずるにあたっても参照されるべきだろう。例えば、近頃世間で話題の医学部入試における男女差別の問題。男女差別的な入試基準に関する充全な情報を与えられていない女子受験生には、不合格の「責任」はないと見て良いだろう。また、男女の学習能力に有意な差があることは、科学的に裏付けられていない。以上を踏まえると、女子受験生が被っている不当な格差は、宇宙的価値としての「平等」からの要請により是正されねばならない。

 

 この議論に関しては、私立大学は国立大学と異なり、独自の選考基準で学生を選んでも良いのではという意見も見られる。しかし「正義」が人間社会の一般的な事実に依拠することを忘れてはならない。学生を恣意(しい)的に選ぶことは、大学は人々に開かれている学問の場であるが故に公的な助成金を得ている、ということに抵触する。よって、その事実に基づくかたちでの人々の期待形成に反する恣意的な選考は「正義」に反するのだ。大学とはそうした公共性をもつ教育の場であり、寄付金を理由に合格させる「レガシー入学」のように資本主義の論理に飲まれてはならないと井上准教授は考える。

 

 現代社会には、医学部入試の問題や生活保護受給者に対するバッシングを引き起こす「自己責任論」など、「責任」や「平等」の概念が厳密に捉えられてこなかったが故に浮上する問題が多く見られる。そうした問題に直面した際、「責任とは何か」「平等とは何か」という根本的な問題に立ち返ることの重要性を、本書は我々に向けて強く示しているのだ。(円光門)

 「著者に聞く」では、本の著者に取材して執筆の背景や著作に込めた思いを掘り下げます。


この記事は、2019年1月29日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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【日本というキャンパスで⑦】日常生活にあふれる日中の違い

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 記者が東大に入学して4年が過ぎた。主に学校生活・食生活・社会面から日本での生活を振り返る。

 

 記者は日本に来る前に、日本語を母語としない人向けの日本語能力試験の最上級であるN1を取り自信満々だったが、最初のゼミに参加した時に衝撃を受けた。日本語の一般的な文章を読める能力から専門用語のあふれる学術的な文章を自然に書ける水準に至るまでの巨大な格差を認識し、その隔たりを埋めるため、文章の論理性向上に努める日々だった。

 

 ゼミでの議論を通して、自分と異なる意見を受け止める寛大な心も持てるようになった。自分の意見に反論が存在するのは、確固たる根拠がなかったり、分かりやすさにもう一工夫が必要だったりするのではないかなど、反省する習慣が付いた。議論はあくまでもより客観的な結論に導く手段の一つだ。

 

 また、東京大学新聞社で発行される毎回の新聞は、各面各部分の担当者による合成力があってからこそ、でき上がったものだと実感した。チーム力の結晶という感動や自分の考え方をより多くの読者と分かち合える達成感が常に湧いている。加えて、2018年は東京大学中国茶同好会の駒場祭運営メンバーの一人として関わり、周りの日本人の仲間による中国茶の知識への追求精神に感銘を受けた。彼らのおかげで、中国茶は製造方法や発酵度合いで黒茶や黄茶、白茶など大きく6種類に分かれることを知ることができた。

 

18年駒場祭にて、中国茶同好会の代表である磯さん(右)との記念写真

 

 食生活に関しては、朝食の飲み物を例にとると、日本はみそ汁が中心で、中国は地域によって異なるものの、豆乳・スープ(チキンスープなど)・おかゆ(青物・かぼちゃ・あわ・ピータン豚肉)が中心だ。来日まで生魚は食べたことがなく、中国では煮込み魚が一般的だった。

 

 社会面では、正直日本に来る前は自分がうるさいという自覚は全くなく、明るい自分だと認識していた。日本で中国人の友達にたびたび注意されたのを契機に考えたところ「うるさい」と「明るい」の間にある明確な一線への認識が欠如していて、公共の場への意識が弱かったと感じた。一方で「堂々と話すべき」という中国の学校教育上の理念は話す声の大きさに一定の影響を及ぼしていると思う。堂々と話すことに慣れている記者は自らの話に夢中になった結果、音量へのコントロールを忘れてしまうのではないかと思う。

 

 「郷に入れば郷に従え」と指摘されても、慣れるまでかなりの過程が必要だ。隣国であるがゆえに、お互いの文化・風習に関する知識をより増やしておく必要があると考える。 


この記事は、2019年2月5日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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取材こぼれ話:児玉さんの学生時代
日本というキャンパスで:劉妍(農学生命科学・博士2年)⑦
キャンパスガール:坂本侑紀さん(理学系・修士1年)

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【受験生応援2019】現役東大生が語る!受験当日のメンタルトレーニング法・リラックス法

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 受験生の皆さん、勉強お疲れ様です。2次試験まで残り2週間に迫った今日は、現役東大生が受験生時代に実践していたメンタルトレーニング法・リラックス法を紹介します。

 

試験1週間前から〜前日

 

・散歩、よく寝る。

 

・勉強を途中でやめてでも睡眠時間は確保するようにした。

 

・暗記事項で抜けているものがないか精査する。「これで最低限ケアレスミスは防げるな」と思うと、気休めになった。

 

・不得意な分野を自覚しつつも、「もしかしたら試験で失敗するかもしれない」という心理状態に陥らないように、「一つ一つしっかりポイントを押さえれば本番でも大丈夫だ」と自分に言い聞かせた。学校の友人と雑談したり、1日の勉強を終えたところで自分へのご褒美のような気分で好きな音楽を聞いたりしてリラックスした。

 

・解けない問題は、他の人も解けないと開き直った。解説を読んで理解できれば十分だと思って勉強に取り組むべき。試験直前には、とにかく自分に都合よく物事を考えていくのが良いと思う。

 

・お風呂の湯船に、合格祈念の桜の香りのバブを入れて、よく眠れるようにしっかりと温まるようにしていた。前日は緊張で眠れないだろうと分かっていたので、少しでも落ち着いておこうと、夕飯・入浴あたりから受験のことを一切頭から追いやって、普段通りを意識した。

 

 睡眠時間を確保したり散歩や音楽、入浴といったさまざまな方法で気分転換を図ったりした人が多いようです。

 

試験直前にできること

 

・心を無にする。

 

・深呼吸をした。「もうできることは全てやった、試験官をうならせるような答案を書こう」と無理やり意気込んでいた。

 

・下手に参考書などを見るのをやめた。トイレに行ったり散歩をしたりした。

 

・メンタルトレーニングとしては、自分がノートにまとめたポイントや解法を確認することで安心感を作り出した一方で「もうここまで来たら仕方がないな」という諦めに近い悟りで心を落ち着けた。リラックスとしては、緊張で冷えた手を膝に当てて温めたり、チョコレートやお茶といった好きなものを口に入れたりしていた。

 

・今更不安になっても点数が上がるわけではないと自分に言い聞かせた。時間配分がうまくいった時の流れを思い出し、シミュレーションをした。少しでも頭がよく回転するように、脳の栄養のチョコレートを直前に食べたり、試験と試験の間にはとにかく明るくテンポの良い曲を聞いて、気持ちを明るくしたりしていた。

 

・開始時刻前の空白時間に瞑想をすることは、普段の勉強からお勧め。机のシミなどの一点をぼんやりと見つめて、ゆっくりと呼吸しながらその呼吸を数えていれば、雑念なく試験に臨める。

 

 試験前に気落ちしないよう明るくテンポの良い曲を聞いたり、深呼吸や自分に言い聞かせることで落ち着かせたりした人が多いようです。

 

試験中にできること

 

・詰まったら一回寝る。

 

・深呼吸をした。難しい問題が出た時は「俺が解けないんだから他のやつも解けない」と思い乗り切った。個人的には手汗をかきやすいので、膝の上にタオルを置いて適宜汗をぬぐって気休めをしていた。

 

・思考が行き詰まった時は、まず慌てず、「解ける問題から解いていこう」とか、「分かるところまで解答に起こそう」と気持ちを立て直していた。逆に、調子良く解ける時は、自分に余計な期待を持たず平常心を保ち、目の前の問題に集中することを意識していた。

 

・たまに顔を上げて、試験監督の顔や窓の外のように不審に思われない遠くの位置を見る。

 

・緊張してパニックになると、問題用紙に顔を近づけすぎて周りが見えなくなる傾向があったので、焦っていて前かがみになりすぎていたら、一度姿勢を戻して深呼吸するようにしていた。東大の試験は、大問の数が多く時間配分が大切なので、焦ったときは残りの時間と問題数を数えて、時間配分が上手くいくことを確認して、落ち着くことにしていた。

 

・煮詰まったときには大胆に問題を捨ててしまうことは意外と効果があると思う。中途半端にこだわって他の解ける問題を落とすのはもったいない。大胆に問題を捨てれば気持ちがリセットされ、他の問題に新しい気持ちで臨め、後から元の問題を解く時間を取れる可能性がある。

 

 緊張やパニックに陥ったら深呼吸をした人が多いようです。分からない部分が出てきたら一度飛ばしたり開き直ったりするのは効果的かもしれません。

 

 いかがだったでしょうか。これまでいくら知識を定着させていても、試験中に力を十分発揮できなかったら元も子もありません。試験中に100%の力を出せるよう、ぜひ実践してみてください!

学生に戻るという進み方 就職後の大学院進学

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 学部生にとって、就職して実社会に飛び出すのか大学院に進学するのかは重大な選択だ。しかし、教育を受けてから就職してそのまま定年まで働くだけが人生ではない。一度は民間企業に就職したが後に東大の大学院に入学した2人の学生に取材し、どのようにして進路を決めていったのかを聞いた。

(取材・上田朔、撮影・小田泰成)

 

科学と社会をつなぐ

 

五十嵐 美樹さん(学祭情報学府・修士1年)
 株式会社東芝、エルピクセル株式会社を経て、2018年現課程に入学。女子を対象に理科教育などを実践する個人・団体を表彰する日産財団「第1回リカジョ賞」準グランプリ。

 

 五十嵐美樹さんの一貫した目標は「科学と社会をつなぐ」こと。きっかけは中学校で行われた虹を作る実験だった。「科学が意外と身近なところにあることに感動しました」。上智大学では物理から機械工学まで幅広く学ぶ理工学部機能創造理工学科に入学。ものづくりを通じて科学技術を社会に役立てることに魅力を感じ、学部卒業後は(株)東芝に就職。エンジニアとして交通管制システムを管理した。

 

 この頃から五十嵐さんは小学生向けの科学実験教室を始める。「科学に触れる機会のない子供に科学の面白さを伝えることで、今までの学びを社会に還元しようと思いました」。しかし、科学実験教室を全国で続けるうちに「技術の知識はあっても、全国の科学館と交渉して実験教室を企画するためのビジネスの知識がない」ことに気付いた。

 

 入社した当初は「この会社で一生働く」つもりだった五十嵐さん。しかし、周りを見てみると「その時々の自分の興味に応じてキャリアは自由に変えていい」という人が多かったという。五十嵐さんはビジネスを学ぶため東大発ベンチャー企業エルピクセル(株)の経営企画部に転職した。「やりたいことは常に変わり続けるものだから、特定の職業に自分を縛らないようにしています」

 

 転職後も週末の実験教室は続き、活動が広がるにつれて実験教室と仕事の両立は難しくなっていった。エルピクセルに愛着が強く、退社前には大いに悩んだが「最後は自分の直感を信じて決断しました」と五十嵐さん。「頭で考えるよりも、直感で決めた方が後悔がない」と話す。

 

 独立後、科学を一般の人々に伝えるための方法論などを研究する「科学コミュニケーション」という学問領域に出会った。「自分の活動がまさに科学コミュニケーションだと気付いた時、実践だけでなく学術的にも学びたいと思いました」。現在五十嵐さんは実験教室の運営の傍ら学際情報学府の修士課程に在籍し、科学コミュニケーションを専攻している。

 

 科学コミュニケーションの研究は実験教室の企画にも変化をもたらした。「大学院に入るまでは実験教室を開いても、相手に科学の面白さが伝わったかどうか考えられていなかった」と振り返る五十嵐さん。「科学的な正しさに気を配りながらも、聞き手の関心をいかに引きつけるかを意識するようになりました」

 

 一方でビジネスの考え方が学術の世界では通用しないことに驚いたと話す。「学術では一歩一歩検証を積み重ねることが重視され、ビジネスのように目的に向かって一直線には進んでいかないことに最初はもどかしさを感じました」。学業と科学実験教室の企画実施を両立することも並大抵の苦労ではない。しかし「全て自分のやりたいことなので、今はとても幸せです」と語った。

 

 

自分の価値観明確に

 

辻 和洋さん(立教大学大学院経営学研究科博士課程1年)
 読売新聞社、産業能率大学総合研究所を経て学際情報学府修士課程に入学、2018年より現課程。オンラインメディア「スタディ通信」編集長、武蔵野大学グローバル学部非常勤講師も務める。

 

 辻和洋さんは読売新聞社に就職するも退職後、再び東大の修士課程に入学した異色の経歴の持ち主。現在は立教大学で博士課程に在籍する傍ら、ウェブメディア「スタディ通信」の編集長などを務める。

 

 学部卒業時から「物事を探究したい」気持ちが強く大学院進学を検討したが経済的事情がこれを阻んだ。「親にこれ以上迷惑をかけながら進学するのか」悩んだという。結局「いろいろな人に話を聞きながら社会の事実を探求する新聞記者の仕事は研究者に近い」と考え、新聞社に就職した。

 

 入社後は事件・事故、教育問題からスポーツ、経済、選挙まで幅広い記事を執筆。しかし、編集業務は多忙を極め「一つのことを深く掘り下げるような記事をあまり書けなかった」とこぼす。同時に、職場の人材育成法への問題意識も生じていた。「新聞社の職場では『できるやつは勝手に伸びる』という雰囲気があり、人材を育成する体系的な仕組みが導入されていませんでした」。辻さんは新聞社を退社し「迷ったらGo」の精神で、組織マネジメント・人材育成の歴史ある研究機関である産業能率大学総合研究所の職員に転職。「どうにかあの現場を救いたい」という実体験に基づく問題意識は辻さんの研究の原動力となった。

 

 産業能率大学総合研究所では経営学の知見を用いて企画立案された教材が、教育工学に基づいて編集される。「記者の経験のおかげで書く力はあっても、それ以外の専門性が自分にはない」と痛感した辻さんは東大大学院に進学。当時情報学環に所属していた中原淳教授(立教大学)の下で組織の人材育成に関する研究を始めた。

 

 職場の勤務時間は融通が利いたが、仕事と研究の両立は容易でない。仕事の優先順位を明確にし、外部から連絡が入りにくい朝の時間を活用して時間を捻出した。さらに、ビジネスと学術の考え方の違いにも戸惑ったという。最短の時間で成果を出すことが求められるビジネスと異なり、大学では「さまざまな研究者から批判を浴び、蛇行しながら時間をかけて洗練させていく」という考え方に頭を切り替える必要があった。

 

 一方、社会人の経験は決して無駄にはなっていない。「記者として多くの人に取材したことで、研究対象者に対する物おじがなくなったことは研究をする上で役立った」。さらに「締め切りまでに必ず成果を出すという、やり切る力が培われた」と辻さんは語る。

 

 現在の研究室は「研究について本気で話し、助け合える仲間のいる日本一の研究室」と満足度が高い。進路を決める上で重要なのは「自分の価値観」を明確化することだと話す。「現代は価値観が多様化した時代。企業で働き続けることに幸せを感じる人もいれば、私のように何かを探究することに幸せを感じる人もいる。自分の幸せの定義を決めることが大切」と語った。

 

2019年2月13日9:30【記事訂正】五十嵐さんの所属が「学際情報学部」となっていましたが、正しくは「学際情報学府」です。お詫びして訂正いたします。


この記事は、2019年2月5日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

インタビュー:「寄り道」が人生を豊かにする 東大卒・下着会社社長の履歴書 枡野恵也さん
ニュース:医学部附属病院で事故調査
ニュース:度會さんグランプリに ミス日本 髙橋さん「海の日」受賞
ニュース:がん誘発の難病、原因を特定 治療薬開発の期待高まる
ニュース:ヒトの向社会性 発達の仕組み解明
ニュース:アプリ開発 目が不自由でも服選び楽しめる
企画:知識と行動で「護身」を 理不尽な選考方法、どう対応
企画:紙上OB・OG訪問
企画:働き手不足を救え 地方圏で就職する魅力とは
企画:学生に戻るという進み方 就職後の大学院進学という選択肢
広告企画:就職を控える東大生へ レールから外れてみる勇気を
100行で名著:『大局観 自分と闘って負けない心』羽生善治著
取材こぼれ話:児玉さんの学生時代
日本というキャンパスで:劉妍(農学生命科学・博士2年)⑦
キャンパスガール:坂本侑紀さん(理学系・修士1年)

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【受験生応援2019】2次試験会場の注意点 〜理系編〜

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 東大の2次試験まであと5日。多くの受験生は追い込みを掛けていることでしょう。2次試験では、文系と理系とで会場が異なります。今回は理系の試験会場の注意点についてお伝えします。

 

※この記事は、2018年公開の東大新聞オンラインの記事に加筆修正を加えたものです。


 理系の2次試験は、赤門や安田講堂で有名な本郷キャンパスで行われます。本郷キャンパスの最寄り駅は東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線の本郷三丁目駅、東京メトロ南北線の東大前駅、東京メトロ千代田線の根津駅です。どの駅からもキャンパスまで10分から15分程度歩く必要があるので、必ず事前に乗る電車やキャンパスまでの道を確認しておきましょう。キャンパスには正門(最寄りは本郷三丁目駅や東大前駅)や龍岡門(本郷三丁目駅)、弥生門(根津駅)などさまざまな門があり、構内も端から端まで歩くのに10分かかるほど広いです。駅からキャンパスまでの道だけでなく、受験会場となる建物までも歩いて確認しておくと良いでしょう。

 

 受験当日は昼休みも長いので気分転換に散歩するつもりの受験生もいるかもしれませんが、あまり遠くまで歩き回らないことをお勧めします。キャンパスが広く、似たような建物が並んでいるので迷子になる可能性が高いです。外に出て気分転換する場合には分かりやすい道を選び、むやみに曲がったりせずに迷子にならないよう気をつけましょう。時間に余裕を持って会場に戻ることが大切です。

 

 構内には購買やコンビニもありますが、昼食は弁当を持参するか朝買っておくのが良いでしょう。昼休みに購入することも可能ですが、混んでいたり上記のように迷ったりすると時間的にも精神的にも余裕がなくなってしまいます。

 トイレは各建物にありますが、トイレの数や暖房の効き具合は建物によって差があります。以下、各建物の特徴を並べていきます(編集注:昨年度の情報のため今年度とは異なる可能性があります)。

 

法文系

 法文1号館、法文2号館などは正門から入ってすぐで分かりやすいかと思います。赤門を正門と勘違いしている方がたまにいらっしゃいますが、両者は別物なので注意しましょう。本郷三丁目駅から来る場合は赤門を過ぎた次の門、東大前駅から来る場合は、農正門を過ぎて道路を渡った後に見える次の大きな門です。東大前駅から歩いてすぐの農正門から入ると農学部しかないので気を付けましょう。迷い込んでしまう人はかなり多いです。

 

 法文1号館・2号館は大教室が多く、内部の廊下がくねくねと曲がっていて迷いやすいです。トイレなどに行く場合は時間に余裕を見て行きましょう。また、トイレは少ないので混雑する可能性があります。お薦め散歩コースは正門から安田講堂までのイチョウ並木です。イチョウはもう枯れていますが、迷うことがないので安心です。

 

工学部系

 工学部の建物は正門から入って左側にあります。根津駅で降りて弥生門から入ってもいいと思いますが、根津駅からの道は他の駅からの道よりも迷いやすいので必ず下見をしておきましょう。工学部1号館はかなり古い建物で、内田祥三さんによる設計である「内田ゴシック」と呼ばれる様式で建てられています。工学部2号館・3号館は比較的新しい建物で、ガラス張りの部分があります。工学部の建物は14号館まであるので入る際には何号館か確認しておきましょう。ちなみに、工学部2号館にはサブウェイ、11号館にはスターバックスコーヒーがあります。

 

理学部系

 理学部の建物は正門から入る場合は安田講堂の裏側、弥生門から入る場合は緩い坂を登ったあたりにあります。ただし、理学部2号館は赤門から入って右側にあります。他の建物からはかなり離れているので注意してください。机は広めであるため、比較的答案を書きやすいでしょう。

 

経済学部系

 経済学部の建物は赤門から入ってすぐ右にあります。本郷三丁目駅から来るのが良いと思います。昨年改修が完成した、新しい建物なのできれいで快適に過ごせるでしょう。

 

医学部系

 医学部の建物は赤門から入って右側にあります。本郷三丁目駅から来るのが良いでしょう。赤門の正面に見えるのが医学部2号館です。1号館・3号館はその正面の道を右に曲がったところにあります。

 

薬学部系

 薬学部の建物は赤門から入って右奥の方にあります。赤門の正面に見える医学部2号館の右側を通った先の右側に見えます。本郷三丁目駅から来るのが良いでしょう。

 

農学部系

 農学部の建物は本郷キャンパスの隣にある弥生キャンパスにあります。本郷キャンパスと陸橋でつながっていますが、農正門から入るのが一番分かりやすいです。そのため、東大前駅から来るのをお勧めします。農正門から入って右側が1号館、左側が2号館、正面が3号館です。1号館・2号館は蛍光灯が点滅していて薄暗い雰囲気ですが、トイレの案内が分かりやすく貼ってあるので迷うことはあまりないでしょう。ただ、トイレの個数が少ないので混むことがあるかもしれません。

 試験終了後には、受験生が駅に押し寄せるので、駅・電車内の混雑は覚悟しておきましょう。試験が終わった後に待たされるかもしれないので、1日目は2日目の試験科目の参考書を持ってきておくと待ち時間を有効に使えるでしょう。

 

 ここまでさまざまなことを書いてきましたが、実際のことは当日になってみないと分からないこともあります。ただ、事前にイメージしておくことが重要であり、想定外をできるだけ減らしておくと当日焦ることが少なくなります。下見をしておくとよいでしょう。良い気分転換にもなります。

 

 当日は想定と違ってもパニックにならないように。東大の受験生にはさまざまな人がいるので周りの人が気になって落ち着かない気分になることがあると思いますが、そういうときは一度深呼吸をして気持ちをリセットしましょう。また、真ん中の人が外に出るときは隣の人がいちいち席を立たなきゃいけないことが多いです。面倒ですが、それでいちいちストレスをためるのも良くありません。小さなことが気に掛かって集中が切れてしまうかもしれませんが、「全然集中できていない」と思えば思うほど焦ってきます。寛容な精神で試験に臨むと良いでしょう。

 

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【受験生応援2019】2次試験会場の注意点 〜文系編〜

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 東大の2次試験まであと5日。多くの受験生は追い込みを掛けていることでしょう。2次試験では、文系と理系で会場が異なります。今回は文系の試験会場の注意点についてお伝えします。

 

※この記事は、2018年公開の東大新聞オンラインの記事に加筆修正を加えたものです。


 文系の2次試験は駒場Ⅰキャンパスで行われます。京王井の頭線の駒場東大前駅東口(渋谷方面の改札です)を出てすぐに正門があり、入試当日の朝は正門の横に予備校関係者がずらりと並んでいます。電車は大変混み合うため、渋谷など駒場周辺に宿を取っている人はキャンパスまで歩くのも一つの手でしょう。その場合は、当日迷子にならないように一度実際に歩いてみましょう。

 

 駒場キャンパスの内部や周辺にはコンビニなどが少なく、売り切れてしまうことが予想されるため、昼食は朝のうちに買っておく方が良いと思います。

 トイレは各建物にありますが、トイレの数や暖房の効き具合は建物によって差があります。以下、各建物の特徴を並べていきます(昨年度の情報のため今年度とは異なる可能性があります)。

 

1号館

 正門から入って正面の建物です。比較的小さな教室が多いので大教室よりは落ち着く人がいるかもしれません。トイレは1階と2階に2カ所ずつあります。当日は案内があると思いますが、教室の数が多いのでよく確認しましょう。古い建物なので暖房の効きが悪い教室があります。逆に効き過ぎていて暑い場合もあるので、調節のできる服装にしておくといいでしょう。

 

5号館

 正門から入って左奥の7号館の奥にあります。少々分かりづらいところにありますが、比較的新しい建物です。トイレは各階に1カ所ずつありますが、1階のものが一番広いです。机と椅子がつながっていて少々不便で、机と机の間隔も狭くなっています。

 

7号館

 正門から入って左奥のピロティがある古い建物で、大きめの教室が多いです。トイレは各階男子トイレか女子トイレのどちらかしかないので注意しましょう。5号館と同じく机と椅子が繋がっていて、机と机の間隔が狭く、机は狭い上に傾いています。しかも椅子が硬く、背もたれが小さいので、背中が痛くなりやすいです。あまり良い環境ではないので、昼休みはストレッチをするなどして体を休ませましょう。

 

11号館

 1号館の左にある建物です。トイレは1階にしかなく、数も少ないので混雑する可能性があります。椅子が硬く冷たいです。

 

12号館

 正門前ロータリーを左の方へ行き、広場の横にあります。古くて小さい建物で、トイレは1階にしかありません。椅子が硬いです。

 

13号館

 12号館の向かい、広場の横にあります。トイレは1階と2階にあり、「これぞ大学」という感じのする大教室があります(中小教室もあります)。大教室だとリスニングが聞きづらかったり黒板の字が読みづらかったりします。音が小さい場合は遠慮なく試験官に申し出ましょう。

 

900番教室

 正門ロータリーを左に曲がって正面にある建物です。講堂なのでかなり広い教室で、トイレは1カ所しかありません。トイレが混んで大変なので、トイレにはタイミングを見計らっていきましょう。後ろの方の席だと音が反響してリスニングの音声が聞き取りづらい場合があります。

 試験終了後には、受験生が駅に押し寄せるので、駅・電車内の混雑は覚悟しておきましょう。混雑防止として受験する建物ごとに解散時間が異なり、長時間待たされる建物もあるので、1日目は2日目の試験科目の参考書を持ってきておくと待ち時間を有効に使えるでしょう。

 

 ここまでさまざまなことを書いてきましたが、実際のことは当日になってみないと分からないこともあります。ただ、事前にイメージしておくことが重要であり、想定外をできるだけ減らしておくと当日焦ることが少なくなります。下見をしておくとよいでしょう。良い気分転換にもなります。

 

 当日は想定と違ってもパニックにならないように。上に書いたように、机が狭かったり椅子が硬かったりして落ち着かない気分になることがあると思いますが、そういうときは一度深呼吸をして気持ちをリセットしましょう。また、真ん中の人が外に出るときは隣の人がいちいち席を立たなきゃいけないことが多いです。面倒ですが、それでいちいちストレスをためるのも良くありません。小さなことが気に掛かって集中が切れてしまうかもしれませんが、「全然集中できていない」と思えば思うほど焦ってきます。寛容な精神で試験に臨むと良いでしょう。

 

【受験生応援2019】

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身近な言葉の歴史を考える 「迷惑」と「文化」に潜む政治性

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 「人に迷惑をかけてはいけません」。「茶道は日本の文化です」。我々は日常生活の中で何気なくこのようなフレーズを口にする。だが、現代人になじみ深い言葉の用法は、明治以降政治的な意図によって形作られたものも多い。「迷惑」と「文化」という二つの言葉が持つ意味の変化と関連するさまざまな政治的要因について、近代日本を研究対象とする民俗学者の岩本通弥教授(総合文化研究科)に話を聞いた。

(取材・円光門)

 

私的な迷惑から公的な迷惑へ

 「迷惑」の由来は「道理に迷うこと」という仏典や外典(儒教・道教以外の教えを説く書物)の用語で万葉集や平家物語でも「戸惑う」「どうしてよいか分からない」という意味で使われていた。加えて室町時代には「苦悩する」「被害を受ける」など多くの意味を背負うようになる。現在でも多少意味の振れ幅はあるが、「迷惑」が主に公衆マナーを示す際に使われるようになったのは、いつからなのか。岩本教授いわく、決定的なのは日本が近代化を迎えた明治末年以降だ。

 

 戦前の道徳教育の科目である修身の教科書を見ていこう。1892年には「黒犬の迷わく」という小説が登場するが(図1)、悪友の行動が原因で黒という犬が殺されたという内容から分かる通り、ここで「迷惑」は単に「被害を受けること」という意味で使われている。1904年になると、道路で遊んだり塀や垣にいたずらをすることは「世間の人の迷惑となる」と記述されており(図2)、かなり現代的な用法に近づく。しかしここでいう「世間」とは、近所の顔見知りなどといった「社会」より狭い集団を指すので、公共空間での振る舞いとして「迷惑」は使われているわけではない。

 

図1:『修身稚話:知育徳育. 後編』(1892)より抜粋 画像は著作権の関係で掲載不可
図2:『尋常小学校修身書. 第2学年用』(1904)より

 

 それに対して11年に文部省(当時)が制定した「作法教授要項」には「街路の人に危険及迷惑を及さざるやうに十分注意を拂ふべし」といった「公共空間」への言及(図3)、13年には「訪問ハ急用ノ外成ルヘク早朝・夜分・食事ノ時其ノ他先方ノ迷惑トナルヘキ時ヲ避クヘシ」といった「公共時間」への言及(図4)が出現し、「迷惑」は公共の時空間における振る舞いのキーワードに。20年に文部省内で生活改善同盟会が設立されたことを機に、「迷惑」は公衆マナーを示す文言に頻出するようになる。

図3:『師範学校中学校小学校作法教授要項:文部省御調査』(1911)より
図4:『小学校作法教授要項』(1913)より
図2〜4の出典は国会図書館デジタルコレクション

 

 背景には、日本の産業構造の大きな変革とそれに伴う政治的な動きが見られると岩本教授は言う。第1次世界大戦後、大都市には従来の雇用形態とは質の異なる月給取りが大勢集まるようになった。その結果東京におけるサラリーマンの割合は、08年には5.6%だったのに対し、20年には21.4%に増加。それまで各村落の「風俗」を把握することで民衆を統治していた政府にも、新たな方法が求められるようになる。その結果生まれたのがlifeを邦訳した「生活」という新たな概念で、政府はサラリーマン家庭の家計などを計量的に調査することで「生活」の質を把握し、統制しようとしたのだ。統計調査に基づいた研究をもっぱら行う東京帝国大学経済学部(1919)の誕生などもその表れであるが、「生活改善運動」も同様の文脈から生まれる。こうして、通勤電車などで騒がないことや時間を厳守することなど、「公共空間」において他人に「迷惑」を掛けてはならないことが強調されるようになった。

 

 このように、元来多義的であった「迷惑」が現在使われているような意味に絞られていったことには、戦間期という激動の時代に社会を対応させんとする政治的意図が多分に含まれていた。似たような語義の変化は「文化」にも見られる。

 

発展の文化から固有の文化へ

 中国渡来の「文化」という語は元々「文によって化する」という武力によらない教化を意味し「文明開化」とほぼ同義だった。大正期になるとドイツから現在の人文科学に当たる「文化科学」という概念が日本に紹介され、芸術など人間の高度な精神的産物を指すKulturが「文化」と訳されるようになる。

 

 そこから派生して、「文化住宅」「文化鍋」といった接頭語としての「文化」が「ハイカラな」「西洋風の」という意味を持った。加えて歴史学などの学問分野では「人間の精神的産物」という定義が拡大され、やがて「文化」は「弥生文化」「東北文化」というように、ある時代や地方という境界線の中で人間が生み出した共通項を表す概念として接尾語的に使われるように。こうして「文化」は多義的な言葉となっていく。

 

 現代では「日本文化」のように接尾語的な用法が主だが、これはいつごろから定着したものなのか。国会図書館デジタルコレクションで「日本文化」と検索すると、書物のタイトルとして登場するのは20年代が初めてで、30年代には数が倍増している。また書物の中のキーワードとして登場することも10年代まではまれだったが、30年代から爆発的に増えている。一体、30年代に何があったのか。

 

 岩本教授によると「文化」の接尾語的用法を決定づけたもののうち一つが、37年に文部省が編さんした『国体の本義』だ。本書では、日本文化は古来より中国文化やインド文化などの外来文化を吸収し混交、止揚(異なるもの同士の衝突や矛盾を通じてそれらを高めること)していく文化であり、日本は他の文化を統合、指導する立場にあるのだと唱えられる。この文化論の背景には、京都学派の哲学者三木清が日中戦争を契機にして掲げた「東亜協同体論」が見られる。

 

 日本はそれまで琉球やアイヌ、台湾、朝鮮を、古い意味での「文化」、すなわち文明開化させる対象として同化させ、植民地化していったが、その時相対していた中国は強大で高度な文明を有するため、従来の手段では通用しないと三木は考えた。そこで三木は「文化」を各地域に固有の、ある種の本質を表す言葉として使い、日本と中国という互いの民族文化の違いを認めながら、それをさらに融合、指導できるとする新たな日本文化の建設をうたう議論に共振していった。

 

 さらに41年になると、この考えにのっとる形で大政翼賛会が「地方文化運動」を始め、日本には東北文化や九州文化といった地方文化がまず存在し、それらを統合する形で日本文化があるのだとした。このようにして「文化」という言葉の多義性も「迷惑」と同様、政治的な意図により狭められていき、現在の用法へと至ったのだ。

 日常的に使われる言葉の歴史性に目を向けることには、どのような意義があるのか。「歴史を『国や政府の歴史』として他人事と捉えるのではなく、今ここにいる自分たちに引き付けて考えることが民俗学の基本です」と岩本教授は語る。我々が何気なく使っている言葉の多くにも、歴史的、政治的な意味の重層性がある。あなたも「迷惑」や「文化」といった言葉を今後口にする時、いったん立ち止まり、それについて考えを巡らせてみてはどうか。

図5:『野田修身書教授参考. 巻5 』(1936)より抜粋
図6:『師範修身書. 巻4』(1941)より抜粋

 「文化」の用法の変化は修身書にも反映されている。図5では「文化」が中国的な「文明開化」とドイツ的な「高度な人間精神(ここでは理性)の産物」という意味で使われているのに対し、図6では「文化」は接尾語的に用いられ、三木ら京都学派の文化論の影響が色濃く見られる。(図5、6の出典は国会図書館デジタルコレクション)

 

岩本通弥(いわもと・みちや)教授(総合文化研究科)
 85年筑波大学大学院博士課程単位取得退学。06年より現職。編著に『世界遺産時代の民俗学―グローバル・スタンダードの受容をめぐる日韓比較』など。

この記事は、2019年2月12日に掲載した記事を加筆修正したものです。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

ニュース:学生生活実態調査 院生の約25%「生活厳しい」
ニュース:国大協 入試解答原則 公開の方針発表
ニュース:情報セキュリティ教育研究センターを新設
ニュース:工学系研究科 痛みなく早期発見 インフル新検出法開発
ニュース:位置情報ゲーム 中高年の歩行促進
ニュース:情報セキュリティ教育不合格者 WiFi利用停止に
企画:身近な言葉の歴史を探る 日常に潜む政治性
企画:地に足着いた充実 地方圏活性化を目指して
企画:「やりがい搾取」は本当か 五輪ボランティアを考える
ミネルヴァの梟ー平成と私ー:⑨東日本大震災❷
東大新聞オンラインPICK UP:恋愛編
教員の振り返る東大生活:池尻良平特任講師(情報学環)
火ようミュージアム:新・北斎展 HOKUSAI UPDATED
キャンパスガイ:黒松育也さん(文Ⅰ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【受験生応援2019】合格祈願の絵馬奉納&編集部員から応援メッセージ

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 受験生の皆さん、勉強お疲れさまです。2次試験本番まで残すところ数日となりましたね。東大新聞編集部は、受験生の皆さんの合格を祈念し、湯島天満宮・亀戸天神社・谷保天満宮から成る関東三大天神に絵馬を奉納しました。今回は、絵馬奉納の様子と、編集部員から寄せられた応援メッセージをご紹介します!

 

合格祈願! 絵馬奉納

 

 東京大学新聞社は、今年も受験生の皆さんの活躍を願い、受験にご利益があるとされる都内の神社に絵馬を奉納しました! この絵馬が少しでも皆さんの力となれば幸いです。

 

 

編集部員から最後のアドバイスと応援メッセージ

 

「以前に解いて間違えたものなど、同じ問題を何度も解くと良いと思います。夜更かしは心身が不安定になるのでやめましょう。他の受験生に比べ努力が足りないと思う人がいるかもしれませんが、受かるときは受かるのでナンセンスです」

 

「自分の力を信じて、悔いのないよう頑張りましょう」

 

「大きく深呼吸しましょう。落ち着いて取り組めば最大限の力が出せるはずです」

 

「ここまで来たらもう腹をくくって全力で挑みましょう。弱気になって自滅するのが一番もったいないです」

 

「リラックスしましょう。笑いましょう。『できないかも』と思うより、『会場に着きさえすれば絶対に受かる』と思う方が合格の可能性は上がります」

 

「試験中に緊張しない人はいないです。自分だけが焦っているわけではないので、『少しでもリラックスできたら良い』と気負い過ぎないことが大切です。今まで努力してきた自分を信じて、悔いのない2日間にしてください」

 

「試験のとき、隣に座っている頭の良さそうな人も意外に落ちています。最後は自分の力を信じるだけです」

 

「死ぬ気で頑張ってください。大丈夫です。本当に死ぬわけではありませんよ」

 

 編集部一同、受験生の皆さんが晴れて入試を突破されることを祈願しています。最後の最後まで応援しています!!


東大で活躍する先輩から受験生へ 応援の言葉

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 ついに明日に迫った入試本番。思い思いの分野で活躍する東大生に、受験生に向けて一言ずつメッセージをもらった。先輩たちの言葉を胸に、悔いの残らないよう全力を出し切ろう!(各部・団体の「東大」などの冠称は省略)

 

『東大王』などクイズ番組に出演する鈴木光さん(文Ⅰ・2年)「努力は裏切らない」
『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社、2018年)などを執筆した現役東大生ライターの西岡壱誠さん(経・3年)「最後まで足掻こう!!」
応援部「よく食べてよく寝よう」
アメリカンフットボール部「自分を信じて駆け抜けて!」
みかん愛好会「みずからの力でかんどうを手に入れろ」
観世会「人事をつくして天命を待つ」
ラクロス部女子「桜咲け!」
民族音楽愛好会「¡Vamos!突っ走れ!」
ア式蹴球部「頑張れ、受験生!」
写真文化会「平常心」
航空部「翔べ!がんばれ!」

【ハーバードクリムゾン翻訳企画③】学期初日のハーバード生の素顔

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 東京大学がその国際競争力を問われるようになってから久しい。「タフでグローバルな東大生」を掲げ、世界で戦える人材の輩出を目指した濱田純一前総長時代に続き、現在の五神真総長が掲げる東京大学ビジョン2020においても「国際感覚を鍛える教育の充実」が掲げられており、東大生には世界での活躍が期待されている。しかしながら、東大生の中には国外の大学が東大とどのように違い、自分たちがどのような人材と渡り合っていくことを求められているのか、知らない人も多いのではないだろうか。

 

 東京大学新聞社では、あくまで一例ではあるがそのような海外の大学の実情を少しでも紹介すべく、3回にわたって米国ハーバード大学の学生新聞・ハーバードクリムゾン紙より許可を得て、同紙の記事を翻訳し紹介する。最終回の今回は、ハーバード大学の学期初日の様子を描いたこちらの記事。ハーバード大学の日常をのぞいてみよう。

 

満員の講義と子犬と望遠鏡 ハーバード大学学期初日の授業

 

 

Amy L. Jia and Sanjana L. Narayanan

 

 日光が降り注ぐ月曜の朝、学期初日の授業に向けて学生たちがキャンパスに押し寄せた。

 

 経済10B『経済の原理』など長年人気の授業や、演劇・舞踊・メディア110『演技の基礎:観点』などの新しい授業は席を求めて騒ぐ学生達で満員になった。

 

 何人かの学生はスペース不足で広い講堂を去らなければならなかったという。

 

 「ドアの外まで列が続いてて、中に入ることすらできなかったよ」とクリムゾン紙デザイン編集員のディーディー・R・ジァン(2年)。受ける予定だったのは科学センターDホールで開かれた世界の諸社会38『ピラミッド計画:古代エジプトの考古学的歴史』だ。「私たちは前に行こうと押しのけなかったので、もみくちゃにされてしまった」

 

 学生たちによると、コンピューターサイエンス181『機械学習』から生体科学20『精神の科学』、有機及び進化生物学130『魚類の生物学』、哲学20『幸福』まで、さまざまな講義が似たような混雑状況に直面していたという。

 

 何人かの教員は初日に授業計画の説明以外のこともした。天文学科長のアヴィ・ローブは初年次ゼミナール21G『宇宙最初の星と生命』の履修者を大学の天文台に連れて行き、1847年に建てられた時点では北アメリカ最大の望遠鏡であった屈折望遠鏡を見学させた。

 

 スカンジナビア専門のアグネス・ブルームはスウェーデン語AB『スウェーデンの言語と文学入門』の講義に飼い犬を連れてきて学生を驚かせた。

 

 「最後に、ジャーマンシェパードの子犬を連れてきたんだ。最高に可愛かったよ」と出席したニコラス・G・ヴラノス(2年)は証言する。「素敵な週の始まり方だったね」

 

 最終的に決断する前にいろんな授業を覗く機会を与えるために、学期の履修は金曜日まで決めないことになっている。

 

 クリムゾン紙のアート編集員のラジ・カラン・S・ガンバー(1年)は昨年のビスタスプログラム(大学の新入生歓迎プログラム)でとある授業を参観した後、春学期にその授業を受けるのを楽しみにしていたとメールに書いた。

 

 「講義が始まって、僕はこの講義が自分に合っていないことに気づいたんだ。僕は新しい人間関係を構築する際に多くの人がやってしまうようなミスをした、つまり、先走ってしまったんだ」と、ガンバーは書く。「同時に、前は懐疑的だった友達がちょっと前に僕がそうだったようにその講義に夢中になっていた。僕はショッピングウィーク(訳注・学期の初めにどの授業が面白そうか学生がいろいろ見て回る週)があったことに感謝しているよ。間違った授業に見切りをつけ、合っている授業を選ぶ時間を与えてくれたからね」

 

 他の人、例えばブランドン・N・ワックス(4年)などにとって、初日にはもっと何気ないできごとが起こった。

 

 「僕たちは最上級生でこれが最後の学期初日になるから、早起きして授業に行こうと思ってたんだ。でも朝飲む約束もしてたから午前中はQ Guideでシラバスを見ながら飲み会を続けた」とオンラインのシラバス「Q Guide」について言及しながらワックスは言った。「でも、正午ぐらいになるとみんな講義に行くことを決断したよ」

 

 「ここでの最後の学期を一緒に始めるには良い交友体験だったよ」とワックスは付け足した。

 

東大新聞記者コメント

 

 

 クリムゾン紙の翻訳企画3回目は、今までの真面目な記事とは打って変わって学期初日の学生の様子を赤裸々に描いた緩い記事。総合科目C『ジェンダー論』や、同じく総合科目C『現代教育論』など人気の授業に人が集まるのは東大も同じで、学期初日には教室変更やレジュメの増刷など混乱も多い。

 

 天文台に連れて行ってもらえるという『宇宙最初の星と生命』の授業が紹介されていたが、東大でも図書館の裏側を見せてもらえるゼミや、夏休みの間に小旅行に出かけるゼミなど、多様な授業が存在する。とはいえ、飼い犬を連れてきた教員は東大では聞いたことがない。アグネス先生は何のために子犬を連れてきたのだろうか。

 

 ショッピングウィークは東大にもある。特に「ショッピングウィーク」というような名前はついていないが、授業開始と受講登録期間の間は1〜2週間空いているため、その期間に初回授業を受けて履修を考えることができる。ガンバーくんのように難しすぎる授業を諦めたり、思っていた内容と違う授業の履修を取りやめたりすることができる。

 

 飲み会で授業をつぶしたというのはなかなか親近感の湧くエピソードだ。東大生でも夜更かしで遅刻する学生はいるし、布団から出れないと言ってサボる学生もいる。ただ、話の種がオンラインシラバスだというのはさすがハーバード生というべきか。「Q Guide」は東大における「UTAS」と同様のものだろう。東大にもシラバスを読みふけって履修を組むのが楽しいと言う学生はいるし、学生の学期初日の過ごし方に日米の差はないのかもしれない。

(翻訳及びコメント・宮路栞)

 

記事のオリジナルはこちら

https://www.thecrimson.com/article/2018/1/23/first-day-classes-spring-2018/

 

【ハーバードクリムゾン翻訳企画】

ハーバードの新入生アンケート

ハーバードの入試の裏側

【受験生応援2019】受験生必見! 合格後のスケジュール

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 これまでずっと勉強してようやく臨んだ東大入試。受験から解放されたら我慢していたあれこれに取り掛かりたい人もいるだろう。しかし、合格後 1カ月弱は入学手続きや引っ越し手続きなど、さまざまな手続きが必要だ。どのような日程で東大生の仲間入りができるのか。スケジュールをよく確認して新しく始まる生活に備えよう。

 

 

合格発表、入学手続き

合格発表 3月10日

入学手続き(郵送) 3月11日〜15日(必着)

 

自分の番号を見つけて抱き合う受験生たち

 

 正午ごろ、東大のウェブサイトなどに合格者の番号が掲載され、午後0時半ごろから、本郷キャンパス法文1号館と2号館の間で合格者番号の掲示が行われます。午後には合格者にレタックス(電子郵便)で合格通知書が送られます。

 

 東京大学新聞社では、全ての合格者の受験番号が掲載された『合格記念号』を合格当日の午後2時ごろ、本郷キャンパスと、駒場Iキャンパスの駒場コミュニケーション・プラザ南館にて販売予定です。合格の記念品として、ぜひお買い求めください。

 

 2次試験終了後に配られる入学手続き書類を期限内に郵送します。入学後に履修する初修外国語はここで決め、クラスも初修外国語に基づいて決まります。

 

 後日、手続き完了の知らせと諸手続きに必要な書類が送られてくるので、大切に保管しましょう。

 

東大女子のためのオリエンテーション(女子オリ)

3月25・26日

 

 女子オリは学生自治会による新入生女子向けのイベントで、駒場Iキャンパス11 号館にて開催される予定です。例年200人ほどの新入生女子が集まるため、女子が少ない東大でも多くの女子と知り合う絶好の機会です。東大OGの講演会や食事会などが企画されており、新入生同士の交流はもちろん、東大生の先輩に、授業やサークルなど入学後の東大生活について話を聞くことができます。

 

諸手続き

理科 3月28日

文科 3月29日

 

 科類ごとに駒場で手続きをします。例年混雑するので、早めに来ておくといいでしょう。

 

1号館で各種書類の受け取りや提出を行います。シラバスなども配布され、初修外国語で決まるクラスも知らされます。

 

 手続き後、前年度入学の同じクラス(上クラ)からオリ合宿の説明があり、夜にはオリ合宿に先立った懇親会(プレオリ)を開くクラスもあります。

 

 1号館を出ると、にぎやかなサークルの勧誘が待っており、これをテント列と呼びます。精力的な勧誘に負け、なされるがままテントを回っていると、列を抜けた時は数時間たっていた、なんてことも。新歓用にメールアドレスやLINEを交換することも多いので、個人情報の管理には十分気を付けてください。

 

学部ガイダンス、サークルオリエンテーション

理科 4月1日

文科 4月2日

 

 午前中、教務課や教員から、施設利用や履修上の注意などが説明されるガイダンスがあります。午後はサークルオリエンテーション。各サークルが教室にブースを構え、新入生は各ブースを回ってサークルの説明を受けます。諸手続き後のテント列とは異なり、新入生が自主的に、興味のあるサークルの説明を聞きに行くことができるのが特徴です。ビラなどを参考に、見に行くサークルを事前に絞っておくといいでしょう。

 

オリエンテーション合宿

理科 4月2・3日

文科 4月3・4日

 

 上クラの企画の下、クラスごとに12日の旅行に行き、親交を深めます。行き先は日光、山中湖、箱根など東京近郊の観光地が多いです。上クラは、前年の夏から下見や話し合いを重ね、準備を進めています。初めて会う人といきなり寝泊まりすることになりますが、戸惑いつつもほぼ全員が参加。合宿中に自治委員、五月祭・駒場祭連絡係などのクラス委員を決めたり、上クラと履修について相談したりします。

 

授業開始

4月5日

 

 412日の入学式を前に、授業が始まります。最初の授業では、講義の概要や単位認定・成績評価について説明されることが多いですが、いきなり講義を開始する授業もあります。「鬼」や「仏」といった教員の評判が流布するのもこのころ。単位の取得しやすさや課題の分量、評価の厳しさによって評判が付けられます。しかし、履修する授業はあくまで自分との相性や興味の有無など、さまざまな要素を見て総合的に決める必要があるでしょう。

 

入学式

4月12日(→東大の入学式は、なぜ12日開催なのか

 

入場式に入場する総長や各学部長たち

 

 入学式は日本武道館で行われます。入学手続きが終了すると送られてくる書類に入場券が入っており、これを使うと入学者以外に2人まで入場できます。式典は例年1時間20 分で、総長の式辞や応援歌の斉唱、入学生の総代による宣誓などが行われます。会場は3000 人を超える新入生の熱気と高揚感で包まれています。武道館近くの靖国神社には満開の桜が咲いており、春の陽気と共に、東大生になったと実感することでしょう。

 


※この記事は、受験生応援号の記事を転載したものです。本紙では、他にもオリジナル記事を公開しています。

【受験生応援2019】失敗から得たものとは? 浪人経験者が明かす本音と東大リベンジのポイント

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 受験生の皆さん、2日間にわたる2次試験本当にお疲れ様でした。中には十分力を出し切れなかったと感じている人もいるでしょう。しかし、終わったことを考えても仕方ありません。手応えを感じている人も、優秀な受験生が競い合う東大2次試験の壁は決して低いとは言えず、安心はできません。今回は万が一東大が不合格だった場合、次にどのようなことをすべきか、1年間浪人を経験して東大合格を果たした学生4人(A,B,C,D)に話を聞きました。現役生を中心に、今年の結果次第で浪人することを考えているという受験生は参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

━━2次試験終了後から合格発表・後期試験まで

 

A(文Ⅲ・1年):合否の予想は半々でした。合格していてほしかったですが、無理だったら浪人するつもりでいました。

 

B(理Ⅱ・1年):僕もほとんど東大合格か浪人かの2択でした。合格発表まで、不安のあまり何度も点数計算をしてしまいましたね。ただ、不安ながらも合格最低点すれすれで受かっているのではという謎の自信がありました。

 

C(法・3年):苦手だった地歴と、得意教科だった英語でうまくいったという手応えがあり、合格する自信はある程度ありました。不合格後のことはあまり考えられていなかったので、浪人生という身になってから再始動するのが遅くなってしまいましたね。

 

D(理Ⅰ・1年):私は合格を祈る気持ちはありましたが、落ちたと思ったので後期試験に向け勉強を続けていました。

 

A:私の場合、後期で受かったとしても進学するつもりはあまりありませんでした。後期は小論文の試験だったので、小論文の参考書を流し読みするなどの対策はしていましたが……。

 

B:僕は前期試験(東大)でなんとかなると思っていてかなり難しいところに出願したため、結果的にはセンター試験の点数で門前払いになってしまいました。

 

 

━━後期試験終了後から浪人を始めるまで

 

D:後期に向けて勉強していた時は、受かればそこへ進学する気満々でした。実際後期には合格できてとてもうれしかったのですが、受かってみると「もう一度東大に挑戦しなかったら後悔するかもしれない」という気持ちが強くなり、浪人を決めました。

 

A:私は東大が無理だったら浪人するつもりだったので迷いはありませんでした。

 

B:後期が不合格と分かっていたので浪人以外に選択肢はなかったと思います。来年の自分の東大合格可能性が気になり、東大を目指して浪人した人のブログを探し、その人の模試の点数を自分と比べていました。参考にして良いのか分かりませんが(笑)。予備校は、現役時に通ったことのある河合塾には行きづらかったので駿台に決めましたね。

 

C:僕は、最初は宅浪しようと思っていました。でも、高校の先生に相談して駿台と河合塾の説明会に参加しました。最終的には授業料と立地を考えて河合塾に決めました。予備校は校舎までの電車の乗り換え回数など、通いやすさを考慮するのが良いと思います。

 

A:聞いた話によると、不合格が分かった時から先延ばしせず徐々に勉強を始めた人の方が翌年合格しやすいようですが、実際どうなのでしょう?

 

B:僕は駿台から春期講習の案内が届きましたが、受講しませんでした。気が済むまで気晴らしをしても良いかも。

 

C:3月中は現役生時代に受けた模試と実際に受けた入試問題を見直しました。4月以降は予備校の教材ばかりやっていましたね。

 

 

━━1年間の浪人生活の感想は

 

A:予備校に通ってはいましたが一人でいるのが好きなので、授業と自習時間以外は一人で本屋に入っていました。自由に息抜きできたのが良かったです。学力面では、現役時は付け焼き刃状態でしたが、浪人時に勉強法や体系的な知識を身に付けることができました。最終的に、塾講のアルバイトなどで他の人に教えて還元できるレベルに達することができたと思います。

 

B:「19歳無職」になったような感じがして、妙に気持ち悪かったです。そのためか資格試験に挑戦したくなりTOEICを受験しました。まねしなくて良いですが(笑)。時間的には余裕があったので、将来の人生設計やそれ以外のことも考えるきっかけになり、成長できました。

 

C:勉強時間は大量に確保できたので、勉強にも時間を割くことができる、自由な1年でした。法学など大学で学びたい分野を先取りしたことで、勉強のモチベーションを保つことができました。

 

D:友人に恵まれて良かったと思います。私は理科生ですが、今東大で一番仲が良いのは浪人時に知り合った文科生の女の子です。同じ高校から東大に進学した人の中で女子は私だけだったので、親しい友人をつくることができて良かったです。

 

 

━━浪人時の勉強を成功させるポイントは

 

A:参考書は各科目1、2冊に絞って、8、9割理解すれば成績は安定してくると思います。1分1秒を惜しんで勉強だけをしなければならないと思っていると最後まで走り切れないので、勉強法を確立し適度に息抜きをしつつ、地道に取り組むのが良いのではないでしょうか。

 

B:メンタル面も重要だと思います。浪人中は精神状態が荒れがちな人が多いのではないでしょうか。精神的に不健康にならないよう注意してください。

 

C:他の人にどう思われるか気になるかもしれませんが、世間的には些細なことなのであまり気にしないことをお勧めします。勉強は自分なりにモチベーションを保つ方法を見つけるのが良いと思います。

 

D:友人と話して息抜きすることです。私は理Ⅰ志望でしたが、浪人時代は文系や医学系志望の友人から刺激をもらっていました。志望が同じ友人と話していると自然と勉強の話になってしまい、自分の方ができていないと不安になるので、いろんな友人と頑張れると良いと思います。

 

19歳が見た中国⑥ 大学生、世代差、対日観、党

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ひたすら会って喋って

 

▲フェリーで出会った「先生」とともに。日本の大学院に留学中だという。東アジア言語の音韻学の話で盛り上がった

 

 中国の旅先で出会う人たちは、私にとって皆「先生」だった。中国語によるコミュニケーションの力を高めることこそ、旅の目的だったからだ(19歳が見た中国①)。フェリーや鉄道やユースホステルや街の飲食店で、たまたま出会った人と、昼夜問わずひたすら喋っていた、というのが実情だ(だから観光地にはほとんど行っていない)。大阪港を出て戻るまでの3週間、単なるあいさつを超えた会話をした相手は、老若男女、60名に上る(会話の相手と内容をノートにメモしている)。

 

 中でも素晴らしい「先生」となってくれたのは、中国各地の大学生の友人だ。駒場の中国語の先生方が精力的に催してくださる交流の場で知り合った人が多い。今日は、中国の大学生との打ち解けたお喋りを通して、私が気づいたことをお伝えしたい。

 

中国のキャンパスライフを垣間見

 

 日本と異なり、中国の大学生のほとんどは、キャンパス内の寮で生活する。復旦大学新聞学科の驰蹈(チーダオ)が、特別に男子寮の自室に入れてくれた。自室といっても、4人のルームシェアである。薄暗く、狭く、細長い部屋で、ベッドと机が一体化したロフトベッドが左右に2つずつ並んでいる。プライベートな空間は、もちろんゼロだ。寮の共用トイレは马桶(マートン;中国式のしゃがむトイレ、和式に似ている)で、数も少ない。

 「ここは狭すぎるなあ!僕は下宿住まいだからそう感じるんだろうけど」と正直な感想を言うと、驰蹈は頷きながら

 「そりゃあ俺もずっと住み続けるつもりはない。早く卒業して、いっぱい稼いで、広い家を買いたい。でも寮も悪くはないぜ。お前は、家から大学までどれくらいかかる?」

 「電車に乗って20分。東大生の中では近いほうだよ」

 「遠いねえ!」驰蹈はため息をついた。「俺の寮から歩いて10分の範囲に、教室も図書館も食堂も、全部ある」

 第二回の記事で触れたように、中国の学校の近くには、安くてうまい飯を提供する店が並んでいる。メニューの種類も豊かだ。自炊する必要はない。

 「お腹が空けばちょっと行って食べてくればいい」

 中国の大学生は、寮の中の環境は良いとはいえないが、寮の近くで何でも済ますことができる。私たちに比べて、移動や家事をしない分だけ使える時間が多いのは羨ましい。

 

 武漢大学日本語科の明明(ミンミン)と紫荆(スージン)には、大学図書館の中に入れてもらった。驚いたことに、図書館の至る所で(階段の踊り場でも!)、ヘッドホンを着けた学生が英語のテキストを凝視して、小声でぶつぶつ呟いている。

 「あれは何をやっているの?」

 「テキストを全部暗記しようとしているの。托福(トゥォーフゥー;TOEFL)で良い成績をとるために」と明明が言った。

 「もうすぐ大学院の試験なんだけど、托福が必須でね」と紫荆が続けた。「私も来年はああいう感じでぶつぶつ言っていると思う。全部暗記できるか心配」

 中国の学生の凄まじい努力には脱帽した。そもそも「托福」(福を託す)という訳からして、TOEFLに人生の成功を託すんだ、という気概が伝わってくる。しかし、TOEFLが測るのは英語の活用力であって、暗記力ではない。暗記偏重の勉強法で、最高のパフォーマンスが出せるのだろうか。

 深圳大学でも、芝生に座ってぶつぶつ呟いている学生を何人も見た。一緒に歩いていた星彤(シントン)に上の疑問を投げかけると、彼女は苦笑いした。

「私たちは、小学生の頃から暗記で乗り切ってきた。暗記以外の勉強法ってあるの?」

 

 大学の近隣にはたいていショッピングモールが進出しており、若者たちの遊び場となっている。特に勢い目覚ましかったのは、「一点点」や「Luckin Coffee」のようなドリンクのチェーン店で、いつでも若者の列ができている。テイクアウトしたドリンクを手に持って歩く人もよく見かけた。明明や紫荆によると、10代から20代は、上の世代に比べてインドアを好むという。集団で行動しがちな中高年と異なり、自らの興味や嗜好を優先し、個人で行動するのも、若い世代の特徴だという。紫荆に「中国人は夏でもお湯を飲むのが好きなんだね?」と訊くと、こう返されたものである。

 「中国人は14億人もいるんだよ、そんなの答えられない!『紫荆は夏でもお湯を飲むのが好きなの?』と聞いてくれたら答えてあげる」

 街歩きの最中に、明明は小学校の運動場を指さした。

 「ほら、あのグループ、音楽をかけてダンスしてるでしょ。ほとんどお年寄りだわ。今頃、若い人はソファーに座ってテレビを見ている」

 

 世代交代は進む。「夏の夕方におじさんやおばさんが、外の椅子に座って涼んだり、将棋を打ったり、広場で太極拳を踊ったりしている、ゆったりとした光景が大好きなんだけど、この光景は君がおばさんになる頃には見られなくなるんだろうか?」復旦大学社会科学科の佳丽(ジィァーリー)に悪戯っぽく尋ねると、彼女は頷いた。「そう思うわ。10年後にまた来てみて。中国の街角から、違った印象を受けるはずよ」

 

私たちの世代が、日中協力のチャンス?

 

▲熊本熊(くまモン)のファンだという四川出身の大学生・科奇とともに

 

 対日観も世代間で異なるかもしれない。60代以上の世代では、抗日战争(日中戦争)や南京大屠杀(南京大虐殺)の負のイメージが先行する。南京行きの列車で隣になった元警察官のおじさんに、日本人であることを告げると「1937年の12月から1938年の春にかけて、お前が今から行くところで何が起きたか知っているか?」と尋ねられた。

 改革開放が少年期にあたる40代から50代では、追いつき追い越す対象としての日本、技術立国、サービス立国の日本、というイメージが加わる。さらに、文化大革命後の1980年代、日本の映画やドラマへの門戸が広がったため、高倉健や山口百恵の話で盛り上がるのも特徴だ。

 10代から30代は、より多面的な対日観をもっている。第二外国語として日本語を学んだり、日本に留学したりする人が増えてきたからだろう。若い世代は、日本のアニメやマンガの熱烈な愛好者だ。湖南省長沙の飲食店で隣になった中学生の女の子と、机器猫(ジーチーマオ;ドラえもん)の話で盛り上がることができたのにはびっくりした。広州の宿で出会った四川出身の大学生・科奇(カーチ)は「僕はNARUTO、ワンピース、そして熊本熊(くまモン)のファンだ。アニメがきっかけで、日本に親しみをもち、日本語を独学したよ」と語った。

 世代間の分析から分かることは、少年期に醸成されたイメージが、大人になっても残るということだ。若い世代が日本に親しみを感じているのは、幸運の兆しだ。彼らがリーダー層になれば、ビジネスや文化芸術など多くの分野で日中両国の協力が進むだろう。

 科奇が気がかりだというのが、「10后」(2010年以降に生まれた世代)の対日観である。「10后は中国が小さかった頃を知らない。最近、抗日戦争についての歴史教育が強化された。日本作品の放映も以前より制限され、愛国意識を植え付けるような国産のアニメが流れている。10后が日本を知る機会が少なすぎる」。

 

自由か、安定か

 

 中国滞在中、酒にも乗り物にも酔わなかったが、標語には酔ってしまった。工事現場の外壁に貼られたポスターから銀行のモニターまで、生活のあらゆる場面で党のスローガンが主張している(日本では党のスローガンの代わりに広告が主張しているところだ)。溢れるスローガンによる人々への刷り込み効果は抜群だろう。私の友人などは、中国を10日間訪れただけで「富強 民主 …」で始まる「社会主義核心価値観」を覚えてしまったという。復旦大学の学生二人と夕食を共にしたときに私の標語酔いを打ち明けたら、二人は顔を見合わせて黙り込んでしまった。気分を害してしまったかと慌てていると、一人がぼそりと呟いた。「標語は彼らが言うのに任せる」

 冒頭に出てきた驰蹈は、寮の机の上に届けられていた当日の新聞を私にくれた。

「これお前にあげる。中国語の勉強になるぜ」

「あれ?自分では読まなくていいの?」

「読まなくても、何が書いてあるかはもう分かっているから。特に一面は」と驰蹈は言う。一面の見出しに目を通すと、彼の言葉の意味が知れた。「習近平が○○と述べた」「習近平が○○に会った」「習近平が○○を訪れた」「習近平が…」。

 紫荆はこんな笑い話を教えてくれた。

 「CCTV(中国中央電視台)の記者が、人民の幸福度を調査する番組で、路上でおじさんにインタビューした。「あなたは幸福ですか?」(你幸福吗?)ってね。そしたらおじさん、こう答えたの。「俺の名字は曾だ!」(我姓曾!)」

 「あなたは幸福ですか?」(你幸福吗?)の発音は、「あなたは福さんですか?」(你姓福吗?)の発音にとても近い。曾おじさんは記者の質問を聞き間違えて、珍回答を言ってしまった、滑稽でしょ、と紫荆は教えてくれた。

 「你幸福吗?我姓曾!」は数年前にオンラインで爆発的に流行し、中国の若者ならほとんど誰でも知っているという。この笑い話が「バズった」のは、単に滑稽だという理由だけではないだろう。CCTVは国営のテレビ局であり、その番組は党の宣伝を色濃く反映する。記者は、党の社会福祉政策の成功を裏付けるために「幸福ですよね?」と曾おじさんに念押ししたのだろう。ところがおじさんは記者の質問をはぐらかし、党の宣伝材料にされることを拒否した。多くのネットユーザーがおじさんの切り返しを痛快に感じたから、笑い話が拡散した。そんな見方もできるのではないか。

 ある大学生からは、日本の憲法改正の議論について根掘り葉掘り質問された。「君は、憲法改正の一番の論点は何だと思うか?」「自衛隊を憲法に明記せよという主張をどう思うか?」私があれこれと意見を述べたのち、大学生は言った。「君の話を聞いていて、私と君の意見には違いがあると分かった。でもそんなことはどうでもいいんだ。一番重要な違いは、君は政治の意思決定に参加できるということだ。君が改憲の国民投票で一票を投じられるのが羨ましい」大学生はため息をついて、続けた。「私はこの国の意思決定には参加できない。この国では、知らぬ間に憲法が書き換えられて、国家主席の任期が無制限になっている」

 

 このように、共産党の統治手法を斜めに見る大学生は多い。だが彼らも、根本的には党の指導に満足しているのかもしれない。そう考えさせられるような、次のようなやり取りがあった。私が佳丽に「香港で買った新聞が、大陸の新聞よりも批判的で面白かった」と話を振ったとき、佳丽は真剣な顔で答えた。

 「言論の規制は中国には必要だと思うの。中国は人口が多く、教育格差が大きい。情報を批判的に分析する訓練をしたのは、大学を出た人だけ。もし言論の規制がなければ、政権批判とか、反日とか、極端な言説が出回り、多くの人が付和雷同する。暴動が起き、社会が混乱し、国の勢いが衰える。これは50年前に実際に起きたことよ。香港や日本なら人口が少なく、人々の教育レベルもおしなべて高いから、言論の自由を認めても社会は混乱しないでしょう。でも安心はできないわ。民主主義が最も進んでいるという米国や英国さえ、Fake Newsに悩まされているでしょう。一方この国では、党による言論の規制がうまくいっていると思う」

 「言論の自由より、社会の安定のほうが優先ってこと?」

 「その通り。私たちが大学に通えるのは、社会が稳定(ウェンディン;安定)なおかげなんだから!」

 

文・写真 松藤圭亮 (理Ⅰ・2年)

 

【19歳が見た中国】

①フェリーに乗って、ぶっつけ本番中国語

②学校の近くに、安くてうまい飯あり

③石橋を「叩く前に」渡る

④爆走出前バイクに見る「超級」便利社会の裏側

⑤字は書けなくても、スマホは使いこなす ~テクノロジーの都・深圳へ~

【受験生応援2019】現役東大生が語るスペイン語学習

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 3月10日(日)の合格発表後、11日(月)から15日(金)の間に合格者は入学手続きを行います。その際に書類へ記入する外国語によって所属するクラスが決まります。学生生活を大きく左右する要因になる外国語選択に役立つ情報をお伝えします。今回は、実際に履修した現役東大生によるスペイン語の紹介です。


 「スペイン語は比較的簡単」と言われることは多いですが、実際、日本人にとって取り組みやすい言語だと思います。使う文字はアルファベットにñ(エニェ)を加えただけですし、発音の仕方やアクセントの位置は規則的で、文字通りに読めば発音を間違えることはありません。同じヨーロッパの言語だけあって英語と似ている単語も多く、字面から連想して意味が分かるということもよくあります。

 

 最も苦労するのは動詞の活用でしょう。現在形だけでも、主語の人称や単数か複数かによって変化する6通りの形を覚えなければいけません。それを現在形だけでなく点過去、線過去、未来、過去未来……と様々な時制に活用させる必要があり、どの形がどの時制だったか混乱することもしばしば。ネイティブの人はかなり早口で話すので、これらの活用を聞き分けながら意味を追うのは至難の業です。しかし、活用さえ覚えてしまえば文法はそれほど難しくありません。例えば疑問文を作るには元の文を「¿…?」で挟むだけと、非常に簡単です。

 

 スペインの陽気なイメージに引かれる人が多いのか、明るい雰囲気のクラスが多いです。そのためよく「スペイン語選択は『チャラい』」といわれますが、もちろん熱心に勉強する人もいますし、スペイン語選択の人がとりわけ不真面目というわけでもないでしょう。とはいえ、私のクラスでも演習の授業(文系は必修)でネーティブの先生の冗談で大笑いして楽しむなど、クラスでよく盛り上がるのも事実です。楽しい雰囲気でヨーロッパの言語を学びたい人にスペイン語はおすすめです。

(文Ⅱ・1年=当時)

 

※この記事は、2017年公開の東大新聞オンライン記事からの転載です。

【受験生応援2019】現役東大生が語るフランス語学習

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 3月10日(日)の合格発表後、11日(月)から15日(金)の間に合格者は入学手続きを行います。その際に書類へ記入する外国語によって所属するクラスが決まります。学生生活を大きく左右する要因になる外国語選択に役立つ情報をお伝えします。今回は、実際に履修した現役東大生によるフランス語の紹介です。


 文理共通のフランス語の授業は週2回、主に教科書を使っての文法学習を行い、文系のみ「フランス語演習」という形で会話を学習します。大学の授業だけでも文法は1年で網羅でき、クラスによっては早いうちから長文読解に取り組むところもあるので、きっちり学習すれば有名な『星の王子さま』など、フランス文学を原著で読めるようになります。また会話も教材が充実しているため、自習環境も良く努力次第で実力を十分に伸ばすことが可能です。

 

 フランス語は他言語に比べるととても大変だといわれることが多いです。そのためか履修者には真面目な人が多い印象を受けました。最大の難関は動詞の活用を覚えること、接続法・条件法などの概念を理解すること。しかし授業を聞くとその活用の差異や意味が分かるため、こうした点を体感することがフランス語学習の醍醐味(だいごみ)ともいえます。ただしどの言語においても共通ですが、試験で点数をとるのには不可欠な単語の勉強は地道な作業が続くので苦痛に感じてしまうかもしれません。

 

 種類を問わず言語を学ぶとは、その使用国の文化を知ることでもあります。ですので履修する方は、フランスという文化そのものを学ぶつもりでいるとモチベーションが湧くのではないでしょうか。覚えることが多いのは事実で、第三外国語として学習するにはかなりの覚悟が必要かと思うので、ぜひ第二外国語としての履修を検討してみてください。

(文・2年=当時

 

※この記事は、2017年公開の東大新聞オンライン記事からの転載です。


【受験生応援2019】現役東大生が語る中国語学習

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 3月10日(日)の合格発表後、11日(月)から15日(金)の間に合格者は入学手続きを行います。その際に書類へ記入する外国語によって所属するクラスが決まります。学生生活を大きく左右する要因になる外国語選択に役立つ情報をお伝えします。今回は、実際に履修した現役東大生による中国語の紹介です。


 中国語と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。「漢字を使っているからきっと簡単だろう」「テレビのニュースでよく耳にする」「将来使う機会がありそう」? 記者は1年前、ちょうどそのようなイメージを抱いて中国語を選択しました。

 

 中国語を1年間学んでみて、大変だと感じたのは暗記量の多さ。まずは発音の暗記です。中国語の教科書では漢字の発音を表すために「ピンイン」というアルファベットの振り仮名を使います。ピンインの「ci」は「ツ」と発音する、などアルファベットでのピンイン表記と実際の発音を対応付けるのに苦労しました。

 

 単語の暗記も大変です。中国語の単語を覚える際は「漢字」「発音」「意味」の三つを対応させなければいけません。日本語の漢字と全く字体の違う漢字も多い上、漢字からの発音の連想が難しいこともよくあります。「声調」とよばれる中国語独特のアクセントも漢字ごとに覚える必要があり、「漢字を使っているから簡単そう」という記者の想定は少々甘かったと言わざるを得ません(笑)。リスニングも難しく、記者はいまだにニュースで流れる中国語をほとんど聞き取れません。

 

 一方、文法は簡単です。語順は英語に似ていてなじみやすく、時制も活用もなし。単語を覚えればあとは文法に従って順に並べるだけです。

 

 記者の場合、苦労して覚えた成果はすぐに出ました。本郷キャンパスに観光に来ていた中国人と軽く会話を交わせたのです。言語を学ぶことの最大の魅力はやはり、海外の人とコミュニケーションを取れるようになることだと思います。日本と地理的・経済的に密接的な関係にある中国の言語を学ぶことは、その魅力を味わうための一番の近道ではないでしょうか。

(文Ⅰ・1年=当時)

 

※この記事は、2017年公開の東大新聞オンライン記事からの転載です。

【受験生応援2019】現役東大生が語るドイツ語学習

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  3月10日(日)の合格発表後、11日(月)から15日(金)の間に合格者は入学手続きを行います。その際に書類へ記入する外国語によって所属するクラスが決まります。学生生活を大きく左右する要因になる外国語選択に役立つ情報をお伝えします。今回は、実際に履修した現役東大生によるドイツ語の紹介です。


 「何となくかっこよさそう」。1年前、私がドイツ語を選択した理由は、非常に単純なものでした。今にして思えば、少しドイツ語を履修するには覚悟が足りなかったなと思います。

 

 ドイツ語は文法規則を非常に厳格に適用する言語です。英語のように煩雑な例外事項を一々覚える必要は無いのですが、規則を細かく覚えなければ使いこなすことができません。ドイツ語は英語ほど語順にこだわりが無いので、文の基本的な構造を理解するには、1文の中の語の役割や語の性を理解する必要があります。1文に置ける語の役割や語の性によって、語の形が様々な形に変化するので、この変化から1文に置ける語の役割と文の全体構造が見抜けるからです。語の変化形を一つ一つ覚えなければならないこと、これは初修者にとっては大きな壁となるはずです。

 

 文法の厳格さに引かれてドイツ語を選ぶ人が多いからなのでしょうか、ドイツ語クラスの印象は一言で言うと「お堅い」。お堅い師とお堅い学友を求めるならば、あなたはドイツ語を選択するべきです。私のクラスメートは、1学期に5回あった小テストに毎回定期試験並みの精力を傾け、教員はクラスに持ち回りでメールを通じてノートを提出させ、毎回赤字でびっしりのチェックを入れて返していました。

 

 楽に習得できる言語を習得したいのであれば、ドイツ語はあまり向いていないでしょう。それから「実際に話す機会」を優先する人にも、ドイツに思い入れがない限り、もっとふさわしい言語があるのではないかと思います。しかし、ドイツ語を学ぶことの意義は、1年間勉強した程度の私が言うまでもなく、いくら強調しても足りません。文学、社会科学、数理科学の古典には、ドイツ語で書かれているものが非常に多いのです。ドイツ語を学ばなければ開かれない知の世界は確実にあります。活用表を覚えるのに四苦八苦し、何度も単語帳をめくり、例文を暗唱した1年間は、こうした世界に踏み出した一歩になったと振り返っています。

(文Ⅰ・1年=当時)

 

※この記事は、2017年公開の東大新聞オンライン記事からの転載です。

19歳が見た中国⑦ あのスピード感を逆輸入しよう

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「彼をご覧、日本人は慎重だろう?」

 

 上海をフェリーで発つ前夜、ユースホステルのロビーで休んでいると、二人の男性が入ってきて、ビリヤードを始めた。ビリヤードはルールさえ知らなかったが、二人があまりにも楽しそうなので、私も球を撞きたくてうずうずしてきた。

 「すみません…ビリヤード、教えてくれませんか?」

 「おお!君もビリヤードをやりたいって?喜んで教えてやるぜ!」

 これが、洛陽から来た電気技術者にして、ビリヤードの達人でもある高さんへの入門の瞬間である。高さんの指導はまさに熱血だった。

 「いいかい!ビリヤードってのは、キュー(撞き棒)の持ち方が命さ!まずは俺の持ち方を真似してみろ!…いや、二の腕は動かすんじゃねぇ…目線は遠くにして…球の上半分のここら辺を撞くんだぞ…」

 高さんの分かりやすい熱血指導のおかげで、私はどんどん球を落とせるようになった。

 「君、狙いを定めるのがうまいや!ってか、上達早ぇえな!脈あり!」

 ちょうどロビーにやって来たイタリア人に、高さんが声をかけた。

 「おい君!彼とビリヤードで対戦しないか?日本対イタリア、国際試合だぜ!」

 一時間前に初めてキューを握った私が、ビリヤードの本場から来た相手と国際試合とは、わくわくするじゃないか!勝負が進むうちに、ギャラリーもわらわらと膨らんできた。お互いあと一球落とせばという瀬戸際で、狙いが合わずにハードな展開。集中力を総動員して、ぎりぎりの勝利をつかんだ。イタリア人と握手したとき、汗がどっと噴き出したのを覚えている。

 

 ビリヤード自体楽しかったのだが、それ以上に印象に残ったのが、高さんが私の試合を見ながら、ギャラリーに向けて発した言葉である。

 「彼をご覧、球の狙い方が精密で丁寧だ。俺が今まで見てきたなかでも指折りだな。だいたい日本人ってのは慎重に決定し、丁寧に作業するんだ。日本の製品やサービスが高品質な訳が分かるってもんだ」

 私はこれを聞いて、痛いところを突かれたような気がした。激動の現代にあって、高さんが褒め称えた日本人の傾向は、むしろ裏目に出ていないか。

 

 

「10代にしてひとかどの人物!」

▲「10代にしてひとかどの人物!衣服販売で年収百万元」(南方都市報 2018年9月1日付 12面)

 

 中国には、リスクを恐れない圧倒的なスピードで、貪欲に夢を追う若者がいる(第3回の記事も参照)。そのサクセスストーリーは一瞬で知れ渡り、同世代の若者を刺激する。例えばこんなふうに。

 

10代にしてひとかどの人物!衣服販売で年収百万元

黄梦(ファン・メン)は2000年福建省生まれの18歳。困窮する家族を養うため、13歳から工場や理髪店で猛烈に働き、14歳でファッション用品のネットショップを始めた。転機は17歳。動画共有アプリのTik Tokに、クールで中性的なファッションスタイルを自身がモデルになって投稿。400万のファンを集めるやいなや、広州に一人飛び出してオンラインセレクトショップを開業した。黄梦のスタイルに合う服を揃え、月の売り上げは20万元(320万円)に達する。たった3人で切り盛りするセレクトショップは多忙だが、三日三晩ぶっ続けで働いたこともある黄梦にとっては何でもない。「次は実店舗を開きたい。我很年轻,失败了也能爬起来(まだ若いから、失敗してもまた這い上がれる)」。

 

 黄梦の、同世代とは思えないほどの才覚に、私は身震いしてしまったが、旅先で出会った人の中にも、黄梦のような野心溢れる起業家がいた。上海から大阪に帰るフェリーで、大学生だと思って声をかけたお兄さんは、なんと貿易会社の経営者だった。世界有数の卸売団地として有名な浙江省義烏(イーウー)で創業し、主に日本に玩具を輸出しているという。「今度中国に来るときは、義烏を見に来な!義烏で売っていないものは、世界のどこを探しても売っていない」と彼は豪語する。「関西のある会社が、わが社と高額契約を結んでくれたんだ!これから社長に挨拶に伺う。これを突破口に、日本への輸出量を激増させるんだ」手土産の紹興酒の瓶を握りしめながら、熱く語る姿が忘れられない。

 

 

中国に集まる外国人、外国へ飛び出す中国人

 

 チャイナ・パワーのもう一つの原動力は、挑戦の場を求めて中国に集まってくる外国人だ。その勢いはゴールドラッシュに近い。中でも、商業の都・上海/広州と、テクノロジーの都・深圳の吸引力が桁外れだ。たった数日の滞在でも、米国、アルゼンチン、イタリア、イラン、エジプト、韓国、セルビア、ドイツ、フランス、ロシアから来た人に出会った。セルビア出身の30代のエンジニアは、米Googleで働いていたが「もっとワクワクする仕事があるだろう」と前職を辞めて深圳に来た。「今日もスタートアップを一社訪問してきた。彼らは国外に打って出るために外国人の視点が欲しいんだ。あと何社かと話して、条件の良いところに転がり込むとしよう」

 山東省済南(ジーナン)にアルゼンチンから移住したフランチェスコは、オンライン英会話で教えて資金を蓄え、創業の機会を狙う。「英語教育熱のおかげで、外教(ワイジャオ;外国語(英語)教師)の待遇は驚くほど良いんだ。1日2時間働けば、飯を食っていける。外教になるのは簡単さ。僕なんか、母語はスペイン語なのに、欧米人の顔だからまあ良かろう、と採用された」。彼はなぜ中国に来たのか。「アルゼンチンは政治も、経済も、文化も、技術も、何もかも停滞している。スリリングな人生を送るために、スリリングな環境を探したら、ここだった」。

 

 外国へ出ていく中国人の流れも太い。第6回で登場した四川出身の大学生・科奇は、スペイン語科を卒業し、スペインの大学院に進学する直前だった。彼が教えてくれた事実は興味深い。「中国の大学が、スペイン語科とフランス語科を続々と新設している。この二つの人気は急上昇中なんだ。というのも、スペイン語科なら中南米、フランス語科ならアフリカに行けば必ず職がある。中国の政府機関や企業の現地通訳だけでも、膨大な空席がある。卒業生は引く手あまたさ。僕の同級生の中でも、若い間は中南米に行って稼いでくるという奴が多い。僕みたいにスペイン文学を研究するなんて、圧倒的マイノリティさ」

 

清末の中国に似ている平成の日本

 

 1840年のアヘン戦争から70年のうちに、中国は西欧列強によって半植民地状態にされてしまった。日本は明治維新を遂げ、列強の仲間入りに成功した。私の考えでは、一国の盛衰を決めるのは、能力のある人物が権力を持てるかどうかである。ここでいう能力とは、迅速に意思決定する能力を指す。当時の清朝では、科挙によって選ばれた官僚たちが実権を握っていた。ところが科挙の内容は、四書五経などの解釈に偏り、政務とは関係が薄かった。皇帝自らが受験者の人物を見極める殿試も形骸化していた。清朝には、内憂外患に迅速に対応できる人材が不足していたのである。一方日本では、坂本龍馬や勝海舟、岩崎弥太郎のように、内務、外交、貿易に長けた人材が実権を握り、近代化の事業を次々と実行していった。

 

 いま、日中の形勢は逆転しているように見える。政界に注目しよう。共産党の指導層は、実力・成果ベースの熾烈な権力闘争を勝ち抜いてきた。日本の閣僚は、選挙の当選回数の多い政治家から選ばれるが、実力・成果が選挙の当選回数に比例するかどうかは疑問だ。経済界はどうだろうか。中国の経済界のリーダーは、アリババの馬雲氏やテンセントの馬化騰氏に象徴されるように、しばしば年齢が若く、自身が創業者で、市場での競争を勝ち抜いてきた。そのあとには、黄梦や貿易会社のお兄さんのような貪欲な起業家が星の数ほど続くだろう。一方、日本の経済界のリーダーの多くは、終身雇用・年功序列制のもとでトップに上り詰めた60代。日本型のリーダーが経験してきたのは、基本的に会社内での競争である。彼らは今までずっとサラリーマンとして働いてきたのに、いきなり経営を任される、とも言える。若者たちも、新卒一括採用というレールの上で「キャリア設計」を立てがちだ。

 

 中国型リーダーと日本型リーダーの、意思決定のスピード差は、冷戦終結後の激動の30年で、中国の発展と日本の停滞をもたらした。平成の次の時代を担う私たち若者は、あのスピード感を逆輸入する必要がある。

 

 日本から海一つ挟んだ向こう側に、これほどスピード感の違う世界がある。東京大学の同級生たちにそう伝えたい一心で、筆を進めてきた。19歳という若さだからこそ、会えた人、行けた場所、聞けた話。7回の連載にぎゅうぎゅうに盛り込んだつもりだ。

 

連載を終えて

▲「19歳が見た中国」執筆にあたって、アイデアを書き出した黒板

 

 「19歳が見た中国」を最後まで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございました!連載を重ねるたびに直接感想を伝えてくれた皆様には、特に感謝しています。この連載を機に、春休みに中国に行くと決めた友人もいて、反響の大きさに改めて驚いています。

 中国での3週間は「話す相手も行く場所も100%自分の創意工夫で組み立てた、自分のための『研修』」と第一回の記事では述べましたが、実際には多くの方の手助けがあったからこそ実現できたものです。TLP中国語で教わった阿古智子先生(総合文化研究科・准教授)と王前先生(同前・特任准教授)は、私たち駒場の学生が中国の優秀な学生と交流できる場を精力的に作ってくださいました。中国語一列で教わった相原まり子先生(同前・講師)と中学時代の中国語の恩師である徐静先生(長崎県)は、出発前に中国滞在の実践的なアドバイスをくださいました。TLPで教わった白佐立先生(総合文化研究科・特任准教授)は、帰国後に私の体験談を頷きながら聞いてくださり、「19歳が見た中国」をまとめていくうえでのヒントをくださいました。お礼申し上げます。

 復旦大学、中山大学、深圳大学、武漢大学の学生の皆さんには、観光客として通り過ぎるだけでは見えない「内部事情」をたくさん教えてもらいました。彼らは私のつたない中国語を熱心に聞き、分かりやすい言葉で話してくれました。シェアバイクに乗せてくれたり、おいしいご飯の在り処を教えてくれたりと、旅先でのいろいろな便宜も図ってくれました。感謝しています。皆さんのうち何名かには「声付きで」記事に登場してもらいました。

 本連載に触発されて、「○○歳が見た○○」が無数に生まれ、シェアされることを願っています。

 

文・写真 松藤圭亮 (理Ⅰ・2年)

 

【19歳が見た中国(全7回)】

①フェリーに乗って、ぶっつけ本番中国語

②学校の近くに、安くてうまい飯あり

③石橋を「叩く前に」渡る

④爆走出前バイクに見る「超級」便利社会の裏側

⑤字は書けなくても、スマホは使いこなす ~テクノロジーの都・深圳へ~

⑥大学生、世代差、対日観、党

【受験生応援2019】現役東大生が語るロシア語学習

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  3月10日(日)の合格発表後、11日(月)から15日(金)の間に合格者は入学手続きを行います。その際に書類へ記入する外国語によって所属するクラスが決まります。学生生活を大きく左右する要因になる外国語選択に役立つ情報をお伝えします。今回は、実際に履修した現役東大生によるロシア語の紹介です。


 ロシア語の学習は「Я(ヤー)」「Ц(ツェー)」「Г(ゲー)」といった、見慣れないキリル文字を学ぶことから始まります。ただでさえキリル文字は覚えにくいのに、「С(エス)」「Н(エヌ)」「Р(エル)」といったアルファベットと同じ形なのに発音が違う文字もあるので大変です。さらに、ロシアでは筆記体を使うのが当たり前ということもあり、ブロック体と筆記体を同時に覚えていく必要があります。

 

 単語を覚えるのも一苦労です。英語にない格変化という概念が文法を学ぶ上で大きな難関。格変化とは、いわば日本語の格助詞の役割を単語の語尾で代替すること。例えば「父」を意味する「отец(アツェッツ)」という単語を「父の」という所有の意味にしたいときには「отца(アッツァ)」、「父に」という間接目的語を表したいときは「отцу(アッツゥ)」と変化させます。

 

 ただ、決してロシア語は難しいことばかりではありません。語順は比較的自由で文を作りやすいので、作文は比較的早く上達することでしょう。また、冠詞という概念がないので、英語を学ぶ上で厄介な「a」と「the」の使い分けのような難しさがないのも特徴です。

 

 日本の隣国でありながら、ロシアのイメージを抱きにくいという人も多いのではないのでしょうか。ロシア語を学ぶことは、ロシアの文化を学ぶことになります。ネイティブの先生が語るロシアの生活や文化の話は、驚かされることばかり。例えば、ロシアでは結婚するのが早い人が多く、学生結婚も多いという話にびっくりしました! 記者はもともとロシア文学に興味があってロシア語を選択しましたが、原著を読めるようになること以上に、毎授業での気付きを楽しんでいた気がします。

 

 ロシア語クラスは、文系理系ともに特徴的な人が集まるといわれています。マニアックな言語なだけあって、クラスには確かに面白い人が多い気がします。人と違うことがしたい、何かに挑戦したいという人は、ぜひロシア語を第二外国語に選んでみてはいかがでしょうか。

(文Ⅰ・1年=当時)

 

※この記事は、2017年公開の東大新聞オンライン記事からの転載です。

【受験生応援2019】現役東大生が語るイタリア語学習

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  3月10日(日)の合格発表後、11日(月)から15日(金)の間に合格者は入学手続きを行います。その際に書類へ記入する外国語によって所属するクラスが決まります。学生生活を大きく左右する要因になる外国語選択に役立つ情報をお伝えします。今回は、実際に履修した現役東大生によるイタリア語の紹介です。


 イタリア語は、第二外国語として採用されてから今年で10周年を迎える、東大の第二外国語の中では最も新しい言語です。イタリア語が通じる国はイタリアとスイスの一部などのごく狭い範囲に限定されますが、ルネサンスを生み出し、近代欧州の基礎を作ったのはイタリア。オペラや『神曲』などの名作や豊かな文化を原語で味わうのが、イタリア語の醍醐味(だいごみ)の一つです。

 

 とはいえ、言語の習得には得てして時間がかかります。それはどの言語を選んでも同じことですが、イタリア語の場合、習得の上で最大のハードルは文法です。日本人にとって、欧州言語の動詞の活用変化は難解そのもの。主語が一人称単数と二人称複数では同じ動詞の活用形が変わってしまいますし、英語では過去形・過去分詞・現在分詞しかパターンがない動詞の活用が、直説法現在・直説法半過去・直説法遠過去・命令法現在……と山ほどあります。どの欧州言語を学ぶときにも避けては通れない道ですが、ここで挫折するとイタリア語を理解するのはかなり苦しくなります。僕はまだ、古典を原著で読むだけの文法力がありません……(笑)。

 

 逆に、発音は簡単です。日本人が発音しにくいのはrの巻き舌だけで、基本的にはローマ字読みで問題ありません(そもそもローマ字の「ローマ」はイタリアの首都なので当然と言えば当然ですが……)。英語のように、同じアルファベットの並びでも単語によって発音が違う、なんてことも無いので、文法と単語さえ覚えればイタリア語の勉強の9割は終わり、くらいの感覚です。そのためしっかり勉強すれば会話の習得は早く、1年の夏休みからイタリアに旅行し、現地の人とイタリア語でコミュニケーションしていたクラスメートもいます。

 

 履修者数は他の言語に比べると少ないですが、履修者の実態は多様です。イタリアの文学や歴史に興味がある人、オペラが好きな人、イタリアのサッカーチームを愛する人、「単位が取りやすい」という評判を聞きつけて選んだ人……。理由はさまざまですが明確な意思を持ってイタリア語を選んだ人が多く、クラスメートはみな個性豊かです。

 

 多彩な文化と陽気な国民に彩られた国、イタリア。イタリア語で、その魅力に触れてみませんか?

(文Ⅲ・1年=当時)

 

※この記事は、2017年公開の東大新聞オンライン記事からの転載です。

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