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【新連載】「N高生のリアル」 教育革命のイマ

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「見聞きしたことしか書かない」

 

 2016年4月に開校した学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校(N高)。2年目を迎える今年は入学者が2000人を超え、設立2年目にして約3900人が在籍するマンモス校になった。「ネットの高校」として従来にない新しい学校を目指すN高を取り上げた記事はオンライン上でも既に多いが、実際に生徒たちはどういう日常を過ごし、何を考えているのか。「N高生のリアル」と題して、東大生記者が体当たりで迫る。本連載の核は「実際に見聞きしたことしか書かない」。果たして、N高は「サブカル好きがおふざけで作ってみた学校」なのか、それとも「未来からやって来た、我々の理解の範疇を超えた近未来学校」なのか。

 

「N高通学コース」代々木キャンパス

 

N高の概要

 

 「実際に見聞きしたことしか書かない」とは言え、連載に当たって、最低限の概要は必要なため、それらをまとめたいと思う。

 

 N高は、2016年に開校された。設立の背景となる問題意識については、回を追うごとに深めていくことにしよう。

 高校設立に当たって、制度は「通信制」というのを利用している。通信制には狭域と広域の二つがあり、そのうち「広域」は全国から生徒を集めることができる(狭域は地域限定。公立が多い)。通信制と言えど、ハコモノとしての「学校」も設置のためには必要で、N高の場合は沖縄の伊計島という離島の廃校を利用している。校舎はかなりお洒落なものであるが、この廃校の利用の許可が地元から出るまでには大変な苦労があったという(詳しくは崎谷実穂著『ネットの高校、はじめました。』)。

 N高では年に5日程度、学校に通学して授業を履修する「スクーリング」が求められており、生徒たちは沖縄伊計本校での対面授業と合わせて修学旅行のような5日間を過ごす。とはいえ広域制であるN高は、沖縄伊計本校の他に全国の主要都市にも11箇所のスクーリング会場を設け、事情があって沖縄までは来られない生徒にも近場の会場を提供している。

 

通信制のメリット 無駄な時間を削り、個性を伸ばす

 

 N高が通信制高校である理由について、学校側はこのように説明している。

 「N高校が通信制という形態を取るのは、人生で最も吸収力があり体力もあり余る、10代後半という黄金期に従来型のカリキュラムをただ学習するだけでなく、もっとより多くの選択肢を若者に提供したいが故です」(「設立の背景とN高等学校の特長について」N高等学校 入学広報部)

 N高では、高卒資格をとるために必要な必須履修科目を、普通の全日制高校の3分の1程度の時間で、オンライン学習を中心にして達成する。効率化して作られたその時間は、「自らの個性を伸ばす時間」に当てられる。

 

 広報の村田喜直さんによれば、「従来の高校では授業の他に部活動があり、塾や予備校に通うことも考えると毎日の拘束時間が長い、本当の意味で自分の将来につながる勉強をしたいと感じた生徒たちが多く来ている」という。実際にN高では、「課外授業」として、実力は予備校講師による大学受験対策授業以外にも、ドワンゴによるプログラミング授業、KADOKAWAによる文芸小説創作授業、電撃文庫とコラボしたエンタテイメント授業、Vantanと提携したファッション・パティシエ・ビューティ・ゲームなどのクリエイティブ授業がオンラインで提供されている。それらの課外活動によって「想定できる職業」として、プログラマ・SE・アプリエンジニア・小説家・漫画原作者・編集者・ライター・ライトノベル作家・漫画家・イラストレーター・ゲームクリエイター・デザイナー・スタイリスト・ファッションプロデューサー・パティシエ・シェフ・ネイリスト・ヘアメイク・声優などが挙げられている。

 

 このような触れ込みは、大変魅力的に映る。ほかにもVRでの入学式やドラゴンクエストⅩを使ってのネット遠足、文化祭の場でもあるニコニコ超会議の企画で小泉進次郎衆議院議員や小池百合子東京都知事とN高生が対談するなど、話題性には事欠かないN高。

 これら、派手なメディア露出の裏にある、N高生のリアル・スクールライフとは? 筆者は、N高が起こそうとしているムーブメントの「目撃者」として、現場に飛び込み、記録を残す。

【新連載】「N高生のリアル」 教育革命のイマ東大新聞オンラインで公開された投稿です。


【N高生のリアル①】昼休み明けの恒例授業「サークルリーディング」とは?

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 開校2年目にして、4000人近い生徒を集めたN高校。通信制を利用して、「ネットの高校」として開校したN高だが、「通学コースを作って欲しい」という要望を受け、2年目の今年は東京・代々木と大阪・心斎橋に校舎を設立。筆者は東京・代々木のN高に潜入取材した。そこで見聞きしたことをリポートする。

 

企画概要

【新連載】「N高生のリアル」 教育革命のイマ

 

 5月某日。4月の開校からわずか1カ月あまりだが、教室の雰囲気はどうだろうか。

 

 訪れたのは、午後一番の授業から。お昼休みを終えた最初の授業は、「サークルリーディング」という時間。N高校の時間割は通常1コマ50分と、通常の高校と変わりがないが、このサークルリーディングという時間はお昼休み後に毎日30分行われ、午後の授業に向けて休憩と学習のスイッチを切り替える役割も担っている。生徒は4〜6人ごとにグループになり、同一の本の感想を共有し合う。生徒たちが読んでいたのは『タスキメシ』(額賀雫著)という、高校駅伝を舞台としたスポーツ文学だ。

 

 このサークルリーディングの進め方は班ごとに一任されているらしく、紙の本を持って、丸読み(句点ごとに順に読み上げてくこと)している班もあれば、電子書籍として、MacBookの画面に映して各自が黙読している班もあった。ある程度読む時間が設けられた後に、大学生TAから「はい! では本の感想を共有してー」と声がかかる。この指示出しに忠実に感想を言い合う班もあれば、感想の共有もほどほどにじゃれあい始める班もあった。こう書くと、「教育目的を完徹できていない!」という声もありそうだが、「生徒同士が打ち解ける」という意味においては機能を果たしていると見ることもできる。

 

ノートパソコンの利用は日常的に行われている

 

 このN高代々木キャンパスは、代ゼミタワーに隣接した敷地にある「本館」とそこから徒歩1分のビルの1フロアーを借りた「別館」に分かれている。「本館」の1階は職員室と生徒ラウンジ。地下1階はフリースペースと呼ばれる、円卓が並ぶ広いスペースと、もともと代ゼミのものだったという自習室。2階は3Dプリンターや工具、プログラミングにまつわる本がたくさん置かれている教室になっている。通学コースは全部で150人ほどだが、通学の日数別に「週5日コース」「週3日コース」「週1日コース」に分かれており、校舎に通ってくる生徒の数は毎日違うため、人数によってどの教室・フロアーを使うかを決めているという。

 

N高の本館
本館1階の生徒ラウンジ。アメリカ西海岸が意識されている
N高の2階

 

 そしてこのサークルリーディングが行われたのは、「別館」。一般的な学校教室2.5個分ほどの広々としたスペースに、50人ほどの生徒がいた。コンセント付きのスタイリッシュなデスクで、4〜6人の班ごとに向き合って配置されている。全員MacBookを持参して画面を開いていたが、このMacBookは必須備品として、入学に際して購入をお願いしているという。

 

 このサークルリーディング最中に、一つのグループと仲良くなった。背が高く細身の筆者の姿をみて「先生、気胸になりそうだね(肺に穴が空いてしまうこと)」と一人の男子生徒が話し掛けてくれた。彼の周辺には話し好きの男子生徒がもう2人おり、しばらく話し込む。男子生徒の一人は「Windowsの方が改造できていい!」とMacBookを酷評していた。聞けばスマホはAndroidを持ち、自分で様々に改造して遊んでいるという。記者に話し掛けてくれた子の話を聞いていると、ウェブデザインを極めて仕事にしたいと思っているようで、すでに友人のミュージシャンのウェブサイトをデザインしてあげているという。自分でデザインしたオシャレな名刺も持っていた。他の2人は、スマホに入ってきたニュースに話題が移り、すぐに検索してそのニュースに関連する法律を閲覧し、議論をしていた。

 

 こういった、一人一台パソコンがあるのが前提の学びというのは、未来の普通になってくるだろうか。そんな思いも去来しつつ、サークルリーディングの時間も終わり、次は英語とプログラミングに各自が分かれていく。

 

2017年6月6日16:30【記事修正】取材先の要望で一部写真を修正しました。

 

【N高生のリアル】

東大受験から基礎固めまで レベルに合わせた英語教育

「N高は『道具箱』」 可能性を生むプログラミング

【N高生のリアル①】昼休み明けの恒例授業「サークルリーディング」とは?東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【N高生のリアル②】東大受験から基礎固めまで レベルに合わせた英語教育

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 サークルリーディングで仲を深めた後は、別館での英語の授業と、本館でのプログラミングの授業に分かれる。今回は英語の様子をリポートする。

 

 別館は学校教室2.5個分ほどの広々とした教室だ。今回英語の授業を受けていた生徒は30人ほど。くじ引きで3グループに分かれ、それぞれ違う時間が流れていく。一つ目のグループはスピーキング。ネイティブの先生が来ていて、その先生を10人ほどで囲み、ホワイトボードを使いながら、インタラクションを中心に授業が進む。

 

 

 もう一つのグループはリーディング。簡単な英語の小説を読み進めていく時間。100冊以上はあるだろうか、様々なジャンルの本が、レベルごとに用意されており、生徒は自分の実力に応じたものを読み進めていく。最後は発音チェックと内容理解を個別で先生から受ける。

 

多種多様な本が用意されている

 

 そして最後のグループはPCを使った自習。PCではN予備校の録画授業か、オンラインで文法の問題などを解く。こちらのグループはイヤホンを繋いで授業を見ながらノートを取っていたり、オンラインで問題を解いていたりと各自が思い思いの時間を過ごす。この3グループが時間ごとにローテーションしていく。N高は上は東大受験を目指す子から、下は中学での学習でつまずきがある子まで幅広い生徒が通っているが、広報の村田喜直さんによると「各自が自分のレベルにあった学習ができるような設計を意識している」という。

 

N予備校の授業を視聴中

 

 しかしこの設計も発展途上で、毎回授業をしながら細かな改善が繰り返されている。都内の高校教諭を辞め、決心してN高に移ってきた方が中心になってリードしているという。

 

 教室の掲示板に、「明日、江ノ島旅行に行きます」という掲示があった。生徒たちが仲良くなるように企画され、行くかどうかは各自に任されているそうだが、ほとんどの生徒が参加予定であるという。この辺りは「普通の高校生活」のようだ。

 

 ちなみに教務陣だが、高校教諭資格を持つ先生や塾・予備校での教務経験のある職員が中心なものの、TAとして大学生も活躍している。学習はテクノロジーでサポートされているので、「脇で伴走してあげる人」として、TAの役割は重要なのかもしれない。

 

 このN高通学コース、基本的には服装自由だが、N高では公式の制服も用意しており、それを好んで着用している生徒も多い。自分で制服を用意している子もいた。

 

 続いて次回は、プログラミングのコースの模様をリポートする。

 

【N高生のリアル】

昼休み明けの恒例授業「サークルリーディング」とは?

「N高は『道具箱』」 可能性を生むプログラミング

【N高生のリアル②】東大受験から基礎固めまで レベルに合わせた英語教育東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【N高生のリアル③】「N高は『道具箱』」 可能性を生むプログラミング

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 本館に戻り、プログラミングの授業を見学する。プログラミングの授業は日によってはドワンゴのプログラマーが来て質問を受け付けるが、基本的には教材を用いて各自が進めて行く。

 

 本館地下フリースペースでは、15個ほどの円卓でプログラミング学習が進んでいた。一人で黙々と進めている子もいれば、仲良し女子高生グループもあり、真剣に話し合いながら進めているグループもあった。TAの大学生によれば、ドワンゴの作成したこのプログラミング教材(N予備校の講座)は「結構分かりやすい」そうで、みんなが各自で進めていけるそうだ。ただ、プログラミングどころかパソコン初級者の中には全く進められない子もいて、そういう子は「タイピング」の練習から始めているという。

 

 

ドワンゴ作成のオリジナル教材で学習する

 

 一方で進んでいる子はかなり進んでいる。教室の端に、熱く議論している男子生徒2人組がいた。聞けば、一人は中学生の頃からプログラミングでゲームを作成しており、その実績を買われ、都内の会社でインターンしながらN高に通っているという(Aくん)。もう一人の子は高校2年生で今年からN高に編入し、プログラミングを始めたという(Bくん)。Bくんはわずか1カ月で相当プログラミングを覚えたそうで、もともとプログラミングの実力者であるAくんと一緒に、「携帯電話の通信制限に一石を投じたい」と、ある提案書を作って経産省の公募プログラムに応募しようとしていた。その二人をインタビューした。

 

――N高に入学したのはどういう理由ですか?

Aくん 僕はもともと生徒会とかやっているタイプでしたが、ふと、このまま大学行って大丈夫なのかなと思ってしまい。(中学時代、地元自治体のゆるキャラを使用してゲームを作成し話題になった実績から)インターンしてみない?というお声掛けもあったので、インターンしながら高校に行けるということで、ここに来ました。

 

――インターンはどうですか?

Aくん 最近、少し失敗してしまって、落ち込んでいるところなんですが(苦笑)、でも良い勉強になっています。

 

――Bくんはどうですか?

Bくん 僕は進学校に通っていたのですが、高1の夏休み明けに、勉強と吹奏楽部の両立が大変すぎて、過労で倒れてしまったんです。そこから、人生について考え直しました。この学校だと、小テストとか多すぎて、自分がやりたいことができない。でも、N高だと、できる。親に頼み込んで、編入して来ました。親の理解はなかなか得られなくて、土下座する寸前でした(笑)。

 

Aくん 彼はプログラミングの成長がすごく早くて、1カ月でここまでできるのか、というほどです。僕もこういう教材(N予備校のプログラミング講座)があったら、中学時代に無駄な時間を取らなくてよかったと、羨ましいです(笑)。

 

――すごいですね

Aくん 日本のプログラミングのレベルは大変遅れています。エストニアとかはすごくて、日本のプログラマーが束になっても敵わない。すごく、危機感を感じています。

 

――その問題意識もすごいですけど……。最後に、N高に通って感じたことを教えてください。

Aくん 先生方がよく言われているのですが、N高を喩えるならば、「道具箱」です。中にはたくさんの道具が詰まっていて、何でもできる。でもたくさん道具があっても、使わなければ何も生まない。N高はたくさんの可能性を与えてくれるところですけど、それを利用し尽くせるかどうかは僕たち生徒にかかっています。

 

 N高というムーブメントの一端が、この二人から垣間見えた気がした。

 

 また次回は、N高生の「大学受験」についてリポートする。

 

【N高生のリアル】

昼休み明けの恒例授業「サークルリーディング」とは?

東大受験から基礎固めまで レベルに合わせた英語教育

【N高生のリアル③】「N高は『道具箱』」 可能性を生むプログラミング東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【はじめての論文】武藤香織教授(医科学研究所) 卒論執筆は医者への怒りが原点

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 臓器移植や遺伝性疾患など、医療に関する政策について研究を進める武藤香織教授(医科学研究所)。学部生時代は家族社会学のゼミに所属していたという教授に、初めて書いた「卒業論文」について話を聞いた。

 

98年医学系研究科国際保健学専攻単位取得満期退学。博士(保健学)。米ブラウン大学研究員などを経て、13年より現職。

 

 武藤教授は慶應義塾大学文学部に所属し、社会学を専攻していた。元々ジェンダーに関心があり「幼い頃から男女間の役割の違いに違和感を感じていました」。大学入学後に一般教養の講義で社会学を学んだ際に「自分の感じるもやもやを解決してくれる学問かもしれない」と思い、専攻を決めた。

 

 学業に励む一方で「実は当時バンドをやっていて、将来ミュージシャンを目指していたんです」。バントではキーボードを担当しており、重たいキーボードを背負って電車など街中を移動していた。転機になったのは大学3年次の夏。ある日急に、キーボードを持ち上げられず、上手く歩けなくなった。体調を崩した武藤教授は、病院を受診。しかし何度検査をしても原因は分からず、医師から詳しい説明を受けないまま、次第に精密な検査に移行。検査費がかさみ、心理的負担も大きくなっていった。

 

 「ある日勇気を出して担当医師に『先生は私を何の病気だと疑っているんですか』と聞いたんです。そしたら声を荒げて『悪性リンパ腫だよ!』と言われました」。大病と言われたショックや、患者に何の確認も取らず検査を進める医師への不満が募り、武藤教授は別の病院を受診。これまでの経緯を話して診察してもらったところ、悪性リンパ腫ではなくただの感染症で、放っておけばすぐ治る病気だと診断された。

 

 この一連の出来事にショックと怒りを感じた武藤教授は、大学3年次に研究テーマを「医療専門職論」に決定。治療について裁量が大きく認められ、報酬も高い医師という職業に就く人はどうあるべきかについてまとめた論文を書いた。「怒りは論文執筆のすさまじい原動力になりました。ただ、自分の経験が基なので、主観を挟まないで論文を書くのは本当に難しかったですね」

 

 社会学と医学で違いを感じるのは「社会学では多様な価値観が受け入れられるのに対し、医学は病気の治癒に最大の価値が置かれること」だと言う。延命治療の是非など「病気を治すのはもちろん大切ですが、病気が治れば幸せかは一概にいえません」。社会学で培った視点は、医療の分野で新しい観点を提示する点で役立っているという。

 論文執筆を控える学生に向けて「重要なのは切り捨てるべきところを選ぶこと」と武藤教授。「たくさんのことを書きたくなると思いますが、卒業論文で書ける範囲は限られます。自分が確実に明らかにできることを上手く選び取り、執筆を進めてほしいですね」

 

(分部麻里)

新連載「はじめての論文」では、論文の執筆を控えた学生に向けて、東大にゆかりのある大学教員が書いた卒業論文を紹介します。


 この記事は、2017年5月30日号に掲載した記事を再編集したものです。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

ニュース:皆が健康に働ける社会へ 東京大学新聞社 五月祭シンポジウム抄録
ニュース:方針・問題例を公表 大学入試新テスト 採点は民間に委託
ニュース:硬式野球・法大戦 2連敗喫し0勝で今季終了
企画:写真で見る五月祭
企画:学生の地域活動が必須 東大と歩んできた街・本郷の今後 
企画:対面ゲームで仲良く・賢く アナログゲーム特集 
新研究科長に聞く:①新領域創成科学研究科 三谷啓志教授
初めての論文:武藤香織教授(医科学研究所)
東大今昔物語:1975年5月26日発行号より 五月祭にも政治色
研究室散歩:ゲームプログラミング 金子知適准教授(情報学環・総合文化研究科)
キャンパスガール:小沼聡恵さん(文Ⅲ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【はじめての論文】武藤香織教授(医科学研究所) 卒論執筆は医者への怒りが原点東大新聞オンラインで公開された投稿です。

~6月20日は世界難民の日~ 難民はわたしたちと同じ人間だ

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 皆さん、こんにちは。

 突然ですが、走ることはお好きですか? 難民って言葉をよく耳にしますか?

 走る×難民...国連UNHCR協会公認企画「難民かけはしプロジェクト2017」という学生主体の企画が2017年2月26日(日)に実施され、このプロジェクトに10人の東大生が参加しました。

 「難民かけはしプロジェクト2017」とは一体どんな企画でしょうか。難民問題を多くの人に身近に感じてもらうため、日本の学生と日本にいる難民という背景を持つ学生と一緒に東京マラソン2017チャリティを走ろうという学生プロジェクトです。

 今日はこの「難民かけはしプロジェクト2017」でランナーとして東京マラソン2017チャリティを難民という背景をもつ学生と完走した杉山実優(法学部卒業生)と中道大輔(文学部思想文化学科哲学専修課程3年)の二人にお話を聞きました。

(聞き手 難民かけはしプロジェクト2017副代表 神田外語大学 島田莉奈)

 

東京マラソン2017チャリティで笑顔を見せる杉山実優さん

 

1,このプロジェクトに参加したきっかけは何ですか?

杉山:初年度の難民かけはしプロジェクトを始めたのが私の友達で、その時から応援していました。前年は忙しくて参加できなかったので、今回2017で参加しました!

中道:初年度のプロジェクトで東京マラソン2016チャリティのランナーとして参加した東大トライアスロンチームDoo-Upの先輩が僕を誘ってくれたからです。

 

2,このプロジェクトの楽しいところや魅力は何ですか?

杉山:そもそもこのプロジェクトに出会わなければフルマラソンに挑戦しようと思うことすらなかったと思います。メンバーと一緒に練習していくうちに、走れる距離がどんどん伸びて当日は完走することができました! 他にも難民問題をはじめとして色々なことを共に考えられる良い仲間に出会えました。

中道:難民とマラソンでみんなが一つになることができることです。

 

3,このプロジェクトでできることは?

杉山:国連UNHCR協会と関わることによって、現地で活躍していた職員の生の声を聞くことができました。それによって、具体的に難民問題について知ることができます。それに、メンバーも難民問題に限らず様々なことに関心があり、みんなと色々なことを話し合えて良かったです。

中道:マラソンを通じて人や企業などと深く関わることができました。毎週あるミーティングでは難民問題などメンバー内で勉強会をします。このプロジェクトには、当事者と支援者がいるので他のサークルに比べて勉強的側面がとても強いです。

 

4,学業との両立はできますか?

杉山・中道:問題ないです。

杉山:日本にいる難民の方と関わることができるので、身近なところから国際問題に触れるきっかけになります。国際問題と言われる事柄が、遠い国の遠い話ではなく、身近なことから始まると気付いてもらえたら嬉しいです。

 

5,最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

杉山:「フルマラソン」と初めに聞いたときは、途方もないチャレンジのように感じましたが、完走出来たことは自分の中で大きな自信になりました。

中道:学生の時って色々挑戦できる期間なので、どんなことでもチャレンジしてほしいです。スポーツを自分のためにやっているという人も多くいると思います。でも、このプロジェクトをやったことによって、誰かのためにスポーツを頑張るというスポーツの新たな魅力を知ることができました。

 

 一年間頑張ってこのプロジェクトをやり遂げた二人の目は輝いていました。杉山さんと中道さんは次の目標に向かって既に走りだしていました。「難民かけはしプロジェクト2017」は終了しましたが、わたしたちの想いは走り続けています。

 

完走後に笑顔でガッツポーズをする中道大輔さん

 

国連UNHCR協会HP:http://www.japanforunhcr.org/

※国連UNHCR協会は東京マラソン2018チャリティ事業の寄付先団体です。

東京マラソン2018チャリティ公式ウェブサイト:http://www.marathon.tokyo/charity/

 

【関連記事】

東大生が東京マラソンを駈ける!世界の難民のため、難民の背景を持つ学生とともに

難民かけはしプロジェクト-東京マラソン完走!難民当事者ランナーが思いを語る

~6月20日は世界難民の日~ 難民はわたしたちと同じ人間だ東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【2017年5月アクセスランキング】高橋まつりさん関連記事に大きな注目

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(左上から時計回りに)進学選択の日程表、満席となった五月祭シンポジウムの講演、京大戦で力の差を見せつけられた東大アメフト部

 

 東大新聞オンラインで5月に公開した記事の5月中のアクセスランキングを調べたところ、1位は東大OGで電通に入社後過労死した高橋まつりさんに関する記事だった。当時の友人やまつりさんの母の幸美さんに取材し、彼女の東大入学前や東大での姿、電通入社後の様子などに迫った。事件の遺族代理人である川人博弁護士は、近年特に若者の間に過労死が広がっていると主張。世間の事件に対する注目度の高さが反映された形だ。

 

 2、4位には高橋まつりさんの事件を扱った五月祭シンポジウムの関連記事がランクイン。この会では川人弁護士や幸美さん、働き方に関する4人の有識者を招いて講演やパネルディスカッションを行った。有識者が経験に基づいた働き方を提示し、大学生、現役で働いている世代の双方から多くの反響を呼んだ。

 

 3位は「Believeキャンペーン@東大」が主催した学生間での性暴力に関するワークショップの取材記事で、日本のずさんな強姦罪の定義の説明や「同意とは何か」を巡る議論の様子を追った。昨年の東大生による性暴力事件の記憶も新しい中、東大生の取り組みに注目が集まったようだ。

 

 5位に入ったのは、NHK Eテレで話題となった番組「ねほりんぱほりん」のプロデューサー・大古滋久氏のインタビュー記事。理系だった大学生時代や科学番組を作ろうと思って入ったNHKでの気付き、東大の多様性に関する意見などについて話を聞いた。

 

 6位には東大の進学選択に関する記事がランクイン。2年目を迎えた進学選択制度について、進学情報センターと本部学務課に取材し、昨年からの変更点を中心に注意すべき点をまとめた。8、9位は東大アメリカンフットボール部の試合速報記事。それぞれの記事で明治大学戦と京都大学戦を速報し、今季開幕以降厳しい戦いを強いられていることを伝えた。

 

【2017年5月アクセスランキング】

1         高橋まつりさんの死は人ごとか 東大OGの過労死を巡って

2         「新しい働き方」を考える 電通過労死事件の関係者らを招き五月祭シンポジウムを開催

3         学生間の性暴力を防ぐために 東大生有志のワークショップに女子部員が参加した

4         東大・五月祭で高橋まつりさんの母親と弁護士が講演 東大新聞主催シンポジウム

5         「ねほりんぱほりん」プロデューサーと考える 人間の面白さと東大生の多様性 – 東大新聞オンライン

6         東大進学選択注意点 自分の意志重視の志望へ 第2段階で変更大

7         【サークルペロリ】東京大学アマチュア無線クラブ 自分の力で通信

8         アメフト部 1部上位「TOP8」所属の明大に歯が立たず0―34で大敗

9         アメフト部 京大に35失点し完封負け オープン戦3連敗

10        東大社研・ベネッセ共同調査 勉強が「嫌い」な子、中2で過半数に

 

※当該期間に公開した記事のみを集計

 

過去のランキング

【2017年4月アクセスランキング】今年も新入生アンケートに高い関心

【2017年3月アクセスランキング】トップは東大生のテレビ 合格発表の記事も上位に

【2017年2月アクセスランキング】東大女子の座談会特集、入試関連記事に注目

【2017年1月アクセスランキング】1位はブラックラボ検証 受験関連記事も人気

【2016年アクセスランキング】東大新聞オンラインで今年1番読まれた記事は……?

【2016年11月アクセスランキング】トップは図書館閉鎖問題 アメフト、制作展の記事が続く

【2016年10月アクセスランキング】ボカロ講義録が1位に 2位は新設の研究者支援制度

【2016年9月アクセスランキング】1位は進学選択 七大戦、秋のスポーツにも注目

【2016年8月アクセスランキング】ジェンダー企画、リオ五輪寄稿企画が上位に

【2017年5月アクセスランキング】高橋まつりさん関連記事に大きな注目東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【N高生のリアル④】ITで教育はどう変わるか? 「N予備校」の理念や開発経緯に迫る

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 プログラミング教育を実施し高校生のうちからインターンで働く生徒を輩出したり、文芸創作授業を提供したりと、既存の学校教育へのカウンターカルチャーのようにも見えるN高だが、実は大学受験にも力を入れている。ドワンゴの川上会長によれば「学歴偏重の世の中というのはまだ続いていますから、受験のための最適なツールも用意します」という(「ネット時代のエリート作る」『日経ビジネス』2016.11.07. No.1865)。

 

代々木キャンパス内の自習室では、大学生ティーチング・アシスタント(TA)が巡回しており、質問にも答える

 

 N高は、ドワンゴが提供するオンライン学習システム「N予備校」を課外授業に活用している。このシステムはドワンゴが運営してきた「ニコニコ動画」のノウハウが利用されている。ニコニコ動画の特徴は、画面上にユーザーが入力したコメントがリアルタイムで流れること。N予備校の授業においても、講師は流れているコメントに随時応えながら授業をする。特筆すべきは「なるほど!」ボタンで、これを押すと画面に「なるほど!」と流すことができ、素早くリアクションをすることができる。スマホでの視聴を前提として、生徒と素早くインタラクションを取るために考えられたインターフェースだ。

 

 大手予備校を中心に、N予備校が目指す新たな教育スタイルに賛同して集まって来た講師陣の中には、従来の教室空間での授業に限界を感じてN予備校に来た人も多いという。N予備校でのライブ授業ならば、教室の物理的空間の限界に制約されずに、一度に大勢の生徒とリアルタイムでやりとりしながら教えることができる。広報の村田さんによれば、生放送授業は数百人ほどの同時接続で授業を進めているという。

 

「なるほど!」ボタンで生徒の反応を講師が知ることができる

 

 「N予備校」立ち上げの経緯と開発裏話、また今後のビジョンについて、担当の今野寿昭さんから話を聞いた。

 

――2016年4月のリリースから1年少々経過していますが、改めて、N予備校が大事にされている理念があれば教えてください。

 N高は通信制の高校ですが、「高卒資格を取る」以上の価値を生徒に提供していきたいと思っています。卒業した後、将来、どのような仕事や進路に進むのか。だからN高は、単位を取るための授業以外の、「課外授業」に力を入れ、高校を卒業した後の将来につながるための授業を提供しています。N高では、プログラミングやクリエイティブ系など、多様な学びができますが、その核となるのが「N予備校」の学習システムです。N高生なら無料で利用できます。2016年7月に大学受験とプログラミングコースを一般向けにも有料サービスとして公開しました。実際にこのN予備校をフル活用して名門大学に合格した生徒も昨年出ています。

(参考:N予備校合格体験記

 

――そうなんですね。学習者にとっては、N予備校だけで大学受験に挑戦するのに十分な指導を受けられるのでしょうか。

 はい。N予備校は「完結型」のサービスを目指しています。塾や予備校に通って、その補完として使ってもらうのではなく、N予備校だけで大学受験合格に足る学力を習得できることを目指しております。そのために、授業だけでなく、自学自習用の、講師が自ら執筆している「デジタル教材」も多数取りそろえております。加えて、分からないところがあれば、講師や友人に質問できるQ&A機能も用意しています。「授業」「教材」「Q&A」、この三つがN予備校の大きな柱となっています。

 

――その3本柱について伺いたいです。インターネットを使った学習であるe-Learningにおいて、学習者を実質的にどう学習させるかが教育的課題だと思いますが、そのあたりはどう克服しているのでしょうか。

 その通りです。e-Learningにおいて、授業を配信して提供するだけという「一方向性」は長年の課題です。

 

 その解決のために、N予備校は「双方向性」を重視しています。講師に対して、学習者がコメントしたり質問したりしながら授業を進める。そのために「ライブ授業」を重視しています。みんなのコメントが流れたり、他の人の質問を見たりすることで、自宅で受講していても、まるで仲間と一緒に勉強していると思ってもらえるように設計をしています。「挙手」という機能も考えました。リアルの教室では、生徒が前に出て黒板に、数学では計算式を書いたり、英語では構文を書いたりしますよね。それをネットの授業でも実現しようと考えました。

 

 問題をノートに解いて、写真を撮り、「挙手」ボタンを押して講師に送ります。選ばれた生徒の解答は、生放送スタジオの電子黒板に表示され、その場で講師が添削します。これはドワンゴの川上会長からのアイディアで、昔、ニコニコ電話というサービスがありまして、生放送中、視聴者の中から選ばれた一人が、ゲストの芸能人と電話できる機能でした。今回、授業という場で考えた場合、電話である必要はないので、写真を送るという形に落ち着きました。

 

 他にはアンケート・クイズ機能があります。例えば4択の選択問題を出題し、回答を受講者に選んでもらって、選択率の分布を表示しています。そうすることで、参加意識が高まるだけでなく、他の受講者は何を回答したか、間違えやすいポイントはどこかなどが可視化されます。もちろん授業は録画でも見られるのですけど、生放送で参加したい!と思える双方向の機能を多く提供しています。

 

――なるほど。ニコニコで培った技術力がふんだんに生かされているのですね。教材作成について、従来とは異なる点はありますか。

 紙の問題集・参考書の多くが電子書籍化されていますが、紙と同じレイアウトで電子化されたものがほとんどです。私たちはまず、高校生が持っていて、日々使っているデバイスは何か、から考えていきました。言うまでもなく、スマートフォンが圧倒的に多いです。スマートフォンで使われることを前提にした教材は、これまでなかったのではないか。そう考えて、スマートフォンで見やすい、解きやすい参考書や問題集を作成しました。紙にして50冊程度分の教材コンテンツを既に提供しています。

 

 また、生授業を担当する講師自身が執筆を担当しているので、授業と連動した形で自学自習を進めていくことができる教材になっています。

 

――先進的ですね。Q&A機能に関してはどのようなお考えで進めたのでしょうか。

 先ほどお話しました通り、N予備校は「完結型」のサービスを目指しております。生授業、デジタル教材があって、あと何が必要かを考えた結果、わからないことを質問できる場が必要と考えました。それがあれば、理想とする、ネットで完結する学習を目指せるのではないか。Q&Aでは、生徒同士の教え合いが基本ですが、講師から直接返答をすることもあります。また最近では、講師からの宿題提示にも活用しています。

 

――開発に当たって、大変だったことはありますか。

 やはり時間ですね。半年くらいでシステム開発したのですが、「授業」「教材」「Q&A」と、三つのサービスを開発するのとほぼイコールでした。開発チームには頭が上がりません。

 

 また、半年間で、N予備校の講師陣を集めるのも大変な仕事でした。授業がうまい講師の方々は多いですが、教材を執筆できる講師の方は、深い教科知識が求められることもあり、そう多くはありません。これはKADOKAWAで学習参考書を担当している部署の方々に協力を仰ぎました。学習参考書を執筆している講師は、既に執筆力が担保されています。参画して頂きたい講師の方1人1人に、企画を説明してまわりました。参画してくれた講師の方々は、もともとe-Learningに興味がある方々です。そういう講師陣なので、挙手とかアンケートとかのシステムもあっという間に使いこなしてくださいました。

 

アンケートをクイズ形式で出題することで、生徒の回答を把握できる

 

――ネット×教育は魅力的な分野ですが、この分野に関して、今後のビジョンがあれば教えてください。

 ネット×教育はこれから開拓が進んでいく分野だと思います。複数のプレイヤーと共存共栄しながら、一緒に開拓していければと思っています。教育系のサービスは、1強が存在しづらい世界だと思っています。大手予備校も、有力プレイヤーが複数いますよね。裏を返せば、教育は、生徒さん個々のニーズが様々で、一社でそれらを全て満たすコンテンツなどを作ることは不可能なのではないでしょうか。ですので、選択肢の一つとして、ネットで学ぶ方法があるということを、他のプレイヤーさんたちと一緒に提供していきたいと考えています。

 

――なるほど。素晴らしいビジョンありがとうございます。最後に、ネット×教育で、今後はここが最前線になるというイノベーションの領域があれば教えてください。

 これはN予備校というか、僕の個人的な考えになりますが、教育は大きくティーチングとコーチングに分類できると思っています。このティーチングの部分を効率化・自動化しているのが今の流れと捉えています。映像授業は、講師による授業のレベル、スキルのばらつきを均質化、向上しました。元々、ビデオやDVDを通じて塾で受講するスタイルだったものが、ネットインフラが整うにつれ、ネットで受講するスタイルになってきたと考えています。また、いま話題の人工知能(AI)によるアダプティブ・ラーニング(注:各自の学習進度に合わせて次の学習内容を指示すること)も、ティーチングの自動化の一つと捉えています。

 

 従来であれば、教科知識豊富な人が、個々の学力をみながら、次にやるべき教材を勧めていたわけですが、これを機械にやらせるのがアダプティブ・ラーニングです。ティーチングの効率化・自動化がこのように進むと、たとえ教科知識がない人でも、生徒の指導ができるようになっていきます。つまり、「やる気」といった精神的な指導に専念できるようになるわけですが、さて、ここは機械化できるのだろうか? 今はこのコーチングの部分は人が担っているわけですが、ここを機械化、自動化できるかが次の勝負なのかなと感じています。まあ、機械に「頑張れ」って言われて頑張れるのかっていう話で(笑)、もしかしたら未来永劫、人が担う領域なのかもしれません。N予備校をやりながら、その点を深めていければと思ってます。

 

――今野さん、ありがとうございました!

 

 N予備校から東大生が輩出される日も近いと感じた記者であった。

 

 次回は、N高ネットコース生を担任している先生に直撃インタビュー。日々、チャットツール「Slack」で行われるホームルームの様子に迫った。

 

【N高生のリアル】

昼休み明けの恒例授業「サークルリーディング」とは?

東大受験から基礎固めまで レベルに合わせた英語教育

「N高は『道具箱』」 可能性を生むプログラミング

【N高生のリアル④】ITで教育はどう変わるか? 「N予備校」の理念や開発経緯に迫る東大新聞オンラインで公開された投稿です。


【N高生のリアル⑤】Slackで交わされる「オンラインホームルーム」とは

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 今回は通信制高校の中でもN高等学校(以下N高)独自の取り組みとしての「オンラインホームルーム」に迫る。

 

 N高の授業自体は、動画とテキストが用意されているため、通常の通信制と同じように各自がオンライン学習で好きな時間に進めて行く。勉強したかどうかは「レポート」の提出で判断される。

 

 しかし、N高ネットコースでは、通信制であるにも関わらず、毎日「ホームルーム」が行われているという。もちろん、リアルで一箇所に集まるわけではない。このホームルームはネットで行われる。先進的なIT企業などで利用されているコミュニケーションツールであるSlackで、担任と生徒が毎日同じ時間に集まって連絡事項やディスカッションを行っている。

 

開始時に「起立!」「礼」などと掛け合う文化が定着しているクラスもある

 

 Slackでは「チャンネル」と呼ばれるグループを作成することができ、このチャンネルを利用して、クラブや同好会活動も盛んに行われている。全国に趣味の合う仲間ができたという声もある。

 

 このSlackを利用したホームルームは、一体何が起きているのだろうか。今回は、ホームルーム(以下HR)の様子を見学させてもらうと共に、N高校ネットコース教諭・金堂宏昭先生に話を聞いた。

 

 N高では、Slack上では担任は「モデレーター」と位置付けられ、生徒の近況報告や自己紹介などのコミュニケーションを促す役割を担っているとされている(「設立の背景とN高等学校の特長について」N高等学校 入学広報部)。

 

 HRをどの時間に開催するかは、各クラスの担任に任せられている。このクラスでは午後2時から1時間というのが通例である。もちろん、バイトなどで参加できない生徒もいる。

 

 取材した金堂クラスは、N高の全クラスの中でもスレッドのコメント数が多い、HR活動が盛んなクラスの一つだ。N高の取り組みの最前線を行くクラスの在り方から、オンライン学習の未来を見ていきたい。

 

SlackでHR運営を行う金堂先生

 

――SlackでHRを行うというのはどういう感じですか。

 N高では、普通の学校でやっていることを全てネット上で再現したいと考えているんです。だからSlackでは、HRの他に、クラブや同好会活動のチャンネルもあります。現代社会では、コミュニケーションは現実の世界だけで完結していません。ネットで友達を作るというのも普通になってきています。

 

 学校生活の中で、生徒にとっても、担任とのコミュニケーションのみならず、生徒同士の横の繋がりを促進したい。在校生アンケートでも、生徒に「学校に期待することはなんですか」と尋ねたところ、「友達ができること」と答えた比率がとても高い。実際にクラスHRでも、生徒同士の議論も盛んですし、クラブ・同好会活動での友人作りも活発なようです。クラスには「教室」と呼べるようなメインのスレッドが一つあり、そこで話せる時間は朝の7時から夜の10時までと制限していますが、夜も話したい生徒がいるので、夜10時以降も話したい人向けの別スレッドを立てる必要があるほどでした。

 

――Slack上のやり取りでも生徒と先生はなじめていますか。

 はい。僕なんか、すでにチャット上でいじられていますよ(笑)。まあ、意図的にそういうキャラを演じてるところもあるのですけどね。この子たちは僕をいじるのが趣味なんです(笑)。

 

インタビューをしながら、HR開催の時間が迫ってきた。金堂先生が「そろそろ始まるよー」とチャットで流した後、筆者と話しこんでいてスレッドに全く登場しない時間が続くと、生徒たちから「先生、東大生とイチャイチャしてるのー?」「僕のこと見捨てるのっ!」などと、先生をいじる投稿が続く(東京大学新聞社から取材が入ると生徒に告知済み)。

 

――すごく近い関係なんですね。

 はい(笑)。そういう風な文化を作ってきました。もちろん最初からそうだった訳ではありません。「僕が発言したらレスポンスしてね」と伝えてきましたし、「仲間がボケたら拾ってあげてね」とも何回も言ってきました。

 

 ただ、オンラインでこれだけ仲良くしていても、リアルで会った時はやっぱり最初はどことなく壁がありました。ニコニコ超会議で、N高の文化祭があり、そこでリアルホームルームを行いました。その時に生徒たちに初めて会えたのですけど、いつものSlackと違って、最初はみんな戸惑っていて慣れない感じでした(笑)。

 

――生徒とはこのスレッド上のみでコミュニケーションを取るのですか。

 いや、このHRがもちろん基本となりますが、他にも電話したり、個別でメッセージ(ダイレクトメッセージ、以下DM)したりします。まあ、最近の子は電話が苦手なのか、あまりすぐには取ってもらえないんですけどね。生徒一人一人との電話の他にも、DMは2週間に一回は全員とするようにしています。

 

そうこうしているうちにも、次々と生徒がスレッド上に現れ始める。各々が話しているため、チャットがものすごい勢いで進んでいる。

 

――みんな、アクティブですね。

 もともとこういうチャットが好きな子たちも中にはいると思います。ただ、全員がこのようにアクティブな訳ではないので、次は「クラスのアクティブ率」、つまりHRで発言する人数をさらに増やしていくことが課題です。もちろん、タイピングが早いか遅いかという問題もあると思いますが。

 

――HRではどのようなテーマで話をするのですか。

 色々あります。クラスが仲良くなるために、日替わりで自己紹介する時間を設けていた時期もあります。例えば「私の飼っている猫」とか、ごくプライベートな話をするんです。最近ではクラスでレクリエーションをやろうという企画を立て、僕も含めて一緒にソーシャルゲームをしたこともあります。社会的テーマでディスカッションをしたこともあります。僕はN高の前はIT企業に勤めていたので、ビジネスのフレームワークのレクチャーをしたこともあります。

 

こうして話を聞いているうちに、クラスが始まる時間を1、2分過ぎてしまうと、生徒から「先生まだー?」などの投稿が相次ぐ。そして金堂先生がスレッドに登場し「遅れてごめん! みんなこんちはー!」と投稿すると、一斉に「こんちはー!」「こん」(こんにちはの省略)などのレスポンスがある。挨拶する生徒のうち、久しぶりにHRに来た生徒がいたら、先生がすぐさま投稿を拾って「久しぶりー!」と声をかけていく。最初は「雑談」ということで、とりとめのない話を10分少々するそうだが、盛り上がって時間が長くかかってしまうこともしばしばだという。

その後は「学校連絡」の時間。学校側からの連絡事項を通知する。この日は二つの連絡事項があり、一つ目は「N予備校の動画配信の一週間の時間割」だった。N高では、単位取得のための授業のほかに、「課外授業」という形でさまざまなプログラムを提供しており、その時間割の連絡となる。

金堂先生は、それとともに「みんなN予備校はうまく使えてる?」と投げ掛け、生徒はそれに対して率直に「うん」「あんまり使えてない」と答えている。

 

――結構、みんなの声拾えてますね。

 はい。僕の真面目な質問には真面目に答えてねと指導しています。雑談の時はふざけてていいのですけど、僕が本気だと思ったら本気の反応をしてねと話しています。

 

続いて学校連絡二つ目に移る。二つ目は総務省からのアイディアコンテストの応募の連絡。総務省のプログラムの課題を提出すると、授業での「総合的な学習」のレポートの代わりとして認められる。

この時間に登場した生徒もいたが、ルームに来るなり「こんちはー」と挨拶している。ここで金堂先生は、スレッドを巻き戻して議論の流れを確認。生徒の発言は数も多くスピードも早いため、見落としている重要なコメントがないか判断している。

 

――IT、チャットに強くないと、難しい仕事ですね。

 僕は以前IT企業に勤めていた仕事柄、Slackを以前から使っていたので、多少感覚があるのですけど、使ったことのない人は最初は慣れないかもしれませんね。とはいえ、N高の先生はみんな、僕と同じようにSlackでHRを行ったり、日々のコミュニケーションを取っています。ただ、気をつけないといけないのは、議論をうまくハンドリング、導いてあげないと、今HRに来てくれている生徒も離れていってしまうだろうなと感じています。

 

二つ目の学校連絡を受け、生徒は「面白そうー!」という意見もある一方、「もうレポートだしちゃったからなー」という反応もある。ここで金堂先生は、「みんなレポートの進みはどう?」と話を投げかける。

 

 SlackのHRによく来ている生徒たちは、レポートはかなり出せています。僕がHRで口酸っぱくレポートをやるように言っているので。僕が生徒に対してSlackに来てほしい理由は、一つはレポートをしっかり進めて欲しいから。みんなには、レポートが終わったら、スレッドで「私レポート終わった!」と宣言してね話しています。レポートの話題をHR上で頻繁に出すことが重要だと思っています。

 

ここで学校連絡二つが終わり、HRの後半である議論の時間に移っていく。今日の議題は、「どうしたらクラスのHRの参加率をもっと上げられるか」だ。

 

――参加率に関して、いかがですか。

 やはりHRに同時に全員参加してもらうことは難しいです。バイトなど、時間の都合もありますので。対策として、その日の「HRのまとめ」というのをワードで作って、参照できるようにしています。あまりHRに来られてない生徒にもDMで「まとめは見られている?」と聞くと、「見ています」という生徒が多くて、来られなくてもまとめは見てくれていますね。

 

議論の時間の始めとして、まず金堂先生が、「そもそもなんでみんなは時間を作ってHRに来てくれているの?」と問い掛ける。前日に、明日はこういう議題だから考えて来て、と宿題として出していたらしい。生徒たちからは「こういう、顔を合わせないで交流できるのを目当てに、この学校に入ったから」「学校らしいとこって、ここくらいじゃん」「中学校時代もHRあったし、出席は使命感かな」などという反応が見られた。

 

――真剣ですね。

 はい。チャットに積極的に参加してくれている生徒たちは、この課題(HRの参加率の更なる向上)をかなり自分ごととして捉えています。なんとかしなくてはと思っている。正直、僕たち教師陣も、試行錯誤を繰り返している段階なんです。前例のない取り組みなので。

 

では、改善点は? どうしたらみんなもっと参加してくれるかな、と金堂先生が投げかけると、「盛り上がると解散が遅くなるので、終わりの時間をはっきり決めた方がいいと思う」「人数が多すぎるのでは?」「都合のいい時間がみんなバラバラだから、2回に分けてやればいいと思う」「個別でメッセージ送って参加してもらう」という具体的な提案から、「改めて、HRとはなんなのか、役割を考え直した方がいいと思う」という本質的な問い掛けまで見られた。この議論自体に価値を感じ、「もっとこういう風にディベートしていきたい」という声も挙がった。

 

――こんなに白熱した議論をされているとは思いませんでした。

 そうですね。最初からこうだった訳ではないのですが、続けることで、議論をしていけるようになりました。これまでも週に一度はアイディア出しや課題解決のための議論の時間を持ってきたので。今は僕が議題を設定していますけど、理想は、テーマ決めから結論まで、生徒が自走して進んでいけることです。そのようなグループがクラスで複数出てくれば、このHRがもっと面白くなっていくと思っています。

 

インタビューをしながらのHR見学の時間も終わりが近づいて来た。「そろそろ時間だねー! みんな真剣に考えてくれてありがとう」などと先生がまとめに入ると、「この話、終わらせたくないんだけど」と、続けて考えていきたいという生徒の声が挙がった。

 

 僕は本当にHRは生徒全員に来てほしいと願っていますね。ただ、そのために自分自身も新しいことにチャレンジするなど、みんなが楽しみながら成長できるものとは何かを、もっと考えて実行していかないとなと思います。このHRが単なる事務連絡で終わらないように、この場所がみんなが変わるきっかけになるように、日々工夫していきたいですね。「先生、それめんどくさいよー」とか言いつつ何かしら行動することで生徒が変わってくれればそれが一番うれしいです。だから一部の生徒だけでなく、みんなにSlackでのHRに参加してほしい。まだまだ改善点もたくさんありますけど、生徒と一緒に未来を創っていきたいですね。

 

【N高生のリアル】

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【N高のリアル⑥】長期実践型教育「プロジェクトN」のリアル

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 全日制の高校と比べて高校卒業のための単位取得の授業がコンパクトに収まる通信制高校の仕組みを活用し、増えた時間を「課外授業」として、さまざまなプログラムで活動するカリキュラムを組んでいるN高等学校の通学コース。今回はその課外授業の目玉とも言える、NPO法人カタリバと連携して行うプロジェクト型学習「プロジェクトN」のキックオフイベント「N高カイギ」に密着した。

 

 東京・代々木キャンパスに集った50人ほどのN高通学コース生。

 

 入学時アンケートで、「プロジェクトNを一番楽しみにしている」という声もあったほど、生徒にとっては待望だったこの授業。「課外授業」であるため、卒業のための単位とは全く関係ないが、多くの生徒が参加している。生徒たちはカタリバが運営する「全国高校生マイプロジェクト」への応募も視野に、1年をかけて自らが設定したテーマに基づいてプロジェクト型学習を進める。

 

 

 

 生徒たちはまず、「何をやるのか」を自分で決めなければならない。そのために、マイプロジェクト専用の「アイディアシート」などのワークシートを使ったり、相互に話し合ったりして、自身の興味を探っていく。

 

 近いテーマの人がタッグを組んだり、あるいは仲間を募集する強いリーダーがいたり、個人で探究していくなど、プロジェクトの形はさまざまだ。

 

 内容も、「障がいへの無理解の根を突き止めたい」という調査型、「ペットの誤飲による事故をなくしたい」という啓蒙型、「みんなに留学に行ってほしい」という提案型、「世界をハッピーにするためにTシャツをデザインしたい」という創作型、はたまた「音楽をビジュアル化したい」というテクノロジー型など、個性に応じた多様なプロジェクトの形があった。

 

 

 プロジェクトの概要が決まると、それを発表する。仲間の発表を聞いてコメントシートを書いたり、質問をしたりと、互いにフィードバックを出し合う姿が印象的だった。発表項目の中には「なぜそのプロジェクトを行っていきたいのか、きっかけ・理由・想いを必ずメンバー一人一人が話すこと」という約束があった。ビジネスマンさながらのプレゼン力を発揮する生徒もいれば、発表が苦手そうな生徒もいたが、それでも自分のことについて語る場が設けられたことに対し、一生懸命に応えている姿が印象的だった。

 

スライド作成もお手の物。PC片手に発表

 

 自身の持つ障がいから、中学でいじめに遭っていた自身の体験を告白し、こういう被害をもう出さないためにプロジェクトを進めていきたいと話したある生徒は、「苦しい経験をして来た自分の人生を、笑わず、本気で聴いてくれたことがうれしかった。今まで胸につっかえていたことが全部スッキリした気分になった。これからこの学校で頑張っていこうと本気で思った」と終了後にコメントを残していた。

 

 また、ありたい姿やつくりたい未来の形という「ビジョン」と、実際にそれを達成するための活動内容の整合性について、「そのビジョンを、そのアクションで達成できるのですか?」と、発表に対する真剣なコメントも見られた。

 

 24ものプロジェクトがあるため、発表は五つのグループに分かれて行われたが、キックオフイベントの最後に、各グループから投票で1グループが選ばれ、全体の前で発表を行った。

 

 ファイナリストに選ばれた、出川大和くん(高1)がリーダーを務めるチームは、「VR(Virtual Reality)を使って音楽を可視化する」(Audio Visualizer with VR)プロジェクトを立ち上げた。音楽のビジュアル化は、SONYなどのmedia playerですでにやられている、という既出事例も抑えつつ、問題点として「画面が小さい」「平面なので表現に限界がある」と指摘し、VRで音楽のビジュアル化をしていきたいと発表。実装のためには資金が必要なので、クラウドファウンディングをして集められたらと話していた。「新しい形で音楽を表現してみたい」「聴覚を失った人にも音楽を楽しんでもらいたい」と意気込んでいた。

 

Audio Visalizerチームの全体発表

 

 会場は熱気に包まれていた。プロジェクトNがどこに向かうのか、今後も目が離せない。

 

2017年7月13日2:15【記事修整】「出川大和くん」の漢字を修正しました。

 

【N高生のリアル】

昼休み明けの恒例授業「サークルリーディング」とは?

東大受験から基礎固めまで レベルに合わせた英語教育

「N高は『道具箱』」 可能性を生むプログラミング

ITで教育はどう変わるか? 「N予備校」の理念や開発経緯に迫る

Slackで交わされる「オンラインホームルーム」とは

【N高のリアル⑥】長期実践型教育「プロジェクトN」のリアル東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【2017年6月アクセスランキング】「N高」に注目 論文不正問題に依然高い関心

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世界大学ランキングの表(左)、五月祭シンポジウムでの講演

 

 東大新聞オンラインで6月に公開した記事の6月中のアクセスランキングを調べたところ、1位は2016年に開校した、学校法人角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校「N高等学校(N高)」を特集した記事だった。N高では、カリキュラムを効率化しオンライン学習を活用することで、必須履修科目を一般的な全日制高校の3分の1程度の時間で終える。残った時間は「自らの個性を伸ばす時間」に充てるという。高校教育に職業的意義が求められるようになった今日、N高の一見奇抜な施策は注目を浴びたようだ。

 

 2、4、5位にもN高の特集がランクイン。これらの記事は、より具体的なN高のスクールライフに迫った。N高では各生徒のレベルに合わせた英語教育やプログラミング講習が行われる。いずれも生徒からは「分かりやすい」と評価が高い。多様な選択肢を提示し、その中から生徒自身が自分に合うものを選ぶのがN高の大きな特徴だ。

 

 3位に入ったのは、不正告発のあった東大関係者の論文計22報の調査が終了したことを伝える記事。本部広報課によると、不正がない限り調査の報告書の内容などは公表しないという。昨今学術論文の信ぴょう性が疑われる機会が増え、論文不正に対する調査も厳格化されている。

 

 6位は電通過労死事件の関係者らを招いた五月祭シンポジウムをレポートした記事だった。これは東大新聞OGの社会人の視点から書かれたものだ。高橋まつりさんの遺族代理人を務める川人弁護士は、日本の過労死について、海外にはない特殊な実態だと主張。事件への注目度の高さが反映された形だ。

 

 7位は将棋の学生日本一を決める「第73回学生名人戦」で、将棋部1年の藤岡隼太さんが優勝したことを伝えた記事。8位は医学系研究科の笠井教授らが、一般に統合失調症患者にはグルタミン酸系神経伝達の異常が見られるという傾向を確認したことについての記事だった。9位は英国の大学評価機関クアクアレリ・シモンズ社が毎年発表する世界大学ランキングで、東大が世界28位に上昇したことを知らせる記事となった。

 

【2017年6月アクセスランキング】

1       【新連載】「N高生のリアル」教育革命のイマ

2       【N高生のリアル②】東大受験から基礎固めまで レベルに合わせた英語教育

3       東大関係者の論文不正疑惑、本調査を完了 不正がなければ公表せず

4       【N高生のリアル③】「N高は『道具箱』」 可能性を生むプログラミング

5       【N高生のリアル①】 昼休み明けの恒例授業「サークルリーディング」とは?

6       過労死をなくすため、再考するべき5つの論点…東大五月祭シンポジウムレポート

7       将棋・学生名人に1年の藤岡さん 藤井四段に敗れるも「貴重な経験できた」

8       東大医学系研究科・笠井清登教授ら、統合失調症患者に神経伝達異常を確認

9       QS大学ランキング 東大は世界28位へ上昇 アジア5位は変わらず

10      【はじめての論文】武藤香織教授(医科学研究所) 卒論執筆は医者への怒りが原点

 

※当該期間に公開した記事のみを集計

 

過去のランキング

【2017年5月アクセスランキング】高橋まつりさん関連記事に大きな注目

【2017年4月アクセスランキング】今年も新入生アンケートに高い関心

【2017年3月アクセスランキング】トップは東大生のテレビ 合格発表の記事も上位に

【2017年2月アクセスランキング】東大女子の座談会特集、入試関連記事に注目

【2017年1月アクセスランキング】1位はブラックラボ検証 受験関連記事も人気

【2016年アクセスランキング】東大新聞オンラインで今年1番読まれた記事は……?

【2016年11月アクセスランキング】トップは図書館閉鎖問題 アメフト、制作展の記事が続く

【2016年10月アクセスランキング】ボカロ講義録が1位に 2位は新設の研究者支援制度

【2016年9月アクセスランキング】1位は進学選択 七大戦、秋のスポーツにも注目

【2016年8月アクセスランキング】ジェンダー企画、リオ五輪寄稿企画が上位に

【2017年6月アクセスランキング】「N高」に注目 論文不正問題に依然高い関心東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【サークルペロリ】東京大学クイズ研究会 知識獲得で世界広がる

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 駒場Ⅰキャンパスはコミュニケーションプラザ和館の一室。部員たちは真剣な面持ちで、読み上げられる問題に集中している。今回記者が訪れたのは、東京大学クイズ研究会(東大クイ研)だ。

 

 東大クイ研の主な活動は、部員が持ち回りで催すミニ大会。基本は早押し形式で、出題者によっては特定のカテゴリー、異なる難度の問題が出題されたり、チーム対抗戦が行われたりと、さまざまな趣向が凝らされている。

 

 このミニ大会開催の準備は生半可なものではない。「準備に1カ月はかかる」と井上純也さん(理Ⅰ・2年)は話す。新規の問題を作成する際には、クイズの題材を探すために本を読みあさることや情報の裏取り、問題文の推敲が必要すいこうで、国会図書館に赴いたり、一つの作問に半日かけたりする場合もあるとか。

 

 この問題作成に東大のクイズサークルならではの特徴が見られる。それは「学術的な問題を作る人が多い」こと。大学の授業で得られた、普段の生活では知ることができないような知識をクイズにすることで、面白いと思ったことを共有する。このような理由から、独創性のある問題が多く作られることが特徴だ。この東大クイ研の特色は、定番問題の中に時々現れる新作問題での強さにつながる。また、今年3月に開催されたサークル対抗のクイズ全国大会「EQIDEN 2017」で優勝を果たすなど、新作問題に限らない強さも併せ持つ。

 

部員の真剣な雰囲気と緊張感に包まれたミニ大会

 

 このように確かな実力を示す東大クイ研だが、必ずしも大会での活躍だけを目指しているわけではない。部員の中には、純粋にクイズで知識を得ることを目的に活動する人もいるそうだ。

 

 素人目には単なる一問一答の繰り返しのように思えるクイズであるが、存外奥深い世界だ。例えば、7回正答で勝ち抜け、3回誤答で失格となる早押しで最も一般的な「7〇3×」形式の大会なら、5回の正答までは慎重に進めそこからは誤答を顧みずに積極的に回答するといったように、戦略的な一面もある。

 

 ではクイズの魅力とは何だろうか。井上さんは「大会で勝つことが楽しく、知識を得ることで世界が広がる」と話す。他の部員は「他の人が知らないことを知れる」ことが魅力だと記者に語った。両者が「知」に対する貪欲な姿勢を見せ、目を輝かせながらクイズについて語っていたことが印象的だった。


この記事は、2017年7月18日号に掲載した記事を再編集したものです。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

ニュース:駒場Ⅰキャンパス北東部再編 本年度末にも工事開始 教養学部「施設の安全を確保」
ニュース:医・上田教授ら 細胞レベルでがん転移解析可能に
ニュース:「詳細な情報提供を」 解体対象施設利用団体の声 狭い仮設体育館に懸念
企画:論説空間 持続可能な社会描くには 伝統的な制度生かす 松田浩敬特任准教授(新領域創成科学研究科)
企画:前田家本郷邸開設400年記念 キャンパスの名所を探訪
新研究科長に聞く⑥総合文化研究科 石田淳教授(総合文化研究科)
新研究科長に聞く⑦経済学研究科 持田信樹教授(経済学研究科)
推薦の素顔 村山華子さん(理Ⅱ・1年→理学部)
世界というキャンパスで 塘田明日香さん(育・4年)⑤
東大新聞オンラインアクセスランキング 2017年6月
東大今昔物語 1977年4月25日発行号より 100周年の東大巡って
サークルペロリ 東京大学クイズ研究会
キャンパスガール:柿田美由輝さん(文Ⅰ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【サークルペロリ】東京大学クイズ研究会 知識獲得で世界広がる東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【現役学生が語る夏休み・夏以降の勉強法①】一つに決めて何度も繰り返して

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 暑さが続く今日この頃、受験生の皆さんはどのようにお過ごしだろうか。この夏を有意義に過ごせたという人もいれば、やり残したことが多いと感じる人もいるだろう。東大新聞オンラインでは2回連続で、残り少ない夏から受験に向けてどのように勉強していけばいいのかについて、現役学生からのアドバイスを紹介する。

 

 

 夏休みの生活のリズムに関しては、7時に起きて12時に寝るという規則正しい生活を送るよう心掛けていました。私の場合は歩いて5分の場所にある塾の自習室に毎日通っていました。人にもよりますが家では誘惑も多く集中力も切れやすいので外に出てしまうことが有効だと思います。私の通っていた塾は夏休みの間は9時から22時まで空いていたのでその間はずっといるようにしました。科目は満遍なく勉強するようにしていました。私は文系で数学が特に苦手だったので、一番集中できる午前中は数学をしていました。逆に眠くなってきて集中力の切れやすい午後は得意な英語で手を動かすように。眠気は覚めても疲れのたまってきた夕方は、面白い話が載っていることが多い国語で気分を紛らわせていました。暗記科目は夜寝る前にやったほうが記憶に残りやすいと聞いてから夜は社会科に取り組みました。

 

 勉強内容は主に過去問を繰り返し解くことでした。繰り返す中で苦手な分野を見つけたら使っていたテキストに戻って復習してから過去問に戻ることを繰り返せば少しずつ点数が向上していきます。空いた時間には社会科や数学のセンター試験の過去問を解いていました。足切りにあってしまえば元も子もないですし、少しでもセンターでいい点数を取っておけば安心につながります。センター試験は点数がはっきり出るので今の実力を知るのにもぴったりです。自分の弱点がはっきりと出るので、特に覚えることの多い社会科は何度も繰り返しては繰り返して使っていたテキストに戻って復習していました。私はどちらかといえば物が書いてあった位置で覚えるタイプだったので、一つテキストを決めてそこに書き込んで勉強していました。

 

 夏休みには各予備校が東大模試を開催していますが、私はまだ準備が十分ではなく、模試を何回も受けるより自分のペースで勉強していた方が効率的だと判断したため、私は一つしか受けませんでした。もちろん過去問をすでに何回もこなしていて時間内に全て解けるレベルの人ならどんどん模試を受けて練習するのがいいと思うのですがまだ模試を受けても時間が余ってしまう、あるいは逆に時間が全然足りないようであれば一度受けるくらいで十分だと思います。東大模試は時間がかかり2日も取られる上に答案が返ってくるのが遅く、忘れてしまっていることもあるからです。ただ、復習はしっかりと行い、模試を受ける間は自分にできる限り答案を埋めるようにしました。

 

 高3の夏でやれてよかったと思うのは規則正しい生活を送れたことと、そのルールの上でうまく気分転換ができたことだと思っています。9時から22時まで自習室にいるようにしていましたが、家と塾が近いこともあって昼ご飯と夜ご飯は家に帰って食べていました。歩くだけでスッキリするし、ご飯もおいしいので気合が入る気がします。全員ができる方法ではないと思いますが、ちょっと散歩したり、いつもと違うものを昼ご飯に買ってみるのもいいと思います。悪かったと思うことは勉強時間が少なかったことです。9時から22時まで自習室にいたといってもぼんやりしてしまうことや、早めに切り上げてしまうこともありましたし、朝の時間や帰ってからももっと勉強すればよかったと思っています。その隙間時間に英単語帳や歴史科目の一問一答をすればもっと安定して点を取れたのではないかと思います。東大に入学した今も単語力がなくてとても困っているので単語はやるに越したことはないと思います。

 

 高3の夏以降には絶対に家に帰ってから3時間以上勉強するようにしました。変わらずに東大の過去問とセンターの過去問を解く生活でしたが、学校に通う分自習時間は減ってしまうので曜日ごとに科目を変えて偏りが出ないようにしていました。帰ってきた模試はしっかり復習しましょう。私は社会科の間違えた単語をノートに書いたり、数学はまず回答の丸写しをしたりしていました。手を動かすことで覚えてくるので解説冊子を読むだけでなく手を動かすようにしましょう。

 

 最後になりますが、やる気の出ない日でも1分でいいので机に向かうようにしましょう。聞いたことある方もいらっしゃるかもしれませんが「寝る前に歯磨きをしないのが気持ち悪いと感じるように勉強しないことが気持ち悪くなるまで勉強する」という言葉を目指して勉強していました。必ず力が付いてくると思います。

(1年・女子)

 

2017年9月3日20時25分【記事修正】第6段落第1文「高2の夏」を「高3の夏」に修正。

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 暑さが続く今日この頃、受験生の皆さんはどのようにお過ごしだろうか。この夏を有意義に過ごせたという人もいれば、やり残したことが多いと感じる人もいるだろう。東大新聞オンラインでは2回連続で、残り少ない夏から受験に向けてどのように勉強していけばいいのかについて、現役学生からのアドバイスを紹介する。

 

 

 夏休みには、夜更かしを控えた以外は特に起床時間や就寝時間は決めず、昼寝も積極的に取りました。1日の睡眠時間は8~10時間でしたね。秋以降は危機感が芽生えたことで、睡眠時間を削って勉強に充てましたが、それでも1日あたり6時間は確保しました。受験勉強は長期戦なので、翌日に余力を残せるようにしっかり睡眠を取ることをお勧めします。息抜きも適度に挟みましょう。僕は寝る前にSNSで東大志望の友人と雑談したり、受験に関する情報を共有したりして、息抜きも兼ねて不安を紛らわせていました。

 

 夏休みの勉強については、秋以降に応用力を伸ばせるように「基礎を固める」「苦手を潰す」「未習範囲をなくす」の三つを意識すると良いです。僕は8月中旬までは塾や学校の夏期講習に通いつつ、移動の電車内では英単語や歴史名辞など、基礎的な暗記事項を確認していました。講習では現代文、古典、数学、英語、日本史、世界史の、2次試験で必要な科目全てを受講しており、どの科目でも演習を通じて基礎が身に付いたと感じています。8月下旬は何も予定がなかったので、苦手な数学に勉強時間のほとんどを費やし、それまで着手していなかったセンターの生物基礎と地学基礎も一通り参考書でさらいましたね。夏休みの勉強時間は、講習の受講時間を含めて1日あたり平均9時間くらいでした。秋以降は忙し過ぎて勉強時間を計る余裕すらなかったのですが、学校や塾の授業を含めて1日あたり平均11時間ほど勉強したと思います。

 

 夏の東大模試は特に何も準備をせず挑みました。夏はまだ基礎を固める時期なので、応用力を要する模試の結果がたとえ悪くても、気にする必要はありません。ただし復習はしっかりとしましょう。僕はほとんど模試の復習をしなかったのですが、今思えば間違えた問題や自信がなかったのにまぐれで正解した問題について、通常の解き直しに加え関連する問題も併せて解くべきでした。例えば数学で微分の問題を間違えた場合、参考書で微分の問題を一通り解き直したり、積分についても参考書を読み返したりする、といった具合で、効率的な復習ができると思います。秋の東大模試は本番だと仮定し、3日前から全科目の全範囲を総復習した結果、思わぬ苦手の発見につながりました。

 

 夏の過ごし方で良かった点は、他の科目をある程度犠牲にしてでも苦手な数学に時間を割き、何とか基礎を固められたことです。これで秋以降、全科目で本格的な演習に取り組む下地が整いました。悪かった点は、時間を区切らずだらだら勉強してしまったことでしょうか。秋からは学校が再開して夏休みほど時間に余裕がなくなったこともあり、短時間で最大限の効果を上げられるよう工夫しました。例えば過去問を解く際は、夏までは制限時間を設けず熟考していたのに対し、秋以降は本番を見据えて、本番と同じ時間で解きましたね。単語帳や一問一答については、秋以降は自信のあるページを飛ばして苦手なページだけに集中するのも一つの手です。

 

 夏からは徐々に、本番が近づいてくるプレッシャーを味わうことになります。分からないことやできないこと、欠点ばかりが目に付くようになり、不安になるかもしれません。でも、実はその感覚こそが、あなたが成長している何よりの証拠なのではないでしょうか。勉強とは不思議なもので、すればするほど既知の事柄が増えていくかと思いきや、むしろ逆に未知の事柄が増えていく。そういうものだと割り切りながら、知ることを楽しむつもりで一つ一つ未知の事柄を既知に変える努力を重ねているうちに、気が付けばあなたは東京大学という学問の扉を開けているはずですよ。

(1年・男子)

 

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絵本と芸術の関係とは 世界初の絵本美術館を作った松本猛さんが語る絵本の魅力

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 「絵本は子ども向けのものに過ぎない」と考えていないだろうか。確かに、絵本の多くは子ども向けに書かれたものであり、子供用に買うという目的がなければあえて手に取ろうとする人は少ないだろう。しかし、絵本の芸術としての側面を知れば、その考えに変化が生じるかもしれない。今回は、世界初の絵本美術館を設立した松本猛さんに絵本美術館設立までの経緯と、その理念について話を聞いた。

(取材・石井達也)

 

「絵本は美術ではない」に反発

 

 「絵本は美術の最古の形の一つであり、単なる子ども向けの本だと考えるべきではありません」と話すのは、世界初の絵本美術館・いわさきちひろ絵本美術館(現ちひろ美術館)設立者の松本猛さん。教義や物語を基に描かれる宗教美術や神話美術をはじめ、元来人間は物語と絵の融合を楽しんでいたという。しかし教育と結び付けられてから、絵本は単なる子ども向けのジャンルとされ、美術だと見なされなくなっていた。

 

 松本さんは、母であり絵本作家のいわさきちひろさんに持ち掛けられ、東京藝術大学在学中に絵本の共同制作に取り組み始めた。1974年にいわさきちひろさんが亡くなった後、松本さんは卒業論文のテーマに絵本を設定した。当時、絵本は美術としてみなされておらず、論文執筆に当たって指導教員は付かなかったという。結果的に、松本さんの論文は絵本を美術として扱った世界初の論文となる。

 

絵本美術館設立への道

 

 卒業論文執筆と同時に、絵本美術館を作る活動を始めた。77年設立の絵本美術館には、いわさきちひろ作品の後世への伝承と、絵本原画の収集・保存・公開という大きな目的があった。美術と見なされてこなかった絵本は原画の散逸が激しく、「危機意識を持った人が始めなければ」と原画収集を開始。最初の作品は『はらぺこあおむし』で有名なエリック・カールさんによる原画だった。来日したエリック・カールさんに絵本美術館の理念を伝えると、共感を受ける。その場で絵本原画の提供を約束された松本さんに、絵本原画を適切に管理していかなければならないという責任感が芽生えた。

 

 絵本美術館の設立には、人々からの要望が大きかった。美術館の設立前に銀座の画廊でいわさきちひろ展を開催した際のことを、松本さんは「2階から1階、そして建物の外には100メートルの大行列でした」と振り返る。絵本美術館設立のために松本さんは新聞などでボランティアを募集。募集を見て興味を持った東大生3人が中核となって設立までの準備に当たったという。

 

 格式が高いと敬遠されがちな美術を、松本さんは生活の一部として捉えようと意識。現在のちひろ美術館には公園やショップやカフェなど、展示以外にも楽しむ場所が盛りだくさんだ。「絵本の展示ではなく、お土産や自然に囲まれた庭を楽しみたいという人もいます。楽しみ方は人それぞれで良いのではないでしょうか」。根底には、生活の喜びにつながる場所にしたいという思いがある。

 

 絵と文章で構成されるものを絵本とするならば、絵本の歴史は古代エジプトの死者の書までさかのぼると松本さんは指摘する。絵本にはそれぞれの国の歴史に根差した特徴が表れると松本さん。たとえば日本の作家だと、平安時代の絵巻物などに影響を受けた作品もあるという。さらに絵本美術館では死者の書に始まり写本の時代、版本の時代の絵本の実態を展示。世界中の絵本と各時代の絵本が展示されている絵本美術館は、「歴史の縦横」を一気に学べる空間になっているという。「大げさですが、目指すは絵本版ルーブル美術館です」

 

97年、いわさきちひろ美術館開館20周年を記念して、ちひろの両親ゆかりの地・安曇野(あずみの)に「安曇野ちひろ美術館」が建てられた(写真は松本さん提供)

 

絵本の視覚情報を読む

 

 松本さんによると、絵本は一つのメディア。映画というメディアが科学映画からポルノ映画まで扱うのと同じで、絵本の分野も幅広い。芸術的な絵本という分野があるわけではなく、優れた作品が芸術として見なされるようになるという。批評・研究される中で作品のレベルは高まっていくという考えの下、97年には絵本学会が発足した。

 

 絵本の魅力は「他のメディアと比較する中で特徴が見えてきます」と松本さん。例えば、アニメーションが飛行機だとすると、絵本は徒歩。物語全体を流れるように見終えることを目的とするアニメーションに対し、絵本ではページにとどまることや振り返ることができる。漫画では記号化された表情で心情を表すのに対し、絵本では時にカーペットの毛一本一本の線や色使いで心情を暗喩することもあるという。さらに、絵本では他の書物や映像作品とは違った独特の言葉のリズムで、心情を表すことが可能だ。

 

 絵本の読み方について「心情などが描かれた視覚情報を読めば、何倍も面白くなりますよ」。インターネットの普及などで反応の速さが求められる今日、一つの絵に向き合う機会が減少している。それは、人間が持つ豊かな感受性を劣化させる要因だと松本さんは指摘。芸術としての絵本に向き合うことが有効な解決策になり得るだろう。

 

松本 猛(まつもと・たけし)さん (美術評論家・作家・絵本学会会長・ちひろ美術館常任顧問)

 76年東京藝術大学卒業。在学中から、絵本制作・研究に関心を持つ。77年、世界初の絵本美術館であるいわさきちひろ絵本美術館(現ちひろ美術館・東京)を設立。

 

【関連記事】

絵本作家あいはらひろゆきさん 『くまのがっこう』で当たり前の幸せ伝えたい


この記事は、2017年8月1日号に掲載した記事の拡大版です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

 

インタビュー:当たり前の幸せ伝えたい あいはらひろゆきさん(絵本作家)
ニュース:理Ⅲ面接 筆記高得点者の不合格も 学力試験翌日の27日に実施
ニュース:23年度まで共通試験存続 新テスト英語 民間試験と併用可
ニュース:医・野村助教ら健康指標を分析 都道府県間の健康格差が拡大
企画:東大生×絵本アンケート 一般との違いは?
企画:大人の知らない絵本の今 デジタル、美術 広がる魅力
企画:お店のプロが直伝! 絵本の読み方楽しみ方
推薦の素顔 小山雪乃丞さん(理Ⅰ・1年→理学部)
火ようミュージアム:ちひろ美術館・東京「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」
東大今昔物語:1986年8月26日発行号より 主管校なぜ強い
東大発ベンチャー:リディラバ
キャンパスガール:岡林紗世さん(文Ⅲ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

絵本と芸術の関係とは 世界初の絵本美術館を作った松本猛さんが語る絵本の魅力東大新聞オンラインで公開された投稿です。


【2017年7月アクセスランキング】宮台教授のメッセージに注目

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(右上から時計回りに)シンガポール出身のディオンさん、社会学者の宮台教授、16年度卒業・修了者就職先上位一覧

 

 東大新聞オンラインで7月に公開した記事の7月中のアクセスランキングを調べたところ、1位は各学部・研究科への問い合わせを基に集計した2016年度卒業・修了者の就職状況だった。学部卒業者の就職先では、三大銀行が上位を独占。大学院修了者では、トヨタ自動車が1位に躍り出た。中央省庁の就職者数は、学部卒業者では財務省が、大学院修了者では国土交通省がトップに。東大卒の社員の自殺で注目を集めた電通は学部卒業者の就職先10位に上昇したなどの傾向や分析を伝えた。

 

 2位に入ったのは首都大学東京社会学者宮台真司教授へのインタビュー。サブカルチャーから日本の将来まで独自の視点から発信を続けている宮台教授が繰り広げる「法外を取り戻せ」「意志があれば自分は変わる」というメッセージに注目が集まったようだ。

 

 3、8位には通信制高校「N高等学校(N高)」の特集がランクイン。3位の記事では、コミュニケーションツールの「Slack」のチャットを利用してネット上で行われる「オンラインホームルーム」を特集した。8位の記事では長期実践型教育「プロジェクトN」の様子を伝えた。

 

 4位は東大のPEAK生のディオンさんに聞いた、留学の意義や著書『東大留学生ディオンが見たニッポン』に込めた思いを伝える記事だった。ディオンさんは、自分の慣れた環境から一歩踏み出して違う世界や自分を見つけられることこそ留学のメリットだと話す。留学生の目に映った日本の姿というテーマへの注目がうかがえる。

 

 5位は6月30日に発表された2018年度進学選択の第1段階志望集計結果を報じる記事だった。学部別の動向や新たな進学選択の仕組みを伝えた。東大内の制度への高い関心が読み取れる。

 

 6位は東京大学クイズ研究会の活動を紹介する記事。主な活動は、部員が持ち回りで催すミニ大会で、部員が新たに作問した問題を用い、部内大会を開催している。部員の「知」に対する貪欲な姿勢を伝えた。

 

 7位は7月16日に安田講堂で開かれたTEDxUTokyoの開催概要や見どころなどを知らせる記事。9位と10位はそれぞれ。アメリカンフットボール部と硬式野球部の春シーズンを振り返る記事だった。

 

【2017年7月アクセスランキング】

1       東大の16年度就職状況、三大銀行が上位独占 電通は倍増で学部10位

2       「法外」を恐れるな 社会学者・宮台真司教授インタビュー

3       【N高生のリアル⑤】Slackで交わされる「オンラインホームルーム」とは

4       『東大留学生ディオンが見たニッポン』のディオンさんに聞く、留学のすすめ

5       進学選択志望集計 経、60人以上の大幅増 文Ⅰ→法は減少に歯止め

6       【サークルペロリ】東京大学クイズ研究会 知識獲得で世界広がる

7       「世界が広がる場所」 TEDxUTokyoを7月16日に安田講堂で開催

8       【N高生のリアル⑥】長期実践型教育「プロジェクトN」のリアル

9       【春の東大スポーツを振り返る】アメフト部 フィジカルに課題

 

※当該期間に公開した記事のみを集計

 

過去のランキング

【2017年6月アクセスランキング】「N高」に注目 論文不正問題に依然高い関心

【2017年5月アクセスランキング】高橋まつりさん関連記事に大きな注目

【2017年4月アクセスランキング】今年も新入生アンケートに高い関心

【2017年3月アクセスランキング】トップは東大生のテレビ 合格発表の記事も上位に

【2017年2月アクセスランキング】東大女子の座談会特集、入試関連記事に注目

【2017年1月アクセスランキング】1位はブラックラボ検証 受験関連記事も人気

【2016年アクセスランキング】東大新聞オンラインで今年1番読まれた記事は……?

【2016年11月アクセスランキング】トップは図書館閉鎖問題 アメフト、制作展の記事が続く

【2016年10月アクセスランキング】ボカロ講義録が1位に 2位は新設の研究者支援制度

【2016年9月アクセスランキング】1位は進学選択 七大戦、秋のスポーツにも注目

【2016年8月アクセスランキング】ジェンダー企画、リオ五輪寄稿企画が上位に

【2017年7月アクセスランキング】宮台教授のメッセージに注目東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【東大今昔物語】1986年1月28日発行号 引っ越し事情の昔と今

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 11日の第二段階内定発表を終え、進学選択もいよいよ大詰め。あとは第三段階を残すのみだ。1人暮らしをする2年生にとっての悩みの種はきっと「引っ越し」だろう。

 

1986年1月28日発行号の紙面

 

 1986年1月28日発行号4面。「いざ本郷へ! 必勝・引っ越し戦略と実践」という記事がある。まず重要なのは場所だ。ここでは茗荷谷など5地域の特徴が書かれている。その中の向丘、千駄木、白山地域は「『大都会』や『センスの良い女子大生』とは縁が遠くなる」としつつも、安めな家賃など「意外な穴場」と紹介されている。この時はまだ東京メトロ南北線が開業しておらず、現在多くの東大生が住む駒込や王子が選択肢ではなかったらしい。

 

 もう一つ重要なのが引っ越しの時期。記者が各不動産業者の話を総合すると「三月に卒業する人の部屋が物件として出始めるのは一月下旬~二月上旬くらい」だが、「ピーク時には不動産屋に学生が殺到」ため、「良い所を望むなら早めに探すべき」という。

 

 一方2016年5月17日発行号4面の記事によると、本郷キャンパスから徒歩圏内に住む人が約8割。約半数が12月以前に部屋探しを始めるのだとか。引っ越しシーズンはすぐそこだ。

「東大今昔物語」では、過去の紙面から東大の今と昔を読み解きます。


この記事は、2017年9月12日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

インタビュー:勉強は知の人類史の継承 哲学者から見た受験勉強 千葉雅也准教授(立命館大学)
ニュース:ラクロス男子 中大に痛恨ドロー 残り3分で辛くも追い付く
ニュース:駒場コモンズ バレーコートで地盤調査作業
企画:現役東大生による勉強法アドバイス
企画:教科別 東大教員からのエール
企画:各学部と学生に聞く推薦生への入学後の支援 一般入学者と大差なし
企画:合格者得点分析 東大入試2014〜2017 本社独自アンケート
企画:女子学生向け家賃支援 初の実施に課題山積み
100行で名著:『一九八四年』ジョージ・オーウェル著 高橋和久訳
東大今昔物語:1986年1月28日発行号 引っ越し事情の昔と今
キャンパスガール:笹原花さん(文Ⅲ・2年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

【東大今昔物語】1986年1月28日発行号 引っ越し事情の昔と今東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【2017年8月アクセスランキング】「駒場図書館冷房停止」が1位

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(左上から時計回りに)法学政治学研究科の藤原帰一教授、医学系研究科の水島昇教授、獨協大に勝利したラクロス部男子

 

 東大新聞オンラインで8月に公開した記事の8月中のアクセスランキングを調べたところ、1位は駒場図書館の冷房停止に関する記事だった。駒場Iキャンパス全体の電力使用量を抑えるため、断続的に冷房を停止する措置が取られたことについて、その背景を電力管理に携わる教養学部長補佐の佐藤守俊准教授に取材。試験の近づく7月上旬にこのような措置が取られたことで、今後の学習環境に不安を抱いた学生が多かったことだろう。

 

 2、5位には現役学生から受験生に向けた夏以降の勉強法アドバイスについての記事がランクイン。2回に分けての連載がともに上位に入った。受験生の気持ちに寄り添った実践的なアドバイスが並び、東大受験生の読者も多い東大新聞オンラインの記事で高い注目を集めたようだ。

 

 3位は、2018年度から理IIIの入試に導入される面接試験の実施要項発表を伝える記事。発表によると、筆記試験の点数が高くても不合格になる可能性があるという。推薦入試の導入など制度変更の著しい東大入試における新たな試みとして、東大内外の注目を集める話題だ。

 

 4位には、分子細胞生物学研究所教授による論文不正行為を東大が認定したことに関する記事。研究室内での教授の強い指導体制の下で不適切な画像加工が常態化していたことが、不正が起こった原因の一つとされる。対策として第三者による監視が徹底されることが決まった。

 

 7、9位は現職の東大教授へのインタビュー記事だった。オートファジーの研究者である水島昇教授と国際政治学者の藤原帰一教授に話を聞いた。8月頭に行われたオープンキャンパスに合わせた企画で、教授のユニークな学生時代や研究分野への思いを聞き、進路を考える高校生へのメッセージを語ってもらった。

 

 8位に入ったのは告知記事も高い注目を集めたTEDxUTokyoの取材記事。イベントではテーマの異なる三つのセッションが1日を通して開催され、刺激的なプレゼンが繰り広げられた。実際に参加した記者が熱気あふれる会場の様子を生き生きと伝えた。

 

 6、10位は関東学生1部のリーグ戦を奮闘するラクロス部男子の初戦と2回戦の試合模様を伝える記事。開幕2連勝で波に乗り、学生日本一を狙う彼らの熱い戦いに注目が集まる。

 

【2017年8月アクセスランキング】

1       駒場図書館の冷房、止まったわけは

2       【現役学生が語る夏休み・夏以降の勉強法①】一つに決めて何度も繰り返して

3       理Ⅲ面接 筆記高得点者の不合格も 学力試験翌日の27日に実施

4       分生研教授の論文不正行為、東大が認定 医学系5人は不正なし

5       【現役学生が語る夏休み・夏以降の勉強法②】苦しい中でも、知の喜びを忘れずに

6       ラクロス男子、リーグ戦を白星発進 17得点で獨協大を圧倒

7       【東大教員から高校生へ】水島昇教授インタビュー 研究者とはどんな存在か

8       まさに知的な祭典 好奇心を揺さぶるイベントTEDxUTokyoが安田講堂で開催

9       【東大教員から高校生へ】藤原帰一教授インタビュー 映画と国際政治を語る

10       ラクロス男子、開幕2連勝 千葉大に猛追許すも逃げ切る

 

※当該期間に公開した記事のみを集計

 

過去のランキング

【2017年7月アクセスランキング】宮台教授のメッセージに注目

【2017年6月アクセスランキング】「N高」に注目 論文不正問題に依然高い関心

【2017年5月アクセスランキング】高橋まつりさん関連記事に大きな注目

【2017年4月アクセスランキング】今年も新入生アンケートに高い関心

【2017年3月アクセスランキング】トップは東大生のテレビ 合格発表の記事も上位に

【2017年2月アクセスランキング】東大女子の座談会特集、入試関連記事に注目

【2017年1月アクセスランキング】1位はブラックラボ検証 受験関連記事も人気

【2016年アクセスランキング】東大新聞オンラインで今年1番読まれた記事は……?

【2016年11月アクセスランキング】トップは図書館閉鎖問題 アメフト、制作展の記事が続く

【2016年10月アクセスランキング】ボカロ講義録が1位に 2位は新設の研究者支援制度

【2016年9月アクセスランキング】1位は進学選択 七大戦、秋のスポーツにも注目

【2017年8月アクセスランキング】「駒場図書館冷房停止」が1位東大新聞オンラインで公開された投稿です。

「初音ミク」10周年 知れば知るほど奥深いボカロの世界

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 ボーカロイド(ボカロ)が世に知れ渡る大きなきっかけとなった「VOCALOID2 初音ミク」が発売されてから今年で10年となる。東大駒場キャンパスでもボカロについて扱う講義「ボーカロイド音楽論」(ぱてゼミ)が昨年度から開講され、大きな話題になった。多くの人が知る存在となったボカロについて掘り下げてみよう。

(取材・湯澤周平)

 

ボカロとは何か

 

 そもそもボカロとは、開発元が事前に人間の声を収録して歌声ライブラリを作り、それを元にユーザーがメロディーと歌詞をVOCALOIDエディターで打ち込んで歌声を合成する技術のことを指す。「VOCALOID2 初音ミク」は声優の藤田咲さんの声を元にして製作された歌声ライブラリで、2007年8月31日に発売された。パッケージには青緑色の髪を持つ16歳の少女が描かれ、バーチャルシンガーのミクとして認知されるようになった。

 

 初音ミクの魅力は、ミクにいろいろな曲を気軽に歌わせられることだ。多くの人がパソコンを使ってボカロ曲を制作し、当時急成長していたニコニコ動画に多くの作品が投稿されたことで、それまで一部のマニアにしか知られていなかったボカロの存在が多くの人に知られるように。14年のJOYSOUNDカラオケ年代別ランキングでは10代のトップ20のうち11曲がボカロ曲となり、40代でもボカロ曲の「千本桜」が第5位にランクインしたように、ボカロは幅広い世代に受け入れられるようになった。

 

 

 ボカロ曲がニコニコ動画に投稿されるようになると、ボカロ曲を人間がカバーする「歌ってみた」や、ボカロ曲に合わせて人間が踊る「踊ってみた」のような派生ジャンルが誕生し、これらもニコニコ動画に多く投稿され創作の連鎖が発生。こうして人気が加速するとボカロは他業界とも関わりを持つようになり、初音ミクの楽曲がCMに採用されたりミクが歌舞伎とコラボしたりするようになった。さらに英語版のボカロも作られることでボカロは海外に浸透し、現在では初音ミクがレディー・ガガのツアーに出演するほどの広がりを見せている。

 

東大教員がボカロを語る

 

 ボカロの隆盛はなぜ起こったのか。「ボーカロイド音楽論」(ぱてゼミ)の講師としてボカロ曲をジェンダー論や記号論、精神分析を用いて研究し、自身もボカロ曲を製作する「ボカロP」である鮎川ぱてさん(教養学部非常勤講師/先端研協力研究員)と、ぱてゼミ受講生のてり〜さん(理Ⅱ・1年)に、ボカロの特徴を聞いた。

 

言語野が完璧な鮎川ぱてさん
※鮎川非常勤講師はルックス担当とルックス以外担当が分かれており、写真はルックス担当の鮎川ぱてさんです

 

――ボカロの歴史はどのようなものか

鮎川さん 二つのボカロ史について話したいと思う。まず一つは、「ボカロは萌えカルチャーなのか」という観点から。たしかにごく初期には「かわいい初音ミクを歌わせたい」という観点の曲が多かったが、それはミク発売後1年ほどにすぎない。

 萌(も)え要素が切り離されると、ボカロは当たり前の音楽ジャンルになった。外野の人はボカロは今でも萌えの要素が強いと思いがちだが、9年前から異なる。ボカロ曲を聞く人の男女比はほぼ1対1で、少し女性の方が多いという調査もある。

 

――萌え要素を切り離したボカロはどう推移したのか

鮎川 もう一つの、「反歴史」としてのボカロ史について話したい。新歴史主義の考えや、その支持者の一人である歴史家のヘイドン=ホワイトの議論に沿って考えるとわかりやすい。新歴史主義は為政者や権力の移り変わりばかりに注目する従来の歴史を批判し、多くの名もなき民衆が歴史を作り出したという考えに立つ。ホワイトは、従来の歴史は歴史家が為政者の交代を物語に落とし込み因果関係の中で叙述したものにすぎないと考え批判的に検討した。

 新歴史主義の考え方はボカロにふさわしい。ボカロの歴史を一部のヒット曲(為政者)の交代劇で考えるべきではない。誰もが勝手に投稿したのであって、時間的前後関係は因果関係ではない。誰でも作曲できて、誰でもニコニコ動画に投稿できるという特長により、何万というボカロPが共にムーブメントを作り出した。そこにある多様さは単線的な歴史観に収まるものではない。

 

――ボカロについてどんな印象を抱いているか

鮎川 ボカロは若者の文化だと考えている。世間では草食系といわれる現代の若者が、レッテルを覆すパワーでボカロ曲に熱狂する様子が動画に流れてくるコメントから伝わったのが、私がボカロに引かれた理由だ。この新しいムーブメントは、ただ外から見るのではなく作り手として関わらなければ理解できないと思って、学生時代以来に音楽を製作し、ボカロPとしてシーンに飛び込んだ。

 

――ミク発売から10年で、若者と言われる世代も変移した。ボカロの現状についてどう考えるか

鮎川 ぱてゼミで実施しているアンケートの結果を見渡すと、定番曲も多く挙げられているが、最近登場した作品を好む生徒も多い。好みの多様性が高まっている印象だ。

 

てり〜さん 私もナユタン星人やバルーンといった最近登場したボカロPの曲が好きだが、新しい曲だけでなくボカロ曲を10年分まとめて聞いてみたいとも思っている。

 

鮎川 ボカロ曲は、商業音楽曲より古びるのが遅い。商業音楽は、泳ぐのをやめると死んでしまう魚のように「新曲を売る」ことを常に続ける必要があるので、人為的にトレンドの新陳代謝を促進する。そのような介入がない分、ボカロ曲は本来の寿命で長生きしている。

 

言語野が完璧な鮎川ぱてさん(左)とぱてゼミ受講者が制作したアルバムを持つてり~さん

 

――ぱてゼミの講義はどのような様子か

鮎川 ぱてゼミでは受講者が講義中にツイッターを使って実況することを認めている。今年の受講者の中には高校生の時にツイッターでぱてゼミの存在を知り、東大に合格したら受講したいと思っていたという人がたくさんいて、とてもうれしい。

 

てり〜 私は入学後に講義の存在を知ったが、受験期にボカロ曲で勉強のやる気を出していたので大学でもボカロと関わりたいと思い受講した。実際に受講すると、扱う範囲がとても広く、文理を横断するリベラルアーツだったが、中でもジェンダー論を駆使した分析はとても面白かった。

 

鮎川 ボーカロイドカルチャーの中にある新しいジェンダーの感性を丁寧に分析している。瀬地山角先生、清水晶子先生、坂口菊恵先生など、駒場では優れた先生方がジェンダー論の講義を開講されていると聞くが、東大の学生規模からするとまだまだ機会提供が少ないのではないか。その一助になれればという気持ちはあった。

 最終課題ではレポートの提出か創作活動をして動画サイトに投稿することのどちらかを選択する形にしたため、後者を選択してボカロPデビューした受講生が何人もいる。制作指導はしてないがそれぞれに魅力的な個性を持っていて、ぱてゼミで制作してコミケ(コミックマーケット)で発表した『モチャマ』というアルバムにも収録した。学術的講義でありながら優れた映画監督を何人も輩出した、蓮實重彦元総長による伝説の映画論ゼミに憧れている。少しでも近づけたら嬉しい。奇遇にも、今学期のAセメスターでぱてゼミが使用している教室は、かつて蓮實ゼミが行われた教室だ。

 

━━最後に自身が考えるボカロの課題を一言

鮎川 ボカロは売り上げといった商業的な観点に縛られない自由な創作が可能なため、突き抜けた人気曲が多い。一方で、ボカロは音楽ジャンルとして身近なものになったために、本質的なポテンシャルが見えにくくなった側面もある。10周年を記念して書き下ろされた、東大出身者でもあるボカロP、wowakaの「アンノウン・マザーグース」は、それに警鐘を鳴らすかのような深い射程を持った曲だった。ぜひ聞いてみてほしい。

鮎川 ぱて(あゆかわ ぱて)さん ボカロP、非常勤講師(教養学部)、協力研究員(先端科学技術研究センター)

 教養学部卒。16年より教養学部非常勤講師、17年より協力研究員を兼任。


この記事は2017年9月19日号の記事を再編集したものです。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

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企画:自由で多様な創作が魅力 初音ミク10周年
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東大今昔物語:1968年9月9日発行号 紛争抱え議論が日常
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キャンパスガール:王美月さん(文Ⅲ・1年)

※新聞の購読については、こちらのページへどうぞ。

「初音ミク」10周年 知れば知るほど奥深いボカロの世界東大新聞オンラインで公開された投稿です。

【N高生のリアル⑦】「皆は俺の宝だ〜!」奥平校長の愛の叫びと海外からのまなざし

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 恰幅がよく、笑顔が絶えない。まさに「愛される校長」。それがN高等学校長・奥平博一(おくひら・ひろかず)さんへの記者の第一印象であった。

 

 

 奥平校長は学校教育の叩き上げだ。小学校で教員生活を始め、その後通信制高校で校長を勤め続けた。だが、世間から通信制高校へのレッテル貼りに苦しむ子たちと接し続けることで、ある疑念が湧くようになる。

 

 「通信制高校でも、真面目に一生懸命勉強している子はたくさんいます。勉強に食らいついて、どうにか高卒資格を取ろうと。でも、世間からは『あの子、通信制高校なんだ。何かあったんだろうねえ』などと思われ、努力がなかなか認められないジレンマがある。それを認めさせるのは、子供の努力ではなく、通信制高校に関わる大人の努めです。私もキャリアの終わりが近くなってきましたから、最後に、通信制高校のイメージを変えたい。そう思っていたんです」

 

 この問題意識を持っていた奥平さんが、時同じくして「教育を変えたい」と考えていたドワンゴ関係者と知り合うようになり、そこからN高の物語は始まるようになる。

*このあたりは『ネットの高校はじめました。 新設校「N高」の教育革命』(崎谷実穂著、角川書店)に詳しい。

 

 「通信制高校のイメージを変えるためには、ゼロから新しく学校を作るしかないと思っていました。全く新しい会社が、全く新しい発想で挑戦するしかない。ドワンゴとは幸せな出会いでした」

 

海外講演を終えて

 記者が奥平校長にお会いした9月某日は、前日まで、台湾にいたと言う奥平校長。「オンライン教育について講演してくれ」と頼まれ講演をしてきたそうだ。(Digital Taipei2017 http://www.dgtaipei.tw/schedule.php

 

 「台湾は日本のカルチャーへの興味が強い国なので、ニコニコ動画をやっている会社が高校を始めた、ということに関心が高いみたいです。同じカンファレンスで、ミネルバ大学関係者も講演者で呼ばれていて、ミネルバ大学とN高が並んでいいのかな、と嬉しくも戸惑いましたが(笑)」

 

 ミネルバ大学とは、ウェブメディアでは「ハーバードより難しい」といわれている学校だ。固定したキャンパスを持たず、世界の国際都市7都市に拠点を構え、半年ごとにローテーションで移動していく。各都市でプロジェクト学習を行い、都市ごとに抱える課題を解決する実習を続ける。世界に散らばる学生同士をオンラインでつなぎ、学習を進める点も新しい。(https://collegino.jp/app/media/234

 

 記者はミネルバ大学の日本事務局に取材をしたこともあるが、すでに日本人学生も輩出している。2014年設立で、今年ようやく卒業生を出した新しい学校。こちらも目が離せない取り組みだが、N高はその世界的に注目が高いミネルバ大学とカンファレンスで並び立ったことになる。

 

 「N高もミネルバも、オンラインを積極的に活用している点でも似ていますが、本質的には知識の教え込みではなく、何かを創り出す実践にフォーカスしている点で同じです。よく考えてみれば、日本の高等学校も義務教育ではないのだから、もっと多様な学びが社会にあっていいはずです。学歴を取りに行くことを主にした現在の教育ではなく、知識よりも知恵と好奇心を重んじる学び。好奇心で勉強した時に、その学びが学習者にとって本当に意味のある学びになるのです」

 

学歴と能力は違う。N高で尊ばれるのは知識ではなく、知恵と好奇心。

 

 記者が奥平校長にインタビューした日、N高代々木キャンパスでは、7月から始まった探求学習であるプロジェクトNの中間発表会が行われていた。

 

発表前最後の準備に勤しむ生徒たち

 

 教職員も集まり、「ペットの誤飲事故をなくす、食べられる玩具プロジェクト」「障がいのある児童と先生・保護者をつなぐ連絡帳作り支援プロジェクト」など、六つのグループがプレゼンテーションをした。

 

資料・トーク共に練られた発表をする生徒たち

 

 これまでプレゼンテーションの授業も受け、練習を重ねた上での発表だったらしく、スライドの出来やジェスチャー、アイコンタクト、ユーモアなど、高校生離れしたクオリティーの発表であった。「みんなの発表、本当に上手ですね」と筆者が感想を述べると

「いえいえ、まだまだ言葉選びなどで稚拙な面があると思います。ただ、自分で企画を立て、積極的に前に立って発表していこうという姿勢が育ってきました。メディアの方も含め(注:筆者以外にも大手メディアの記者が見に来ていた)、大勢の大人と仲間が見守る中、堂々と大胆にプレゼンテーションする力。この場で発表するために、生徒たちは必要な力を得ていきます。『こういう企画がしたいから、こういう知識が必要だ』といった形で、彼らは力をつけていく。企画や発表の中身以上に、継続して企画する、調べる、発表する、企画を実行するというサイクルを回すというこの流れの中に、大切な学びがあるのだと知ってほしいですね」

 

優秀賞を授与する

 

 イアホンを作るあるプロジェクトチームは「SONYと提携したい!」と言い、近々SONYに足を運ぶそうだ。他のプロジェクトチームはすでに企業を訪問してプレゼンテーションを終えたという。

 

 「私は、学歴と能力は違うと考えます。これからは学歴よりも、能力を高める教育にシフトしていく必要があります。今、世間から見ると、「N高=学歴が低い」というイメージでしょう(笑)。でもそれは能力を高める教育をしているからです」

 

 知識ではなく、知恵と好奇心。実践。――この考え方は、驚くほど代々木キャンパスに通う生徒たちに浸透していると、記者は生徒と交流する中で感じている。

 

グループ発表から互いに学び合うように促している

 

 「子供たちに再三言っているのは、学校が何かをしてくれるわけじゃない、学校を使って自分が何をするのかが大事だ。N高を一緒に作っていこう、ということです。彼らはそういうことを毎日聞かされています(笑)」

 

保護者と子供の心の「何か」に触れた

 

 設立2年目ですでに4千人の生徒を抱えるなど、破竹の勢いで入学者を集めるN高等学校。そこには、若者の心を捉える何かがあるのではないだろうか。

 

 「いわばN高は、既存の制度の中で、何か違うと思っている人、集まれ!と狼煙をあげたようなものなんです。正直私たちも、どれだけ入学者が集まるか、最初は不安でした。しかし、蓋を開けてみると、大勢の生徒さんが集まった。何より、これだけの保護者の理解と共感があったことが驚きです」

 

 広域通信制高校であるN高は、全国の学生を受け入れている。一般に広域通信制高校は過疎地域の人に多く利用されることもあるが、N高生はどういう地域から応募してきたのだろうか。

 

 「それが、N高の生徒の6割は首都圏です。教育が充実しているはずの首都圏でも、何かが違うと思っているご家庭が多かった。そこにN高が登場し、『待ってました!』と手を挙げてくださったのです。

 ただし、今は新しい取り組みということで、期待値が高いのでこれだけ通わせていただけてるのだと思います。N高からどういう卒業生が世の中に出て行くのか、これからはそれが問われます」

 

奥平校長が愛を叫ぶ

 

 プロジェクトNの発表会が終了後、生徒たちの前に立ち奥平校長がマイクを握る。

 

 

 「昨日まで先生は台湾にいました。講演会をして欲しいと頼まれたんです。N高は世界的に注目されています。皆さんも、小さな中で考えたら「N高に通っている」というのは異端児と思わるかもしれません、でも、そういうことを気にしている時代ではありません。地域や国を超えて、世界規模で考えたら、N高に通っていることは誇りなのです。先生も、台湾の講演会で発表した後、大勢の人に囲まれて英語で話しかけられました。いや〜、英語は話せないといけんね(笑)。でもそれくらい、注目されているということです。これからの時代は知識じゃないんだ。知恵と好奇心を持って、自分で道を切り開いて行くこと。N高はそれをやろうとしている。小さな世界でのものの見方に押し込められないで。世界の視点を持って堂々としてください。

 私がN高を始めようとした3年前、学校拠点のために沖縄の離島の廃校を借り受けようと、一人で那覇空港に降り立った時、沖縄の知人たった一人だけの連絡先が入った携帯電話とスーツケースだけを持っていました。どこか使えるところはないかと探し回りながら、これから作る学校に色々な生徒が来てくれたらいいなと思いを馳せました。今はその夢が叶い、多くの生徒が夢を持って入って来てくれています。私も一人では決してできず、色々な人の手を借りながら成し遂げたように、皆さんも自分一人でできないことがあれば、仲間に頼ってください。新たな活動をどんどんしてください」

と熱く語った後、一言を添える。

「昔の表現だけど………皆は俺の宝だ〜!!」

 

 奥平校長の愛の叫び。照れる生徒たちから、一拍空いて拍手が起こる。鳴り止まない拍手の中で発表会の幕は閉じられた。日本を超えて世界に挑む、N高の挑戦は続く。

 

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【N高生のリアル⑦】「皆は俺の宝だ〜!」奥平校長の愛の叫びと海外からのまなざし東大新聞オンラインで公開された投稿です。

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