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中国人記者が見た日中文化の違い 同じ源流それぞれの進化

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 日本と中国は一衣帯水の隣国だ。しかし伝統的な祝祭や食文化、民族構成などは大きく異なり、共通の文字である漢字についても、両国それぞれの特色が見られる。今回は、中国出身の記者が日本に来て感じた、日中文化の共通点や相違点をまとめた。

(構成:劉妍)

 

日本の中華料理は「和風」

 

料理に映る日中の文化

 

 まず、正月と端午の節句という伝統的な祝祭日を例に挙げる。日本では正月を祝う一方、中国では旧暦に基づき旧正月(春節)を祝う。旧暦であるため、春節の日付は毎年異なる。中国の春節には、真っ赤なちょうちんがあちこちに吊るされ(図1)、真っ赤な春聯や逆さまの「福」という文字が家々の窓や扉に貼られる。春聯とは、春節用の対となったおめでたい文句を書いた紙。逆さまの「福」は「倒福」と呼ばれ、逆さまを意味する「倒」と到着を意味する「到」の発音が同じことから、福が到着するということを表している。

 

(図1)中国・旧正月のちょうちん風景

 

 さらに中国の北方では、大みそかの夜、一家で歓談しながら水餃子を食べるのが伝統。対して南方では春巻きが大みそかに欠かせない食べ物となっている。

 

 端午の節句は、日本では新暦の5月5日に男の子の健やかな成長を祝う「こどもの日」だが、旧暦の中国では新暦より約1カ月遅れる6月に当たる。無病息災を祈念する日として認識され、ちまきを食べる他、邪気や害虫を駆除できるとされるヨモギを家の扉や窓に飾ったり、赛龙舟と呼ばれるドラゴンボートレースが開催されたりする。

 

 食文化について、餃子といえば日本では焼き餃子が主流だが、中国では水餃子が一般的だ。食べ残した水餃子は翌日焼かれることが多い。中国では水餃子を主食として食べるが、日本ではサイドメニューとして食べる点も対照的だ。中国の餃子は決められた具材がなく、個人の好みでニンジン・トウモロコシなどの野菜とキノコ類、肉類(牛・羊・豚など)を組み合わせる。調味料は、黒酢やラー油、ごま油、ニンニクの粉末、しょうゆなど。酢といえば日本では白酢が主流だが、中国の水餃子や鍋料理では黒酢が一般的だ。

 

 記者が日本に来て一番驚いたのは「お冷や文化」だ。中国ではほとんど全ての店が白湯を提供する。温かい飲み物は体の新陳代謝や胃の調子に良いとされるためだ。また日本では、中国には無い中華丼や冷やし中華といった中華料理が食べられていることにも気が付いた。中国ではあんかけご飯という料理はあるが、かける具材は特定されておらず、地域や個人の好みによって異なる。こうしたことから、中国と日本の中華料理は同じ源流を持つが、調味料や作り方が異なりそれぞれの風味を持っているといえよう。

 

 民族構成では、日本は少数民族の種類が比較的少ない一方、中国では壮族・回族などといった55の少数民族で人口が約1億2千万人にも達する。そのため、イスラム教徒である回族の食生活を配慮してほとんど全ての大学にハラール食堂が設置されているなど、各少数民族の文化は各所で尊重されている。

 

字の意味分かれど辞書必須?

 

実は多様な漢字の世界

         

 漢字は日中共通で用いられる文字だが、漢字と一口にいっても、現代の漢字は繁体字や簡体字、日本語常用漢字で構成されると考えられる(図2)

 

(図2)現代漢字の分類

 

 中国語繁体字である「圖書館」を例にとると、簡体字では「图书馆」、日本語の常用漢字では「図書館」とそれぞれ記される。日中はいずれも識字率の向上を図るため、書きやすい文字への簡略化に踏み出したが、同時に象形文字としての意味合いは薄れていった。さらに、日本語常用漢字の中には「峠」や「辻」といった、中国語に無い日本語国字も存在する。

 

 記者が日本語の勉強で難しいと感じたのは「同形異義語」だ。例えば、中国語で「先生」は男性に対して「○○さん」という意味で使われ、日本語の特定の職業に対する呼称と異なる。「愛人」という日本語は、中国語では「愛している人」という語意から配偶者を指す。日本語の「愛人」に当たる中国語は「第三者」という表現で、日本語の「第三者」は「第三方」という中国語に当たる。他にも、「勉強」は中国語で「無理して何かを行う」という意味。「強」という文字の書き方も微妙に異なり、簡体字では右上の部分が「口」である「强」となる。

 

 さらに、日中で形も意味もほぼ同じ「重用」や「健康」といった言葉も存在する。その一方で、日中いずれかでしか用いられない表現も。徹夜して仕事や勉強を行うという意味の「開夜車」は日本語に無く、「注文」という漢字の組み合わせは中国語に無い。中国だけで使われる表現としては、他に、料理を注文するという意味の「点菜」や、荷物を注文するという意味の「订购」などが挙げられる。

 

 さらに、日本語の「良妻賢母」という漢字表現は、語順が変化した「賢妻良母」として中国語に存在。日本語の「平和」は中国語では「和平」と表されるなど、文字の並び方にも注意が必要だ。助数詞の使い方も異なり、「本」は中国で書籍や雑誌を数える時に使われるが、日本では主に細長い物を数える時に使用される。中国語の「畳」は畳を数える時に「枚」と同じ意味で使われ、日本語の「畳」は音訳されてタタミという発音の「榻榻米」という漢字で表現される。

 

 以上のように、日本と中国の漢字表現は共通点もあれば相違点もあり、単純に区別することが難しい。記者は日本に来てから、漢字を母国語の意味で判断するのではなく、辞書で毎回確認する習慣を身に付けた。漢字や漢字表現は、日中それぞれの発展を遂げたことがうかがえよう。


この記事は2019年6月25日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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【東大最前線】 細胞若返りの機構解明に期待 rDNAの移動が明らかに

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 生物を構成する基本となる細胞内部の機能はまだ分からないことが多いが、少しずつ解明が進んでいる。堀籠智洋助教、小林武彦教授(定量生命科学研究所)らは、細胞内の遺伝子の一つ、リボソームRNA遺伝子(rDNA)のDNA配列に損傷が起きると、修復作用のある核膜孔という部位まで移動することを明らかにした。

 

 リボソームは遺伝情報を基にタンパク質を合成する細胞小器官だ。リボソームの構成因子であるリボソームRNAはrDNAの塩基配列を基に合成される。しかし、rDNAは同じ配列が繰り返される構造をとるため、DNA複製の過程で損傷しやすい。rDNAの損傷はゲノム全体の不安定化を導くことから、適切に修復される必要がある。修復の機構としては大きく分けて、損傷したrDNAが修復される部位まで移動するモデルと、修復作用のある因子が損傷したrDNAへ運ばれるモデルが考えられていたが、それを解明した研究はなかった。

(図1)rDNAの移動、修復の模式図

 

 今回堀籠助教らは、酵母を使って損傷したrDNAの挙動を顕微鏡で分析。DNAを修復する働きのある核膜孔まで移動することを突き止めた(図1、2)。「まるで患者さんが病院に行き、治療してもらうようだと思いました」と堀籠助教は話す。移動の仕組みとしては、損傷部位が振動することで徐々に移動するモデルが有力だと考えられるという。「損傷したrDNAは直接核膜孔へ向かうのではなく、不規則な運動でたまたま核膜孔に近付いた際に強く引き寄せられるようです」

(図2)DNA二本鎖切断を受けたrDNAが核膜へ移動する様子

 

 堀籠助教は博士研究員の頃から細胞内での損傷したDNAの動きの研究に取り組んでいた。「中でも自然に損傷しやすいrDNAが最も重要な研究対象でしたが、人為的なDNA損傷を見る解析よりもrDNAでの損傷には実験的な困難が多くあります」。それ故、損傷していないDNAを洗い流す処理を特に入念に行うなど工夫した。

 

 今回の研究成果には、顕微鏡技術の発達が大きく貢献したという。従来は酵母をすりつぶして電気泳動したり固定した細胞を染色して観察する、言わばスナップショット法で挙動を知る研究しかできなかった。しかし「顕微鏡でDNAの挙動が生きたまま観察可能になり、移動する場所、所要時間、タンパク質の量など多くの情報がひと目で分かります」と堀籠助教は語る。

(図3)酵母が出芽する際のrDNAの移動

 「今回の発見は、細胞の若返りの機構解明に役立つと考えています」と堀籠助教。rDNAの損傷の有無は、細胞自体の寿命と強く関係することが知られている。酵母は母細胞から娘細胞が分裂する出芽という不均等な分裂によって増えるが、その際に損傷した不安定なrDNAが母細胞に残り、損傷のない安定したrDNAが娘細胞に受け継がれる(図3)。その後、娘細胞は母細胞より長く生き続ける。「出芽の際に安定したrDNAが選択的に引き寄せられる仕組みの基礎が今回明らかになったといえるでしょう」と小林教授は自信を見せた。今後は生きた細胞が分裂する際のrDNAの挙動を顕微鏡で直接観察し、細胞の若返りの可視化を目指すという。(小原寛士、研究に関する画像は小林教授提供

 

堀籠 智洋(ほりごめ・ちひろ)助教 (定量生命科学研究所)

08年広島大学大学院博士課程修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員などを経て、15年より現職。

小林 武彦(こばやし たけひこ)教授 (定量生命科学研究所)

92年九州大学大学院博士課程修了。博士(理学)。国立遺伝学研究所教授などを経て、15年より現職。


この記事は、2019年7月9日号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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東大最前線:rDNAの移動 堀籠智洋助教、小林武彦教授(定量生命科学研究所)
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出版甲子園の熱気に迫る 一筆入魂で大舞台へ

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 夏といえば甲子園だが「出版甲子園」はご存知だろうか。学生が出版企画を競う大会で、昨年の第14回大会では谷政一郎さん(理I・2年)が優勝し『東大パズル王 世界でいちばんアツいパズル』(KADOKAWA)を出版した。書籍離れが叫ばれる世の中、出版甲子園はどんな理念で開かれているのか。今年の第15回大会の実行委員長である学生の石井七海さんと、谷さんに話を聞いた。

(聞き手・加藤さえ)

 

運営側ー37本の「ヒット」の実績

 

第15回出版甲子園実行委員長の石井七海さん

 

 

 出版甲子園では、1年間かけて企画の募集・審査を段階的に行い、決勝大会ではプレゼンテーションを課します。小説や漫画に比べ、著者のキャリアや知名度が重視されてハードルが高くなりがちな実用書・エンターテインメント本・エッセー本を、学生が商業出版できるように応援するのが最終目的です。

 

 出版甲子園を通して、これまでに37冊もの本が出版されました。日本の医大生がカンボジアに学校や病院を建てる様子を描いた『マジでガチなボランティア』(講談社)は映画化もされました。人間の恋愛を虫の交尾生態に例え、分類した『恋する昆虫図鑑』(文藝春秋)は、著者がタレントということもありSNSで話題になりました。 

 

 応募から決勝までの流れ(表)を説明しますと、6月後半が締め切りの一次審査で企画の概要を提出してもらいます。不備がないか確認し、出版甲子園側から改善案も送ります。その後8月ごろが締め切りの二次審査で、購買層が存在しているか、自己アピールができているか、企画書に伴った経験が企画者にあるかをチェックします。二次審査を通った企画にはそれぞれ担当者が付き、企画のブラッシュアップを手伝います。

 

出版甲子園のウェブサイトを基に東京大学新聞社が作成

 

 10月にある三次審査では企画書も見つつ、決勝と同様にプレゼンを行い、決勝大会に進出する企画者を決定します。その後企画者は担当者と共にプレゼンを練習し、決勝大会に臨みます。例年、決勝大会の審査員には出版社の編集者の方や、書店員の方をお呼びして、著名な方をお招きすることもあります。決勝大会では一般の方も観覧することが可能で、これは10月ごろから募集しています。

 

 二次審査を通過した作品は漏れなく出版社の編集者の方に見てもらえる仕組みで、出版に至る機会・可能性があります。決勝大会に進んだ方に関しては、審査員の方に審査の紙とは別にオファーシートをお配りしているので、良い企画はオファーをもらえるようになっています。その後、運営側は出版社と企画者の間に入り、出版をサポートします。出版甲子園は「学生の、学生による、学生のための」団体だからこそ、学生である企画者の気持ちに寄り添ってサポートができると自負しています。

 

 本の出版は、キャリアの少ない学生にはハードルが高いかもしれません。特別な経験が必要なのでは、と懸念する人もいると思います。確かに企画によっては専門的なキャリアが大事になることもありますが、自身の経験を基に出版にこぎ着けることも可能です。 

 

 強みがない凡人の学生に向けた就活方法をまとめた 『凡人内定戦略』(中経出版)といった、本人のキャリアを必要としない企画の例があるように、就職活動やボランティア活動といった学生に身近なテーマでの執筆も有力な選択肢でしょう。もちろんそれ以外のテ ーマでも、自分の熱意を本にしたい、という情熱がある方からの応募をお待ちしています。

 

出場者ーパズルとドラマを融合

 

第14回大会で優勝した谷政一郎さん(理Ⅰ・2年)

 

 出版甲子園に応募したのは、本当に軽い気持ちからでした。パズルは難しいものという印象を持たれがちで、出版甲子園に出場する前から、もっとその楽しさを多くに人に知ってもらいたいという気持ちがありました。そんな折、出版甲子園のビラを見つけて、応募しました。

 

 審査を経ていくうちに、既存のパズル本の弱みについてより深く考えるようになりましたね。中でも大会の三次審査では、キャンプや料理本、和装など、ビジュアル的に映える企画が多かったです。なので、一見ただ難しいだけに見えてしまうパズルの良さを購買層にどう伝えるか、審査員にアピールするのが大変でした。

 

 決勝大会では「パズルはストーリーだ」ということを強調しました。機械的に問題が作られる既存のパズル本では問題と答えが一対一で対応していて、ただ答えを出す作業を楽しむようなものも多いと思います。もちろんそういったパズルにも魅力はありますが、僕は他の魅力でも人々を楽しませたかった。解答者が答えを導く過程の中に、出題者が用意した「しかけ」を楽しめるような、ドラマ性のある楽しみも可能なパズル本が、パズル業界には必要だと訴えました。

 

 実際に本を出すまでに一番大変だったのはデザインでしたね。既存のパズル本の白黒で単調なイメージを変えたいという思いがあったので、本全体を赤と青の2色刷りにした他、一つ一つのパズルのフォントや配置も全部こだわりました。もちろん中身にもこだわっていて、本の最初から解けば答えに意外性を味わえるような順序に調整するなど、いろいろな「しかけ」を詰めました。昔読んで印象深かった詰め将棋の本からヒントを得て、パズルごとに独自の人情味のあるタイトルを付けました。

 

 出版甲子園、本の出版を通して、コンテンツ自体の魅力や、東大生であることは大事だったと思います。 ただ、一番大事なのは情熱ですね。こういう本を出したいという情熱を持ち続けることで、出版甲子園でもきっと良い評価が得られるでしょう。


この記事は2019年7月9日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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本人の意思に潜む罠 「尊厳死」を再考する

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 7月3日総務省消防庁の検討部会が、心肺停止に陥った患者のかかりつけ医の判断で、救急隊の蘇生措置中止を認める方針をまとめた。「自宅で最期を迎えたい」「延命治療はしないで」といった声がある中、いわゆる尊厳死の是非や人の死の在り方、自己決定の功罪について検討する。

(取材・安保茂)

 

自己決定権の危うさ

 

小松 美彦(こまつ よしひこ)教授
(人文社会系研究科)
 89年理学系研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。東京海洋大学教授などを経て18年より現職。

 

 安楽死はその方法によって三つに区別される(表)。日本で尊厳死と呼ばれがちなものは、このうち「消極的安楽死」を指す。小松美彦教授(人文社会系研究科)は日本で「尊厳死」という語がこのように使われるのは、安楽死推進派市民団体の政治戦略の影響があると指摘。「安楽死を推進するに当たり当面は消極的安楽死に限定し、聞こえが穏やかな尊厳死と呼ぶようになり、それをメディアが踏襲したのです」

 

 

 治療の続行より死を選択する点で共通する安楽死と尊厳死だが、両者の違いは何か。安楽死と尊厳死は元来、動機が苦痛から逃れる「安楽」志向か、尊厳を奪われた惨めな状態から逃れる「尊厳」志向かの違いがある。動機が尊厳に根差していれば、医師による自殺幇助も積極的安楽死も「尊厳死」といえるため「いくらでも範囲が拡大し得る」と小松教授は語る。

 

 しかも現在、日本では「安楽死」「尊厳死」という語はあまり使われない傾向にある。2000年以降消極的安楽死(日本での尊厳死、以下尊厳死)は次第に「終末期医療」という語に置き換わった。そして現政府は終末期医療を「人生の最終段階における医療・ケア」と呼び経済財政政策の一環に位置付ける。小松教授は「終末期医療」は実質的に終末期に治療をしないことを意味し、従来の安楽死・尊厳死と同義だと指摘。政府による「人生の最終段階における医療・ケア」の普及活動は事実上安楽死・尊厳死の推進に当たるという。「本人らが真剣に延命治療中止を判断しても、政府からすれば医療費・社会保障費削減の一こまにすぎません」

 

 厚生労働省発表のガイドラインの変化(図1)も注意すべきだ。「本人に代わるものとして」の文言が加わり本人の自己決定による場合の他、家族らが代理人として決定し得ることを制度化している。さらに「家族」が介護施設職員などをも含む「家族等」に変わり、「治療方針」が必ずしも治療を前提としない「方針」へ。他にも「患者」が傷病者以外も含む「本人」へ置き換わるなど、尊厳死の対象を拡大する意図が見て取れると小松教授は述べる。

 

 

 安楽死・尊厳死の根底にある「自己決定権」についても検討が必要だ。小松教授は自己決定権を「死への誘導装置」だとし、ナチスの優生政策が「本人の明確な要請」と要請能力がない場合の「代理決定」に基づいて行われたと分析。さらに「本来死は死にゆく人と看取る人との関係性の中にあるが、自己決定権はその関係性を捨象した上で成立する概念だ」と自己決定権によって死を選ぶことの限界を指摘する。

 

現場に残された課題

 

米村滋人(よねむら・しげと)教授
(法学政治学研究科、医師)
 00年医学部卒。04年法学政治学研究科修士課程修了。修士(法学)。東北大学准教授、法学政治学研究科准教授などを経て17年より現職。

 

 本人が望まなければ延命治療を中止する、という考え方は一般論では間違っていない。しかし実際の医療現場で尊厳死を運用するとなると、医療関係者と患者の両方からの問題がある、と米村滋人教授(法学政治学研究科)は述べる。

 

 がん末期の高齢者が肺炎にかかった場合、肺炎はがんと別の原因から生じることが多いため、医師は治療を試みる。その患者が治療を望まないとしたら、医師は合法的に治療を中止できるのか。「医療関係者の立場からすると、個別具体的に目の前で起きていることが尊厳死に当たるか否かを判断するのは難しい」と米村教授。一方、本人は延命治療を希望していても、家族の経済事情など別の要素を考慮して患者が延命治療を望まない意思表示をすることもあり得る、という懸念も根強い。

 

 日本の法律では本人が示した意思に沿っているからといって、治療の中止が許されるわけではない。米村教授は、どのような客観的条件があれば生命短縮が許されるのかうまく説明できていない、と尊厳死法制化の課題を分析。「今までの議論は尊厳死の正当化に当たって、本人の自己決定に寄り掛かり過ぎていた。日本では本人が希望しても殺人行為は犯罪(嘱託殺人罪)ですが、これとの区別が不明確になっています」

 

 終末期という語の定義も難しい。米村教授によれば終末期の迎え方は4パターンあるという(図2)。従来の議論はがん末期などの①を念頭に置いており、このパターンでは比較的終末期の判断はしやすい。しかし③であれば、症状が悪化した段階では治せる可能性も患者が死亡する可能性もあり、判断が極めて難しいと米村教授は語る。

 

 

 

 現行制度では、一度人工呼吸器を付けてから取り外すのは作為の殺人罪に当たる可能性がある一方、初めから人工呼吸器を付けなければ罪に問われない傾向にある。刑事責任を恐れる医師たちは、症状が悪化した際治る可能性が残っていても治療を開始しないケースが多いという。米村教授は「治る可能性が少しでもあればそれを追求するのが医療のあるべき姿。回復の見込みがないと分かった時点で、本人・家族の意向に沿い治療を中止できるようにすべき」と、柔軟な制度の必要を訴える。

 

 生死に関わる尊厳死を巡る問題は世間的に関心が高いはずだが、現状の議論に参加しているのは一部の人に限られている。米村教授は、その少数の人が見てきた医療や法律問題だけが議論の前提とされていると指摘。「実際にはモデルケースのように単純な場合だけではないので、決め打ちで考えるのは不適切です。幅広い人が加わり、いろいろな場面を想定して制度を議論する必要があります」

 

終末期への過程に目を

 

西村 ユミ(にしむら・ゆみ)教授
(首都大学東京)
 00年日本赤十字看護大学博士後期課程修了。博士(看護学)。大阪大学准教授などを経て12年より現職。

 

 尊厳死を巡る議論の問題は「病気で苦しくなったら」「自分で判断できなくなったら」など最終局面を過大に捉えている点だと西村ユミ教授(首都大学東京)は語る。患者の痛みを和らげたり心理的負担を減らしたりして患者をサポートする看護学の立場からは、終末期に至る過程を最重視すべきだという。実際、健康な時に延命治療を拒否していた人が重病にかかった場合、病気が進行していく中で「やはり生きていたい」と思うようになるケースがある。「『終末期にこうなったら尊厳死を認めてほしい』という発想は、終末期に至る過程の重要性を見落としていると思います」

 

 なぜ闘病の中で終末期を巡る価値観や気持ちが変わり得るのか。西村教授は、関係者による途切れることのない丁寧な関わりや経済的支援などの社会資源を要因に挙げる。本人の家族だけでなく、思ってもみなかったさまざまな人に力を借りることで、情報や感情を共有できるコミュニティーが広がる。西村教授は「本人の家族以外のいろいろな人に助けられながら生きるのも選択肢」だと述べる。

 

 「依存」というとどこか悪いイメージがあるかもしれない。だが健康な人でも、完全に一から食事を作ったり情報を集めたりできるわけではなく、生きている以上常に誰かに依存していると西村教授は指摘。「依存の度合いが増えるだけと考えれば、終末期だからといって簡単に死を選ぶことはないはずです」


この記事は2019年7月16日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:文Ⅰ→法また過去最低 進学選択志望集計 理Ⅰ→工はV字回復
ニュース:自由こそ駒場流 教養学部創立70周年記念シンポ
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企画:東大スポーツ 2019春を総括
新研究科長に聞く:⑦教育学研究科 秋田喜代美教授
サーギル博士と歩く東大キャンパス:③駒場Ⅰキャンパス1号館
キャンパスガイ:髙橋昂汰さん(文Ⅱ・2年)

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【東大新聞オンラインPICK UP】〜研究編〜 興味の数だけ広がる世界

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 年に一度、東大が全学部の研究内容を公開し、東大を目指す人に学生や教員と交流する機会を大々的に提供するオープンキャンパス。普段なかなか知ることのできない世界を味わえるこの2日間に、特別な関心や期待を寄せる人も多いだろう。そこで今回は、東大新聞オンラインで過去に公開された記事の中から、東大の興味深い研究に関するものを多分野にわたって紹介する。気になる記事はぜひ本文を読んでみてほしい。

 

 まずは東大ならではともいえる、その道の「第一人者」の研究だ。記事「【東大教員からのメッセージ】河合祥一郎教授インタビュー 現場から入ったシェイクスピアの研究」では、シェイクスピア研究で活躍する河合祥一郎教授(総合文化研究科)に、自身の研究や東大を目指す高校生へのエールを寄せてもらった。友人たちと文学研究会を立ち上げるなど、高校時代から文学や演劇に熱中したという河合教授。大学に入ると、演劇や劇場での英語の通訳を通してさらに演劇の世界にのめり込んだ。自分の純粋な興味がどのような経緯で学術的な関心へと発展したのか、実践的な経験と研究がどのように関連しているのか。現在の研究内容も交えながら自身の研究の道のりを明かす言葉からは「自分の好きなこと」を探究する極意を知ることができる。

 

 「学際性」も東大のレベルの高さや自由さ故の大きな魅力。記事「【東大教員からのメッセージ】鄭雄一教授インタビュー 工学からひもとく道徳の構造」は、学際性という観点から東大の強みに焦点を当てる。骨を研究する「骨博士」として有名な鄭雄一教授(工学系研究科・医学系研究科)は、細胞を使い、欠損した組織を補う組織工学を研究。さらに工学の研究から獲得した視座を応用し、道徳の構造のモデル化にも取り組む。文理の枠にとらわれず幅広く知識を吸収したという鄭教授が、「道徳」をキーワードに異分野融合の醍醐味(だいごみ)を語る。

 

 現代社会の問題に学問的知見から切り込む研究も。記事「表象文化論の専門家・田中純教授インタビュー 情動の政治利用を暴け」は、SNSでの意見の分裂など、さまざま

 

な表現に潜む情動と政治性の関係への気付きを提供する。表象文化論が専門の田中純教授(総合文化研究科)は、芸術表現の内容や制作に至る時代背景や経緯などを多面的に考察。例えば、ドイツのナチズムについて。ナチ体制は「伝統」の名において中世ドイツや古代ギリシャの文化を自らの権力の根拠付けに利用したが、それは人々にはるか昔から価値を持つものという印象を与える、と田中教授は指摘。表現に含まれるそれらの意図や政治的な背景に惑わされない態度へと議論を発展させる。

 

 記事「西成活裕教授インタビュー 渋滞学・無駄学の第一人者に聞く 流れを見渡す重要性」は独創性あふれる研究の過程を紹介。もともとは航空宇宙工学を専攻していた西成活裕教授(先端科学技術研究センター)。修士課程2年生の時に転機が訪れ、最終的に渋滞の仕組みを学術的に解明しようと決心した。現在はその知見を生かして東京オリンピック・パラリンピックの委員としても活躍。どのような経緯で、それまで誰も対象としていなかった「渋滞」を研究しようと思ったのか、研究者としてのモットーは何なのか。西成教授の学生時代を追いながら、独創性の源に迫る。

 

 学問の対象に限界はない、と言っても過言ではない。記事「『初音ミク』10周年 知れば知るほど奥深いボカロの世界」で紹介される通称「ぱてゼミ」は学生からの人気も高い。東大卒で初のボカロP・音楽評論家としても活躍している鮎川ぱてさん(教養学部非常勤講師・先端科学技術研究センター協力研究員)がボカロを多面的に分析。ジェンダー論や記号論、精神分析を用いてボカロの隆盛を研究している。ツイッターを使った講義の実況を認めるなど、斬新な授業スタイルも話題。前衛的な研究の存在は、東大の知の豊かさを象徴しているといえよう。関連記事「初音ミクでエンタメはどう変わったのか? 東京大学初のボカロPによるゼミに迫る」もお薦めだ。

 「東大新聞オンラインPICK UP」は東大新聞オンラインに掲載された過去の記事から、特定のテーマに沿ったお薦めの記事を紹介するコーナーです。

 

【東大新聞オンラインPICK UP】

【東大新聞オンラインPICK UP】〜恋愛編〜 バレンタインデーに備えて

【東大新聞オンラインPICK UP】〜留学編〜 心機一転のチャレンジを

 

研究と実社会で示す存在感 知られざる「地学」の魅力に迫る

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 地震、火山災害の頻発などで地球科学分野の社会的な重要性が増している。また、はやぶさ2の開発などを背景に宇宙科学分野への関心も高まっているといえるだろう。このように地球、宇宙を軸とした科学を学ぶのが「地学」という科目だが、履修する高校生は理科の他科目より少ない。今までに「地学」をあまり学べなかったと感じている学生もいるのでは。本企画では東大教員2人に取材し、研究と教育の両面から「地学」の魅力を探る。

(取材・小原寛士)

 

研究面 「夢の追求」と「社会貢献」を両立

 

 高校時代に理科4科目の中で物理、化学、生物は受講したが地学の授業は受けなかったという読者もいるだろう。大学入試センター試験への理科基礎科目の導入により増加したものの、高校の「地学基礎」の教科書採択数は「生物基礎」の3分の1未満。センター試験での選択者数も他の科目を下回り、主に理系が選択する専門科目では特に少なくなっている(図)。地学は他の科目に比べて学ばれていないといえるだろう。

 高校の「地学」は地質学、大気環境学、天文学など地球、宇宙を対象としたさまざまな学問領域を含む。今回は地球環境中での物質の挙動を扱う地球化学が専門の高橋嘉夫教授(理学系研究科)に話を聞いた。

 

 高橋教授は地学が高校で学ばれていないことは、この分野の裾野を広げる上で問題だと認識している一方で「地学は物理、化学、生物を基礎に成り立つ分野なので、独立して教育がなされる必要性は必ずしも感じていません」と語る。ただ、高校で教えられないことで他分野より軽視される恐れはあるため、その重要性を訴える必要はあるという。「地震・火山や気候・環境・資源問題を扱う地学は、21世紀で最も重要な科学分野の一つだと思っています。ただ名前が悪く、その広がりを表現するには『地球惑星科学』と呼ぶべきかもしれません」

 

 ある程度科学の基礎が身に付き、応用に移れる前期教養課程の学生には、授業などで地学の面白さを積極的に伝えているという。「私の講義は高得点が取れると噂が広がったようで受講者が増えましたが(笑)純粋に面白いと思って受けてくれる学生も多いです。訴えれば人は集まってくれると手応えがありました」。今後は高校生など、さらに下の世代へ研究の面白さを周知することも課題になるという。

 

 地球化学の魅力は「夢を追求する研究と、社会貢献につながる研究の両方ができること」だという。高橋教授は学生時代に社会問題となっていたオゾン層破壊に関心を持ち、地球化学を志した。オゾン層破壊の原因物質はフロンだ。フロンは安価で人間に直接の害がなく、化学的に安定した気体であるため、冷媒や洗浄剤として世界中で使われていた。しかし、環境中に排出されたフロンは成層圏に到達すると紫外線で分解し、発生した塩素ラジカルがオゾンを分解し、有害な紫外線が地表へ到達するのを防いでいたオゾン層を破壊することが判明した。フロンは安定な物質であるがために利用されてきたのだが、そのために成層圏に塩素を運び、その塩素1つ当たり数万分子のオゾンを分解する。ミクロな分子の反応が地球規模の環境変動に大きく影響していることが感じられ、高橋教授も地球化学の重要性を知るとともに興味深い魅力的な学問だと思うようになったという。「物質が環境中でどんな動き・働きをするのか解明することは単純に面白いですが、その知見が環境問題の解決のために必要になると、別の意味でやりがいが出てきます」

 

 高橋教授が現在取り組む「役に立つ研究」の一つが原発事故で放出された放射性物質の挙動解明だ。高橋教授らは、被災から約1カ月後の福島県内の土壌を採取し分析したところ、代表的な流出放射性物質であるセシウムの9割は地表から5センチ以内に含まれていることを発見。通常、セシウムのようなアルカリ金属は水に溶けやすいため、その理由をミクロな物質の特性に注目して考察した。

 

 結果、イオン半径の小さなストロンチウムが雨水とともに流出されやすいのに対し、イオン半径が大きなセシウムは土壌中の粘土鉱物に捕捉されて侵食により流出することが分かった。さらにセシウムを含む土壌粒子は、川の流れで運ばれて海水中の高塩濃度環境による塩析効果で河口付近に凝集・沈降することも解明された。「このような放射性物質の挙動が解明されたことで、除染の計画が立てやすくなりました」

 

 環境中の放射性物質の挙動を調べた研究はチェルノブイリ原発事故の際にも行われた。しかし、チェルノブイリ周辺は多量の有機物を含む泥炭湿地で粘土鉱物が少ないため、福島のように土壌に捕捉されたセシウムは少なかったという。類似した環境問題でも、起こる地域の自然環境によって全く違う影響が出ることが分かってきた。

 

 地球環境を専門にしたい学生に対し、高橋教授は「応用を視野に入れつつ、基礎となる分野を固めること」をアドバイスする。高橋教授が学生時代に専門的に学んだ化学は、現在も基礎になっているという。「大学教員は数十年間にわたって世界最先端の研究を続ける必要がありますが、そのためには基礎的な学問を固めておく必要があります。基礎があれば、純粋な夢のある科学を追及しつつ、一方で社会問題の解決に貢献することもでき、やりがいが得られると思います」

 

高橋 嘉夫(たかはし よしお)教授

(理学系研究科)

 97年理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。広島大学教授などを経て、14年より現職。

 

教育面 文理問わず身に付けるべき分野

 

 教育の面では、地学はどう扱われているのか。前期日本学術会議で高校理科教育検討小委員会の委員長を務めた須藤靖教授(理学系研究科)は「物理・化学・生物は扱う対象が明確でまとまりがあるのに対し、地学は気象、地震、地質や火山、さらに天文などさまざまな分野を含む点で異質です」と話す。そもそも地学は応用的な分野であり、まだ専門の決まっていない学生に教えなくても支障がなく、大学で専攻する際に学べば良いと見なされているという。「多くの大学には工学部がありますが、普通科高校で工学が教えられていないのと似た状態です」

 

 一方で「地学は科学リテラシーを高めるためにも国民に広く教えられるべきです」と須藤教授は指摘する。「日本では災害が頻発していることを考えると、理系か文系かを問わず誰もが身に付けておくべき分野は地学かもしれません」

 

 須藤教授は、地学など応用的な分野も含めて科学を総合的に扱う「理科基礎(仮称)」の創設を提唱している。「大学進学率が約5割で、そのうち理系が約3割だとすると、約85%の人にとって理科を学ぶ最後の機会は高校なのです。高校では彼らに最低限必要な科学リテラシーを教えるべきです」。理科基礎では、従来の物理の公式などの暗記事項偏重の解消が図られる。「理科の暗記でつまずいて、その後科学全般に苦手意識を持っている人が多いことこそ問題です」。物理学で記述される素粒子が集まってできる元素、それらが化学的に結合した分子や多様な物質、さらには生物といった、理科の分野にとらわれない「世の中の仕組み」を教えることを目指すという。「確実な学習を促すためには、現実的な手段として入試での出題も必要になるでしょう」。より専門的な教育が求められる理系進学希望者に対しては、その上に専門科目を教える方針だという。

 実際に「理科基礎」を導入しようとすると課題も考えられる。「文系の先生方は賛同してくれるのですが、高校理科の現場の先生は専門外の分野をも教えることになり、負担が増えます。現状でも理科の教員免許は共通なのでどの科目でも教えられるべきなのですが、現実はそうではない。先生方への対応にも工夫が必要でしょう」。他教科、例えば地理歴史科は近代史が独立した科目となるなど、柔軟な再編が進みつつある。「理科は積み上げ型の教科で、途中から教えることができず難しい面はありますが、分野にとらわれず総合的な科学を教えられるような再編を議論すべきです」。小委員会でも同様の提案がなされており、今後は議論の叩き台となり得る教科書の作成も目指すという。

 須藤教授は地学に限らず科学研究を志す学生に「特に専攻を決めていないときにこそ幅広い分野を学んで視野を広げるべきです」と助言する。「理系で違う専門のみならず文系も含めて広く友達を持っておいてください。研究を始めると同じ専門内の狭い価値観に閉じてしまいがちです。むしろそれ以外の友人との議論が有益となります」

 

 基礎を確実に押さえつつ、さまざまな応用の分野を知って自分が興味を持てる分野を見つけることが大事だろう。その際に、高校以前でよく学べなかったからこそ大学以降で、基礎研究の世界と実社会両方に関わる地学の世界をのぞいてみてはいかがだろうか。

 

須藤 靖(すとう やすし)教授

(理学系研究科)

 86年理学系研究科博士課程修了。理学博士。理学系研究科助教授などを経て、06年より現職。

 

この記事は2019年7月9日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

本郷で味わう本場の味 中華料理店4選

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 本郷には多くの中華料理店が立ち並び、中華を食べようにもどこに入るか悩ましい。今回は、その中でも記者お薦めの4店舗を紹介する。ぜひお店選びの参考にしてみてほしい。

(取材・伊得友翔)

 

一番餃子

 

 

 赤門を出て信号を渡り、右に進むとすぐ見えてくるのが一番餃子だ。「辛さと品質が自慢の激辛料理」と書かれた赤い看板が分かりやすい。店内は広々としており、席数は50席ほど。陽気な店主にお薦めを聞くと、やはり「餃子が一番」と笑顔で答えてくれた。

 

 

 言われた通り「一番野菜焼餃子」と「一番鉄鍋棒餃子」を注文。野菜焼餃子はオーソドックスな焼餃子で、皮がもちもちとしており、形は平たく食べやすい。一方、鉄鍋棒餃子は鉄鍋に入った熱々の状態で登場。やけどに注意しながら口に運ぶと、なじみのない食感に気付く。中には春雨が入っており、硬めの皮の食感に程良いアクセントを加えている。

 餃子の他には、大盛り土鍋ご飯や鶏の唐揚げ炒飯も店の一押し。後者は大盛り無料となっており、セットで安く餃子やビールを楽しむこともできる。辛さや品質だけでなく、一品で満足できる量の多さもこの店の大きな特徴。中華料理をがっつり食べたい時などに訪れてみてはいかがだろうか。気さくな店主が笑顔で迎えてくれるはずだ。

 

辛四川

 

 

 本郷三丁目駅から徒歩2分。春日通り沿いの建物2階にあるこの店は、その名にたがわずメニューには麻婆豆腐やよだれ鶏、担々麺と辛そうな料理がずらり。「小辛」から「地獄」まで、5段階の辛さを選ぶことができる。

 

 

 名物で一番人気の「火焔山石焼麻婆豆腐」を頼むと、麻婆豆腐がぐつぐつと煮えながらやって来た。刻まれたネギの浮いた真っ赤なスープ。その中に沈んだ豆腐を崩しながら食べ進めていく。30種類以上もの漢方香辛料が使われた深みのある味わいだ。しかし記者は、中辛でも食べるのがやっと。辛いものが苦手な人は小辛を頼んだ方が良いかもしれない。

 また、オリジナルのラー油を使用した「本場四川よだれ鶏」も絶品。よだれが出るほどおいしいことから名付けられた料理で、薄く切った冷たい鶏肉にもやしやナッツが添えられている。香辛料の効いた風味豊かなたれとラー油が、肉のジューシーなうま味を引き立てていた。他にも多くの激辛料理があるので、辛党の人は「地獄」を味わいに来てみてはいかが。

 

桂園 本郷三丁目店

 

 

 丸ノ内線本郷三丁目駅を東大側に出た通りに位置する桂園は、都内を中心に17店舗を展開する。看板に書かれている通り、店内は居酒屋然とした活気がある。テレビで紹介されたこともあり、有名人のサインが飾られていた。

 まず驚くのは品数の多さだ。点心や炒飯に始まり、肉料理に海鮮料理、野菜炒めにタンメンまで豊富な品揃えだ。さらに一口に炒飯といっても具材ごとにさまざまな種類がある。壁には、メニューに載っていない料理も。そこで店員さんお薦めの「桂園餃子」と「辣子鶏」を注文した。餃子はたっぷりのひき肉とニラの他に、卵を餡に使用。全部で3種類の餡がある餃子は、それぞれ焼餃子か水餃子かを選べる。小さな皮に餡が詰まっており、しっかりとした食感だ。

 

 

 辣子鶏は、鶏肉の唐揚げを大量の唐辛子や花椒と炒めた四川料理の一つ。ニンニクの効いた小ぶりな鶏肉がネギやインゲンと合い、唐辛子を食べなければちょうど良い辛さを楽しめる。それ以外にも多数あるメニューの中から、自分好みの中華料理を探してみよう。

 

西安刀削麺酒楼 本郷店

 

 

 本郷三丁目駅から徒歩1分。虎ノ門に本店を構える西安刀削麺酒楼の本郷店は落ち着いた雰囲気が漂い、黒を基調としたシックな内装だ。本場西安出身の料理人が、スパイスの効いた西安料理を振る舞う。

 

 

 名物料理は、店名にも冠している刀削麺だ。麺が特殊な包丁で分厚く削られ、独特なコシのある食感を生み出す。注文した「麻辣刀削麺」のスープは、自家製ラー油を使用したしびれる辛さ。そこにパクチーの清涼感が合わさり、何層にも重なった深いコクを感じることができる。タンメンやラーメンとも違う、エキゾチックな味わいだ。

 内陸にありイスラム文化の影響が大きい西安には、羊肉を使った料理も多い。店の大人気メニューだという「羊肉串」もその一つで、串に刺さった羊肉をスパイスと一緒に炒めたもの。一口サイズでありながらピリピリとした辛さが口に広がり、辛さの中にもハーブの風味が効いている。その他お酒のつまみとしても最適な料理を多く取りそろえているので、大人な雰囲気で中華を楽しみたい人にはうってつけの店だろう。


この記事は2019年7月30日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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【著者に聞く】リノベーション建築の旅はいかが? 専門家が語る新旧融合の魅力

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『古いのに新しい! リノベーション名建築の旅』

常松祐介著、講談社、税込み2052円

 

 夏休み、旅行をしようと考えている学生も多いだろう。普段は行かない地方に行くのもよし。東京を散歩するのもよし。そんな人にぜひ読んでもらいたいのが、建築を専門とする常松祐介さん(工学系・博士1年)が書いた『古いのに新しい! リノベーション名建築の旅』だ。

 

 古い建物に現代のデザインを取り入れ大胆な増改築を行うリノベーションは、近年建築業界で注目を集めつつある建築手法だ。歴史的建造物の深みと現代建築の格好良さを同時に味わえるリノベーション建築には、新築にはない魅力がある。本書は日本国内に存在するリノベーション建築の中から、北は北海道、南は香川まで、えりすぐりの22事例を紹介。元の建物の歴史から、改装に当たってのデザイン上の工夫まで、専門家ならではの詳細な説明でその魅力を語り尽くす。

 

 大学院でリノベーション建築の研究をしていた常松さん。しかし研究する中で「リノベーション建築は研究対象として扱うのではなく、実際の事例を伝えた方が価値がある」と思うようになったという。特に、旅をして土地の雰囲気を感じながらリノベーション建築を見る経験の豊かさをより多くの人に知ってもらいたい。その思いを、学生が自分のアイデアをプレゼンして本の出版を勝ち取る競技会「出版甲子園」にぶつけ、見事出版を勝ち取った。

 

 本書では既存建物を尊重しながら歴史的な建造物を改修した事例について、「対比」「同化」「転用」「記憶」の四つの特徴で分類して紹介している。最初は専門的な内容は書かないつもりだったが「今や簡単な紹介はネット上にあふれている」との編集者の指摘で方針を転換。建物の歴史、地域の物語、改修設計に当たっての工夫を解説にふんだんに盛り込んだ。執筆に際しては、各建築の施設運営と設計それぞれの担当者に取材し、地域の郷土資料館にも足を運んで調べたという。新旧の大胆な対比が特徴の国際子ども図書館や、既存建物への見事な同化を図りつつ新しさを加えた東京駅など、代表的な作品には10ページ以上を割く。

 「実は建物を巡る文化は奥深い。そのことを自覚した途端に建物の見方が変わるはず」と常松さん。特に地域振興の分野で、リノベーションというハード面からのアプローチがあることに目を向けてもらいたいと語る。「旅やリノベーション建築をきっかけに、古い建物が持つポテンシャルに気づいてもらえたら嬉しいですね」

(高橋祐貴)

 

常松祐介さん

 「著者に聞く」では、本の著者に取材して執筆の背景や著作に込めた思いを掘り下げます。


この記事は、2019年7月30日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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サーギル博士と歩く東大キャンパス③ 駒場Ⅰキャンパス 1号館

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 我々が日々当たり前のように身を置いている「場」も、そこにあるモノの特性やそれが持つ歴史性などに注目すると、さまざまな意味を持って我々の前に立ち現れてくる。この連載企画では、哲学や歴史学、人類学など幅広い人文学的知見を用いて「場」を解釈する文化地理学者ジェームズ・サーギル特任准教授(総合文化研究科)と共に、毎月東大内のさまざまな「場」について考えていこうと思う。第三回は、駒場Ⅰキャンパスの1号館だ。

(取材・円光門)

 

ジェームズ・サーギル准教授(教養学部) 14 年 ロンドン大学大学院博士課程修了。Ph.D.(文化地理学)。ロンドン芸術大学助教授などを経て、17 年より現職。

 

覆い隠される1号館

 

 我々が普段見逃しているいろいろなモノの痕跡に着目すること、歴史はそのような『日常的な考古学』によって発見され得るのです」とサーギル特任准教授は語る。1号館は正にその実践の場だ。中庭へとつながる入口の上のアーチには、旧制第一高等学校の紋章が残されている。さらに足元を見ると、そこには紋章を刻んだマンホールがある。建物内に入り廊下の窓から中庭を覗くと、災害や空襲などの非常事態を想定して造られたと思われる地下道へとつながる階段を目にすることができる。

 

 1号館は関東大震災から10年が経った1933年7月に建設された。そびえ立つ時計台、そして駒場キャンパスでは数少ないゴシック様式が見られるこの建物は、周囲にアナクロニスティックな雰囲気を与えている。第2次世界大戦中に学生たちが時計台に登って爆撃機を見張っていたという噂や渋谷まで続いていると言われる幻の地下道の話は、真偽のほどは分からないものの、1号館の異様さから生まれ、語り継がれている。

 

 だが、この異様さの源は何なのか。サーギル特任准教授によると、それは過去が現存するモノによって表象された際に起こる、時間軸の揺らぎによるものだ。「過去は現在においては不在ですが、その不在が過去の痕跡を示すモノによって明らかにされた時、現在に居残るわけです。まるでそこにいてはいけない幽霊のように、過去がその場に取りつくのです」

 

1号館の両端には草木が生い茂る

 

 1号館の不可解な雰囲気は、時間だけでなく空間においても見出すことができる。1号館の両端には草木が生い茂り、正面には大木が植えられているため、安田講堂とは違い我々は離れた地点からこの建物の全体を視野に収めることができない。さらに、建物は中庭を囲むようにできているが、中庭を通り抜けることはできず、正門の反対側に移動するためには必ず1号館をぐるりと回らなければいけない。というのも、本来は憩いの場であるはずの中庭への入り口は鉄の柵で閉ざされているからだ。建物の全体を認識できないということ、建物の中心にたどり着けないということは、1号館の本質が常に覆われていて、捉え難いという印象を我々に与え得る。

 

中庭へ至る道は閉ざされている

 

 建物内では、その捉え難さは一段と増す。入り口をを入ると薄暗く細長い廊下に出るわけだが、廊下は建物の四隅でそれぞれ折れ曲がっているので、どこに立っていても一度に見渡すことのできるのは、建物の四辺のうち一辺だけである。言い換えれば、我々が角を曲がる度に見えるものが変わってくるのであり、建物の全貌を一挙につかむことはできないのだ。

 

 モノの痕跡から示される過去と、建物の配置によって限定される我々の視野。これら時間と空間における共通点は「常に何かが覆い隠されている」ことだとサーギル特任准教授は指摘する。過去は現在においては不在として覆い隠され、モノの痕跡を通じてしか我々はそれに触れることができない。1号館という建物もまた、一度に全貌をつかむことを我々に許さない。あらゆる存在物は、完全な存在と完全な不在の間で揺れ動いている。「対象とは、多くの特性を示すと同時に隠す単位である」と哲学者グレアム・ハーマンが言ったように。

 


【英訳版】

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #3 Building 1, Komaba Campus

 

【関連記事】

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Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #1 Akamon, Hongo Campus

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Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #2 Sanshiro Pond, Hongo Campus

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #3 Building 1, Komaba Campus

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We, without doubt, lay ourselves in “places,” which, if we heed the specialty of things therein or the history therewith, appear to us as having a variety of meanings. In this serial article, we aim to contemplate various “places” found in Todai’s campuses with the cultural geographer Dr. James Thurgill, who interprets “places” by employing a knowledge of the humanities that spans philosophy, history, anthropology, and so on. Our third meeting is at Building 1 on Komaba Campus.

(Interviewed, Written and Translated by Mon Madomitsu)

 

Dr. James Thurgill Graduated from the graduate school of University of London in 2014. Ph. D (Cultural Geography). After serving as an assistant professor at University of the Arts London, from 2017 he is a project associate professor of the University of Tokyo.

 

            “History can be discovered through a kind of ‘everyday archaeology’. Material traces of the past surround us in our daily lives, just waiting to be uncovered, but they frequently go unnoticed” says Dr. Thurgill. Building 1 is indeed a place well suited to discovering such ‘traces’. Above an archway leading to the courtyard remains the crest of the former Ichikou, First Higher School of Tokyo. In the same place, beneath our feet, lies a manhole cover where another of Ichikou’s emblems can be found embossed within its metal surface. Looking through the corridor windows inside the building we can catch a glimpse of a staircase, possibly leading down to the rumoured underground tunnels, which are said to have been constructed as a safety precaution for disasters, air raids, and so on, but which are now sealed off and inaccessible.

 

              Building 1 was constructed in July 1933, ten years after the Great Kanto Earthquake. With its looming clock tower and Gothic-style architecture, a rarity on Komaba campus, the building gives an anachronistic atmosphere to its surroundings. Extraordinary narratives rooted in the history of Building 1, such as that of the former High School students who are said to have climbed the clock tower in order to surveil the skies for bombers during the Second World War, or the underground tunnels believed to run beneath the building (which some students say continue as far as Shibuya), are undoubtedly born from the uncanniness of Building 1 and have been handed down through generations of Todai students.

 

              But what is the origin of this uncanniness? According to Dr. Thurgill, it is due to the fluctuation of the temporal axis caused by the present being affected by past materials. “The past, though at the present being regarded as absent, is made manifest by materials that signify traces of history, and which continue to linger in the present. As if it were a ghost that is not supposed to be there, the past haunts the place.”

 

The overgrown plants are at both edges of the Building 1

 

            The uncanniness of Building 1 can be perceived not only temporally but also spatially. Due to the overgrown plants at both edges of the building and a large tree in front of the main entrance, we can never observe the whole building at once, not even from a distance, unlike the Yasuda Auditorium in Hongo. Moreover, we cannot go through the courtyard enclosed within the building. In order to move to the opposite side of the main gate we must orbit around Building 1, for the gateway to the courtyard, primarily designed as a place of relaxation and which might otherwise allow for free movement within the centre of the building, is closed off by an iron fence. We cannot identify the building as a whole; neither can we gain access to the centre of it. We may be left with the impression that the ‘essence’ of Building 1 is always somewhat veiled and elusive.

 

The gateway to the courtyard is closed off

 

            Inside the building, this elusiveness grows even stronger. On entering the structure we arrive at dark, narrow corridors and wherever we stand, we can only see one of the four sides of the building. In other words, there is a constant shifting of our view as we turn the corner and are once again prevented from seeing the building in its entirety.

 

            Both the past signified through material traces and the restricted view framed by the organisation of the building share a commonality of concealing and revealing time and space respectively, as Dr. Thurgill points out, “something is always veiled in our experience of the world”. The past is veiled as an absence; we can touch it only through the material traces that remain. It is the same with Building 1, a space that does not permit us to grasp the whole structure at any one time. To be sure, every single being is vacillating in-between complete presence and complete absence, just as the philosopher Graham Harman writes, “Objects are units that both display and conceal a multitude of traits.”

 


 

【Japanese Version】

サーギル博士と歩く東大キャンパス③ 駒場Ⅰキャンパス 1号館

 

【Serial Article】

サーギル博士と歩く東大キャンパス① 本郷キャンパス赤門

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #1 Akamon, Hongo Campus

サーギル博士と歩く東大キャンパス② 本郷キャンパス三四郎池

Take a Walk through Todai’s Campuses with Dr. Thurgill #2 Sanshiro Pond, Hongo Campus

【飛び出せ!東大発ベンチャー】長期インターンシップの魅力を広める Buildsの挑戦

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「長期インターンシップの良さを広めていきたい。そう思ってこの会社を立ち上げました」。そう語るのは、株式会社Buildsの代表取締役社長、橋本竜一さんだ。

 

 Buildsは長期インターンシップや新卒採用において東大生などレベルの高い学生と企業をマッチングするサイト「JobShot」を運営している。長期インターンシップとは、長期休暇中に学生が数日から一週間ほど就業体験をする通常のインターンシップとは違い、主にベンチャー企業で数か月以上にわたって実務に携わりながら働くことだ。

 

 橋本さんも、大学2年のときに広告代理店のベンチャー企業で1年ほどの長期インターンシップを経験した。「家庭教師とかのアルバイトは、別に僕がやらなくてもいい。長期インターンシップは自分で知識を得られる上、お金までもらえるなんて、すごくいいじゃないですか」と橋本さんは語る。

 

 こうして長期インターンシップの楽しさに気づいた橋本さん。長期インターンシップを始めた当初から起業を意識していたわけではなかったという。しかし、一度は就活に失敗した友人が長期インターンシップを経て就活で成功を収めた姿を見て、もっと多くの人に長期インターンシップについて知ってもらおうと知人や後輩たちを誘ってマッチングイベントを開催。参加者からの「長期インターンシップを経て人生が変わりました」というコメントに手応えを感じた橋本さんは起業を決意した。

 

 橋本さんにとって、起業は比較的身近なことだった。東大入学後のクラスには起業した人が5人もいる。起業するための十分な資金、システムの整備をしてくれる友人もそろっていた。ただ、創業当初は苦労もあった。「特に苦労したのは人ですね」と語るのは、広報を担当する執行役員の伊澤航太郎さんだ。「方向性の違いや就職のために会社を離れた人は20~30人はいますね。会社のビジョンに共感してもらえる人を集めるのが難しかったです」。社員にとっては「企業と文化が合うのか」が重要なことを痛感した。

 

 この経験はJobShotのサービスにも生かされている。例えば、恋愛経験の有無を尋ねる項目。一見必要性がなさそうだが、異性が多い職場の方が働きやすいのか、そうでないのかを判断する一つの基準になるという。

 

 現在、JobShotには40社以上の企業と1500人以上の学生が登録し、事業は順調だ。今後は、学生向けの事業にとどまらず、まだ働く意欲があるシニア層向けに就業の場を提供する事業も始める方針だという。また、東京だけでなく関西や北海道での事業展開も考えている。

 

 攻めの姿勢を貫くことに不安はないのか。橋本さんに聞くと「不安はもちろんありますよ」。ただ「絶対に成功するという自信があります。不安を解消するためには突き進むしかないですね」

 

代表取締役の橋本さん(写真左)と伊澤さん(同右)

この記事は2019年8月27日号からの転載です。弊紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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キャンパスガール:平田裕子さん(理Ⅱ・1年)

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「学歴社会」は本当か 採用に用いられる学歴フィルターとは

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 企業説明会の申し込み画面が、東大生は「空席あり」なのに他の大学生は「満席」と表示される「東大生はエントリーシート(ES)が通りやすい」という否定できないうわさ……。その背景には、企業が採用活動時に用いる「学歴フィルター」が存在する。学生を出身大学によって機械的に評価しているかのような企業の採用活動に、複雑な思いを抱く人も多いだろう。なぜ学歴フィルターは必要なのか、最新の就活事情とともに就職コンサルタントの福島直樹さんに話を聞いた。合わせて、学歴に頼らない選考を実現する可能性を秘めた新技術についても紹介する。

(取材・武沙佑美)

 

競争率を抑えるため

 

━━企業の採用活動において、学歴フィルターは実際どの程度機能しているのでしょうか 

 「うちは学歴フィルターを使っている」と明言する企業はありませんが、HR総研が実施した「2018年新卒採用動向調査」では、特定の大学層の学生を重点的に採用したいと回答した企業が全体の39%に上ります(図1。 

 

(図1)2017年3月21日から29日にかけて、企業の人事責任者・担当者にウェブアンケートを実施。有効回答数184社(うち社員数1001人以上:14%、301〜1000人:34%、300人以下:52%)HR総研の2018年新卒採用動向調査結果報告を基に東京大学新聞社が作成

 

━━なぜ企業は就活生の学歴を気にするのでしょうか

 

 主な理由は、業務の効率化です。00年代に入り就活情報サイトが普及し、学生がインターネットで多数の企業に一括エントリーできるようになりました。企業によっては100倍超の競争倍率となるほど競争率が高まったため、企業側は学生の選別を簡略化するために学歴フィルターを用いるようになりました。

 

━━フィルターをかけなくても済むよう、応募者の数を制限することはできないのでしょうか

 

 採用は企業の自由な経済活動ですので、そのやり方に制限をかけるのは難しいでしょう。高倍率にならない別の仕組みが必要です。例えばエイベックスという企業では、専門のプログラムに参加して応募資格を得る「志採用」を行っています。このように1社応募するだけで大きな労力が必要となれば、応募者の数は減るでしょう。ただ、第1志望の大手人気企業に時間を割くために中小企業を受けない人が増える可能性や、学業に支障を来す恐れもあります。

 

━━機械的な学歴フィルターは「人材を取りこぼす」ことにつながります。企業側はそのリスクにどう対処しているのでしょうか

 

 どこの人事も「ESで落としたけれど正しい判断だったのか」と考えることはあるようです。学歴と入社後の活躍を分析している企業もありますが、必ず相関があるわけではないと聞きます。

 

 ですが10万人もエントリーする中で、全員を面接することはできない。そこでESを手書き指定したり、性格と能力を検査する試験(SPI)のスコア提出を義務付けるなど、エントリーに手間がかかるようにして熱意ある学生を抽出します。説明会の申し込みで「お断り」の対象となった学生が、諦めずに参加したいと問い合わせ承諾された例もあります。結局企業にとって重要なのは、取りこぼし対策と経済的合理性のバランスなのです。

 

━━誰でも何社でも応募できる現在の状況を、どう評価しますか

 

 悪いことばかりではないと思います。実は60年代から90年代まで、企業は、大っぴらに「うちは◯◯大学の学生しか採用しません」と宣言する推薦依頼大学制度や指定校制度を多用していました。しかし四年制大学進学率が上昇し、将来の安定を期待して大学に進学する若者およびその保護者が増えたこともあり、学歴差別を批判する世論が形成されてきました。

 

 そのような風潮の中で就活情報サイトの誕生により「誰でもどんな企業でも受け入れられる環境」になったのです。指定校制度では応募すらできなかった学生が大手企業に就職する事例も見られるようになりました。

 

本気度合いを見る

 

━━SPIなどで性格や能力を検査し適性を測る審査は、有効なのでしょうか

 

 能力検査に関してはウェブ上で受験することも多く、友人同士で協力して回答したり、解答例が出回っていたりします。その点で、個人の能力を測る指標としては弱いかもしれません。それでも企業が受験を応募条件に含める理由は、志望している学生の本気度合いを見極めたいからです。選考過程でもう一度筆記試験を実施し、学生の本当の能力を確認する企業もあります。

 

━━性格検査はどうでしょうか

 

 10年ほど前から一部の企業は、社員の性格と入社後のパフォーマンスの関係性を分析し始めました。蓄積された分析結果を基に学生にも性格検査を実施して、企業に適した人材を見極めようとしているではないでしょうか。

 

━━学生側の学歴フィルターに対する意識の現れとして、出身大学により学生の就活に対する態度が異なっていると感じたことはありますか

 

 東大生は就活で有利とされているためか動きがゆったりしているというのはあるかもしれませんね。東大生がプレエントリーをするとすぐOB・OGと会う誘いが来るなど優遇されるケースもあります。ですが面接などで企業に合わないと判断されれば、学歴に関係なくすぐに排除されてしまうのも事実です。

 

━━東大生は就職先で「使えない」という風説を耳にすることがあります。この実態をどのように見ますか

 

 東大生に対する社会の期待値は高いので、仕事ができないと目立つようです。それについては、期待に応えられるように鍛錬するしかありません。

 

 そのコツとして、受け身でない姿勢が大切です。「やり方を教えてくれない上司が悪い」のではなく、「自分で学ぶこと」を学ぶべき。新しい知を生み出す場である大学でメタ認知能力を鍛え、職場でも評価される人になってほしいです。

 

発想力や課題解決力を可視化 

 

 個人が持つ創造力や発想力、課題解決力を客観的に計測する技術が今、大手を含む数々の企業の注目を集めている。VISITS Technologiesが開発した「CI技術(コンセンサスインテリジェンス技術)」だ(図2。この技術を用いた商品の一つに、一般受験が可能な設計をした「デザイン思考テスト」がある。工学部出身で同社社長の松本勝さんは「このテストの一般化が進むことで従来の採用制度を塗り替える可能性もある」と意気込む。

(図2)CI技術はアイデアの価値を可視化する、VISITS Technologies独自の特許技術だ(図はVISITS Technologies提供)

 

 CI技術では、まず各利用者がアイデアのアウトプットを行い、互いに各案の創造力の高さを評価する。次に、創造力の評価のデータから参加者の「目利き力」を推定し、目利き力を加味して評価の比重を変動させ互いの案への評価を計算し直す。特殊なアルゴリズムでこれを実施することで、単なる多数決ではない重み付けを加味した相互評価により創造力の高い発案者を特定できる。デザイン思考テストでは、この仕組みを受験者同士で実施し、創造力の高い受験者を割り出す。

 

 企業はデザイン思考テストを用いて学歴やESでは見落としかねない才能を持つ人材を拾い上げようとしている。松本さんは「デザイン思考テストに興味を示す企業は、主体的に考える人材を集めることで日本的なトップダウン型の組織を脱却し、『下からの改革』を促す風潮を作ろうとしています」と分析する。

 

 就活する学生が気になるのは、デザイン思考テストの対策法だろう。「実はクリエーティブな思考をするための思考の枠組みというものが存在する」と松本さんは明かす。「思考法を繰り返し実践して練習を積み重ねれば、発想力や課題解決力を身に付けテストでスコアを伸ばすことが可能です」。創造力や発想力は一部の天才が持つ先天的な能力ではなく、努力さえすれば習得できるものなのだ。

 

 だが松本さんは就活生に対し、選考の心配をする前に考えてほしいことがあると言う。「就活生の中には『安定した企業』を志向する風潮があるようですが、社会情勢が激しく変わる現代において、確実に将来が安心な企業など存在しません」。自らの将来の安定を保証するのは企業ではなく、自分自身。「課題解決力と発想力を身に付け、自ら道を切り開けるようになることが大切です」

 

福島 直樹(ふくしま・なおき)さん 就職コンサルタント。大手広告会社勤務を経て、93年より現職。就職に関する講演や学生の就職支援を行う他、企業の採用で戦略立案、選考なども担当する。著書『学歴フィルター』(小学館)他多数。
松本 勝(まつもと・まさる)さん 01年工学系研究科修士課程修了。ゴールドマン・サックス社などを経て、14年に現VISITS Technologiesを設立。元文部科学省事業委員。


この記事は2019年7月30日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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【セミが見た高知⑤】木のおもちゃ・山のくじら舎で気付いた、”東大生”の僕が見失っていたもの

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山のくじら舎のみなさん(左から順に、湊美保子さん、萩野和徳さん、見神準さん)

 

 高知県安芸市。セミが見た高知④で訪れた奈半利町にほど近い町だ。高知と言えば海!安芸市にもいたるところにきれいな海岸がある(地元に方にとっては普通かもしれないけれど)。そんな安芸には海からほんの少し行けば“山”があり、今回はその“山”でのお話。

 

 今回訪れたのは、高知県安芸市で「木のおもちゃ」を作っている山のくじら舎さん。そこで作られる木のおもちゃの魅力もさることながら、社長の萩野さんの生き方には痺れた。三重の田舎で18年過ごしてきたのに、この2年で都会に「染まっていた」自分を見つめなおした。

 

 海沿いからほんの少し車で向かった“山”エリアのふもとに山のくじら舎はある。落ち着いた雰囲気の中に木造の建物があった。

 

 山のくじら舎の社長、萩野和徳さん。ご両親が高知出身で荻野さん自身は大阪育ち。お話を伺っているうちに、なんだか自分の父を思い出した。僕の父も三重で商売をしていて、言葉でうまく表せないけれど、懐かしい空気感を感じた。「なんだか、いい話が聞けそう」

 

  「子供がお風呂で遊ぶおもちゃが欲しい」

 

 木材の加工をしているところへ、近所のお母さんからそんな声を聞いた。せっかくなので、作ってプレゼントをしてみたという。すると、みるみる口コミが広がり……今ではその木のおもちゃが主力商品になった。

 

 「できないと言ってても何も始まらない。」

 

 その言葉が萩野さんのこれまでを言い表している。木のおもちゃを作り始めた当初は、たとえいいものだったとしても、なかなかすぐには広まらない。

 

 「いっそのこと、空港にでも置いてもらおうか。」

 

 思い立ったら早い。すぐに空港に売り込んだ。が、あっけなく断られた。

 

 「まあ、しかたないか…」とならないのが荻野さん。今度は安芸市の職員さんに相談し、安芸市を通じて交渉することに。すんなりとはいかなかったがそうこうして、高知龍馬空港のお土産売り場に木のおもちゃが並んだ。

 

 効果は抜群だった。ここから、山のくじら舎の木のおもちゃは一気に飛躍することになる。

 

木造の温かい建物

 

 そんな荻野さんの姿勢は意外なご縁もつくった。山のくじら舎のHPには「皇室ご愛用」とある。紀子さまが山のくじら舎のおもちゃを買われたのだという。

 

 だがこれも「たまたま」ではない。

 

 皇室の方が宿泊される宿に商品を置かせてもらえるよう交渉した結果なのだ。そんな姿勢は海外の王室とのご縁まで呼びこんだ。

 

 「動く。チャンスをつかむ。できないことって、ほとんどないと思う。」

 

 荻野さんのその姿勢に、僕はジーンときた。

 

 父にも小さいころから「できない理由を探すな!」とよく諭されていた(怒られていた?笑)のを思い出した。その姿勢で自分も生きてきたつもりだし、そう思っていた。でも、荻野さんの生き方に触れて、思った。上京してからの2年間は果たしてそうだっただろうか。

 

 東大に来て、びっくりしたこと、それはここにいる人たちは「できない理由」を探すのがものすごく上手だということ。勉強すればするほど、なぜだめなのかがよく分かってくる。分析すればするほど、”ほころび”が見えてくる。でも、どうすればいいかは、ほとんどの「かしこい」人たちは分かっていない。そんな1人になっていなかったか。

 

 「地方創生」と名のつく本を読んで、「地方」を分かった気になる。高知に行ったこともないのに、高知の人たちより、高知を知った気になる。「高知はここがダメなんですよ。東京はこうです。」こんな感じ。でも、「どうすれば高知が良くなるんですか?」この質問には答えられない。

 

 そんな姿勢を知らず知らずのうちに身に着けていた僕ははっとした。目を覚まされた。

 

 「僕らはイノベーションを起こすことはできん。でも、世の中に必要なものを作ってやっていくしかないんや。」

 

 荻野さんはそう言う。けれど、荻野さんたちは間違いなく、一歩ずつ前へ進んでる。どうやったらできるかを必死に考えて、着実に前に進んでいる。

 

 僕たちは本を読んで、高知のことを都会の一室で議論して、わかった気になって、問題提起して、いい気になってるだけだ。「高知を変える」なんてかっこいいことを言ったって、結局は一歩ずつ前に進んでいくしかない。

 

 荻野さんの目標は「安芸の地を木工産地にする」、その「種」を作ることだ。

 

 僕らだったら、「安芸の地を日本一の木工産地にする!」とか事の大変さを知らずに意気込むだろうけど、荻野さんはギラギラした野心を持ちながら、でも謙虚な目で現実を見ている。

 

 「木工産地。その種を作れればいい。」

 

 大きいことを言うのはいい。目の前の小さいことしか見えていないのは長い目で見たら危険だ。でも、僕らは、少なくとも僕は、「大きいことも小さいことも、目の前の階段を一歩一歩登らなくちゃいけない」、そんな当たり前のことを忘れていた。

 

 そんな僕らに荻野さんはこんな言葉をかけてくれた。

 

 「君らはプラチナチケットを持っとる。俺はクーポンチケットしかない。でも、俺はそのクーポンチケットを使ってる。プラチナチケットも使わなクーポンに負けるで」

 

 荻野さんから僕らへのエールだ。

 

 この言葉を今でもふと思い出す。「プラチナチケットか…」今の自分が上手に使えているのかはわからない。でも、大事なのは「やるか、やらないか」(荻野さん)だから。もっといっぱい「プラチナチケット」を使わんとな。

 

笑顔バージョン!

 

 

 そして、その後安芸でおすすめのカレーをご馳走になり、次の目的地まで送っていただいた。その道すがら、荻野さんお気に入りの海岸に。

 

海岸

 

 

 「坂本龍馬がああいう気持ちを抱いたのもわかる気がする」と思った。「よし!俺も龍馬に負けとれん!やってやるぞおおお!!」意気揚々と次の目的地に向かった。やれやれ、人間すぐには変われない……(笑)

 

文・写真 矢口太一(孫正義育英財団 正財団生・工学部機械工学科3年)

Mail: taichikansei@gmail.com (記事へのご意見大募集中!)

 

【セミが見た高知 シリーズ】

セミが見た高知① 高知県知事、駒場に来たる!!

セミが見た高知② 人ってこんなに温かい!?

セミが見た高知③ んん..思ってたのと違うぞ? セミ現実を知る。

セミが見た高知④ ふるさと納税の光と影

「海洋ごみ対策プロジェクト」始動 プラスチックごみの行方を追って

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 海洋プラスチック問題が注目を集めている。2019年6月のG20大阪サミットでは、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにするという目標が共有された。東大も日本財団と共同で「海洋ごみ対策プロジェクト」を始動。危機感が高まる中、本企画では廃棄物処理の専門家と、プロジェクトのまとめ役の東大教員に話を聞き、プラスチック問題の現状に迫った。

(取材・黒川祥江)

 

資源消費社会を再考

 

 まずはプラスチック廃棄物処理の現状と課題について、都市での資源利用やリサイクルが専門の森口祐一教授と中谷隼講師(共に工学系研究科)に聞いた。現代生活ではプラスチックを大量に消費しており、日本が関わるのは輸出入を含め年間1500万トンに及ぶ。

 

 森口教授は「プラスチックは優れた素材でよく使われますが、廃棄物としては焼却、埋め立て、リサイクルが混在する分かりにくい処理がなされてきました」と話す。1990年代には燃やすと有害物質が発生するといわれたが、焼却炉の排ガス処理設備の改良で現在はほぼ解決。埋立地不足が叫ばれる中、焼却による処理を行う自治体も多い。プラスチック焼却による二酸化炭素の発生量は日本全体の排出量の2%に過ぎないが、少しでも削減すべきで、プラスチックのリサイクルが推進されている。

 

 リサイクルにはさまざまな種類があるが、日本ではマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル・サーマルリカバリーに大別される。中谷講師によると、多くの人がイメージするのはプラスチックを砕いたり溶かしたりしてプラスチック素材に戻すマテリアルリサイクルだというが、その廃プラスチック処理に占める割合は約2割。他二つはいわゆるリサイクルのイメージとは少し違う。約6割が処理されるサーマルリカバリーでは、焼却して熱回収し、発電などに用いる。ケミカルリサイクルの中で日本で最も広く行われるのは、高炉で鉄を作るときにコークスの代わりに廃プラスチックを還元剤として使う処理だ。「高炉での利用は環境負荷が低くマテリアルリサイクルと比べるとコストも低いため、経団連はこれを推進しています。しかし『ごみとして燃やすのと同じではないか』と市民感覚に合わないのも事実です」と森口教授は話す。

 

 なぜマテリアルリサイクルが中心にならないのか。日本では消費者のニーズに応じ、多様な材質で凝った包装を行うことが要因の一つだという。中谷講師は「フィルムの表裏で別のプラスチックを使うこともあります。同じ素材が多く集まらないと、リサイクルして良い製品を生み出すことは難しいです」と話す。その点ペットボトルはリサイクルがうまくいっていると森口教授。「メーカーが協力して素材を統一、無色透明なボトルを使うように。これによって集めればリサイクル業者がお金を出して買うまでになりました」

 

生活系プラスチックの循環イメージ。生活系プラスチックのリサイクルを進めるためには、よりリサイクルしやすくなる回収方法を模索していく必要がある(図は中谷講師提供)

 

 他のプラスチック製品のリサイクルを進めるには「市民だけでなく、製造者・小売店・回収する自治体・リサイクル業者といった関係主体の協力」が必要だという。同一の種類で集めやすいものはマテリアルリサイクルし、それ以外はケミカルリサイクルに回すのが効率的だ。森口教授は「それぞれが個別にできることをやるだけでなく、他の主体とともにリサイクルを合理化していくという意識を持ち、システムを変えようと声を上げるべきです」と主張する。昨今は無料レジ袋配布を廃止する風潮があるが、廃プラスチックの削減には「多少役立つ程度」だという。それでも他のプラスチック製品についても見直すきっかけにしてほしいと二人は話す。

 

 「リサイクルよりも大切なのはリデュース」だと強調する二人。家庭生活で排出される廃プラスチックのうち、多くを占めるのは食に関するもの。忙しい都市生活の味方となる中食(なかしょく)には大量の容器包装プラスチックが使われている。家族の形態の変化、女性の社会進出などの影響がある中で「現代生活の便利さを保ちつつ、使い捨てプラスチックの利用を減らそうという意識が必要です。新しいビジネスチャンスが生まれる期待ができます」

 

森口 祐一(もりぐち ゆういち)教授(工学系研究科) 82年京都大学卒。博士(工学)。国立環境研究所社会環境システム部資源管理研究室長などを経て、11年より現職。

 

中谷 隼(なかたに じゅん)講師(工学系研究科) 06年工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。工学系研究科助教などを経て、16年より現職。

 

海洋ごみの謎に迫る

 

2012年11月、対馬の海岸。手前に見えるヤシの実とともに多くのプラスチックごみが漂着している
2010年10月、福岡市の海ノ中道の砂浜。線上に並んだ漂着ごみの多くがプラスチック製品だ(写真はいずれも道田教授提供)

 

 プラスチック廃棄物の問題でも大きな話題になったのが海洋プラスチック問題。東大は日本財団と共同で「海洋ごみ対策プロジェクト」を始動させた。その取りまとめ役は道田豊教授(大気海洋研究所)。道田教授の専門は海洋物理学で、海流や海洋漂流物の研究を通じ海洋プラスチックに興味を持ったという。環境省や各国共同調査の座長を務めるなど、さまざまな人脈を持ち問題の全体を俯瞰(ふかん)していることから担当になった。

 

 海洋プラスチックは景観を損ない、生態系や食の安全への影響が懸念されるが、不明点も多い。海洋プラスチックを媒介に化学物質が生体に取り込まれる可能性が指摘されているが、危険性の程度は未解明だ。そもそも海洋プラスチックがどこにどれくらい存在するか、どこから流出しているかも科学的に確かなデータは出されていない。

 

 そこで今回のプロジェクトでは三本柱で不明点を明らかにすることを狙う。

 

 一つ目はマイクロプラスチックの分布を調査することだ。海洋中のプラスチックは紫外線や波により小さくなる。「海水を汲んで調べれば小さいものが多いはずですが、そうではない。小さくて測定できないのか、沈んでいるのか不明ですが、行き先を解明する必要があります」。プロジェクトが終わる3年後に、深さ方向に大きさ別のマイクロプラスチックがどれだけ分布するか基本的なデータを提示することを目指す。

 

 二つ目は化学物質が生体にどのように取り込まれるのか、免疫細胞は反応するのか調査することだ。「悪影響がある場合の対応は医学の世界で今回のプロジェクトに含まれませんが、情報を提供したいです」

 

 三つ目はプラスチックが製造・使用・回収される中でどのタイミングでどれだけ環境中へ漏れているか調査することだ。プラスチック業界の動向や人の行動なども関わるため文系の研究者が取り組むという。「ポイ捨ての影響が判明すれば、人々の意識改革に役立ちます」

 

 海洋中にはプラスチック以外にも火山灰、カーボン粒子など小さい粒子は存在する。それらよりプラスチックは悪影響を及ぼすのか。「プラスチックに含まれたり付着したりする化学物質の悪影響があるなら、他の粒子と別のリスク評価が必要です。これは長く残る疑問で解明したいのですが、プロジェクト終了後に進めることになりますね」

 

 海洋プラスチック問題は世間の関心を集めているため「想像以上に前進できるかもしれない」と道田教授は期待を寄せる。企業が動き始め、先日日本財団が行ったシンポジウムは満席になったという。「政府・業界・学術界が連携し、実態の解明と並行して量を減らす努力を行いたいです」

 

 プラスチックへの問題意識が高まり、レジ袋の配布廃止から海洋プラスチックの調査までさまざまな取り組みが始まった。プラスチックを大量消費する我々の生活を見つめ直すきっかけとしてはどうだろうか。

 

道田 豊(みちだ ゆたか)教授(大気海洋研究所) 84年理学系研究科博士課程中退。博士(理学)。海上保安庁、科学技術庁などを経て07年より現職。

 

この記事は2019年8月27日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

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「県人寮」の魅力とこれからに迫る

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 「県人寮」の名前を聞いたことがあるだろうか。主に首都圏の大学に進学する地方出身の学生に向けて、安心して学業に専念できる場を提供するために設立された、各道府県出身者限定の学生寮のことだ。さまざまな大学に通う学生と交流でき、低廉な家賃と食事付きのサービスが魅力だが、近年は寮生不足に悩まされる県人寮も少なくない。県人寮での暮らしの様子や業界の現状について、実際に県人寮で暮らす東大生や県人寮の管理者組合の会長に話を聞いた。

(取材・撮影 大西健太郎)

 

左から山中理事、飯寮長、料理人の細川二郎さん。肱水舎を背景に

 

大学や出身地を超えた交流を

 京王線つつじヶ丘駅から歩くこと10分。小高い丘の上の閑静な住宅街にあるのが、愛媛県は旧大洲藩の男子学生寮「肱水舎」だ。その歴史は古く、明治34(1901)年、旧大洲藩主が郷土の男子学生のために屋敷の一部を解放し、育英寮としたのが始まりだ。現在は公益財団法人として運営されており、住み込みで働く料理人による朝夕2食の食事付きで寮費は月5万5千円とリーズナブル。各居室にはベッド、収納棚、机、エアコンが付いており、浴室、洗濯室、トイレや食堂が共用となっている。

 

 肱水舎の寮長を務める教養学部4年の飯雅樹さん(愛媛県松山市出身)は、入寮した理由について「寮費の安さと食事が付いてくることが決め手でした」と話す。1、2年の間はアパートで一人暮らしをしていたが、3年生に進学する際、県人寮への引っ越しを決意。寮の存在は、先に入寮していた高校時代の友人を通して知ったという。       

 

 県人寮の魅力は「やはり毎日おいしい食事が出てくることですね」。一人暮らしの頃は眠気に負けてしまい、朝食を取らずに大学に向かうことも少なくなかったというが、寮に来てからはそうした事態も減り、健康的な生活を送ることができているという。

 

 また気軽に話し合える友人がいることも寮に来て良かったことの1つだと話す飯さん。「同郷ということで同じバックグラウンドを共有しながらも、いろいろな大学に通う学生と語り合えることは、大学が運営する寮では得られない魅力ですね」。新入生歓迎会や納涼会など、寮生同士の交流を深める行事も季節ごとに用意されている。

 

 県人寮ならではという点では、地元の企業説明会や愛媛県にまつわるイベントへの参加がある。飯さんも先月、寮生を代表して愛媛県知事との意見交換会に参加したという。

 

 そんな肱水舎だが、一昔前までは寮生不足に悩まされていたという。寮の管理・運営を行う山中暹常務理事は、少子化のみならず寮を持つ大学の数が増えたことも原因の1つではないかと推測する。そのため肱水舎は、従来の大洲市をはじめとする愛媛県出身の学生に入寮者を限定する姿勢を転換し、日本全国から学生を募集するなど門戸を広げている。さらに現在では中国や韓国からの留学生も在籍している。その結果、現在の満室率は90%まで回復したという。

 

時代に合わせ、より良い生活空間へ

 そもそも県人寮とは一体どのような学寮制度なのだろうか。また、その現状と課題はどういったものか。県人寮の多くが加盟する管理人組合である全国学生寮協議会の会長で、自身も静岡県人寮で寮長を務める山田耕司さんによると、県人寮の沿革は大きく分けて2種類あるという。1つは肱水舎のように、江戸時代以降の藩の流れを汲むもの。その名残は現在も見られ、例えば石川富山明倫学館(文京区)は石川、富山両県から学生を受け入れているが、これは両県がもともと加賀藩に当たるためだ。

 

山田耕司さん(全国学生寮協議会・静岡県学生会館富士寮)

 

 もう1つは、1955年ごろ、地方出身の学生の住居問題を憂慮した当時の文部大臣の号令のもと整備されたものだ。自治体が直接運営している場合もあるが、多くの県人寮は公益財団法人化しているという。

 

 現在同協議会に加盟しているのは全部で41寮。かつては60寮ほど加盟していたというが、定員不足や老朽化などで廃寮になるケースが多かったのだという。とはいえ、廃寮となった県人寮の中には、千葉県人寮のように、交通網の発達から寮が不要になったというものも含まれているため、必ずしも人気低下や少子化の影響が大きいとは一概には言えないようだ。

 

 「いくら少子化が進んでいるとはいえ、上京する学生は今でも多い。大切なのはいかに学生のニーズにあった運営をするかですね」と山田さん。運営する静岡県人寮は寮内設備の更新や運営規則の変更などの他、寮のウェブサイトを一新するなど時代に即したPR戦略を取ったことで、現在でも常に満室状態が続いているという。

 

 県人寮はその成立時期や背景から、男子専用寮が多くを占めているのが現状だが、時代の変化に合わせて新たに女子寮を開設する県人寮もますます増えてきている。

 

 県人寮の魅力はその安さや食事の面だけにとどまらないと話す山田さん。急な病気や交通事故、ブラックバイトに詐欺被害など、学生には様々なトラブルが生じる可能性があるが「身近に相談できる人がいると、そうしたトラブルも未然に防いだり、適切に対処したりできると思います」

 

 山田さんも勉学や課外活動といった日常生活から就職活動に至るまで、普段から学生の相談相手になり、有意義な学生生活が送れるようサポートしているという。山田さんは「共同生活を送ることで、社会人としての礼儀やマナーも身に付くはずです」と県人寮に住む意義を強調する。

 

 京都府や宮城県など、県人寮を持たない府県もあるが、「県出身にこだわらずに外から学生を募集している寮もあるので、まずはインターネットで調べてみてください」

 

全国学生寮協議会に加盟している東京大学周辺の主な県人寮

この記事は、2019年8月27日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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サークルペロリ 東京大学運動会相撲部

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ぶつかり合って絆育む

 

 駒場Ⅰキャンパスに本格的な土俵があるのを知っている人はどれくらいいるだろうか。第一グラウンドとラグビー場に挟まれた格技場の中にあるその土俵で、東大運動会相撲部は汗を流している。活動日は月・水・土の週3日。部員数は1年生4人、2年生2人、4年生1人と少人数ながらも、前日夜の大相撲について盛り上がりながら和気あいあいと稽古していた。

 

「押し」を練習する部員たち。さまざまな角度で繰り返し行う

 

 「練習は、四股・すり足・押しを入念にやってから始まります。野球で言えば素振りのようなものです」と主将の野口旬紀さん(法・4年)。「四股」は足の鍛錬とストレッチを兼ねた、相撲の基本動作だ。「すり足」は相撲独特の足の動きで、自分の体に体重を残しながら相手をコントロールする。「押し」は文字通り相手の体を押す動作だが、腕の角度によって威力が全く違うので、他の部員の体を使った練習が必須だ。これらの基本練習を地道に繰り返し強くなる。続く試合形式の練習では技を体に染み込ませるという。

 

 練習の成果もあり、5月に行われた全国国公立大学対抗相撲大会では団体戦で3位に入賞した。競技人口が全国で200〜300人と少ないからこそ他大学の相撲部との交流の機会も増え、いいライバル関係を作れるという。「一番のライバルはやはり京都大学ですね」

 

 毎年夏に行われる合宿では相撲部屋に倣い、朝稽古の後昼食を3時間近くかけて食べ昼寝をした後、さらに3時間かけて夕食を食べる。一食の一人当たりの米の量は3合にも達するという。「食べるのは本当に厳しいです。稽古の中で一番つらいですね(笑)」

 

 普段の駒場での練習後も部員で食べ放題に行く。大量に食べるのはきつい一方、目に見えて自分の成長を感じられ、達成感があるのだとか。新入生も2カ月で体が随分大きくなる。

 

 「相撲では普段とは全く違う方向から力が加わるため、靭帯などのけがが多く、くじけそうになるときもあります。でも体一つで相手にぶつかっていく正々堂々とした潔さに勝るものはないです」。勝負が数秒で決まる厳しい世界であるため、洗練された集中力と精神的な成長も得られる。
 「相撲部はやる気さえあれば誰でも大歓迎です」と野口さん。気になった人は駒場格技場を訪ねてみてはいかが。(米原有里)

部員9人・インカレ


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瀧本ゼミ生による瀧本哲史さん追悼文

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 8月10日、京都大学准教授で自主ゼミナール「瀧本ゼミ」を主催していた瀧本哲史さんが47歳で死去した。死因は明らかにされていない。
 東大のOBで、投資家として活動の傍ら、政策分析と企業分析のゼミを主催、学生との交流を深めていた瀧本さん。亡くなって1カ月の9月10日、瀧本ゼミに所属する学生2人に追悼の意を寄せてもらった。

 

我らが師・瀧本哲史に寄せて

 

 瀧本哲史先生、謹んでご冥福をお祈り申し上げますと共に、生前の先生との思い出や学びを書かせていただき、追悼文とさせていただきます。

 

 ゼミに入会した昨年5月から先生が亡くなる今年8月まで、短い期間でしたが自分は先生からいろいろなことを得られたと思っています。特に代表として伴走した今年1月からの7カ月間は、企業分析のスキル以上にプロフェッショナルとしての「卓越への意識」を学び取ってきたのではないかと思います。この半年間で学んだことは、今後の人生においても何か「標準」のようなものとして自分の中に残り続けると感じています。

 

 瀧本先生は自分にも他人にも非常に厳しい方でした。瀧本ゼミには”Adhere Performance”つまり「成果にこだわる」「常に卓越を志す」という考え方が強くあります。自分も特に1回目の発表と新歓戦略会議では、それを一番体現する先生から厳しく詰められたことを覚えています。凄まじいスピードで咀嚼し、ロジックの穴を突いてくる。

 

 一方で、厳しく詰めるだけでなく「こうしたらいい」と案を示してくれる方でしたし、何より徹底した成果主義であるからこそ、成果に対しては誰よりも素直に喜んでくれる方でもありました。良い発表はその場で褒めてくれるだけでなく、誇らしげにさまざまなシーンで「昔、ゼミ生がしたリサーチで〇〇という会社が・・・」と語り継いでくれたりもします。

 

このスタンスは6月末に行った京都瀧本ゼミとの交流会の時まで変わりませんでしたから、ニュースに先んじて卒業生から訃報を聞いた時は、起きたことがにわかに信じられませんでした。しかし15日の午後にNHKの速報で訃報が届くと一気に現実のこととして突きつけられ、自然と涙が出てきて止まりませんでした。今まで何度詰められても堪えてきたものが、その時は堪えられなかった。まだ先生は47歳、ゼミは創設8年目、先生自身もゼミもこれからだったのに・・・自分は無念でなりませんでした。

 

ただ、いつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。瀧本ゼミはこれからも半学半教の精神の元、創設者である瀧本哲史先生の志を学生たちで引き継ぎ、活動を続けていきます。そして自分自身もいつか、卓越したプロフェッショナルとして天国にいる先生に良い報告ができるよう“Do my homework”を続けていきます。

 

今までありがとうございました。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

東京大学文科二類 2年 余越優

 

 

 僕が瀧本先生と初めてお会いしたのは、大学1年生のときの瀧本ゼミ春新歓でした。イタリアンレストランの隣の席に、やけに早口で話す人が来たなと思ったら瀧本先生でした。ゼミ生の活躍を嬉しそうに語る先生が印象的で、こんなに頭の回転が早い先生と、この人と渡り合うほどの優秀なゼミ生がいるのかと、驚いたのを今でも覚えています。

 

 先生がゼミに実際にいらっしゃることは僕の代の入ゼミ後は稀でしたが、いらっしゃったときは的確なフィードバックをくださり、そんな視点・考え方があったのかといつも驚かされました。また発言のなかの情報量が誰よりも多く、頭をきちんと働かせてついていくのにいつも必死でした。一つ質問をすると、想定した返答の10倍くらいの情報を返してきて圧倒されたことも多々あります。でもそんな今までにない体験が楽しく、瀧本ゼミには大学在学中の時間を割きたい、と強く思えました。

 

 ゼミを続けた最初の動機は、実はこのように「先生からたくさんのものを吸収したい」という気持ちだったのですが、新歓戦略を練るとき先生が「権威に学びたい人はゼミで取りたい人ではないんですよ」と仰っていて、自分の浅さに気づかされました。今思うと僕は先生から直接アドバイスを受けたことは少なく、このように先生の発言から自分を振り返ることが多かったです。それでも自分にグサリときたことは一度や二度ではなく、先生にはお見通しなんだな……と勝手に反省していました。だから先生は気づいていないと思いますが、僕は先生の言葉に何度も凹んでいます笑。ただそれでも不思議と悪い気はせず、むしろその後のやる気や勇気をもらえるのでした。先生の振る舞いや言葉には、そんな力が宿っていたような気がしています。

 

 今回のことで、先生は本当にお忙しいなかゼミに時間を割いてくださっていたのだとようやく気づきました。亡くなる直前まで、遠隔でゼミに参加してほしいとしつこくお願いしていたことが恥ずかしく、申し訳ないです。微力ながら、これからもゼミを発展させていけるよう尽くしたいと思います。1年半という短い間でしたが、本当にお世話になりました。ご冥福をお祈りします。

 

東京大学文科二類 2年 藤田健司

 

【関連記事】

受験と大学生活は別のゲームであると理解せよ 瀧本哲史さんインタビュー

火ようミュージアム 奈良大和四寺のみほとけ

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祈り、観て味わう仏像の魅力

 

 仏像は仏教の崇拝の対象として、各時代の文化を反映しながら約1500年にわたって日本社会に浸透している。人々を熱い信仰へと駆り立て、日本人のよすがであり続けた。今回は、9月23日まで東京国立博物館本館11室で開催されている特別企画「奈良大和四寺のみほとけ」から、仏像の魅力をひもといていく。

 この展覧会では7世紀から8世紀に創建された古刹である岡寺、室生寺、長谷寺安倍文殊院の「奈良大和四寺」に所蔵されている文化財を展示。国宝4件、重要文化財9件を含む名品で構成されている。

 

 最初に目に入るのは、長谷寺所蔵の2体の十一面観音菩薩立像だ。観音とは人々が苦しみ悩む「音」声を「観」じて救うことに由来する。出展された仏像は平安末期から鎌倉時代に作られ、その時代の傾向を受けた穏やかな容貌だ。国風文化によって和様化した仏像形式によるもので、観音菩薩にふさわしい慈愛が表現されている。

 

 

 また、他の菩薩と比べて瓔珞(首飾り)など華美な造形が随所に見られ、見る人を飽きさせない。しかし、これは現世の煩悩を取り除き悟りを開く仏教の教義とはちぐはぐな印象を受ける。華美な仏像は当時の上流階層の「煩悩」を想起させるからだ。仏像が仏教美術の側面を持つ以上、「煩悩」を感じさせずとも目を釘付けにする作品があるのではないだろうか。

 

 その答えは、奈良時代の仏像である岡寺の菩薩半跏像にある。古式な上瞼のみで表現された目や、自然だが微笑みを想起させる口角。女性的で華奢な肉体とその曲線の美しさ。これだけで慈愛を表現するには十分だ。宝冠など頭上の装飾品はあるが、長谷寺のものと比べると全体的に質素であり、わびさびの美意識を感じさせる。「煩悩」を想起させる華美さはなく、仏像の微笑みや肉体美が雑音なく見る人に伝わり心を打つ。

 

 時代は移ろうものであり、様式も変化し続ける。菩薩半跏像から先に進むと、螺髪のない如来像が目に留まる。平安前期に作られた室生寺の釈迦如来坐像は弘仁・貞観文化に当たり、中国からの影響がうかがえる。他の仏像よりも腕が太く、胸板も厚い。男性的でどっしりとした体つきで、口角も下がっている。見る人を包み込むような優しさは感じられないが、質実剛健なこの仏像は悟りを開く仏陀の姿をありありと示している。

 

 さらに注目したいのが、翻波式の衣紋だ。大波と小波を交互に配するこの様式は、独特の律動感で仏像に生気を与えている。この衣紋によって仏陀の姿が無味乾燥な像から脱皮し、芸術的にも優れた形となる。

 

 救いを求める人々のよすがとして、文化を踏まえた一級品の芸術として、仏像は今日も鎮座する。ぜひ仏像の魅力を肌で感じてほしい。時代を超えて真っすぐ心を打つものが展示室にあるはずだ。【貴】

 


この記事は9月3日発行号からの転載です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。

ニュース:知と人材の集積を生かす Society5.0実現に向けた東大の取り組み
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【東大新聞オンラインPICK UP】~芸術編~ 芸術を味わう新たな視点を

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 秋の楽しみ方はさまざまだ。運動のように外でアクティブに動くのもよし、読書のように家でゆったりと過ごすのもよし。その中で、活発さと安らぎ、その両方を兼ね備えるものこそ「芸術」・「アート」ではないだろうか。今回はテーマに過去に東大新聞オンラインで公開した記事の中から「芸術」をテーマにしたものを選び、お薦めの記事として紹介する。ぜひ気になる記事は本文を読んでみてほしい。

 

 まずは音楽だ。記事「数学科卒、JAZZピアニストの音楽論」では、理学部数学科を卒業した後数学者、ジャズピアニストなどとして活躍する中島さち子さんにインタビュー。幼少期から音楽に親しんだ中島さん。中学で数学の「神秘性」に興味を抱き、高校時代には国際数学オリンピックに出場した。東大進学後は「即興演奏や人生や色々なものが絡み合う」ジャズにのめり込み、卒業後も独自でトリオを組むなど精力的に活動。当時所属していた別のバンドの海外ツアーでは日本と欧米の求められる音楽像の違いに気付いた。「数学者とミュージシャンは似ている」と語る中島さんが考える音楽の魅力をひもとく。

 

 続いては絵本。絵本と聞いて「読書と何が違うのか」と思う人もいるだろう。しかし記事「絵本と芸術の関係とは 世界初の絵本美術館を作った松本猛さんが語る絵本の魅力」では、絵本の「芸術」としての側面に焦点を当てる。絵本を自身の卒業論文の研究対象とした松本さんによると、神話美術のように元来人間は物語と絵の融合を楽しんできた。しかし教育と結び付けられてから、美術ではなく、児童文学として見なされるようになってしまったという。「絵と文章で構成されるもの」としての絵本の歴史をたどりながら、単なる子ども向けのジャンルという認識を越えた絵本の魅力とを再考する。 

 

 日本の伝統「芸能」も見逃せない。記事「秋田の民俗芸能・根子番楽 伝統の意味は『根源』ではなく『経過』」では、秋田県の集落に伝わる根子番楽を通じて伝統の本質を探る。規模の小さな芸能故に存続が課題の根子番楽。その困難の中でも人々の間で確かに受け継がれるのは何故か、「伝統」という言葉の意味と共に探る。歌舞伎や能など、日本の伝統芸能を鑑賞するための新たな角度を提供してくれるだろう。

 

 デジタル技術を駆使した現代的なアートはいかがだろうか。記事「猪子寿之さんが語る、チームラボのアートが目指すもの」では、新進気鋭のアート集団「チームラボ」の代表、猪子寿之さんが考える芸術観に迫る。他の芸術のように作品と鑑賞者の間に明確な「境界」を生むのではなく、作品と鑑賞者が一体となるような幻想的な空間を作り出すチームラボ。まさに全身を使って味わうことのできる、アクティブかつ新感覚の芸術といえるだろう。猪子さんの言葉から、その美の根源に迫る。

 

 「東大新聞オンラインPICK UP」は東大新聞オンラインに掲載された過去の記事から、特定のテーマに沿ったお薦めの記事を紹介するコーナーです。

 

【東大新聞オンラインPICK UP】

【東大新聞オンラインPICK UP】〜研究編〜 興味の数だけ広がる世界

【東大新聞オンラインPICK UP】〜留学編〜 心機一転のチャレンジを

【東大新聞オンラインPICK UP】〜恋愛編〜 バレンタインデーに備えて

ただいま、札幌南高校 東大女子の母校訪問①

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 東大は「多様な学生構成」を目標の1つとしているが、いまだに地方出身の東大生は少なく、2019年度一般入試の女子の東大合格者は510人で、全体の16.9%にすぎない。東大を目指す女子学生を増やすため、2010年度から「在学女子学生による母校訪問」という事業が始まり、特に地方高校出身の女子の参加が呼び掛けられている。今回は記者自身が母校訪問を実施するとともに、母校の進路担当の教諭に話を聞き地方高校の現状に迫った。その様子を2回に分けて送る。

 

 大学進学とともに上京し、忙しくも充実した日々を送る記者のもとに、ある日高校の恩師からメールが届いた。「『東大生・京大生と語る会』に参加しませんか?」

 

 記者の母校、北海道札幌南高校は「堅忍不抜」「自主自律」の校風のもと、例年現浪合わせて10人程度の東大合格者、50人程度の国公立大医学部合格者を輩出する、共学の公立校だ。毎年夏休み明けには卒業生が大学生活や大学での授業内容、高校時代の生活や受験勉強などについて話すイベントが行われる。記者も高2の時に参加し、先輩方の話に感銘を受けて勉強のモチベーションが高まった。そんなイベントに講師側として呼ばれるなんて、うれしい反面、後輩の役に立つ話をしなければと身が引き締まる思いだ。

 

 恩師からのメールには続きが。「東大は女子学生が母校で講演等を行う場合補助が出ると思います」。確か高校時代に、オープンキャンパスでの女子向け説明会でそんな話を聞いたような……調べてみると「在学女子学生による母校訪問プロジェクト2019」の案内を発見。謝金や交通費の補助が出ることも確認し、早速申請して事前説明会に参加することにした。

 

 事前説明会の終了後、高校生向けの説明用DVDの上映が始まった。その冒頭、ある東大女子が語った東大を目指したきっかけを聞いてかすかな違和感を覚えた。「周りも東大を目指す人が多かったので……」記者の高校時代、周りにいた東大志望者は決して多くはなかった。このDVDを見て、地方の女子学生はどれほど共感できるのだろう。DVDの使用は必須ではなかったため、自作のスライドで説明することにした。

 

 母校訪問当日。共に講師役を務める男性の東大生・京大生の先輩方と教室に向かうと、高校生40人程度が集まり教室は満員状態。男女比は少し女子が多いくらいだ。少々緊張しつつも発表を開始する。

 

 東大を志望した経緯、塾や部活、受験勉強など高校時代の話から入学しての感想まで、自分が高校時代に聞きたかったことを思い出して話す。受験生時代の夏に受けた東大模試の数学で3点しか取れなかったエピソードも紹介し、なるべく親しみを持ってもらえるように心掛けた。東京大学新聞社が毎年刊行しているシリーズ「現役東大生が作る東大受験本 東大2020 考えろ東大」を紹介すると、終了後に代わる代わる見本誌を手に取って見ている生徒たち。勉強法や模試について個別に質問をする生徒もいて、意欲的な後輩にこちらが刺激をもらった。

 

 後日生徒たちの感想を問い合わせると「楽しかった」「パンフレットにはない生の声が聞けて良かった」「もう少し受験勉強のことが聞きたかった」「もっと基本的なことから聞きたかった」と十人十色。拙い発表だったが、後輩たちに情報を提供して、少しでも東大に興味を持ってもらえたならうれしい限りだ。

(②に続く)


※この記事に登場した現在発売中の『現役東大生がつくる東大受験本 東大2020 考えろ東大』。受験生でない方にとっても面白い情報満載の書籍ですので、ぜひ合わせてご覧ください。

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